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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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歴史は繰り返す


★6月02日(木) 


 テストも終わり、いつも通りの生活。

テストの成績は、これがまぁ、予想以上に出来が良かった。

担任のヒゲもクラスメイトも驚いたが、何より俺が一番驚いた。

何しろ、上位トップ50に入っているとの事だ。

さすが美佳心チン、教えるのも非常に優秀なんだが……

「チッ、TOP10に入れたろう思うたんやけど……洸一くんや、もうちっと真面目に勉強せーやっ!!」

と文句を言われ、あまつさえ殴られた。

まさにトホホである。

その後、久しぶりに総合格闘技の練習で軽く汗を流した。

優チャンは例の事件の事も、みなもチャンに出会ったことすらも忘れていた。

さすが稀代の魔女である、のどかさんだ。

ただ、知らない内に俺の記憶も消してるとか、そーゆー事はないよね?

さて、その後は近所のスーパーへ寄り、食材などの買出し。

本日は我が家に皆が集まり、テスト終了及び俺様ハウス落成記念パーティーを行うのだ。

・・・

大惨事が起きない事を祈ろう。



「うぅ~む、見事だ」

俺は真咲や穂波達が食事の支度をしてくれている間、修繕された家の中を見て回っていた。

「完璧に復元されておる。柱の傷まで元通りとは……中々に驚きですな」

半壊したお家が、見事な復活を遂げていた。

いや、以前よりも使っている材質が良いのか、ちと高級チックになっているような気がする。

まさに匠のリフォームと言った所なんだが……

「風呂場がちょっと、大きくなってる」

そこは前の、一人が入るといっぱいいっぱいになるユニットバスから、一回り大きなお風呂に切り替わっていた。

もちろん、脱衣所や洗面所も、少し大き目になっている。

ま、それは別に良い。

洗面所に何故か、皆の分まで歯ブラシやカップが置いてあったりするけど……それもまぁ、同棲時代みたいな感じがして、俺は別に気にしない。

しかし……部屋の数が増えてるのは、如何なものだろうか?

二階にある部屋が、何故か一つ多いのだ。

しかもその部屋、のどかさん謹製の妙な祭壇が設置されてるし……外見からは分からないのに、どうやって建て増ししたのだろう?

ちなみに、何故か地下室が作ってあるのも謎だ。


さて、そんなこんなで、同じくテストが終わったまどかも加え、愉しい夕食会の始まりだ。

真咲姐さんや穂波が作った料理に舌鼓を打ちつつ、和気藹々とした晩餐。

もちろん、ノン・アルコールである。

さすがの俺様も、自宅に年頃少女を招いて乱痴気騒ぎを繰り広げるほど常識知らずの馬鹿ではない。

俺達は高校生なのだ。

だから高校生らしく、ウーロン茶かジュースなのだ。

もしくは自家製の梅酒か養命酒までなのだ。


「……つーか、あれほど言ったのに、みんなチューハイとか勝手に飲んでるし」

後で怒られても、俺様は知らないぞよ。

俺はやれやれな溜息を吐きながら、誰が買ってきたのか知らんけど、グレープフルーツ味の低アルコール飲料で喉を潤す。

そしてふと、隣に座っているまどかに、

「なぁ、何でみなもチャンも呼ばなかったんだ?」

と、声を掛けた。


「へ?みなも?」


「うん」


「アンタって、相変わらず馬鹿ねぇ」

まどかはこれ見よがしな溜息を吐くと、チラリと目の前で真咲と話している優チャンを見やり、

「みなもと優を会わせたら、また堂々巡りになっちゃうじゃないの」


「あ、それもそうか」


「そーゆーこと。ま、出来れば新人戦まで、二人は会わせないようにする方が賢明ね」


「然り、だな。その間に、俺は優チャンに少しは弱点の事も言っておかないと……」


「言って分かるモンじゃないけどねぇ」

まどかは苦笑を溢し、料理に箸を伸ばす。


「それもそうなんだが……でもさ、言わないよりは言った方が良いだろ?」

俺も料理に箸を伸ばしながら、何気にTVの前に座っているのどか先輩を見やると、彼女は相変わらずボーッとした表情で皆を見渡し、そしておむむろに、大きな水晶玉を取り出した。


「……」

思わず俺は、箸で掴んでいた鶏の唐揚げをポロリと落としてしまう。

お、おいおいおい、何かまたやる気だぞ、この規格外の御嬢様は……

ってゆーか、普通はそんなモン、おもむろに取り出すモンじゃねぇーだろ。

しかも食事中にだ。

・・・

一体、どこに仕舞ってあったんだ?

「の、のどか先輩?それは一体……何でしょうか?」

俺はテーブルの上にゴロリと転がっている大きな水晶玉を指差した。

皆も話を止め、興味津々とその玉を見つめている。


「……水晶玉です」


「いや、それは見れば分かりますよ。俺が聞きたいのは、何故に水晶玉がこの場にあるのか、そして何に使うのかって事なんですけど……」


「……占い」


「へ?」

裏無い?表はあるのか?

