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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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喪失の日 ②



<喪失の日/蘇る金狼>


「ぬぉう…」

喜連川まどかさんに頭を叩かれ、僕はベッドの上で蹲っていた。

頭上からは、「この馬鹿っ!!」と容赦の無いお言葉が降り注ぐが……それどころではない。


そ、そうだ。僕は……お、俺は……

混線していた回線が、瞬時に全て繋がったかのように、昨日までの事が鮮明に蘇る。

お、思い出した。全て……全て思い出したぞッ!!


「ん?どうないしたんや洸一クン?」

美佳心チンの言葉に、俺は顔を上げた。

そして周りを取り囲む皆を見渡し、

「い、いや……何でもないデスよ」

取り敢えず誤魔化した。

何故ならこの状況は、まどかの馬鹿を、ギャフンと言わせてやるチャンスだからだ。


おおお、おのれぇぇぇ……まどかめ!!

昨日は俺様という史上最強の男を無視して、合コンなんぞしやがって……

あまつさえ殴るわ蹴るわの挙句に、大切な記憶まで消去しやがって……ちょいと許せんッ!!

洸一、激おこの巻だ。

除け者にされた男の恨み、思い知るが良いわさッ!!

・・・

あと、ちょっと俺も色々と楽しみたいしなッ!!

うひひひひひひ……

「おっと涎が」


「なんや?」


「な、なんでもないよ。……わはははは」

俺は笑いながら、ポリポリと頭を掻く。

さて、どうやってこの場を楽しむかだが……


「どや、洸一君?何や、思い出したか?」

美佳心チンが俺の顔を覗き込む。


うむぅ、相変わらず、おっきなオッパイしてますなぁ……

「い、いや……その……なんかちょっと、心に引っ掛かるものがあると言うか……もう少しで何か思い出せそうな予感がするのだよ」


「そうなんか?」


「そうなんですよぅ」

言って俺は、いきなり頭を抱えベッドの上で体操座り。

「ぬ、ぬぅぅぅ」


「ど、どないしたんや?」


「な、何か今、頭に不思議ワードが……」


「不思議ワード?」

美佳心チンは首を捻り、皆と視線を交わす。


「う、うん。何だか良く分からないけど、ハーレムって言葉が頭に浮かんで……」


「な、なんやそら…」

委員長様、呆れ顔。

もちろん、他の皆もだ。

だが、ここで諦めてはいけない。

俺はやると言ったらやる男だ。

なんちゅうか……偶には俺だって、少しは良い目を見たって良いじゃないかッ!!

な?そう思うだろ?

誰に向かって言ってるのか分からんが、俺だってお年頃なんだよッ!!


「よ、良く分からないんだけど、頭の奥の方から囁きが聞こえるんだよぅ」


「洸一クンや。何かヤバ気なクスリでもやってるんとちゃうんか?」


「滅相もない」

俺はフルフルと頭を振る。

するとセレスが、どこか訝し気な表情を浮かべ、

「_それで洸一さん。一体どんな囁きが?」


「そ、それが……」

俺はゴクリと唾を飲み込み、

「何て言うか……皆に揉みくちゃにされたい、と。出来るなら体操服、ブルマを着用した君達とイチャイチャしたいと。さすれば汝の記憶は蘇らん、と頭の奥の方から神のお言葉が聞こえて……」

言って俺は周りの様子を上目で覗う。

う、う~わ~……

皆さん、目が点だった。

1ドットぐらいの点になっている。

「あ、あのぅ……あくまでも、これは現時点での僕の願望じゃないからね?なんちゅうか、本当に不思議とそんな破廉恥な妄想が不意に頭に浮かんで来て……」


「_やはり、記憶を失っていても洸一さんは洸一さん、と言うことですね」

セレスが淡々と醒めた口調で言う。

「_それで皆さん、如何しましょうか?」


「い、如何と言われても……具体的にはどうすれば良いのか……」

真咲姐さん、困惑気味。

もちろん、俺は助け船を出す。


「いやいや、そんな難しい事じゃなくて……ただちょっとだけ、ほんの少しだけスキンシップを求めているだけみたいなんですよぅ。ホント、少しだけ抱き合ったり頬を擦り合わせたりチュウも少しぐらいなら……あ、もちろんこれは、現在の僕の意思じゃないからね?いや、本当に……なんでこんな事を思っちゃうのかなぁ……不思議だなぁ」


