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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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トーキング・ア・チャンス・オン・ラヴ



★7月15日(金)


今日も今日とて、陽気が良過ぎて蒸し暑い一日。

俺は休み時間、廊下でジュースを啜りながら穂波の馬鹿とくっちゃべっていると、

「あ、あのぅ……神代先輩」

見知らぬ後輩に声を掛けられた。


「ふにゃ?なんじゃ一年?」

ほぅ、中々に可愛い娘じゃのぅ……

ところで誰だ?

とか思っていると、いきなり後頭部を穂波にパチンッと叩かれ、

「ぶぅぅぅぅ……いったい、何をしたのよ洸一っちゃんッ!!」


「は、はい?」


「また手当たり次第に後輩に手を出して……このスケコマシッ!!」

穂波はトンチキな事を言いながら俺を睨み付け、そしてその後輩の女の子を労わる様に、

「ねぇ、大丈夫?洸一っちゃんに何か変なことされてない?」


「お、おいおい、穂波さん?僕ちゃん、なーんにも身に憶えが……」


「お黙りッ!!ねぇ、本当に大丈夫なの?妊娠とかしてないよね?もし洸一っちゃんを訴えるんだったら、何とか示談にして欲しいんだけど……」


「え?え?あ、あの……」

後輩の女の子は、妙な事を言い出した穂波に戸惑っていた。

もちろん俺もだ。


「じ、実はその……神代先輩にこれを……」

言って女の子は、恐る恐るスカートのポケットから、ピンク色の封筒を取り出した。

その刹那、穂波がガシッと女の子の肩を掴み、

「……なにソレ?もしかして、ラブレター?だったら私、貴方をキュッとくびり殺すわよ?」


あひぃっ!!?

