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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
52/53

ザ・告白



★7月20日(水)


「……ふにゃ?」

と、目が覚めたら昼だった。

臨席の美佳心チンが眉間に皺を寄せ、色々と嫌味を言ってくるが……仕方あるまい。

何しろ昨日はまどかに本気で泣かされた挙句、穂波に徹夜で説教を食らい、僕ちゃん非常に疲れているのだ。

ちなみに智香の馬鹿は、頚椎損傷及び心に大きな傷を受けてしまったので、今日はお休みである。


「まったく……ちょっと乳揉んだり下着を見たりしたぐらいで、何で殺意あるお仕置きを受けねばならんのか……全く分からんわい」

俺はブツブツと愚痴を溢しながら食堂へ向かい、惣菜パン数個とコーヒー牛乳をゲット。


さて、どこで食いましょうか?

食堂の中は、当たり前だが混雑していた。

空いている席は殆ど無い。

むぅ……

外で食うのは暑いし、教室で食うと、「洸一っちゃんッ!!またそんなお菓子みたいなパン食べて……だから脳味噌が成長しないんだよ」とか、穂波に文句を言われそうだし……


「ふむ、部室で食いますか」

俺は呟き、紙袋をぶら下げてオカルト研究会が入っている校舎へと向かう。

「ついでに、飯食ったら部室で一眠りしますかねぇ……酒井さんが五月蝿そうだけど」

何て事を独りごちて歩いていると、

「……おや?」

目の前を歩いているのは、既に高2で伝説となっちゃってる武神の真咲姐さんではないか。

そしてその隣には、ちょっぴり小柄な女の子。

一年生だろうか?


「はて?お昼時なのに何処へ行くんでしょうか?」

興味をそそられた俺は、こっそりと尾行を開始。

心の守護神が、また何かトラブルに巻き込まれるから止めとけ、と必死に叫んでいるが……

生憎と、俺の好奇心は常人より赤くて3倍ほど旺盛なので、止める事は出来ないのだ。


「むぅぅ……段々と人気の無い方へ……怪しい。これは実に怪しいですねぇ」

ま、後を尾けている俺が一番怪しいのだが、それはそれだ。

しかし、一体なんじゃろうねぇ?

よもや、もしかしてもしかすると……

真咲姐さんとあの見知らぬ女の子は、ただならぬ関係なのかもしれない。

そして神聖な学び舎の中で、あんな事やそんな事をしちゃっているのかもしれない。

まさにマリア様もビックリなレズビアーンでトレビアーンな感じ(意味不明)。

洸一チン、ちとドキドキである。


「むぅぅぅ……普通なら、当然真咲姐さんがタチなんじゃが……ネコだったら少し怖いよなぁ」

なんてお馬鹿な事を呟いていると、二人は図書室の中へと消えて行った。

「ぬ、ぬぅ。こんな時間に図書室とは……ますます百合の花の香りがするではないか」

俺は足を忍ばせ、図書室の前。

そして音を立てぬよう扉を開き、サッと素早く室内へ身を滑り込ませる。

どこか郷愁を誘うような特有のインクと埃の匂いが立ち込めている図書室の中に人の気配は無く、シ~ンと静まり返っていた。


はて?どこへ行ったんじゃろうか?

俺は腰を屈め、気配を探りながらゆっくりと歩を進めた。


おいおい、こりゃ冗談じゃなく、本気で怪しくなって来たぞよ。

ど、どうしましょう?

と、図書室の一番奥まった所にある本棚付近から、何やら話し声が聞こえてきた。

俺は床に伏せ、軍人だったあの頃を思い出すかのように匍匐前進を開始。

・・・

軍人だった記憶は無ぇーけど。

そして本棚の死角に入り込み、聞き耳を欹てる。


「それで、こんな所に連れて来て話とは……なんだ?」

真咲姐さんの声。

「あ、あの……二荒先輩。その前に一つ聞いても良いですか?」

見知らぬ女の子の声。


ぬぅ……真咲を二荒先輩って呼ぶって事は……空手部の後輩かにゃ?

一体、こんな所で何の話でしょうねぇ?


盗み聞きは少々後ろめたいし、真咲さんに見つかったら速攻で撲殺されそうな気もするが……

ここまで来たら、もう引き返せない。

俺は呼吸すら抑え、二人の話に聞き入る事にする。


「ん?なんだ?何が聞きたい?」

「はい。その……二荒先輩は、神代先輩とお付き合いしているんですか?」


一瞬、時が止まったかのような錯覚を俺を覚えた。

実際、本当に止まっていたのかも知れない。

……え~と……神代輩って……僕ちゃんの事かにゃ?


