あがたかな
「あがたかな 1980」
私は名もなき街に生まれた。
別に何かに秀でたものがあるわけではなく、平凡な子だった。
ただ、少し一つ、他の人たちと異なるところがあった。
それは家族構成。
私の家はとある宗教団体だった。
父はその教団の教祖だった。
私は団体の中で過ごし、沢山の人々に囲まれて生きていくことが当たり前だと信じていた。
それが普通だと思っていた。
事情が一変したのは、私が5歳の頃だった。
同じ団体にいた仲良くしていた同い年の子と、そのお母さんが心中した。
理由は今となってもわからない。
父と離れてからその事件について新聞を読んでも、
なぜ心中したのかについては原因となる理由は不明としか書かれていなかった。
その事件で、私と父は逃げるようにして遠い遠い港町に引っ越した。
父は自分が死んだということにして、世界から消えようとしていたのかもしれない。
誰もこの事件を知らない街に。
思えば、ずっと世界から逃げて、逃げ続けていた。
今もそう。逃げて、逃げて、また、逃げて。
2年が経ち、あがた家に郵便が来た。
父は悲しそうな顔をしていた。その顔を今でも夢の中で思い出したりする。
その郵便はがきによって、私は最後には父を捨てることになる。