森の泉にて 4
お兄様が呪いの解析を始めた。
最初こそ、クリスの身体から呪いをみていたけれど、少し解析を進めると私達にはのんびりしていてねと言って、一人で解析に専念し始めた。
そこからクリスと二人で泉の縁に座って、色んな話をした。
好きなお花やお菓子、好きな本や今学んでいる事など……
クリスは、にこにこしながら色んな話を聞いてくれる。そして、色々な話をしてくれる。
とっても優しくて、笑顔が素敵。
泉の中からキラリと光るモノが見えた!と二人で泉の中を覗こうとして、おでこがコツンとぶつかった。
クリスはびっくりしたのか大きな瞳を見開いて、おでこを押さえていた。私は淑女らしくない姿を見せてしまって恥ずかしい気持ちもあったけれど、二人で顔を見合わせて笑いあった。
二人して笑いあっていたので結局、泉の中で何が光ったのか分からなかったのは残念だった。
ひととおり笑いあって、そういえば今日は回復していなかった事を思い出した。今日呪いが解けるなら、解呪に全力で力を使うつもりだったので回復の事を考えていなかった。
「ねえ、クリス。
あれだけの損傷だったんだもの、身体まだ辛いでしょう?
今日は解呪出来ない様だから、回復だけするね」
そう言って、クリスの手を握って目を閉じた。
まずは身体の状態を探知する事から始めた。
毒は完全に解毒され抗体だけになっていた。上手くいっていて嬉しくなる。
ただ……身体の内臓損傷は昨日の回復だけでは、やはり足りない様だった。昨日は一度に回復させ過ぎてしまうと、逆に危険という事もあったのだけれど……
それにしても、今だって身体がつらいだろうに……お礼以外何も言わないなんて……
気持ちが分かるだけに、余計につらくなる。
そう私もよくわかる。
お医者さんや看護師さんに、治療して貰って良くなっているんだろうけど、身体はまだまだとても辛い時の事だ。
感謝の気持ちがまずは、たくさんある。
でも、治療後も実際は身体が辛いのだ。
いきなりスッキリ良くなっているなんて魔法以外ではないのだ。良くなっているのだからと、あまり弱音も文句も言えない。
言っても良いんだよと優しくされても、今後も考えて上手く言い出せない気持ちを持つ。
だって、確かにピークに辛い時よりはずっと調子は良いのだから……でもつらいんだよね。
病気は立場を弱くすると思う。
クリスは私達に遠慮してしまっているんだろうなと思って、悲しい気持ちになる。
……そうか!友達として、つらいって言って欲しいんだわ!
「クリス、身体まだつらいのでしょう?
言い出しにくいのは良くわかるんだけど……
そんな時は言ってね。
私達もうお友達でしょ! 」
クリスの手を握ったまま目を開き、彼を見上げるとパチリと目と目が合う。
目が合うと……なんだか急に恥ずかしくなってしまう。クリスは私の事を見つめたままだった。
「痛かったね。とても辛かったでしょう?
痛いって言っていいんだよ。
ううん。私が言って欲しいの」
いつも、お母さんが『痛いね。辛いね』って私に代わって言ってくれてた。……私も素直に言えたら良かった。
私はそっと回復魔法をかけ始めた。
手をお腹の上に当てる。
本当はどこを触っていても良い。なんなら触らなくても魔力を流すだけでも回復魔法は出来る。
でも、私はいつも必ずその治したい場所か近くを触る様にしている。
『看護の基本はね、目でみて。手で触るのよ』
『看護の看の文字を見て!
ね! 目と手でしょう? 』
大好きな看護師さんが教えてくれた言葉だった。
彼女は夜中でも、薬の副作用で苦しむ私の背中を擦ってくれた人だった。
彼女が擦ってくれると本当に、痛みや苦しさが減った気がした。
『すごい、痛くなくなった気がする! 魔法みたい』
という私に
『そうなのよー! 私、魔法使いなの。秘密ね!
辛い時は言うのよ! 魔法かけにくるからね! 』
と笑ってくれる人だった。
手のひらから魔力を流す。温かい魔力が流れ込む感覚がする。じんわり、手もお腹も温かくなっていく……
「うん。良さそう!クリス、ど……」
手を離して、どんな感じか聞きたかったが、言葉になる前にクリスに腕を引かれ前に倒れる。
……ぎゅっと抱きしめられている。
「リリアーナ、ありがとう」
「ううん。痛みは? 」
「本当にないよ。……今までで一番調子がいいみたい」
「良かった。……クリス、苦しいよ」
私が笑って言うと、パッと身体が離れた。
「リリアーナ、これ持ってて。手紙をやり取りできるんだ。
また後で手紙を送るね。
これで、予定が変わっても大丈夫だろう? 」
手の上に小鳥の形をした硝子細工の置物を渡される。それを見ていると、解析に一区切りついたらしいお兄様が、大きく息を吐いてこちらを振り向いた。
残りはまた家に持ち帰って続きをする事にして、これ以上長居をすると家の者に見つかるといけないから、とりあえず明後日のお昼頃に待ち合わせる約束をして解散した。
家に帰っても、クリスの事が気になってしまう。
辛い思いや痛い思いをしていないといいな。と思ってみたり、彼の嬉しそうに笑う顔が浮かんでしまう。
素敵なお友達が出来た!と私は浮かれていた。
夜、ベッドサイドのテーブルの上に飾った小鳥がキラキラ光ったと思ったら、パタパタはばたいて手紙を口に咥えて手元に飛んできた!
なんて綺麗な魔法なの!素敵!
手紙は治療に対する感謝の言葉と、たくさんの喜びの言葉に溢れていた。
それを見て私もとても嬉しくなった。
じんわり心が温かくなる。私も手紙を書いて小鳥に渡すと、キラキラ小鳥が飛んで手紙だけ消えた。
夢の様な素敵な魔法に感動すら覚えた。
次の日も手紙は続く。今日は会えないから、その日のとりとめのない事をお互いに送りあった。
ただそれだけが、とても新鮮で楽しかった。
小鳥は私以外の人が近くにいると、反応しない様だった。そして、人が居なくなると私の元に飛んでくる。
こうして、私はクリスと手紙をやりとりするのがとても楽しみになっていた。
…文通はじめました。
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