クリストファー第二王子
私はこの国の第二王子だ。
といっても……生まれ順位など関係無い、魔力量や強さが全てである我が国において、何の意味も持たない順番で名称だ。
子供が出来にくい『金の一族』にあって、年の近い三人の王子が生まれるとは、誰も予想しない事態だった。
さらなる混乱の原因は、三人とも年も近く魔力量もほぼ変わらないくらいに多い。
また王としての器も、三人ともに問題の無い王子達だった。という事だろう。
違う事と言えば、得意な魔法の種類だろうか。
もちろん『金の一族』である『聖』魔法は全員が得意として、それ以外の得意な魔法だ。一族の魔法しか使えない訳ではない。
第一王子は『雷』で母親が『黄の一族』だ。
第二王子の私は『水』の系統だ。正確にはその上位の『氷』だ。
第三王子は『火』母親が『赤の一族』だ。
そして、公表していないが……私は加護持ちだった。
王太子に一番近いとなると、暗殺等の危険がより増して狙われる事が増える。そのため、もう少し身体も力も強くなり自身で身を守れる様になってから、加護について公表するか決めよう……そう母と相談していた。
精霊の加護持ちは少ない。
王家には今まで、精霊の加護持ちはいなかった。
公表してしまえば、私が王に選ばれる可能性が高くなる。様子を見て決めるつもりだった。特に王になりたいと思った事はなかったので、正直どちらでも良かった。母も特に興味が無い様だった。
精霊が、いつも危機や危険を知らせてくれたおかげで、私は兄弟達よりも危険が少なかったと思う。
だから、過信していたのだろう。
ある日、小さな『呪い』を受けた。
小さ過ぎる呪いは私の『結界』も『加護』をもすり抜けた。その呪いは一瞬だけ私の『結界』を緩めるだけの、些細なモノだった。
パチッとした静電気の様な呪いを受けた次の瞬間に、私の結界を緩め大きくて強い『呪い』を受けた。
王家の魔力を持つ私に、与えられる程の呪い。考えられるのは、『黒の一族』の闇魔法か、はぐれの『魔女』だけだろう。
前者は王家に反旗を翻すとは思えない。かつ私にかけるだけの強い『呪い』をかけられるのは、一族の長くらいのものだろう。
可能性としては魔女だろう。母は魔女の血が流れる王妃だからだ。それを良く思わない魔女の仕業か……
精霊の加護も魔女の血から、受け継いだモノだ。
私の加護にも気づいていた可能性がある……
そして、加護による慢心を上手く利用して隙をつかれた。
まずは『呪い』をなんとかしないといけない。
金の一族の『聖』の魔法は、国の防衛となる結界を張ったりもするが、自身を守る結界も張れる。
それ以外に攻撃もあるし、かなりの万能魔法だ。それゆえに王族として国と民を守る。
呪いによって、自分の魔法がほとんど使えなくなってしまったばかりか……精霊の力もほとんど使えないし、精霊を感じる力すら弱くなってしまっている。
なんて厄介な呪いを……
まず呪いに気づいたのは母上だった。しかし、母上自身は魔女としての能力をほとんど使えないタイプの魔女だった。
魔力は有り余る程たくさんある様だが、魔法に興味がなく精霊に頼っているタイプだった。
だから、母は魔女として異端だったらしい。
更に国王と恋に落ちたと……家族の反対も押しきり、後ろ楯も無いままに単身王妃になった。幸い魔力量も多く、珍しい魔女因子の持ち主の王妃は王族に歓迎された。
他の二人の王妃を輩出した黄と赤の一族の公爵家には睨まれているが……王の寵妃として、認められていた。
意外にも王はこの自由な母を愛しているらしい。
私の知る王は……母を溺愛するオジサンで、息子を可愛がりつつも母をとられまいと牽制してくる男だ。
国王として公式の場で会うあの人はまるで別人だ。だからこそ、あの母への溺愛と執着なのだろう。
正直、両親のそんな姿は馴れているが……気持ち悪いだけだ。
でも私の呪いに気づいた母と父の動揺は、凄まじいものがあった。母は自分のせいだと泣きだし、自分に解呪出来ないと絶望して気を失って倒れた。
父は秘密裏に、解呪の得意な者や銀の一族に私と分からない様にさせながら、必死に解呪方法を探してくれていた。そして、国の禁書庫を調べ続けて……もう何日も寝てもいない様だった。
この時、私は不謹慎にも二人にとても愛されていたんだな……と気づいた。
げっそりとやつれてしまった父は、私に語った。
父はなるべく、三人の息子には平等であるべきと心掛けていた。ただ、王妃として愛していたのは母だけだ。母から生まれた私を本当はとても愛してくれていた。もちろん、他の二人の息子も愛しているが……そこには制御出来ない感情があるんだそうだ。
国王とは辛いものだな。後継の為にパワーバランスをとる為の妃を何人も娶らねばならず、愛している妻と子供以外にも家族を作る。そして、国王として、国民と国を愛していく。
唯一自分でいられるのは、母といるときだけなのだそうだ。
もちろん、私だって母も父も家族として愛していた。
二人のこんな姿をみたい訳が無い。精一杯の強がりと、そして生きる希望のために自分から提案した。
「私は、不干渉だと知っていますが……
銀の一族の領地に行ってみるつもりです。
あそこに解呪のヒントか、解呪出来る者がいるかもしれない……
あそこ以外に解呪出来る希望は、かけた本人を見つける以外ないから」
魔女を見つけるのは……困難だろう。
目的も分からない上に単独行動、群れない、国に属さない……手掛かりが、無さすぎる。単なる暇潰しの可能性すらある。
そして、王宮ではやはり毒が仕込まれ続ける。毒見がいるが、飲み物か? 触るものか? 布団やシーツか?
今までにない毒を、いくつか受けてしまった為、もうそんなに時間がなかった事も、自分で行く理由のひとつだった。
このまま黙って死にたくない。
一人で旅立つと言うと、リチャードが一緒に行くと言って驚いた。貴族の彼には辛いから辞めろと言ったが、頑なについていくと言って聞かなかった。
黒の一族のリチャードとは、彼が宰相である父親について王宮に来ていた時、呪いについて質問したのがきっかけで親しくなった。
彼は思ったよりも、呪いや魔法に造詣が深く話していると、とても学ぶ所が多く楽しい。そして、何よりも気が合った。
何故私が呪いについて知りたいのか、リチャードの追及をかわせなくなった私は自身の呪いを見せた。リチャードは絶句した後、泣いていた。
そして、今回の銀の一族の領地へも一緒に行くと言う。
「私にも解呪に関わる権利がある。
だから、私も殿下について行く。断られても私は行く」
どんな権利だよ。と思ったが……
嬉しくて泣いた。いつか、リチャードの友情に応えられる日が来るといい……
私の精霊達の声は聞こえにくいが……そこに向かう事を歓迎している様に感じる。
私はまだ絶望していない。
きっと道があるはずだ……
今日もお読み頂きありがとうございました。
たくさんのブックマーク、評価や応援をありがとうございます。
また、誤字報告助かりました!
ありがとうございます!