初訓練と二人の剣士
芝の生えた校庭に剣士の訓練生が整列していた。全体の指揮をとっているフレン教官は、前の戦いで腕を負傷した事から将軍職を辞した元将軍だ。
「本日づけで新たに訓練生が増える」
一斉に私に視線が向く。確かに剣士志願者に女子は少ないが、ちょっと緊張する。
「教官、この女子強そうじゃないですが大丈夫ですか?」
訓練生の一人が私を女子だからといって馬鹿にしてきた。
人を小馬鹿にした態度にかなりイラッときたが、訓練で目にもの見せてやる。
「本日の訓練は、新人リル・ソフィアの実力を測ると共に皆の実力を確かめる。抜き打ち試験を行う」
いきなり抜き打ち試験とは、私の実力を見せつけるいいかチャンスだ。
「試験方式は、個人戦を行う。初戦で負けたものは、本日残ってもらう」
「……」
あまり、士気が高いとは言えないけど勝ち進んで見せる。
「まず、新人とソアラで戦え。武器は訓練用のものを使え」
対戦相手のソアラは爽やかな好青年といった印象だ。あと、結構強そうだ。
用意ができしだい試合開始らしい。
「それでは、第一回戦。初め!」
力強い、フレン教官の怒号と共に、ソアラが突っ込んで来る。
隙だらけだ。隙だらけの攻撃にあわせて、大きく私は剣を振り上げる。そうしてタイミングをあわせて素早く放つ。
「かかったな」
その言葉の意味の通り、ソアラが私の剣を見事に見切り、反撃しようとする。
私は剣で受けようとするが、間に合わない。ソアラの放った、一閃を食らってしまう。
「いたた……」
食らったがのけぞるくらいの威力しかなかった。そして、ソアラは止めを差そうと、一気に攻め立てる。一つ、二つと攻撃の速度が上がってきている。しかし、足元が隙だらけだときずき、ソアラの剣の一撃を剣で受けその勢いを利用しつつ、回転斬りをしかける。
「単調な戦い方だな!」
気づいていないソアラに私は勝利を確信した。回転斬りをしかける、ふりをして剣にかかった体重を私の足に込め、ソアラに足払いをする。
「のわっ」
ソアラが間抜けな声を出した。
「これでおわりね!」
隙を見せない様に首筋に刃を突き立てた。
「勝負あり」
教官の言葉で試合が終わる。
「勝者、ソフィア」
「すげー、ソアラに勝った」
少し私は誇らしかった。対戦相手のソアラは決して弱くなかった。むしろとても強かった。そんな彼に勝って誇らしかった。
「ソフィアだったな」
ソアラが立ち上がった。
「ソアラ、さん」
一応先輩だし礼儀は良くしておくべきだと思い、敬語で話そうとする。
「女だと侮っていたが強いな、キミも立派な戦士なんだな」
「……」
女だから、侮った、か。昔から女だって理由でバカにされてきた。
「別に女でも良いじゃない……」
「すまん、女を差別した訳じゃない、と言っても信じてもらえないかな」
ソアラ先輩は結構いい人そうだし、信じてもいいかもしれない。
「ソアラ先輩はいい人ですね」
「……いきなりだね」
「ごめんなさい」
ソアラ先輩と話していると、フレン教官が呆れた顔でため息をついた。
「お前ら、次の試合始まるぞ、ソフィア、ちゃんと用意しておけ」
「「ごめんなさい……」」
ソアラ先輩と私は声を合わせて謝った。
その後、私は順調に勝ち進み、決勝戦まで駒を進めた。
決勝戦の相手は黒髪の落ち着いた性格の少女だった。腕は剣を扱うには華奢すぎる気がするが、さっきまでの戦いを見ると一瞬で間合いを積めて戦う戦法でほとんどの訓練生は瞬きの合間に決着が着いていた。
「ソフィアさん」
試合開始直前になった今、対戦相手である、黒髪の少女が話しかけてきた。
「えっと、対戦相手の人ですよね」
「畏まらなくても結構です。一応、年下ですし。あ、名乗っていませんでしたね」
少女は一呼吸おいてから、名乗り初めた。
「リベール・レインと申します」
「私は、リル・ソフィア。よろしくね、レイン」
レインは花の咲いたような笑顔で返した。
「試合開始まで、あと1分だ」
「お互いに全力で行きましょう」
「うん!」
そして、試合が始まった。
(まず、レインがどう来るか、待ってみよう)
レインは一歩踏み込むと同時に目にも止まらぬ速さで懐に入り込まれる。とっさに一歩後退りをしたが、一瞬で背後に回られた。
(速い……!?このままじゃ)
私は剣を構え、レインの剣を薙ぎ払うと、間合いを取らずに体当たりを仕掛けた。
(ウソ……!?)
レインは体当たりを見切り、大きく飛び上がった。そして、空中で逆さまな体勢で私の剣を叩き、砕いた。
「勝者、レイン」
「ありがとう、ございました」
互いに一礼すると、レインがまた、花が咲いたような笑顔で話しかけてきた。
「いい戦いでした」
「一瞬で私、負けましたけど……」
「いえ、あの体当たりを避けられたのはたまたまで、もう少しで私負けてました」
それは、本音なのかどうかを確かめた。
「私、集中力が長く続かなくて、十秒程で切れちゃうんです、体力もありませんから、十秒程でもう体が限界で……」
そう言うことか、試合時間はおよそ9秒で終わった。一瞬で決着をつけれなかった時点で勝ち目が薄くなったということだろうか?
「そうだったんだ、もう少し耐えたら私が勝ってたんだ」
「ええ」
そんな話で盛り上がっていると、教官が訓練終了の号令を出し、解散となった。
一瞬で決着がつく、それは剣を極めた者の戦いに言えること。私もそのくらい強くなれば、カルドを探しに行けるのだろうか?