俺は慌てて穂波の頭を掴み、そしてそれを強引に下げながら自分も頭を下げ、

「すんません、すんませんッ!!この馬鹿、心の調子が毎日悪くて……本っっ当にすんません!!保護観察員として、謝りますですよ」


「ぶぅぅ……何するのよ洸一っちゃん」


「黙れキ○ガイッ!!ほれ、もっと頭を下げんかい。後輩の子、マジでビビッてるじゃねぇーかッ!!」


「い、いえ、その……」

その後輩の女の子は、どうして良いか分からない、と言った作り笑い浮かべオロオロしていたが、意を決したようにピンクの可愛らしい封筒を俺に差し出して、

「こ、これを……古河先輩に渡して下さい。お、お願いします」


「……へ?」

俺は穂波と顔を見合わせた。

「古河って……豪太郎のこと?」


「は、はい」

女の子は顔を真っ赤にして頷いた。

「じ、神代先輩は……その……古河先輩と仲が良いって聞いて……その、失礼だとは思ったんですけど、直に手渡す勇気が無くて……」


「いや、それは別に構わんが……」

俺はもう一度、穂波と顔を見合わせ、少し困った顔。

「なんちゅうか、豪太郎は少々、心の中に重度の疾患があるんじゃが……」


「え?」


「ま、まぁ良いや。取り敢えず、渡しておくよ」


「あ、有難う御座います。有難う御座います」

女の子は何度も頭を下げる。

何ていうか、必死だ。

必死だけどその分、俺は哀れみを覚える。

穂波も同じ気持ちなのか、何だか泣きそうな顔になっていた。



「ねぇ、どうするの洸一っちゃん?」

女の子が去った後、穂波は俺の手にあるラブレターを見つめながら、心配そうな声で言った。


「どうするって言われて……豪太郎に渡すしかねぇーだろ?」


「でも……そうすると、きっと豪太郎ちゃん、読まずに捨てちゃうよ」


「まぁ……多分な。でもなぁ、俺はこれを渡してくれって頼まれただけだし……」

俺は手にしたラブレターに視線を落とす。

可愛らしいピンクの封筒には、古河豪太郎さん、とこれまた可愛い字で、生物として根本的に間違っている野郎の名前が記してあった。


「あの子、必死だったよ?可哀想だよぅ」

穂波が俺の制服の裾を指でつまみ、左右に振る。

「洸一っちゃん、何とかしてあげてよぅ」


「無茶言うな。人間には、出来ることと出来ないことの二つがあるんだよ」

もちろん今回は、後者の方だ。

「まぁ、あのお嬢ちゃんには酷な話だけど、これも人生経験の一つだな」


「あの子……可哀想」


「こーゆーのを頼まれた俺の方が、もっと可哀想じゃわい」



お昼休みはウキウキドキドキ……ではなく、何か微妙に暗い気持ちに俺はなっていた。

ズボンのポケットには、後輩の女の子より託されたマイノリティ豪太郎へのラヴ・レター。


あぁ……嫌だ嫌だ。

俺はガックリと項垂れ、重たい溜息を吐いた。

別にこれを彼奴に渡すのが嫌と言うわけではない。

ただ、渡した後の奴の取る態度を考えると……なんかこう、暗惨たる気分になるのが嫌なのだ。


あ~……やれやれ。あの一年生、勇気を出して書いたというのにねぇ……

「ま、考えていてもしょーがねぇーか」

俺はもう一度溜息を吐き、席を立った。

そして自分の席の周りで外見上はにこやかにクラスの女どもと喋っている和製ジェフリーダーマーの元へブラブラと近づき、

「いよぅ、豪太郎」


「あ、洸一♪」

パァーッ!!と彼奴の顔に笑みが広がった。

それだけでこっちはドス黒い気分になる。


「ちと話があるんだが……」

言いながら俺は、取り巻きの女どもをタイガーと呼ばれた瞳で睨み付け、追い払う。

「ここじゃなんだし、ちょいと外へ行こうや」


「うん、いいよ♪」

豪太郎は嬉しそうに立ち上がった。

「洸一と一緒なら、僕はどこにでも行くよ」


「……頼むから一人で火星にでも行ってくれ」



昼でも人気ひとけの無い校舎裏に、俺は豪太郎を連れてやって来ていた。

彼奴は彼奴で、何を考えているのか、

「えへっ、えへへへへ……洸一。僕をこんな所へ連れて来て、どうする気なのかなぁ?」

ニタニタと、ゾッとするような笑みを浮かべて妄想を膨らましている。


今なら誰にも見つからずに殺れるかも……

俺の心にそんな考えが過った。

「あ~……豪太郎よ。実はなぁ……」

俺はゴソゴソとポケットを弄り、

「ほれ、お前に手紙だ」


「手紙?」

豪太郎はピンク色の封筒を受け取り、そして頬もピンク色に染めながら、

「これって……ラブレター?もしかして、洸一から僕に?」


俺の中で本気の殺意が芽生えた。

「お前なぁ……世の中には、言って良い事と言って面白い事、そして言うと最期になる言葉があるって、知ってるか?」


「チェッ、洸一からじゃないのか」


……聞いてねぇーよコイツ。

どうしよう?

本当に殺ってしまおうか?


「で、この手紙って……」


「んぁ?あぁ……何かな、一年の可愛い子がお前に渡してくれって。教室で渡すのは色々と煩そうだから、ここへ連れて来たんじゃが……」


「ふ~ん…」

豪太郎は繁々と、その想いの篭っているであろうラブレターを眺め、

「ところで洸一。一つ聞きたいんだけど……」


「なんだ?」


「これを洸一に頼んだ子って、男の子?それとも女?」


「……すんません。質問の意味が良く分からないデス」


「重要なことだよ、洸一」


……どの辺がだ?

「あ、あのなぁ……それは質問からして間違っているっていうか……もうイイや。それを渡してくれって頼んだ子は、可愛い女の子だったぞ」

俺は精神的に疲れてきたので、投げやりに答える。

と豪太郎は急に興味を失ったかのような顔になり、

「ふ~ん……女か」

呟くや、その手紙をいきなりクシャクシャに丸めて近くの焼却炉の中へ放り投げた。


お、おいおい……

さすがの俺様も、そのアバンギャルドな行為に暫し呆然だった。



「……ん?どうしたの洸一?」

全く悪びれず、豪太郎が俺の顔を覗き込む。


「お、おい豪太郎。お前……いくら何でも酷いだろに」

俺の声は低くなっていた。

何しろあの女の子は、別方面の勇気を振り絞って、この強面な俺様に愛の手紙を託したのだ。

あの娘の恋が上手く行く……何てことは最初から思っちゃいないが、それでも俺は豪太郎に手紙を渡し、彼奴の反応を見る義務みたいなものがある。

なのにこの馬鹿は、手紙を読みもしないでいきなり捨てるとは……

何たる暴挙ッ!!