「な、なるほど」


「って、なに納得してるのよ真咲ッ!?」

そう叫んだのはまどかだった。

ギロリと殺気の篭った瞳で俺を睨み付け、

「本当に、このスケベ男は……私はそんなはしたない事、絶対にしないんだからッ!!だいたい洸一の記憶なんて、放って置けば戻るわよッ!!」


実は既に戻っていたりしてな。

「そ、そんなこと言われても。もし治らなかったら、僕ちゃんどうすれば……」

俺は殊更、まるで保健所で命のカウントダウン待つ犬のような不安気な表情を作り、皆を見渡す。

と、優チャンがキュッと唇を噛み締め、

「わ、私……やります。先輩の記憶が戻るなら、何だってやりますッ!!」


「え?ほ、本当にかい?」

お、おぉッ!!さすが優チャンッ!!

特別に5点やるぞッ!!


「私もやるよッ!!」

穂波も叫んだ。

俺としてはあまり嬉しくないけど……ま、今回は特別に許してやる。


「しゃ、しゃーないなぁ…」

そして美佳心チンも、溜息混じりに頷いてくれた。

彼女は苦笑を浮かべながら、

「なんや釈然とせんけど、これも洸一クンの為や。ほな、ちょうど体操服持っとるし……着替えてくるわ」

言って、部屋のドアに手を掛ける。

もちろん、それに釣られて皆も部屋を出て行こうとするが、

「ちょ、ちょっと…」

まどかだけはうろたえていた。

「な、なんで皆そんなにあっさり納得しちゃうワケ?姉さんも姉さんよ。なに鞄持って出てこうとするのよ」


「……お着替えを」

「だ、だから……」

「洸一さんの為です」

のどかさんは言い切った。

言い切ってくれた。

僕ちゃん、ちょっと感動だ。


「まどかちゃんは、洸一さんの記憶が戻らなくても良いのですか?」

「そ、それは……別に良くはないけど……」

「ならばまどかちゃんも」

のどかさんはそう言って、まどかの腕を掴み、強引に引きずるようにして部屋を後にした。


ポツン……と、一人その場に取り残される俺。

やった……やったぞ……

「ひゃっほぅッ!!」

そして俺は、ベッドの上で喜びのダンスを披露したのだった。


いやぁ~……偶には戯言も言ってみるモンだなぁ……



<喪失の日/夢、見果てたり>


皆が部屋を後にし、俺は独りベッドの上で悶々としていた。

「うぅ~む、体操服じゃなく、下着姿って言えば良かったかのぅ」

何て事を呟き、ソワソワとする。

だが、焦りは禁物だ。

俺様の楽しみ&復讐は、これからが本番なのだ。


「さて、早くみんな戻って来ないかなぁ」

チラリとドアに視線を走らす。

と、カチャリと音を立ててノブが回り

「……おぉぅ」

俺は思わず喜びの唸り声を上げてしまった。


病室に入って来たのは、ブルマ姿が眩しい美少女たち。

いや、真咲姐さんだけは体操服が無かったのか、何故か空手着なんだが……

そこがまた良いッ!!


