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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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それ行け洸一!!~疾風怒涛編 ~①



★7月11日(月) 


 強制的に交通を遮断し、人通りの絶えた夜の繁華街の一角。

防弾チョッキにヘルメットにゴーグルを装備した特殊部隊の長が、俺に視線を送り、

「レッドチーム及びブルーチーム、配置に着きました」


「良し。レッドチームがCSガスを投入後、ブルーチームは裏口から突入だ。作戦開始は、これより120秒後」


「了解しました」


「ふむぅ…」

俺は腕を組み、裏道から表通りにある小洒落たイタリアンレストランを見つめる。

ぐぬぅぅ……

この俺様の行動力を、甘く見るなよッ!!



今日も今日とて、テキトーに授業を終え、俺は鞄を肩に担いで裏山へ。

「いやはや、段々と暑さが増して、屋外の練習にはちと厳しい季節になってきましたねぇ。何かしら、熱中症対策を考えないとアカンかなぁ」

何て事をボヤきながら階段を上がり切り社へと着くと、

「おろ?」

境内の一角に、まどかに優チャン。そして真咲姐さんの3人が集まり、何やら話し込んでいる姿が目に入った。


ンだよぅ……また来てるよ、闘将のお二人が。

これは今日も、辛い練習になりそうですなぁ……


俺は軽く溜息を吐き、

「よぅ。今日も暑いですなッ!!」

と気さくに声を掛けるが、真咲と優チャンは軽く挨拶を返した後、顔を伏せてしまった。


おろろ?

なんか……素っ気無くない?


「どうしたの洸一?」

と、まどかだけはいつもと変わらない調子で、声を掛けてくる。


「ん?いや、別に……それにしても、お前もヒマだよなぁ。自分の学校のクラブは良いのかよ」


「ノープロブレムよ」

まどかは長い髪を掻き上げ、そう言った。

「それに今日は、真咲と優に話があったし……」


「話…?」

さっき固まって話し込んでたアレかな?

「ふ~ん……で、何の話だ?悪巧みか?」


「悪巧みって何よぅ」


「はっはっは、何だろうねぇ?」


「全くこの馬鹿は……」

まどかは目を細め、鼻をフンっと鳴らす。

「今日はね、真咲と優を合コンに誘いに来たのよ」


「ほぅ、合コンかぁ……って合コンですとッ!?」

硬派を地で行く俺様にとって、物凄く嫌な単語だ。

「合コンって……優ちゃんと真咲を?」


「そーよ」


「そーよって、あのなぁ……」

俺はガックリを項垂れ、額に指を当てる。

「貴様はともかく、優ちゃんと真咲は純でうぶで素朴な女の子達なんだぞ?悪の道に引き摺り込むような事はするにゃッ!!」


「悪の道って……洸一、あんた合コンを物凄く勘違いしてない?」

まどかはフッと鼻で笑った。

「それにね、優と真咲もいい歳なんだし……少しは男性との付き合い方も、慣れておかないといけないでしょ?」


「まぁ……言われてみれば確かにな」

俺はポリポリと頭を掻き、そしてポケットから手帳を取り出しながら、

「で?場所はどこだ?集合時間は?着て行く服に、何かドレスコードとかあるのか?」


「へ…?」


「ん?なに不思議そうな顔してんだよぅ。合コンなんだろ?」


「うん、そうなんだけど……え?なに?アンタもしかして、付いてくる気なの?」


「はぁ?当たり前だろ?」

何を言ってるんだ、この馬鹿は?


「当たり前って……あのねぇ」

まどかはこれ見よがしに、大きな溜息を吐いた。

そしてどこかジト目で

「あのねぇ、今日は私の知り合いの男の人達と合コンなの。分かる?私と真咲と優と、その男の人達だけなの」


「……はい?」


「だから、洸一は全く関係ないの」


俺が……関係ない?