こやつが知り合いでなかったら、今ごろ俺の必殺技、洸一エクスプロージョンで異次元へ吹っ飛ばしているところだ。


しかしながら豪太郎は、俺様の怒り及び女の子の想いが全く分かっていないのか、キョトンとした顔で、

「酷いって、何が?」


「だ、だってお前……ラヴレターだぞ?想いを混めて綴った恋文だぞ?それをいきなり、しかも読まずに捨てるなんて……」


「洸一も、よく穂波チャンからの手紙を捨ててるじゃないか」


「あれは違う意味の想い(別名、怨念)が篭められているから捨てても良いんだよッ!!」

って言うか、捨てないとヤバイのだ。


「……洸一。ここだけの話だけど、僕は女に興味がないんだ」

豪太郎はキッパリと言った。

言い切った。

どーせ僕は変態ですから、と開き直らんばかりに言い切った。

だが、どこがここだけの話なんだろうか?

そんな事は、出会った頃から分かっている性癖ではないか。


「……テメェの趣味が特殊なのは置いとくとして、そーゆー問題じゃないだろ?これはあくまでも人として……」


「同じだよ、洸一」

豪太郎は軽く肩を竦める。

そしてニヒルな笑顔で、

「どうせ最初から答えは決まってるんだ。なのにわざわざ手紙を読んで断るなんて、無意味だよ。時間の無駄だよ。それにその女に会ったら会ったで、未練を残させるだけじゃないか」


「ば、馬鹿野郎が」

確かにある意味、豪太郎の言う事も理解できるが……

「俺が言いたいのは、誠意の問題だ。きちんと手紙を読み、そして自分の口からキッパリと断る。それが誠意ある対応ってモンでしょーが。それにだ、今はその女の子の事を何とも思っていないかも知れないけど、こーゆー出会いから始まる恋愛もあるだろ?」


「こういう出会いから始まる恋愛……うん、そうだね♪」

豪太郎の顔がパァーと明るく輝いた。

「僕、その女に会ってみるよ」


「そ、そうか」


「もしかしたらその女に、可愛い弟クンとかいるかも知れないしね♪ちょっと楽しみだよ……恋の予感を少し感じるね♪」


「そうか……」

俺は項垂れ、大きく溜息を吐き、

「洸一エクスプロージョンッ!!」

この馬鹿を、焼却炉の中に叩き込んだのだった。

うむ、これでまた一つ、街が平和になったわい。


「さて…」

俺は豪太郎が捨てたラブレターを拾い上げ、それとなく中身を確認。

「……放課後、待ってます……か。可哀想にのぅ」

俺は独りごち、フゥ~と溜息を一つ吐いた。

「ずっと待たせるの酷だし、取り敢えず俺の口から断っておきますかねぇ」


PS……

放課後、その後輩の女の子に、焼却炉の中で燻っている豪太郎に代り俺がやんわりと交際を断っていると、運悪くそこに真咲姐さんが通り掛り、あとは御想像の通り、何故か勘違いされてボコられました。

問答無用と言う感じでボコボコにされました。

だけどいつもの事なので、もう慣れっこです。

真咲姐さんは申し訳なさそうな顔で、

「す、すまなかった。この借りはいずれ返すッ!!」

と言ってましたが、なんか言葉の使い方が微妙に違うみたいです。

以上、今日の出来事でした。

さて……

殴られたところに、湿布でも貼っておきますかねぇ。



★7月16日(土)


