森の泉にて 3
いつもありがとうございます。
前半はリリアーナ、後半はお兄様視点です。
次の日、お兄様と一緒に『裏庭で二人でピクニックする』と言ってお昼前に森の泉へ向かった。
お兄様は朝、剣の稽古を終えてからの合流だからか……なんだか少し疲れて見えた。
森の泉へ急いで走って行く。
男の子は泉の側にある木陰に座っていた。座っている姿も絵になる。私達を見つけると立ち上がって近寄ってきた。
顔色も良さそうで良かった。
治療が上手くいったんだと確認出来てやっと、ほっとした。
「こんにちは。体調はどう? 大丈夫?」
「ありがとう。本当に楽になったよ。
今日も来てくれてありがとう。
奇跡が起きたと思ったけど、やっぱり君は夢で女神様だったんじゃないかと心配していたところ」
そう言って男の子は笑っていた。
美少年はお兄様で馴れていたけれど、彼は違う種類のイケメンだわ。
「そうだわ! こちらは私の兄でランスロット。昨日、お家の皆にバレない様に協力してくれたの。
だから、今日も来られたのよ。
それから私ったら、昨日はバタバタして名前も伝えなくてごめんなさいね。
私はリリアーナよ」
「僕はクリスだ。
ランスロットも心配して付いて来てくれたんだろう? ありがとう。
リリアーナ、僕こそ昨日はきちんとお礼しなくてごめんね。
本当に助かったよ。なんてお礼をして良いのか分からないくらいだよ。感謝してもしたりないんだ」
「クリス、僕達は誰かに見つかるとここに来られなくなってしまう可能性が高いんだ。
早く『呪い』を解いてしまった方がいい。
僕も協力するよ」
やっぱりお兄様は優しいわ。
お兄様の『探知』で『呪い』の種類や分析をしてもらえると、私も『解呪』しやすいから助かるし時間もかからない。
『呪い』は上手く手順を踏んでしっかりしないと、跳ね返される事もあるから気をつけないといけないと習っていた。
よくみてみると、こんな複雑な『呪い』は初めて見るものだった。
お兄様も横で真剣な顔で観察しながら言う。
「思っていたよりもずっと複雑で、何重もの罠と複雑な呪いが絡まってる。
下手に手を出すと危険だ」
「お兄様っ!」
「いや。諦めると言っている訳じゃないんだ。
二~三日かけて、まず呪いを解きほぐそう。
少し読み解いて家で解読したりも出来るからね。
その方が安全だから。何より、僕はリリィを危険に曝す訳にはいかないからね。
まずはそこからだ。
クリスもそれでいい? 時間はある?」
「僕は何日かかっても大丈夫だ。
二人には迷惑をかけてすまない。
そして、二人にとって危険だと思ったらすぐ止めてくれ。
二人に迷惑をかけるつもりは……なかったんだ」
「クリス、そんな思い詰めないで。
私もお兄様も頑張ってみるわ!
なんとかなるわよ。ね」
まずは、気持ちで負けちゃダメよね!
「じゃあ、とにかく三人でピクニックしましょう!
だって、今日中には終わらないものね。
まずはお腹いっぱいにしてから、考えましょう」
そう言うとお兄様は呆れたように笑いながら、持って来ていたバスケットや敷物を広げてくれた。
クリスも驚いた様に瞳を数回瞬かせ、くくくっと笑いを堪えていた。
そんなに変な事を言ったかしら? 笑ってくれた方が良かったんだけどな。
クリスの事は心配だったけど、森のピクニックはとても素敵だった。庭のピクニックとはまた違う。メンバーも違うからかしら……とっても新鮮だった。
多めに作って貰ったサンドイッチもフルーツもデザートも皆で食べるとあっという間だった。
そして三人でご飯を食べながら、自然と話しているうちに仲良くなれた気がするから不思議。
昨日は聞けなかった色々な話が出来た。
「じゃあクリスはここには一人で来たの?」
「今日は僕以外に他の男性がもう一人いたら、リリアーナが怖がるかもしれないと思って一人で来たんだ。
昨日は、悪友と一緒に来ていたよ。
ただ昨日見たとおり、森の中を動きまわったせいか……思ったより毒の回りが早くて、死にそうだったろう?