うぅ~む、ビューテホー&ラブリー……

思わず再び喜びのダンスを舞いたくなるが……落ち着け、俺。

焦りは禁物である。

何しろ俺は現在、記憶喪失中と言う事になっておるのだ。

だからあからさまに喜んではいけないのだ。

万が一、記憶が戻ってる事がバレた日には……一体、どんな悲惨な運命が待ち構えているのか、考えるだけでチビりそうだ。


「え、えと……その……みんな、ありがとう」

俺は殊勝に頭を下げる。

そして照れを隠すように、ポリポリと頭を掻く。

もちろん、全て演技だ。


「な、なんや良う分からんけど、体操服に着替えてきたで」

と、思いっきり自己主張しているおっぱいを隠すように腕を組み、美佳心チンがどこか恥ずかしげに言う。

「で、どないや洸一くん?何か……思い出したんか?」


「いや、その……まだまだかな?」

そう、まだだ。

この洸一、見るだけで満足するような柔な男子に非ず。

これからが本番なのだ。


「そ、そか。ほな、次はどないしたら…」

「決まってるよぅ」

穂波がウヒヒヒと笑みを溢し、

「洸一っちゃんと愛のスキンシップだよぅ♪チュミミ~ン♪」

いきなりベッドの上に飛び乗るや、俺の首に腕を回し抱き付いてきた。


「お、おいおい……」

一応は戸惑うフリをする俺。

ま、普段なら、穂波なんぞに飛び付かれでもしたら、その場でキュッと首を捻ってやる所だが……寛大な俺様は、今日だけは特別に大目に見てやる。

それにだ、例え相手がキ○ガイな幼馴染でも、同級生の可愛い女の子である事は揺るぎの無い事実なのだ。

ブルマ姿の同級生とイチャイチャ……

こんなシチュエーション、望んで叶うものではない。

さすがの俺様も、思わず鼻の下だって伸びるわさッ!!

ついでにチ○コも伸びそうだがなッ!!

でへへへへへへへ~♪


「うぅ~ん、洸一っちゅわぁぁん♪」

穂波が甘ったるい声を上げ、俺の胸元に顔を埋める。

うむ、中々に愛い奴だ。

がはははは♪


「な、なんや……騙されとるような気もするけど……」

とか言いながら、美佳心チンが赤い顔でベッドに上がり、背中から俺の頭を包み込むように抱きしめる。

そして智香の馬鹿も、ラピスもセレスも優チャンも姫乃っチものどかさんに真咲姐さんも……

気が付けば、何時しかベッドの上は美少女だらけ。

しかもムチムチなブルマ姿で、俺様を抱き締めながら取り囲む。


や、やった……

遂に俺はやり遂げたぞーーーーーーーッ!!

心の中で万歳三唱だ。

そう、俺は遂に実現したのだ。

世の男どもが羨望してやまない、ハーレムエンドを達成したのだ。

これぞ男の本懐ッ!!

我が手に、永遠のシャングリラを手に入れたのだッ!!


いやぁ~……記憶喪失になって、本当に良かったにゃあ……

こんな事なら、一週間に一度は記憶喪失になっても良いよねッ!!

なーんて非常にお馬鹿なことを考えていると、

「ったく…」

ブツクサ言いながら、最後に残された、これまた体操服のまどかがベッドの上に上がって来ようとするが……


「……喜連川まどかさんは……別にいいよ」

俺は申し訳なさそうに、やんわりと拒絶してやった。

もちろん、これも演技である。


「…え?」

まどかはキョトンとした顔になり、ついで阿修羅面・怒りへと瞬時に切り替わる。

「ちょ、ちょっとぅ……どーゆーこと?こんな恥ずかしい格好させて、いいよ……ってどーゆーこと?え?答えなさいよ。……答えなさいよ洸一ッ!!」


「うひっ!?」

俺は慌てて、隣にいた魔女様の胸元へ顔を埋めた。

うわぁ~い、ふにゃんふにゃんのポワンポワンだぁ♪

「だ、だって……脳の奥から、まどかさんだけはダメだって声が聞こえて……」


「な、何がダメなのよぅ」


「よ、良く分からないけど……合コンなんかにホイホイ参加する浮気性で軽薄な女の子はノーサンキュウだぜぃ、と言う神のお言葉が聞こえて……きっと心の神は、清純な女の子しか相手にしないんだね」


「……え?」


「いやぁ~……ホント、どーゆー意味なんだろう?記憶のない僕には、サッパリ分からないよぅ」

俺は素っ呆けるようにそう言ってやった。


ふっ、まどかめ……

俺様を無視した挙句に殴るわ蹴るわの暴行の嵐。

少しは反省するが良いわさッ!!


が、まどかは反省どころか頬を膨らませ、

「合コンなんかしてないわよぅ」


「そ、そうなの?」

コ、コンニャロゥ……俺の記憶が無いのを良い事に、事実まで捻じ曲げるつもりかッ!!


「気を失ってた洸一は知らないと思うけど、あれは全部、アンタを懲らしめる為に仕掛けたドッキリなのよ」


「……へ?」

ドッキリ?