今日はこれまた暑い日。

夏の気配が濃厚なこんな日は、プールにでも浸かりたい気分だ。


さて……

そんなこんなで、教室にもクーラーを導入すべきだと汗水たらして真剣に考えている内に、いつの間にか放課後。

俺はカバン片手に、また汗を垂らしながら裏山へと行くと、既に姫乃ッチが不思議パワーでサンドバッグ等をセッティングしている所だった。


「よぅ、姫乃ッち」


「あ、神代さん…」

姫乃ッチは振り返り、ニコッと笑うが……何だか少し元気がない。


「ん?どうした姫乃ちゃん?ちょいと顔色的に悪いみたいだが……」


「た、大した事はありません。ただ、ちょっと暑くて……」


「確かに暑いけど、まだ夏本番ってワケじゃねぇーし……って、あぁそうか」

俺はポンッと手を打った。

そう言えば姫乃ッチは、今年転校してきたばかりの道産子さんだ。

さすがに、内地のこの暑さには、まだ慣れていないのだろう。

「あ~……姫乃ッチよ。熱射病にかかると危ないから、その辺の木陰で涼んでいなさい」

俺はそう言いながら、素早く体操服に着替える。


しっかし、我ながら真面目になったモンだ。

こうして、部活に勤しんで汗を流すなんて……一年の時には、考えられなかった事だ。

「あれ?そう言えば……優チャンはどうした?今日は随分と遅いようじゃが……」


「優貴ちゃんは……その……追試です」

ハンカチで汗を拭きながら姫乃ッチ。


「お、おぉ……そう言えば今日だったなぁ」

道理で朝から、智香の馬鹿が目を真っ赤に充血させていた筈だ。

おそらく徹夜で勉強をしたのだろうが……

愚かな真似を。

無理なものは無理だというのにねぇ。

「で、優チャンはどうよ?」


「どうって……」


「姫乃っチさ、真咲姐さんと一緒に優チャンの勉強を見てやったんだろ?で、どうよ実際?優ちゃん、いけそうか?」


「……」

姫乃っチは無言で、ニコッと笑みを作った。

その笑顔は硬く、ガチガチに引き攣っている。


「……なるほど」

どうやら、こりゃアカン……と言う事みたいだ。


「ゆ、優貴ちゃんも……その、一所懸命なんですけど……」


「努力に能力が追いついてないってことか?」


「もうちょっと時間があれば良かったんですが……」

姫乃っチは眉間に皺を寄せ、難しい顔で項垂れた。

「さすがに全科目を二日間で教えるのは少し無理がありまして……」


「うぅ~む、しかしそうなると、これはかなりヤバイ状況ですなぁ」

俺は軽くストレッチで体を解しながら、唇をへの字に曲げて呟くように言う。

「最悪、追試がダメで夏の補習になっちまうと……TEPの予選どころじゃないからなぁ」


「何とかならないんでしょうか?」


「こればっかりは、ちと難しいなぁ」

ま、非合法な手を使えば、補習の回避なぞ造作もないことだが……それだと、優チャンの為にならないしね。

「まぁ……なんだ。優チャンはまだ一年生だし、来年も再来年もあるからねぇ……と、まどかはこの間言ってたな。俺も少しそう思う」


「でもでも、優貴ちゃん、あんなに頑張っているのに、補習で予選に出られないなんて事になったら……」


むぅ……

「学生の本分は勉学だぜ、姫乃っチ。と、真咲姐さんは言ってたな。そして悔しいけど、それは正解だと俺は思う。部活に情熱を傾けるのは良いけど、それで勉強をおざなりにするのは、ちょっとな。ま、俺がエラソーに言えた義理じゃないがね」


「……」


「……そんな恨めしい目で見られてもなぁ」

俺はポリポリと頭を掻きながら、姫乃ッチの視線を外した。

友達を心配する彼女の気持ちは痛いほど分かるが……さすがに、ねぇ?

「まぁその……まだ結果が出たワケじゃねぇーし、ここは一つ、心の中で優チャンを応援しようじゃないか。な?」


「そ、そうですね」


PS……

夕方になって、追試を終えた優チャンが現れた。

彼女は満面の笑みで、

「意外に簡単で、全部出来ました♪」

と言った。

なんとなく、フラグが立ったような気がする。

俺の経験から言って、そーゆー場合に限って予想外に出来てなかったりするものなのだ。

これはどうやら、俺様が何かしら手を打たねばならない事態になりそうな気配なんじゃが……

うぅ~む、どうしましょうかねぇ?






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