「な、なんだ藪から棒に……」

真咲姐さんの戸惑った声が響いてくる。

ちなみに、俺も少し戸惑っていた。

「わ、私と洸一は……そーゆー関係ではない」


う、うんうん、確かにその通りだ。

でも、キスとかはしちゃったんだけどな!!がはははは!!


「そ、そうですか」

と、どこかホッとしたような後輩の女の子の声。

「それを聞いて、決心が着きました」


……決心?


「決心?……それは何だ?何を言っている?」

「え、えと……その……私、神代先輩に告白してみようと思うんです」


――ッ!!?

また、時が止まったかのような錯覚を俺は覚えた。



告白してみます……

と、見知らぬ女の子は、ハッキリと言った。

一瞬の静寂の後、俺の心臓は早鐘を打つ。


こ、告白って……なんじゃ?

貴方を殺しますってヤツか?

・・・

って、それは告白じゃなくて殺害予告だよッ!!

と、取り合えず落ち着け、俺。

これはきっと、あれだ。

いつも惨めで辛い思いばかりしている俺に、情け深い神様が与えてくれたチャンスってやつだよ。

夏を前に、俺にも青春を謳歌する権利を授けてくれたんだよッ!!

ヒュウ~、やったね僕ちゃんッ!!


し、しっかし、どんな女の子じゃろうなぁ?

声は結構、可愛いんじゃが……


「こ、告白って……洸一にか?」

本棚越しに聞こえる真咲姐さんの声は、何故か少し震えていた。

「な、なんでだ?」

「何でって……その……好きだからです」


好きだから……か。

・・・

てへっ♪照れるにゃあ♪

俺、モテモテじゃんッ!!


「す、好きって……」

「二荒先輩、神代先輩と仲が良いから……少し心配だったんです」

俺様のファンである氏名不詳の女の子は、どこかウキウキと声を弾ませて言った。

「でも、付き合ってないて聞いて、安心しました♪二荒先輩には、その……どうやっても勝てないですし……」

「ちょ、ちょっと待て」

と、真咲さん。

物凄く戸惑った声で

「一つ聞くが……何であの男なんだ?」

「……はい?」

「は、はっきり言って……洸一は馬鹿だ」


――ぬぉいッ!!?


「スケベで我侭で常識知らずの社会不適合者だ。おまけに心も病んでいる」


お、おいおいセニョリータ。一体何を言い出すんだよぅ……


「あんな駄目人間の、どこが良いんだ?悪い事は言わない。アレは止めておけ。アレは悪いものだ」

「そ、そんな事はないですよぅ。神代先輩、ああ見えても……結構優しい人なんです」


良しッ!!

俺はグッと拳を握り、本棚の隅でガッツポーズを作った。

誰だか知らんが、中々人を見る目があるじゃねぇーか……褒めてつかわす!!


「ま、まぁ……確かに優しいが……って、駄目だ。駄目と言ったら駄目なんだッ!!」

「ふ、二荒先輩……」

「あ~……その……何て言うか……こ、洸一は強い女が好きなんだっ!!」


――ぶっ!?

思わず鼻が出てしまった。

強い女が好きって……わしゃマゾか?

女王様に仕えるブタか?


「強い女って……私もそれなりに強いと思うんですけど……」

「い、いやだから……その……じ、実は、アイツにはもう恋人がいるんだっ!!」


ブヒッ!!?

だ、誰だよそれ?

どこの洸一クンの話だ?


「そ、そうなんですか?」

と、驚いたかのような少女の声。

もちろん、俺様もビックリである。

真咲姐さん、いきなり何を言い出すんだか……


「こ、恋人って……だ、誰なんですか?この学校の人ですか?」

「そそ、その……洸一は、その……お前と同じ一年の、葉室優貴と言う女と付き合ってるんだッ!!」


あひゃーーーーッ!!?

は、初耳ですよ、ボク?


「ほ、本当ですか?」

「あ、いや、その……本当って言うか噂って言うか……」

「……私、確かめます」

その女の子は、凛とした声で宣言した。

「神代先輩に告白して、確かめますッ!!」

「お、おい待て……」

と、真咲しゃんの制止も聞かず、その女の子はドタドタッと大きな音を立てながら床を駆け、隠れている俺の前を通り過ぎながら図書室を出て行ってしまった。


むぅ……

横顔がチラッと見えたが、中々にビューテホーかつキューティーな女の子ではないか。

あれなら俺様のステディに申し分ない、と思うんだが……問題は真咲姐さんだ。

何故にあんなでまかせを言ったんだか……


「……はぁぁぁ~~~参ったな」

と、その真咲さんの溜息混じりの声が聞こえた。

「まさかアイツが洸一になんて……」


うぅ~む……

俺がモテるのが、そんなにショックなのか?


