ランスロットの悩み
先週お伝えしたお休み頂きました。
復活しましたので、今日からまたよろしくお願いします。
王宮のお茶会に行くリリィと一緒に、私も王都にあるタウンハウスに来ていた。
物心ついてから王都に出るのは、私も初めてだった。以前両親に連れられて魔力鑑定に王都の神殿に来ているらしいが、二、三歳頃の話で記憶にはない。
王都は領地とは違い、人も多く石造りの街並みが美しい都だった。王都内の街道には花や街路樹が美しく植えられており、メイン通りをまっすぐ進んだ先にみえる宮殿は、こんなに遠くからみても大きく絢爛豪華だった。
クリーム色の壁に緑色の屋根、シンメトリーな宮殿は美しく一枚の絵画の様だ。父曰くお城の前に噴水のある池が広がっていて、そこに映るお城がまた美しいらしい。
ご機嫌斜めなリリィの興味をひかせる為に、美しいお城の様子を父が必死に説明していたのを、私も聞いていたが……確かに美しい。
妹の大好きな夢物語に出て来そうなお城だった。
……あんなに絢爛豪華な、力の象徴とも言えるお城に向かわなくてはいけないリリィを思うといつも以上に心配でたまらない。
あの冬が明けて春になった頃……王家から公爵家に手紙が、しかも私宛てに届いた時はいつも冷静な執事達も動揺は隠せない様だった。
家令に至っては私が何かやらかしたのではないかと、私の代わりに死ぬ事も辞さないと言ってきた…………それ、嬉しいのか、嬉しくないのか判断が難しいからやめてくれ。
クリストファー殿下は、やはり私が気づいていた事を知っていた。
そこから、定期的にリリィの様子やお互いの近況を報告しあっていた。
手紙には呪いの原因について調べた事や、魔女の力についても書かれていて、そんな秘密を書いて大丈夫か心配すると、クリスの魔法によって保護されており、私とクリス以外には読めない様になっているらしい。
試しに一度リリィに手紙だけ見せたが、白紙の手紙に見えるらしく首をかしげていた。
クリスの魔法はすごい。
見た事も聞いた事もない物が多く、いつも驚かされる。ちなみに、返事も同封されている紙に書く。紙に魔法を施しているらしかった。
そして、銀の一族の事や族長の事を聞かれた際……リリィと結婚したいという事が書かれていた。
王族に嫁ぐという事が大変な事は、クリスの毒を見ても想像がつく。可愛い妹をそんな大変な所に送りたくない。しかし、どう見ても二人は両思いだ。私の気持ちは揺れていた。
しかし素直なクリスの気持ちに、いつしか応援したくなっていった。
公式な記録には魔力鑑定した際に、私と同じくらいだと記録されているはずだから、私が族長になる事でクリスが娶るのは問題ないのではないかと返事を書いた。
もちろん、父の娘愛が恐ろしい事を追伸しておいたので、問題があるとしたら父くらいだが……クリスなら上手くやるだろう。
四年後リリィの婚約の話が出ていると聞いて、クリスが動いたのかと思ったが、どうやら違う様だ。
王太子が決まっていないから、とりあえず五大公爵家から婚約者をだすが、誰の婚約者になるか決まっていないという。
王以外は王族とはいえ、妻は一人だ。だから婚約者はとりあえず一人しか決められない。
今までとは違い王子が複数いる事で、婚約者に選ばれたいが相手の王子が王にならないという事もありえるのだ。その時には正妃でなくとも、王の妃として娘をあげたい。
その為にそれぞれの一族の動きが難しいらしい。
年頃の娘が一人しか居ない黄の一族は、最初から正妃ではなく王妃狙いで、王にならないかもしれない王子と婚約はしない方針をとった様だった。
公爵家のバランスのために同年の三人の令嬢が選ばれていた。赤、青、銀の一族が、皆同じ年の娘がいたので、顔を合わせてから婚約する事になった。
赤のロートシルト家は何人かの令嬢がいて、どの王子が王になっても良い様に準備しているらしい。
青のアンダーソン家は婚約者候補の一人ともう一名が名乗りをあげているらしい。
黄のケラヴィノス家は娘が一人しか居ないので正妃は諦めて、王妃としてあがり王子を生む事に重きを置いているらしい。
今の正妃様はケラヴィノス家の生まれだ。婚約者候補にあがるのならば、第一王子の従姉妹と言う事だ。もし、今回は王妃としてあがれなくとも、第一王子が王ならば今回は出てこない可能性もある。
黒のグレンウィル家は女子がおらず、今回は王妃候補はたてないらしい。
どちらにせよ、宰相や暗部を担う黒の一族はもとから王妃に積極的に関わってこない。もしかしたら女子がいても暗部として活躍しているため、表に出てこないだけかもしれない。
そして銀の一族のロアーヌ家だが、保護される観点から基本的にはあまり正妃としてあがる事はないが……今回は五大公爵家のバランスと他の令嬢が皆リリィと同じ年だったので断れなかった。
父は王様と裏で解消も可能な様に契約書も結んだようだが……クリスがこのチャンスを逃すはずがないので、無駄な努力になるだろうと思った。……リリィを大好きな父には言えなかったけどね。
父から私達やリリィに婚約の話がされた日には、クリスから婚約の顔合わせ時に向けて協力依頼の手紙が届いていた。……早いな。
リリィの美しさに兄弟もやられてしまわない様に、細工して欲しいとの事だった。
王宮では魔法を弾く結界があるため、姿を変える魔法ではなく化粧や他の細工が必要な事が書いてあった。
リリィには、解消する際に揉めない様にした方が良いよと誤魔化した。ハズレ令嬢だと思われる様にしたら、相手も断り易いんじゃない?と提案すると、父もマーサまでも嬉しそうに協力を申し出た。
解消される前提に喜ぶ父はどうかと思う。リリィはいつか結婚するんだよと言ったら拗ねてしまった。終いにはお前も娘が出来た時に分かる! と背を向けて拗ねている。父よ……。
とにかく、リリィを地味なハズレ令嬢に見える様に工夫してレッスンした。可愛らしく、美しいリリィを地味にするのは、なかなか大変だったが、はりきったマーサによって大分隠されている。
でも近くで見るとバレてしまうので、俯いているように指示した。これならば、クリスも満足だろう。
リリィも大好きなクリスとの婚約なら喜ぶだろう。マーサはリリィがお城にお嫁に行くのを嫌がるだろうから、泣くかもしれないな。いや、マーサはお城でも、リリィについて行ってしまうかもしれないなぁ……。
お茶会の朝、馬車を見送った私は、クリスに再会して喜ぶリリィを想像していた。しかし帰って来たリリィは、どこかぼんやりして何かを真剣に考えていた。
これはどういう事なのだろうか??
クリスに会ってない?
クリスとの婚約がいやだ?
誰かに意地悪された?
……どれも考えにくい。後で、話を聞いてみないと!
一体どういう事なのだろうか……
今日もお読み頂きありがとうございました。
お休み中もたくさんの方にお読み頂き、とっくにランキングから消えていると思っていたにも関わらず、ずっと応援してくださる方々がいて感謝の気持ちでいっぱいです!
ありがとうございます!