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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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それ行け洸一!!~疾風怒涛編 ~②



「……よもやまた、これを使う機会が訪れようとはな」

お家に帰宅後、俺は自分の部屋のクローゼットを開き、大きなダンボールを見つめて呟いた。

その箱の中に入っているのは、かつて俺様が単身、メイドロボ研究所へ乗り込んだ時に着用していた99式テロリスト専用ボディーアーマ(自家製)、通称コーイチダースーツだ。


「くっくっく……今日という日が一生忘れられない思い出となるように、合コンなぞ灰燼に帰してやるわ」

悔しさの上に憎しみと言うスパイスを少し混ぜ、俺は不敵に笑いながらアーマーを着用。

と、ピンポーンと玄関チャイムの鳴る音が響いた。

どうやら、頼もしき助っ人が御到着なされたようだ。


さてさて…

俺はいそいそと階段を下り、玄関へ向かい扉を開ける。

そこには泣く子も呪う喜連川の第一皇女様と、泣く子に対して「軟骨が美味ぇんだよぅ」とか言っちゃう自律思考型対人殺傷兵器のセレスちんが佇んでいた。

そしてその後ろには、俺様のアーマーに負けず劣らずな戦闘強化服に身を包んだ厳つい顔の兵士達の姿に、道交法違反確実な装甲車も数台、駐車されていた。

まるで御町内のこの一角が、いきなり軍事基地と化してしまったかのようだ。


「やぁやぁ、どうもどうも、のどか先輩。御足労、お掛けしますデス」

いつもの制服姿の魔女様は小さく頷き、

「洸一さんに言われた通り、喜連川の精鋭一個中隊をご用意致しました。洸一さんの命令で、何時でも死地に赴けます」


「そりゃ頼もしい」

俺は満足げに頷いた。

と、やにわにセレスが表情を訝せ、どこか納得がいかないとでも言いたげな声で、

「_しかし洸一さん。……本当なのですか?」


「ふにゃ?何がだ?」


「_何がだ、と言われましても……まどかさんの事です」

セレスが少し眉を顰めた。

「_洸一さんは、まどかさんが二荒さんや葉室さんを誘って、とても18歳未満のお友達にはお見せ出来ないインモラルなパーティーを催していると仰っていましたが……本当なのですか?」


「も、もちろんだぜッ!!俺様の入手した情報に拠れば、色欲に目覚めたまどかは真咲や優チャンを騙して不特定多数の男どもとあんな事やこんな事をしちゃうパーティーを開いちゃってるのだ。まるで薄い本にありがちなシチュエーションなのだ。だから俺は、全てを破壊してやるのだ」


「_……本当の本当にですか?」


「あ、当たり前だ。洸一チン、嘘吐かないッ!!」


「_……どうして目を逸らして言うのか分かりませんが……私の知っているまどかさんは、好奇心は強いけど意外にウブでネンネな女の子と言うイメージなのですが……」


「それはどこのまどかの事か、僕には分かりませんな!!ともかく、あのまどかが真咲や優チャンを悪の道へ引き摺り込もうとしているのは事実なのだ。だから俺は戦うのだ。ね?そうでしょ、のどか先輩?」


魔女様は困った顔でコクンと頷いた。

「……エッチなまどかちゃんには、折檻が必要です」


「ですよねッ!!」

俺もその意見に諸手を上げて賛成だ。

「ところでセレス。まどかの行き先だが……調べておいてくれたか?」


「_……はい。西柊町にある、イタリアンレストラン『サンゲリア』に、まどかさんの名前で予約が取ってあるのを確認しましたが……」


あん?イタリアンレストランだとぅ……

生意気なッ!!