「それに、勢いで優貴と付き合ってる何て言っちゃったし……どうしようか」


それは俺が聞きたい。


「……ま、考えても仕方ないか」

真咲さんはフッと鼻で笑った。

「いざとなったら……洸一には悪いけど、少し病院に入院してもらうか」


「ぬぉーーーーーーいッ!?アンタ一体、俺に何をする気なんですかッ!!?」

真咲姐さんの余りと言えば余りに御無体なお言葉に、俺は本棚の陰から飛び出し、思わず突っ込みを入れてみたのだった。



「うぉーい、おいおいおい……ほ、頬が痛いよぅぅぅぅ」


「黙れ洸一!!」

図書室の中、キッと俺を睨み付ける学園守護者の真咲さん。

「全く……盗み聞きなんて、趣味が悪いにも程があるぞッ!!」


「あぅぅぅ……それでも、泣くまで殴るのは如何なものかと思うんじゃが……」


「黙れと言ったッ!!」


「ハッ、黙るであります大佐ッ!!……グスン」


「ま、全く……こんな馬鹿のどこが良いんだか……」

真咲姐さんはブツクサと溢しながら、直立不動の姿勢を取っている俺をジロリと睨み付けた。

「フンッ、盗み聞きしていたから話は早いと思うが……分かってるな、洸一」


「……へ?何が?」


「だから、お前は優貴と付き合ってるんだ!!だから片桐が告白してきても、ちゃんと断るんだ!!分かったかッ!!」


「あの子、片桐ちゃんって言うのかぁ」


「……おい、聞いてるのか洸一」

真咲さんの綺麗に整った眉が万歳する。


「き、聞いてますよぅ」

俺はコホンと咳払いを一つし、心臓の鼓動を抑える様に深呼吸。

そして腰を屈め、揉み手をしながら、

「それであのぅ……3つほど、お聞きしたいことがあるんですが……宜しいでしょうか大佐殿?」


「……なんだ?」


「え、えと……なんで俺、優チャンと付き合ってる事になっちゃってるんでしょうか?」

実に摩訶不思議だ。


「そ、それは……アレだ。なんかテキトーに思いついたからだッ!!他意は無いッ!!」


「そ、そうなんですか」

ぬぅ……良く分からん。

「それと……なんで俺、あの片桐って子を振らなきゃならんのですか?なんか可哀想って言うか哀れって言うか……ま、俺が一番哀れなんですけど……」


「……あん?」

真咲姐さんの瞳がギロリンと鈍く光り、俺は思わず「ひぃぃッ!!?」と本棚の影に隠れる。

あ、あの光は……憎しみの光だ。あれは光らせちゃいけなかったんだッ!!

「だだだだってさ、あの子……僕ちゃんを好きだって言ってくれたし……恋愛は自由だと思うんだよぅ」


「お前に自由はないッ!!」


「うそーーーーーーーーんッ!!?」

ここは本当に、民主主義の国なのですか?


「そ、そもそも片桐は、一年の中でも有望なヤツだ。性格も良いし可愛いし……洸一には不釣合いだッ!!」


「え゛~~…」


「な、なんだその不服そうな顔はッ!!」


「だ、だってさ、そんなステキな女の子が俺の事をなんて……千載一遇のチャンスって言うか、これぞ神が与えたもうた最後の奇跡って言うか、これから夏を迎えるに当たってのドキドキ青春イベントなワケでして……それを棒に振るのは、男として如何なものかと思う今日この頃です」


「う、五月蝿い!!お、お前には……お前に相応しい彼女がいるだろッ!!その……例えば私とか……」


「は、はい?」


「な、何でもない!!それより、最後の質問はなんだ!!」


「は、はいはい。え、えと……その……なんで真咲は、さっきからそんなに怒ってるんだ?」

もしかしてカルシウム不足?

それとも女の子の日なのか?


「わ、私は別に……怒ってない」

言って真咲は、頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。


お、おいおい……

全然、説得力がないぞ?

「あ、あのぅ……どう見ても、怒ってるようにしか見えないんですけど……」


「う……うるさーーーーーーーーいっ!!」


「うひっ!?お、落ち着け怪物クンッ!!」


「そ、そもそもだッ!!私が怒っているのは洸一のせいだッ!!お、お前が全部悪いんだッ!!」


「ぼ、僕ちゃんですかっ!?」

何故に?