悪友が急いで回復薬をとりに行ってくれたんだ。
あれ以上動いていたら、本当に死んでたからね」
「そうなの? お兄様もいるし、お友達も一緒にいらしてね。
きっとクリスの事、心配してるでしょう?」
「そう言って貰えると助かるよ。ランスロットもいいかい?」
「ああ。もちろん。
……さあ。じゃあ、僕は解析を始めるよ。
とりあえず、今日は僕一人で軽くやってみるから、二人は楽にしてていいよ」
―――― ――――― ―――――
昨日は調べ物を遅くまでしてしまったせいか、眠い。リリィに気づかれていないといいけれど……
とにかく、その男の子をみてみないと!と思い朝の稽古も頑張った。
リリィといつものピクニックだと言うと、誰も疑問に思わずに準備をして僕達二人をそっとしておいてくれる。
森の泉に着くと、リリィの言っていた通りのキラキラした茶色の髪の男の子がいた。
いやいやいやいや。あれ、普通じゃないから。
リリィ…………僕は頭を抱えそうになる。
ちょっと綺麗な男の子ってレベルじゃない。
髪の色を変えた王族か何かだろうなってすぐ気づくよ。いや、リリィも気づいてよ。
クリスと名乗った男の子は、品の良さを隠しきれていないけれど、砕けて話す努力を感じたので合わせておいた。
いや……せめて偽名くらい使ってくださいよ! クリストファー殿下じゃん! リリィ、興味なくても王子の名前くらい覚えておいてよ!
僕……頭が痛くなってきたよ。
でも、王子はにこにこ嬉しそうにしてるから……もういいか。早く解放されたい。
流石に王子にかけるだけの、複雑な呪いに驚く。
これは数日かけて、しっかり解析しないと難しいな。僕は、リリィも王子も危険に曝す訳にいかない。
数日かかる事を二人に話すと、二人とも納得してくれた様で良かった。頑張らないと! と僕が意気込んで居ると、リリィは『まずはピクニック』などと言い出す。
さすがリリィだなぁ……と少し肩透かしを食らった気がするが、リリィのこんな所も可愛いと思ってしまう僕はしょうがない。
殿下も笑いをこらえている。
殿下は思った以上に気さくて、良いヤツだと思った。王子じゃなければ、友達になれそうだった。
年は僕と同い年で、リリィの一つ上だ。
殿下に気を許してしまっているな~と思いつつも、この時間を楽しんでしまっていた。
するとリリィがやはり爆弾を投げてくる。クリス殿下の友達を連れてくるという。…………それ絶対、側近候補か近衛騎士とかだから。
偉い人だから、僕の胃が痛くなるからやめてほしかったが、了承せざるを得ない。
ただ王子ともあろう人が、リリィを怖がらせない様にと一人でここまで来てくれるなんて……と大分、僕の中での好感度は上がっている。
リリィは絶対気づいていない。……色んな事に。
色々と諦めて、解析に入る事にした。
二人にのんびりしていてね、と確かに言ったけど……そんなに見つめあったり、微笑みあったり、何を楽しそうに話しているんだ!!
殿下! リリィに惚れてない!? え? 嘘だよね?
リリィ! その人、王子だからね!
あー! 気が散るので、もう二人は見ない事にした。
一部解析して、また家に持ち帰って続きをする事にした。
家の者に見つかるとヤバい。とりあえず、毎日は危険だから明後日のお昼頃に待ち合わせる約束をして、今日は、解散した。
お読み頂きありがとうございました。
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