始まりはお茶会で 下
今日もよろしくお願いいたします。
……乙女ゲームの世界。
そう、理解すると共に様々な情報を整理する。
私自身が乙女ゲームをプレイしていた訳ではないので、直ぐにピンと来なかったのだろう。
しかし全く一緒という訳でもなさそうだ。
この世界の知識でゲームを作った人がいる……ということなのかしら?パラレルワールド?平行世界?
難しい事はわからないけれど……私は……
私はこの世界で生きるだけだ。
よく考えなければいけないかもしれない。
中央大陸の西側に位置する大国シグナリオン。
国土は広く豊かな地を多く治め、北には霊峰と呼ばれる山脈、南に広がる森林を持ち水源も豊かで、西側の海においても水産や貿易が発達している、世界でも一二を争う豊かな大国である。
領土が広く豊かである以上に、この国がここまでの大国であれたのは、早くから血族と魔法の関係性に注目し血族と魔法の保護を試み続けたからに他ならない。
他国では、血が薄まるにつれ魔法が廃れていった。
もちろん全く無くなってしまった訳ではなく、使える者が減っていったのだ。
魔術士達はいるが、血が混ざりあい基本的な魔力量の多い者が得意な魔法を使うという。
……今頃になって、魔力の多い者同士の子孫を残す努力を始めているらしいが、当人同士の相性以外に魔力の相性もあるため、絶対数が少ない他国ではなかなか上手くいっていない現状らしい。
他国で魔力の多い貴族は、みな幼い頃に『鑑定』をして得意な魔法を調べるのだそうだ。そして、魔力量と家柄で婚約者が決まるらしいと聞いた。
この国ではどの家も、兄弟姉妹の中で一番魔力の強い者が家を継ぐ。それは一族の魔力を維持する為でもあり、その魔法を存続させる為に、とても重要視されている。
男も女も長子か末子かも関係無いのだ。
そしてほとんどの場合、一族の中で一番強い魔力を持つ者が族長となり一族の方針を決めていく。
魔力の種類はこの国では一目瞭然で、それは全て髪の色に現れる。他国では髪の色では測れないらしいので不便だと思う。
髪の色は属性を表し、色の濃さや輝きは魔力の量や強さを表す。
もちろん例外もあって、薄い色でも魔力が多い事もあるが、魔力が強い者同士では感じ合うので不便はない。
王家は『金の一族』と呼ばれ、全ての王族は金の髪だ。
金の一族は『聖』の魔法の一族だ。この国全域に聖なる結界を張り巡らし、戦いとなれば先頭に立って戦う。
どの一族も皆、そんな王家に忠誠を誓っている。
そんな素晴らしい王家だが、金の一族は血が受け継がれにくいのだ。
正確に言えば子供が出来にくい。
金の一族は優性遺伝するらしく、どの一族と混ざっても金の一族が生まれる。
しかし、子供が出来にくく国王のみ一夫多妻制をとっている。一人も子供が出来なかった王もいた。魔力の相性も難しいのだ。ちなみに、その時は王女の子供が王家を継いだと聞く。
この国には今、三人の王子がいる。
年頃も近く魔力も総じてみな強く多い。とても珍しい事態だった。三人の王妃がほとんど時同じくして懐妊し、出産された。
ただどの王子も優秀だった為、王太子は決まらぬまま現在に至っている。
王宮で開かれたお茶会という名のお見合いに、五大公爵家から年頃の近い三人の令嬢が招かれた。
『赤の一族』『青の一族』、そして『銀の一族』の私だ。
銀の一族は基本的に、あまり領地から出て来ない。私達が珍しいのか、皆がこちらを見ていて居心地が悪い。
公爵で族長である父は王都の家に住み王宮に勤めているが、他の一族の人は仕事以外で領地から出たがらない。
そして、それは国に認められている。
銀の一族は劣性遺伝なのか、他の一族と混ざると銀の髪の子供は生まれにくい。ただしその一代は銀の一族の『癒』の力を強く持って生まれる。
例えば、黒の一族と結婚して子供が生まれると黒髪の子供が生まれる。黒の一族の『闇』の力を持つが、同時に『癒』の力も一代は確実に使える子供が出来る。運が良ければ二代受け継がれる事もある。
戦う力と癒しの力の両方を欲した他一族は、こぞって『銀の一族』を望んだ。『銀の一族』が望まれる時代が続くと、急激に『銀の一族』は数を減らし、このままでは癒しの力を失う危機感を覚えた国は、『銀の一族』の保護を決めた。
銀の一族は基本的には領地から出ずに数年間、夫婦単位で地方や王都の神殿で働きまた領地に帰るといった働き方をしている。
また子育てが落ち着いた年になってから、地方の神殿に働きに行く等していた。
それ以外はずっと領地内で働くのだ。
そう、私は『銀の一族』なので選ばれなくても良いのだ。公爵家のバランスと魔力の関係で今回の婚約は逃れられない様だが、出来れば正式な結婚は避けたい。
私は一族の中でも魔力量が一番多く強い。
幼い時、事件に巻き込まれ魔力の暴発を起こしてしまった。その時に前世の記憶が戻ったのだ。
魔力の暴発が原因か前世の記憶が原因かは不明だが、その後は元々多かった魔力量も力も更に増えていた。
前世の記憶を元に考えるなら、転生チートと言われる力なのか……
今世の記憶を元に考えるなら、一族の血の濃縮だろう。
どちらにせよ、このままいけば将来は私が族長になるだろう。
万が一王子が私を求めても、私が望まぬ限り結婚する事は無いのだ。王家とも、そう裏で契約も交わしている。
王子が途中で他の婚約者を望むなら、白紙撤回する事。
特に希望がなければ、十七歳になる時点で五つ下の妹と婚約者を変更する事が決められていた。
十七歳で私は次期族長候補として、正式に公爵位を継ぐため家に入るからだ。
その時点で私以外に族長にふさわしい者が現れれば、このまま婚約者として結婚するかもしれないが……。
乙女ゲームのような展開が待ち受ける事になるならば、一人婚約者が減る可能性が出てきた。
他の公爵家は王家に嫁がせたいであろうし、私が辞退する契約もあるのですんなり事が運ぶかもしれない……
そう考えていた私は、その後がこんな事になるなんて、想像もしていないのであった……
一話目からたくさんのブックマーク、評価、応援ありがとうございました。
嬉しいです!いつも遊びに来てくださる方もはじめましての方も、またぜひ遊びにいらしてください。
明日も同じくらいの時間にアップします。