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前哨戦。4

俺とアイツは机を挟み、向かい合って座った。陽は暮れかかり、オレンジ色の空が部屋の中の俺たちを照らす。

俺はゴクリと喉を鳴らした。

「……ど、どうぞ」

俺は渋々、コピーしてきた小説の束を渡す。

その手は少し震えていた。ぶっちゃけ、ここから一刻も早く逃げ出したい。

それほどに部屋の空気が、俺たちの間の雰囲気が張り詰めていた。

「では、お手並み拝見といこうか」

赤ペンを持ってニヤリと笑う。

「……」

反応に困って黙り込んでいる俺をよそに、添削を始めてしまった。本当の赤ペン先生じゃねぇか。


「暇か?」

「ん、あぁ……暇だねぇ」

熱心に添削している姿を夢心地な気分で見ていた。赤の量は……結構多いな。

そこまで訂正箇所が多かったのか。ネット上に載っけてもあんまり読んで貰えなかったし、コメントすらなかったので指摘は有難いが、同時に怖くもある。

「一姫。お前さ、音楽とか聞くのか?」

ふと、そんなことを聞いてみた。

別に、深い考えがあったわけじゃない。

それに、ちゃんとした答えを期待していたわけでもない。

だというのに、今まで流れるような動作で書いていたアイツの赤ペンの動きが止まった。

「……聞くけど、それが?」

それだけ言って、俺には目もくれず、また書き始める。

二重線を引かれた。結構傷つくな……。

「いや、オススメの曲があったら教えてほしーーーーーー」

「無いぞ」

「うっ……」

即答だった。こっちが動揺している間もペンは止まらない。

「じゃあ、本は?」

「今は読まないし、書かない。……それにしても、なんだこれは?」

呆れた様子で、束の上半分を俺に渡して来た。

「なんだ、とは……?」

「要らん箇所が多すぎる。ムダ、ムダ、ムダばっかり。回りくどくし過ぎてないか?」

「そうなのか? うーん、でも他に思いつかんからな」

「シンプルイズベストなんだ。その方が読み手にも曲解されて伝わることが無くなる」

赤ペンの先端が俺の眉間に突きつけられる。

「あぶねぇっ!?」

「なに、刺さりはしないさ。安心しろ」

「そういう問題じゃねぇよ!!」

さらりと気にしてないかのように言いやがった。こっちが失明したら責任取れるのか。

「はぁ……」

大声を出したら疲れた。天井を眺めていると、聞いてみたかったことを思い出した。

「読まないし、書かないって……」

「ん?」

「お前、今は読まないし、書かないって言ったよな。じゃあ、前は書いてたのか?」

「……」

初めてみた。コイツ、こんな顔もするのか。

バツが悪そうな顔をしていた。

「……一姫?」

俺が呼びかけると、顔を俯かせて、ポツリと呟いた。

「なぁ。お前はさ、何のために小説を書いてるんだ?」

「え……。そんなこと、急に聞かれても……」

そんなの、あまり考えたこともなかった。

いや、多分考えるまでもなく、それは当たり前のように俺の中に根ざしていたモノなのかもしれない。

「俺は、共有したかったんだ。この本を読んで、面白い、悲しい、辛い、楽しい! 俺もこんなの書いて、色んな人と繋がって、『こういう展開良いよな』とか、『この話が面白かった』、『自分の自信作なんだ』とか……!」

なんだ、これ。

溢れて、止まらない。


一度口を開けば止まらない、『小説を書くこと』に対する、創作に対する、自分の思いを形にすることに対する思いが湧き上がってきた。


「最初は、ほら、『こういう話が書きたい』、『こういうヒロインが書きたい』とかそういうところから始まるんだ。だって、小説は……」


「自分の思いを形にできる、自分にとって唯一の場所だから、か……」


低く呻くような声。憎悪を募らせた声で、アイツは俺を睨んでいた。


「……良いよな、お前はさ。そんなキラキラした理由でモノが書けて」

「何言って……」


理解が追い付かない。コイツの目は、何を見ている?


明らかに俺を見ていない。焦点が合わない目をしている。


「教えてやるよ。私が、何故、あそこまで執着するのか」


あの時、コイツはこう言っていた。



……私の作品だぞ。埋もれさせてたまるか



だから多分、きっと。


「私が小説をかくのは、それが……」


それに思い当たる節があったから。











「ーーーーーー私の存在証明だからだよ」






それが分かってしまったんだ。

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