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王宮のお茶会 3

 クリスに抱きしめられている。


 私だってずっと会いたかった。四年前の冬に別れてからずっと会いたかった。




 あの頃は、まだ自分の気持ちに気づいていなかった。


 ただ何となく、心にポッカリと穴が空いた様な寂しい気持ちだった。こんなに寂しいのはお友達と「さよなら」したからだと思っていた。



 会えなくはなったけれど、私とクリスの手紙のやりとりは続いていた。他愛のない事をお互いに書いていたが、手紙を見るだけで心が温かくなった。


 可愛い小鳥にも癒されるし、なによりも魔法が発動する瞬間が美しい。もとのクリスタル自体も光を受けてキラキラと輝いているのが、素敵なのだが……手紙がくる時の魔法の光を纏って、キラキラ輝きながら私の周りを飛び回るのが、私の想像していた魔法そのもので大好きだった。



 それを見るのが楽しみで、手紙がくるのが楽しみで……

 ずっとそう思っていた。


 ある時、クリスがお家の事情でどうしても忙しく『一、二ヶ月は手紙を出せないけれど心配しないで』と書いてあった。

 寂しいけれど、頑張ってね。とすぐに返事を送った。



 そこからの一ヶ月が、とても長く感じた。クリスは大丈夫だろうか。風邪でも引いてないだろか?怪我は?クリスのお家は何をしているの?どこにいるの?


 まだ忙しいの?……さみしい。



 こんな気持ちは、初めてだった。



 一ヶ月半過ぎて、やっとクリスから手紙が来た時は嬉しくて嬉しくて、ベッドの上を転げ回った後、枕に顔を押し付けて『くぅ~』と声にならない声をあげていた。



 なんでもないやりとりが宝物の様だった。『会いたい』の一言に心臓が踊る。愛称で呼びたいと言われると嬉しさがこみ上げる。



 私はクリスの事が好きなんだ。


 いつからだったんだろう。何がきっかけだったんだろうと考えてみても、答えはわからなかった。


 前世で、夢にみていた初恋には気づいたら落ちていた。



 ううん。クリスは最初から特別だった。クリスを感じて森へ行き、クリスに会って……もう、きっとその時には好きだったんだろう。

 話し方も、笑顔も、優しい瞳も特別。手紙も、そこから受ける印象も、なにもかもが特別。






 ……あれから四年、手紙ではやりとりしていたけれど、こうやって顔を合わすのは久しぶりだ。




 ……まさかコケシ姿で、初恋の人に会う羽目になるとは思わなかった。軽く絶望してしまう。





「殿下……あの……」


 とりあえず離して貰わないと私の、心臓がもたない。



「クリスだ。……呼んでくれるまで離さないよ」


「呼ぶわ! 呼ぶから離して、クリス」



 解放されると……お互いの顔が見える。クリスの耳も赤くなっていた。私はきっと全身真っ赤だろう。




「聞かれたり見られたりしたら大変でしょう? 」


「結界を張ったから大丈夫だよ。さぁ行こう」



 今度は昔みたいに、私の手をギュっと握って手を引いてくれた。


 中庭の奥の方に行くと、開けた場所があり小さな池があった。そこには様々な花が咲いていた。可愛らしい小さな白い花がたくさん咲いている。


 この白い花は、あの泉の近くに咲いていて一緒に摘んだり、押し花を栞にしてあげた事もある花だった。



「このお花……」


「あの泉に咲いていただろう?

 ここに居ると、あの泉を思い出すんだ。

 私はいつもこの池の側で、あの場所とリリィを思っていたよ」



 クリスは恥ずかしい事をどんどん言ってくる。でも、それすら嬉しく思う私は、重症だった。



 池の近くの四阿に腰掛けてクリスは話す。

 お兄様と普通の手紙をやり取りをしていたこと。

 婚約者の候補の中に私の名前を見つけて、飛び上がる程嬉しかったこと。

 リチャードがくじを細工してくれた事。

 今日は二人で話したかった事。

 この池を二人で見たかった事。




「王子だと言い出せなくてごめんね。

 でも、絶対リリィを迎えに行くつもりだった。

 私は、リリィ以外を選んだりはしないよ。

 リリィがいいんだ。


 ……受けてくれる? 」




 本当は舞い上がる程、嬉しかった。




 返事をしかけて……


 乙女ゲームの事が気になった。



 このまま、乙女ゲームの通りに婚約者が決まるのだろう。

 今のペアそのままに……


 そうしたら、学園に入ってヒロインが現れて……ヒロインが選んだのがクリスだったらどうしよう。

 ううん。クリスを選ぶとかじゃなくても、()()()()ヒロインを選ぶかもしれない……


 

 そうだ。攻略対象と呼ばれる六人は、皆ヒロインと恋に落ちてしまうかもしれない……


 落ちないかもしれないけれど……どこまでがゲームの通りなのか、ここまで酷似していると完全に否定出来ない……




 婚約者になれて、期待して、振られるなんて……

 とてもそんな恐怖に勝てる気がしない……



「……リリィ?

 一族の事とか、気にしてるのは知ってるけど

 私はリリィが嫌がらない限り、絶対に諦めない」




 そう言って、手の甲に軽くキスを落とすクリスは本当に物語の王子様にみえた。






諦めないで!




お読み頂きありがとうございました。

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