「ふんっ、その店が乱痴気パーティーの会場か。……店ごと粉微塵にしてくれるわ!!」


「_ですが洸一さん。その店はごく普通のレストランでして……洸一さんの仰るような不道徳な催しは開かれないかと……」


「俺様の知らん男と一緒にいると言うだけで、充分に不道徳じゃいッ!!」


「_それを世間では、単なるヤキモチと言うような気が……」


「や、やかましいッ!!俺はやると言ったらやるのだッ!!それが男ってモンだッ!!」

俺はピシャリと言い切ると、表に整然と並んでいる兵士達に向かって声を張り上げる。

「全員、乗車ッ!!目的地は西柊のサンゲリアだッ!!……いざ、出撃ーーーーーーーッ!!」



神代洸一の街から電車で約15分の所にある西柊町。

色取り取りのイルミネーションに飾られた駅前の繁華街から少しだけ外れたその場所に、目的の店はあった。

イタリアンレストラン「サンゲリア」。

最近出来たばかりの店で、情報系のグルメ雑誌やネットにも紹介されている、ちょっと洒落た店だ。

レンガ作りの店内は雰囲気も良く、会社帰りのOLや学生のグループなどで、毎日それなりに賑わっている。

その店内の奥まった所にあるVIP席のような8人掛けのテーブル席に、私服姿の喜連川まどかはいた。

彼女を中心に、両隣には二荒真咲と葉室優貴が座っている。

そしてテーブルの上には皿に盛られた豪勢なイタリア料理の数々。

目の前には、まどかに仕える喜連川情報部、通称KISSの中でもどちらかと言えば美形な若い男達。

誰が見ても、合コンしていると思うであろう情景であった。

もっとも、男達は全て既婚者ではあるが。


はぁ~……全く……

と、まどかは心の中で何度も溜息を吐いていた。

先程からKISSの面々が、場を取り繕うようにしきりに真咲や優貴に声を掛けているが……

優貴「はぁ…」だの「まぁ…」だの生返事を返すばかりで、ちっとも話に乗って来ない。

真咲に至っては、料理に手を付けるだけで全くの無視だ。


優や真咲も、折角なんだからもっと気楽に楽しめば良いのに……

と、まどかは思う。

だがそんな彼女自身も、あまり楽しんでいると言う様子は無かった。


っもう、あれもこれも、全部あの馬鹿が悪いんだから……

乱暴にフォークを掴み、肉料理に突き刺す。

洸一がもうちょっと、普通の男並に私に関心を持ってくれれば良いのに。

まどかは唇を尖らせた。

それとも……もしかして、洸一は別に……私や真咲に、何の興味もないとか……


とその時、不意に真咲が、

「……洸一にも食べさせたいな」

と、目の前に並んである料理を眺め、ポツリと呟いた。


「い、いきなりなに言ってるのよ、真咲」

ちょっとだけ驚きながら、まどか。

何故なら彼女も、少しそう思っていたからだ。


「ん?いや、なに……ちょっと思っただけだ。洸一なら、さぞ豪快に食べただろうなぁ……と」


「あ、あのねぇ……こーゆー席で、他の男の事は言わないの。それがルールなの」

まどかはピシャリと言い切り、料理を口に運んだ。


うん、美味しい……

そう思うと同時に、

ちょっとだけあの馬鹿に、お土産で持って帰ろうかなぁ……

と世界有数の財閥の御令嬢らしからぬ、貧乏臭い事を考えてしまう。

でも……やっぱ、そーゆー事は無しよね。うん。

そもそも今日の合コンは、洸一に対する当て付けなのだ。

あの馬鹿への罰なのだ。


情報部からの知らせで、あの馬鹿は昨日、事もあろうにクラスの女の子達とデートをしたと聞いた。

私の知らない女の子達とデート……

まどかは気付かないうちにギリギリと奥歯を噛む。

だから今日の合コンを思い付いたのだ。


でも……最近、ちょっと不思議に思うことがあるのよねぇ……

まどかは手にしたフォークをテーブルの上に置いた。

洸一が他の女とデートしたと聞くと、無性に腹が立つ。

ブン殴ってやろうかと思う。

何故なら、それは裏切り行為だからだ。

だがしかし、洸一が真咲や優貴、そして姉さんやその他のまどかの見知った女の子達とデートしたと聞いても、不思議とあまり腹が立たないのだ。

ちょっと悔しいと思うだけなのだ。


なんでだろう…?

まどかは首を傾げた。

と、目の前に座る若い男が、気さくさを装いながらもあくまでも主従の礼節を崩さず、

「如何なさいました、まどかお嬢様?」


「…ん?別に……何でも無いわ」

まどかはそう言って、グラスに注がれた赤ワインに口を付けた。

「ところで、あの馬鹿はどうしてる?何か情報は?」


「はっ。それがそのぅ……」

男は少し言い淀んだ。


「……なに?もしかして、まだ家の中にいるとか?」

私達のことを気にも止めず、家の中でゴロゴロしてたりしたら……

あの馬鹿、少し根性を叩き直してあげるわッ!!