つーか、何故に俺が懲らしめられなきゃならんのだ?


「一緒にいた男の人達だって、全員KISSの隊員なんだし……」

そう言ってまどかは、唇を尖らせ、どこか拗ねた眼差しで俺を見つめた。


「……」

そうなのか?

あれは合コンじゃなかったのか?

・・・

ンだよぅ、心配掛けやがって……

って、俺が心配したのは、あくまでも真咲と優チャンなんだけどな。

しかしまぁ、そーゆー事なら許してやるか。

どこか釈然としないけど……どれ、まどかも少し可愛がってやるとするかね。

何しろ俺は寛容な男だからな!!がははははは♪


と、その時だった。

カチャリと音を立てて扉が開き、顔を覗かせたのは、

「あ、あれ?澪香ちゃんに……それにみなもチャンも」


「……なにしてんの?」

澪香チャンは驚きで目を真ん丸くしていた。

「神代さんが怪我したって聞いたから、お見舞いに来たんだけど……」


「い、いやぁ~……そのぅ……」


「なんで、まどか姉ェも、のどかお姉様も体操服なの?」


「そ、それは……ま、その……」

むぅ、何と説明していいのやら……

ってゆーか、みなもチャン、いきなりカバンから体操服出してるんじゃが……着替えて参加する気なのか?


「……ちょっと洸一」


「ふにゃ?何だまどか?」


「一つ聞きたいんだけど……何で澪香やみなもの事、知ってるの?」


「……え?」

その言葉に、一瞬、時が止まったのかのような錯覚を覚えた。


「洸一……記憶喪失……なんだよね?」


「……」

う…迂闊ッ!!!

洸一、迂闊ッ!!

俺様としたことが、つい口から出ちまったぜぃ……

ど、どないしよ?

「え、えと、その……」

俺は落ち着きなく、コリコリと頬を指で掻く。

そして何時しか、俺にべったりだったブルマ姿のハーレム美少女達もベッドから降り、冷やかな眼差しを投げつけて来ていた。


む、むぅ……非常にヤバいですな、これは。

「な、何て言うのか……そう、今からつい2分ほど前に、不意に記憶が蘇ったと言う訳で……」

額に冷たい汗を浮かべ、俺は必死になって言い訳する。

そしてチラリと窓に視線を走らせ、

……この病室は……2階か。

だったら、何とか飛び降りても無事だろう。


「ふ~ん、2分前ねぇ」

まどかが指をボキボキと鳴らした。

真咲姐さんなんか、首までコキコキと鳴らしている。


さて、逃げるとしますかぁ……

「ま、まぁ……色々とね、事情があるとですよ。がははははは♪」

言って俺は素早くベッドから跳ね起き、窓を開けて逃走しようとするが、

「……どこ行くんや?」

六甲の赤い稲妻に、首根っこを掴まれていた。


「ど、どこって……ちょいとおトイレへ」


「窓からか?」

ククク……と美佳心チンが低い声で笑う。

もちろん、口は笑っているけど目はマジだ。

「洸一君や。今日は少々、お痛が過ぎたようやなぁ」


「た、他愛の無い、お茶目だよぅ」


「まぁ、詳しい話はこれからゆっくりと聞かせてもらうさかい……簡単に死んだら、アカンで?」


「う、うん。頑張って生き残るように努力するよぅ」



こうして、俺の記憶喪失騒動は幕を閉じ、懲罰に掛けられた俺は……

「あ、あのぅ……降ろしてくれませんか?」

全員から山のような説教を受けた後、病院の屋上にある避雷針に括り付けられていた。

「な、なんか……雲行きが怪しいし……雷でも落ちてきそうなんですけど……」


「落ちれば良いじゃない」

まどかがシレッとした感じで言った。

「そうすれば、次こそ真人間になるかもね」


「その前に、確実にトーストになっちゃう気がするんですけど……って、ねぇ皆さん?屋上の扉を開けて……何で出て行くんです?僕を独りぼっちにしてどこへ……って、おーい、誰かいませんかぁ?すいませーん、本当に雷が落ちてきそうだし……そろそろお腹が減って来たんですけど……お、お~~い……」











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