「ちょ…ちょっと待ってくれよッ!!」


「ん?なによ?」


「何って……え?どーゆー事だよ?アンタのイカれた考えが、俺には理解できねぇーよっ!!?」


「あ、あのねぇ……」


「合コンなんだろ?俺が行かなくてどーするッ!!遊びをクリエイトする俺様抜きで、見知らぬ野郎と一緒にだなんて……君達ちょっと狂ってるよッ!!」


「それはアンタでしょっ」

まどかはビシッと俺を指差した。

「そもそも、どーして洸一がそんなに嫌がるのよ」


「ど、どうしてって…」


「真咲も優も、行くって言ってる以上、洸一にそれを止める権利は無いでしょ。違う?」


「行くって……」

俺はオロオロとしながら、優チャンや真咲の様子を伺うが……彼女達は面を伏せたまま、俺を見ようとはしなかった。


「分かった、洸一?」


「で、でもなぁ…」


「アンタがもし仮に、私達の彼氏とかだったら話は別だけど……違うでしょ?」


「う、うむぅ」


「だったら、アンタにあれこれ言われる筋合いは無いわねぇ」

まどかは小悪魔的笑みを浮かべ、俺の頬をペチペチを撫でる様に叩いた。

そして真咲達の方に振り返り、

「さ、ここにいると洸一が五月蝿そうだから、学校の方で話をしましょ」


「お、おい…」


「じゃあね洸一。練習をサボっちゃダメよ?」

まどかは笑いながら、真咲と優チャンを連れて、階段を降りていった。


「……」

蒸し暑い中、境内に一人取り残される、俺。

セミの鳴き声が、やけに大きく響いていた。



「いやぁ~……洸一ったら、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔になってたわねぇ♪」

裏山の石段を下りながら、まどかが愉快そうな声で言う。

そして笑みを零しながら振り返り、

「ホント、偶には良い薬よ。そう思わない?」


「……」

「……」


「あ、あれ?」

二荒真咲と葉室優貴は面を伏せ、どこか深刻そうな顔をしていた。

取り返しの付かないことをしてしまった、とでも言いたげな顔だ。


「な、なによぅ…」


「ん?ん~……」

と、真咲は渋面を作り、眉を顰めてまどかを見やりながら重い口を開く。

「なぁ、本当にあれで良かったのか?」


「なによ、今更…」


「でもなぁ…」

納得がいかない、と言うような感じで、真咲は言葉を濁した。

そしていつもは元気な優貴も、心なしか落ち込んだ様子で、少しだけ非難めいた眼差しをまどかに送りながら、

「神代先輩……少し目が潤んでましたよ?」


「しょーがないじゃない」

まどかは唇を尖らせた。

「さっきも言ったけど、男女間のことは恋とか愛とかを抜きにしても駆け引きなのよ。そもそも今回の件だって、あの馬鹿が最近、他の女の子と仲良く遊んでる、ってアンタ達が最初に文句を言って来たから、考えたお芝居じゃないのぅ」


「文句を言い出したのはお前だったような気がするぞ?」

真咲が首を捻りながら言うと、まどかは軽く肩を竦め、

「別に……そんなのはどーだって良いじゃない。ともかく、これであの馬鹿たれも、少しは私達がいかに大切で好い女かって、認識するわよ。そもそも女の子には、男の本音を聞き出す権利があるんですからね」


「ま、まぁ……確かにな。あまり変な女にうつつを抜かし、練習が疎かになってもいけないしな」

と、どこか自分に納得させるように真咲は口を開いた。

「でもなぁ……だったら本当に、知らない男と合コンをする必要はないんじゃないか?洸一には、合コンするぞって言っておいて、アイツの危機感を煽れば良いだけの話だし……」

「私も……そう思います」

優貴が小さく頷いた。


だがまどかは溜息を混じりに軽く首を振り、

「アンタ達、甘いわねぇ」


「何がだ?」


「真咲。アンタ、惚れた男の性格ぐらい、ちゃんと理解しなさいよ」


「なっ!?べ、別に私は……ほ、惚れてるのはお前の方じゃないかッ!!」


「わ、私は違うわよ。別に私は……」


「あのぅ……まどかさん。甘いって何がですか?」

まどかと真咲のやり取りを、どこか冷たい眼差しで見つめていた優貴が口を挟むように尋ねた。

その声は少し素っ気無い。


「だ、だから……あの馬鹿チンが、私達が合コンするって聞いて、ただ黙って何もしないでいると思う?」


「そ、そうですね。神代先輩、行動力は人並み以上にありますから……」


「そーゆー事。間違い無く、私達の跡を尾けたりするわよ、あの馬鹿は」

そう言って、まどかはどこか楽しげな笑みを浮かべた。

まるで尾行されるのが嬉しいとでも言わんばかりだ。

「だから、その為にもちゃんと合コンをしないとね」


「なるほど。しかしな、まどか。もしも洸一が……何もしなかったらどうする気なんだ?私達の事なんか、どうでも良いって感じで無視したりしてたら……」


「その時は、粉微塵にしてあげるわ♪」

まどかは笑顔で断言した。

「ま、それは兎も角として、心配ないわよ、優。合コンって言っても、相手の男達は私直属、KISSのメンバーで全員既婚者だからね。アンタがその気にならない限り、変な事にはならないわよ」


「わ、私はそんな気になんかなりませんよ」

優貴が頬を膨らませる。

「ただ……先輩に誤解されたりしたら、ちょっと……」


「その時は、私がフォローしてあげるわよ。それにね、食事が終わったら、取り敢えず様子を見に洸一の家へ行くつもりだからね」



俺は呆然と、社を後にして行くまどか達の後姿を見つめていた。


合コン……?