「いえ、それがその……不明なのです」


「不明?」

まどかは微かに目を見開き、テーブルの上に少し身を乗り出す。

「どーゆー事?」

その声は少し詰問調だ。


「実は……」

男は耳に装着した小型通信機に指を添えながら、

「神代様の見張りをしている繋ぎの連絡員からの情報が、先程から途絶えているのです」


「……途絶えてる?そのレシーバ、故障でもしてるの?」


「いえ、装備に不備はありません」


「じゃあ一体……」

と、まどかが口を開くと同時だった。

店の入り口から何やらざわめきが起こったかと思うや、いきなり店内に充満する白い煙。

合コンに連れて来た若い隊員の一人が叫んだ。

「CSガスです、お嬢様ッ!!」



強制的に交通と往来を遮断し、人通りの絶えた夜の繁華街の一角。

防弾チョッキにヘルメットにゴーグルを装備した特殊部隊の長が、俺に視線を送り、

「レッドチーム及びブルーチーム、配置に着きました」


「良し。レッドチームがCSガス投入後、ブルーチームは裏口から突入だ。作戦開始は、これより120秒後」


「了解しました」


「ふむぅ…」

俺は腕を組み、裏道から表通りにある小洒落たイタリアンレストランを見つめる。


ぐぬぅぅぅ……

この俺様の行動力を、甘く見るなよッ!!

俺はギリギリと歯を鳴らしながらお手製ヘルメットのベルトを締め直し、非致死性・暴徒鎮圧用のショットガンを手に取って道路を横切る。

店の入り口には、気絶して倒れている店のドアボーイの黒服と、時計を確認しながら突入のタイミングを測っている喜連川の特殊部隊の面々の姿があった。


「いいか、民間人には怪我をさせちゃアカンぜよ。目的は、あくまでもまどか達の確保だ」

俺はそう言い残し、裏口へと駆けた。


おのれぇぇぇぇ……馬鹿まどかめッ!!

こんな洒落たレストランで、美味い飯を食いながらどこぞの馬の骨とも分からぬ野郎と楽しげなトークを交えているのか……

絶対に、許さん!!

それに真咲や優チャンもだッ!!

身近に俺様という史上類を見ないナイスガイがいると言うのに……

ムキィーーーーーッ!!

洸一チン、本気で怒っちゃうよッ!!


「……どうだ?」

裏口へ着いた俺は、ドアの側に駆け寄り、隊員の一人に尋ねる。


「はっ!!扉に鍵は掛かっておりません。中はすぐ厨房で、店のスタッフが約3名、動き回っております」


「上出来」

俺は隊員の肩を叩き、扉に添えるように体を預けた。

中から怒声にも似た料理人の声が響いてくる。

新しい店だけあってか、中々に繁盛しているようだ。


くそったれが……

俺様だって腹を空かしていると言うのに、まどか達は今ごろ……

それに他の客も、偉大な俺様がこうして苦労しているのに、美味そうに飯を食いやがってからに……


坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、と言う例えがあるが、俺の怒りは何だか店の中の全員を許せなくなっていた。

もっともそれは、単に空腹で気が立っているだけなんだが……


「時間と共に、俺が先ず突入する。諸君等は援護しつつ、空間単位で制圧。抵抗する奴は容赦なく撃てッ!!」

俺の言葉に、隊員達は無言で頷いた。


まどかの知り合いって言うのがどんな野郎か知らねぇーが……

もしも不埒な真似なんぞしていたら、速攻で地獄に叩き落してくれるわッ!!