「ま、まったく……たかが後輩に好きだって言われたぐらいでデレデレしてみっともない。死にたいと思わんのかッ!!」


「お、思わないよ!?ってゆーか、貴方が何言ってるのか分からないよぅぅぅ」

そして怖いよぅぅぅ。


「と、ともかくだ。優貴には私から言っておくから……ちゃんと断るんだぞッ!!」


「で、でもなぁ……」


「返事はッ!!」


「ハッ!!了解であります、サーーーーーッ!!」

洸一チン、思わず敬礼。

真咲はそんな俺をもう一度睨み付け、肩を怒らせて図書室を出て行った。


「……う……うぅぅぅ……僕の青春、なんか台無し」

俺は涙ながらに呟く。

と同時に、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いたのだった。



放課後……

俺はしょんぼりしながら裏山へ行くと、既に優チャンが、相変わらず環境と俺に優しいブルマ姿で準備体操を行っているところだった。


うんうん、今日も元気いっぱいですなぁ…

「よぅ、優チャン」

俺はにこやかに挨拶。


「あ、先輩」

と、優チャンも笑顔で返事を……返さなかった。

「お、遅いですよ先輩ッ!!」

眉間に皺を寄せ、ガォウと吼える。

何だか知らんが、ご機嫌は凄く斜めのようだ。


「ご、ごめんよぅ。って、いつもと同じ時間のような気がするんじゃが……」


「黙って下さいッ!!」


「ハッ、黙るであります軍曹ッ!!」


「全く……二荒先輩から聞きました。神代先輩、一年の女の子に好きだって言われて、いい気になってるそーじゃないですか」


「い、いい気だなんて滅相もない」

俺はフルフルと首を横に振る。

ってゆーか、真咲も優チャンも、何をそんなに怒ってるんだよぅ。

俺が女の子に好意を持たれる事が、そんなに癪に障ることなのか?

なんでだ?


「ともかく、先輩の恋人は私って言うステキな設定なんですからね。ちゃんと……ちゃんとその盛りの付いた泥棒猫に、きっちり『死ねや』って言ってやって下さいよっ!!」


「お、おいおいお~い。優チャン、いくら何でもそれは言い過ぎだろうに」

そんな振り方してみろ……

普通の女の子だったら確実にトラウマもんで、二度と恋愛は楽しめなくなるような気が……


「何でですかッ!!」

優チャンはスンゴイ目で俺を睨み付け、

「同級生じゃなかったら、私がこの手で確実な恐怖を見せて……そして煉獄へと送り届けてやるのにぃぃぃ」

スンゴイ事を口走る。


「お、落ち着け優チャン。君が何を言ってるのか、僕ちゃんにはとんと理解出来ないんじゃが……」


「何でですかッ!!二荒先輩の怒りは私の怒りですよッ!!そしてそれは、大地の怒りでもあるんですっ!!」


「あ、あぁ……そうなんだ。益々もって意味が分からんけど、ともかく凄く怖いよ」

しっこチビりそうだ。


「本っっっ当に神代先輩は、女心が分かってないって言うか……もうダメダメですッ!!」

優チャンは憤怒の形相で怒鳴り散らしてくるが、不意に視線を境内の方へ走らせると、

「人の気配……どうやらメス猫が来たようです」


「そ、そうなの?」


「先輩、分かっていますね?確実に、振って下さい。これは命令です」


「め、命令なんですか?」

あ、あぅぅぅ……

ぼ、僕の可愛くて元気な優チャンが……

素直な優チャンが、まどかや真咲姐さんみたいに、無頼な乙女になっちゃってるよぅ。

朱に交われば赤くなる、とは正にこの事だ。

これだから、友達はちゃんと選ばないとダメだよねッ!!


「さぁ神代先輩。任務を遂行して下さい」

と、優チャンは囁き、何事も無かったかのように準備運動を再開する。

それと同時に、

「あ、あのぅ……」

例の女の子、片桐さんが社の裏手へと現れた。


ぬぅ……か、可愛いじゃねぇーか……

片桐さんを改めて見ると……なるほど、俺様ランキングの上位にエントリー出来るほど、可愛い女の子であった。

こんな子に告白されるなんて、何て男冥利に尽きるのだろうか。

そしてOKしたら、実に素晴らしき夏休みを迎える事が出来るであろう。

だけどそんな事したら、確実に明日の朝日も拝めないので、ここは涙を飲んで退却なのだ。


「え、えと……君は?」

俺は背後から突き刺さるような優チャンの視線を感じながら、取り敢えず惚けたフリをしてみる。


「わ、私……一年の片桐美亜って言います。あ、あの……その……実は神代先輩にお話があって……」


お話……

こ、告白だな?

告白でしょう。告白なんだよ!!