まどかと真咲と優チャンが……

見知らぬ男達と合同コンパ?


俺様のハイエンド頭脳CPUは、フリーズ寸前だった。

予想外のデータに、耳の辺りから煙が出そうなほど、混乱している。

ここは先ず落ち着いて、思考回路を復旧させなければ……


俺は思いっきり鼻から空気を吸い、口から大きく吐き出す。

それを何回か繰り返し、心を落ち着かせようとするが……

「ぐぬぅ…」

中々上手くいかない。

頭の中は未だテロか内戦かと言うぐらいパニック状態だ。


ちくしょうぅぅぅ……

いや、何が畜生なのか分からんけど、何でいきなり合コンなんだ?

しかも俺様を除け者にしてッ!!(←ここ大事)


洸一チン、かなり納得がいかない。

そもそも、まどかの馬鹿はともかく……どうして真咲や優チャンまでッ!!

純で素朴な女の子の筈なのに、いきなり合コンとは……

夏か?

この夏の陽気が、無垢な少女の心を惑わしていると言うのかッ!!


「おのれぇぇぇ……許さないぞ、夏めっ!!」

俺は燦燦と降り注ぐ太陽に向かって吼えた。

もう、自分で自分が何をしているのか分からない。

だが、分からないけど、今は一つだけ言えることがある。

それはズバリ、これは非常にマズイ事態でやんす、と言うことだ。

どのぐらいマズイかと言うと、ゲームで例えると「元祖西○記スーパーモンキー大冒険」、映画で例えると「幻○湖」の出来ぐらい、マズイと言うかヤバイ状況だ。

男あしらいの上手そうなまどかは置いとくとして、問題は真咲姐さんと優チャンだ。

男性に対してあまり免疫が無さそうなあの二人が、合コンなんて言う悪魔の集会に参加した日には……

これはもう、狼の群れに飛び込んだ羊みたいなものだ。

・・・

ま、あの二人は羊というより恐竜なんじゃが……

ともかく、ヤバイ予感がするのだ。

百戦錬磨のナンパな野郎どもに言葉巧みに言い寄られ、少しその気になった所で、いたただきマンボでグーってな感じでお持ち帰りされ、挙句の果てに、夏が終わる頃には男を食い散らかすビッチに華麗に転身なんて事に……


「ぐぬぅっ!!?」

俺は嫌な想像で痛む胸を押さえながら地面に崩れ落ちた。

何か得たいの知れない黒い塊が、胸から喉へとせり上がって来るようだ。


そ、そんな事になったら……俺は絶対、許さねぇ。

その男よりも、何ら対策を講じなかった自分自身が許せねぇ…… 

だが……どうする?

確かにまどかの言った通り、今の俺には彼女達を止める権利もなければ口を挟む権利も無ぇ。


俺は頭を抱え、五体投地かってぐらい更に地面に蹲った。

だけど……かと言って、何もしないって言うのは一番ダメな事だ。

確実にバッドエンドだ。

だったら、どうすれば良い?

こっそり後を尾けるか?

気合の入ったストーカーばりに、こそこそ尾け回すか?


「……俺はそんなウジウジした野郎じゃねぇーーッ!!」

俺は地面を抉るかのように、思いっきり拳を叩き付けた。

「そ、そうだぜ……俺様は俺様だ。無軌道に暴れる青年、と御町内でも恐れられた少年Aこと神代洸一様だ。何を恐れる事があろうかッ!!……な、そうだろ?」

『その通りッ!!男なら、倒れる時も常に前のめりだッ!!』

「よっしゃッ!!」

自分副音声に勇気付けられた俺は、勢い良く立ち上がる。

ウジウジ悩むのは、俺様の性分じゃねぇ……

そもそも俺の座右の銘は、「考える暇があったら動け」だし、好きな言葉は「成り行き」だ。

常に直感で行動し、後でマリアナ海溝より深く後悔するのが俺の生き様、行動哲学なのだッ!!


「ならば俺様の取る道はただ一つッ!!」

俺はビシッと天を指差した。

「合コンなんぞ、完膚なきまでに破壊してやるわッ!!」


そう……

俺の行動に、理由なんかいらないのだ。

俺が嫌だから、全てぶち壊してやるのだ。

俺はかなり我侭なのだ。


「馬鹿まどかめ。何を企んでいるか知らねぇーけど、俺様を甘く見るなよッ!!貴様の企画した合コンなぞ、俺様登場と共に壊滅じゃ!!がははははははは!!!」









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