「……あと30秒です、サーッ!!」


「了解した」

俺は大きく息を吐き、呼吸と気持ちを落ち着かせながらショットガンのセーフティロックを解除した。

高まる緊張感……

心臓の鼓動が、段々と速くなって行くのが自分でも良く分かる。


……そろそろか……

そう思うとほぼ同時に、店の入り口方面から、パンッ!!と軽い炸裂音が響いて来た。

「よっしゃっ!!」

俺は扉を蹴破り、厨房の中に乱入。

美味そうな匂いが鼻腔を付き、思わずお腹がグゥ~と鳴ってしまうが、飯を食うのは全てが終わってからだ。

「でぇーーーーーい、そこを退けッ!!」

俺は目の前でギョッ!?とした顔で立ち尽くしている白衣を着た野郎に向かって、「まったく簡単だ!!」と言わんばかりに警告無しでいきなり発砲。

炸裂音と共に飛び出したゴム弾が、嫌な音を立てて料理人を吹き飛ばす。


「ガンホーーーーーーッ!!」

調理場を駆け回り、店内へと乱入。

「ぬ、ぬぅ……」

店の中は阿鼻叫喚の地獄絵図みたいだった。

CSガスの投入により、店内にいた客は目や喉を押さえ、咳き込み悶え苦しんでいる。

そしてそんな人達に対し、問答無用で強化プラスチック製の手錠を掛けて制圧して行く特殊部隊の面々。

これはちと、やり過ぎちゃったかなぁ~……と少しだけ思っちゃうが、それはそれだ。

そーゆー事は、後から考えよう。


「って、それよりまどかの馬鹿はッ!?真咲や優チャンはッ!!?」

俺はガスが消えてきたのでマスクとゴーグルを外し、辺りを見渡す。


どこだ?

どこにいる?