分かってるよ!!

踊りたいぐらい嬉しいよッ!!

だ、だけど怖いよぅ……

なんか背後から殺気が漂ってて、物凄くおっかねぇよぅ。


「お、お話って何かな?あ、もしかして……TEP同好会の入会希望かな?」

俺はどこか醒めた口調で、顔を上気させている片桐さんに尋ねる。

何故なら、背中に銃口を突き付けられている気分だからだ。


「え、えと……違います。その……ここじゃ何ですし、あっちへ行って話しても……良いですか?」


「え…?あ、あぁ、もちろん良いけど……」

と、俺が頷くや否や、いきなり優チャンがガシッと腕を取り、

「何のお話ですかぁ?」

ニコニコ笑顔で割り込んで来た。

洸一チン、生きた心地がしません。


「神代先輩は、これから練習なんですよぅ。だから手短にお願いします。……ここでねッ!!」


「あ、あの……貴方は……」


「葉室ですッ!!」

優チャンは無い胸を強調するかのように、俺の腕を取ったまま踏ん反り返る。

「葉室優貴ですッ!!TEP同好会の会長で、神代先輩の恋人ですッ!!」


あ~あ……言っちゃった。

これでまた一つ、俺の青春が消えて行ったよ。


「こ、恋人……ですか」

片桐さんは、引き攣った笑みを浮かべていた。

今にもその綺麗な瞳から涙が零れ出しそうな感じがして、心優しき俺様としては、非常に胸が痛むのだが……

どうやら優チャンは違うようだった。

優越感に浸る、と言うのか、どこか喜悦に満ちた笑みを浮かべ、まるで敗者を甚振るが如く、

「そうですッ!!私が恋人なんですっ!!」

堂々と言い放つ。


「お、おい、優チャン……」


「キスはまだだけど、胸を揉まれちゃうぐらいの間柄なんデスッ!!」


「ぬぉーーーいッ!!?な、なに口走ってるんだよ……」


「だってそうでしょ?」

優チャンはどこか壊れたかのような爛々と輝く瞳で、俺を見上げ、

「昨日だって、揉んだでしょ?こうやって、私の胸を揉んだでしょ?」

言っておもむろに俺の手を取り、自分のパイパイへと誘う。


あ、柔らかい……

って、そーじゃなくてッ!!

「ゆゆゆゆ優ちゃんっ!?いきなり何をって……片桐さんッ!?」

俺に告白しようと決めてきた後輩の女の子は、何も言わず、振り向いて駆け出していた。

その後姿の、なんと悲しい事か……

思わず胸がズキッと痛む。


さようなら……片桐さん……

さようなら、僕の青春……

さようなら、一夏の思い出……


「って、ンギャーーーーーーーーーッ!!?」

俺は思わず、悲鳴を上げていた。

何故なら、走り去る片桐さんとは入れ違いに、此方へ近づいてくる人影が一つ。

それは見目麗しい、悪魔将軍閣下だったのだ。


「ま、まどか……しゃん?なぜ今日もここに……」


「……洸一」


ひぃぃっ!!?

怖いッ!!目が凄く怖いッ!!

「い、いやその……何て言うか、これは違うんですよ?実は優チャンが少しテンパっちゃって……って、いねぇーよッ!!?」

それまで俺の隣にいた優チャンの姿は、忽然と消えていた。

光の速さで戦線を離脱した模様だ。


「洸一……あ、あんたって……あんたって男は昨日に引き続き、また今日も優の胸を……」

ボキボキと指を鳴らし、殺意の波動を放射しながら地獄の釜を破って地上に踊り出た悪魔が近付いて来る。

「今日こそは……今日こそは真面目に練習していると思ってたのに……信じてたのに……」


か、神めぇーーーーーーッ!!

またか?

また今日も、俺に過酷な試練を与えると言うのかっ!!

二日連続で、俺を亡き者にしたいのかっ!!

お、おのれぇぇぇ……

俺はもう二度と、初詣になんか行かないからなッ!!


「お、落ち着けまどか!!いえ、将軍閣下ッ!!今日のこれは真咲の命令って言うか……話せば分かるでありますっ!!」


「ガルルルルルルゥッ!!」


「あぁん、既に人語を失ってるよぅ」

こうして俺は、また今日も宙を舞ったのだった。



――チャリラリラ~ン♪

神代洸一、悲惨な目に遭ってレベルUP!!

洸一は生命力が上昇したッ!!

洸一は耐久力が上昇したッ!!

洸一は回復力が上昇したッ!!

だけど心に致命的な傷を負い、夜、不安で熟睡できなくなったッ!!







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