つーか……もしかして、既にナンパ野郎どもにお持ち帰りされちゃったとか……


心の中に、戦慄にも似た不安がよぎる。

だが、どうやらそれは杞憂だったようだ。

何故なら、俺がそんな事を考えた瞬間、

「何してんのよーーーーーーーッ!!」

嫌と言うほど聞き慣れて、既に無意識下の領域まで恐怖という単語と共に刷り込まれたまどかの怒声と共に、俺は重力なんか軽く無視して吹っ飛ばされていたからだった。



「何してんのよーーーーーーーッ!!」

思わず恐怖で幼児退行すらしそうな怒声と共に、腹に突き刺さる衝撃。

俺は垂直に吹っ飛ばされ、天井に背中が融合するかのように強かに打ち付けられ、そして落下。


「あ、あぅぅぅ……」

クラクラとする頭を振り、俺はゆっくりと顔を上げると……そこには戸籍上、喜連川まどかと名乗る地獄の鬼がいた。

俺様が落としてしまった銃を両の手で持ち、肩をブルブルと小刻みに震わせながら、100年経っても忘れない、と言った形相で俺を見下ろしている。

洸一チン、早くもおしっこチビりそうだ。


「よ、よぅ……まどか」


「あ…あんたと言う奴は……あんたと言う男は……あ、あんたと言う……」

限界を突破した怒りで少し壊れたちゃったのか、体中を震わせ、言葉もままならないみたいだ。

もちろん、だからと言って俺様のピンチに何ら変わりは無い。


「と…取り敢えず落ち着け。……な?」


「お…落ち着け…るワケ……ないで…しょう…に」


「いや、あのぅ…そのぅ…って、ンだよぅ……目が赤いぞ、まどか?それに涙も……もしかして、俺様が来て嬉しくて泣いちゃったとか?」


「ンなワケ無いでしょッ!!」

死を予感させる凄まじい怒りの咆哮と共に、まどかが手にしていた俺様の銃が、バキバキッ!!と、とても鉄とは思えない音を立てて砕け散った。

洸一チン、既におパンツがぐっしょりだ。


「いきなり催涙ガスを撒いたりして、何を考えているのよーーーーッ!!」


何も考えていない、と答えたら、凄い勢いで殺されそうなので、僕は言わない。

「その、何て言うか……」


「だいたい、何で洸一がここにいるのよ!!えッ!!」

まどかは本気で怒っているのか、眉を万歳させてへたり込んでいる俺を上から睨み付けていた。

こめかみの辺りから血がブシューと噴出しそうなほど、血管も浮いちゃっている。

「アンタには関係ないって言ったでしょッ!!違うッ!!」


「あ、あぅ…」


「そもそもアンタの行動は、いつも突拍子が無いのよ!!この馬鹿ッ!!」


「あぅあぅ…」


「店をこんな風にしちゃって……どーやって責任を取るのよッ!!答えなさい洸一ッ!!」


「あぅあぅあぅ……あぅーーーーーーーッ!!」

プチン、と音を立てて、俺の中で何かが吹っ飛んだ。

恐怖の余りテンパったと言った方が良いだろう。

「ううううう、うるせーーーーーーーーーッ!!」


「何ですってッ!!」


「うるさいと言ったんじゃッ!!」

俺は勢い良く立ち上がった。

「合コンなぞ、俺様の目の黒い内は許さんのじゃーーーッ!!」


「な、なに目血走らせて馬鹿言ってんのよ。この馬鹿ッ!!」


「黙れ黙れ黙れぇーーーーーーーいッ!!」

ガシッと力強く、まどかの肩を掴む俺。

もう自分で自分が何をしているのか理解できない。

「おおお俺様に無断で合コンなんかしやがって……テメェは俺様の女だッ!!勝手な事はするにゃッ!!」


「……え?」

まどかの目が、大きく見開いた。

そして僅かに頬を赤らめながら、

「ちょ、ちょっと洸一。そ、それって……その……告白的な……」


「もちろん、真咲や優チャンも俺の女だッ!!」


「……は?」


「そしてのどか先輩やラピスやセレスも俺様のものだッ!!」


「……」


「当然、美佳心チンや姫乃ッチも俺のものだし、格別の温情を以ってほ穂波や智香も俺様の女だ!!更に欲を言えば、みなもチャン辺りも俺様の女にしたいと思っとるんじゃーーーッ!!分かったかまどかッ!!」


「分かるわけないでしょっ!!」

ドカンッ!!と凄い音を立てて、腹部に広がる衝撃。

俺はスーパーボールさながら、店内を壁から床から天井へと弾みに弾み、そしてそのままガラスを突き破って表通りまで吹っ飛んでいった。



「こ、この先天性の大馬鹿は……」

まどかはゆっくりと、指をバキバキと鳴らしながら店内から出て来た。

と、そんな彼女の前に、

「まどかちゃん……めっ、ですよ」

のどかさんが立ちはだかる。

「ね、姉さん…」

「もうその辺で、許してあげるのです」

「い、嫌よッ!!」

まどかは唇を尖らせた。

そして道路に倒れている洸一を指差し、

「今日こそはこの馬鹿に、世間の常識を教えてやるんですからねッ!!」

「でも……洸一さんを試そうとしたまどかちゃんも、少し悪いのです」

「そ、それは……」

「_あの……のどかさん」

おずおずと、セレスが口を挟む。

「_のどかさんは、最初から全て御存知だったのですか?」

「もちろんです」

さも当然とばかりに、東洋の魔女は力強く頷いた。

「こんな事もあろうかと、お店のスタッフもお客さんも、全て喜連川の者です。ただ、洸一さんがここまでやるとは、少しだけ予想外でしたが……」

「_なるほど。ならば何も問題はありませんね」

「あるでしょっ!!?」

「……まどかちゃん。まどかちゃんも本当は、嬉しい癖に……」

「な、なんで私が…」

「洸一さんが、ヤキモチを焼いてくれました」

のどかが柔らかい笑みを浮かべる。

「普通の男の人は、多分ここまで妬いてくれません」

「あ、当たり前よ。普通はこんな無茶なことは……」

「それが洸一さんの凄い所」

「う゛…まぁ……そうなんだけど……」

「だからまどかちゃんも、許してあげるのです」

「な、何がだからなのか全然分からないけど……ま、今回だけは特別に許してあげるわっ。反省と感謝をしなさいよ、洸一」

「……」

「……ちょっと、聞いてるの洸一ッ!!」

「_まどかさん」

セレスが少し困った顔で言う。

「_洸一さん、頭を打って先ほどから気を失っておいでなんですが……」

「え?そ、そうなの?」

「しかも呼吸も、少し止まりがち……」

「そ、そっか……って、それはヤバイでしょッ!!?」



その後、気が付いたら僕は病院らしきベッドの中にいた。

何故か痛む体に顔を顰めて起き上がると、目の前には思わずドキッとするような可愛い女の子達がいた。

彼女達は口々に何やら文句を言いながら、ポコンと僕を殴った。

もう、何が何だか……ワケが分からない。

いや、本当に分からないのだ。

彼女達は一体、誰なんだろう?

そして僕は……

・・・

あれれれ?

本当に分からないぞ?








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