と洸一ギャグを言おうと思ったけど、場が凍り付きそうなので止めておいた。

地雷は踏まない男……それが俺様だ。

「へ、へぇ~…占いですか。それで何を占うんですか?」


「前世」

のどかさんは静かにそう言うと、皆を軽く見渡し、

「皆さんの前世を占ってみます。……せっかくだから」



「ぜ、前世ねぇ」

俺は魔女様の言葉を口の中で反芻した。

この洸一チン、オカルト関係においてはかなり耐性が付き、柔軟な思考も出来る様になったが……前世占いと言うのは、いまいち信用が出来ない。

前世とやらが見えるのならば、だったら名前まで言い当ててみろ、と言いたい。

が、これは稀代の魔女であるのどかさんの占いだ。

その辺のインチキ野郎とは、やはり違うのだと思いたいのだが……

「なるほど。しかしまた、何で急にそのような事を?」

俺がそう問うと、先輩は少しだけ首を傾げ、チラリとテーブル周りに座るみんなを見渡し、

「実は、前々から気になっていたのです。どうして洸一さんの周りには、分不相応に可愛い女の子が集まるのかと…」


「ほ、ほぅ。でもそれは、俺様がナイスガイだからじゃないですか?」


「……まどかちゃん、お願いします」

「OK♪」

まどかはにこやかに頷き、そして俺様の頭を叩いた。

「話を戻しますが……私が思うに、どうも洸一さんと皆さん、私を含めては、前世に何かしら因果関係があるのではないかと……」

「なるほどなぁ。そら面白い話や」

美佳心チンが膝を打った。

「ウチも前々から、どうも洸一君とは、何や因縁があるんやないかって、思うてたねん」


「そ、そう言うモンかねぇ。俺が思うに、単に黙っていても溢れる俺様の魅力が君達のハートを貫いて……」


「……まどかちゃん、お願いします」

「OK♪」

まどかはにこやかに、俺の手を箸でぶっ刺した。

「と言うわけで……先ずは榊さん」

「へ?私?」

いきなり振られ、キョトンとした顔の穂波ではあったが、俺と目が合うや、突然ニィヤァ~と不気味な笑顔を作り、

「えへへへへ~♪きっと前世では、私と洸一っちゃんは燃えるような恋をしたんだよ。安珍と清姫みたいにっ!!」


……確かにこ奴なら、火ぐらいは簡単に点けそうだな。

「ふっ、黙れ気狂い。貴様の前世なんぞは、どうせエリザベート・バートリー伯爵夫人辺りだろうよ」

もしくはゲッペルス夫人か、そうでなければ単なる昆虫だ。


「では……始めます」

のどかさんは机の上にゴロンと転がっている大きな水晶に手を翳し、何やら囁き詠唱。

水晶玉がボワンと、妖しく輝き始めた。


むぉう、ちと本格的……


「……見えます」

のどかさんは呟いた。

「長い髪……竹の棒……可愛い下着……」


……何ソレ?


「分かりました。榊さんの前世は……普通の女子高生です」


「ギャフン」

皆の気持ちを代弁するかのように、俺は思わず唸ってしまった。

「普通の女子高生って……なんか、前世と言う割には、意外に近代っちゅーか……」


「真実はいつも、呆気無いモノなのです」


「そーゆーモンですかねぇ」

俺は苦笑を溢し、穂波を見やる。

「ま、良かったな穂波。前世は普通で」


「むぅぅぅ…せめて熊だったら良かったのにぃ」


……良いのか?

熊より人間の方が良いと俺は思うんだけど……


「では、次は二荒さんを……」

「わ、私ですかっ!?」

真咲姐さんはいきなりのご指名に、背筋を伸ばし、カチンコチンに緊張した。


ぬぅ……真咲しゃんの前世か。

一体、なんじゃろう?

真咲さんは、規格外の腕力を差し引けば、これが意外に料理に洗濯、掃除に何でも御座れの大和撫子ちゃんだからなぁ……

と、俺があれこれと真咲姐さんの前世について想像を膨らませていると、まどかが俺の袖口を引っ張りながら小声で、

「ねぇねぇ、真咲の前世ってさぁ……なんだと思う?」


「あん?……さぁな。でも真咲って意外に女らしい所もあるし、実はどこぞのお姫様って言う可能性も……」


「はぁ?バッカじゃないの?真咲の前世なんて、せいぜいイエティかドーバーデーモンが関の山よ」

まどかは鼻を鳴らしながらそう言った。

「もしくはギガントピテクスとかチュパカブラって言う可能性も……」


「そんなムー的な想像は止めれ。ほれ、始まったぞ」

のどかさんは水晶に手を翳し、何やらブツブツと言っている。

「……異国の地……剣……そして正義……見えました」


「わ、私の前世はなんですか?」

と、恐る恐る尋ねる真咲姐さん。

偉大な魔女様は少し微笑みながら、

「二荒さんの前世は……中世的世界のお姫様です」


ほ、ほぅ……

自分で言っておいて何だが、これはちょいと予想外だ。


「い、異議ありっ!!」

まどかが机を叩きながら叫んだ。

「真咲がお姫様なんて、絶対におかしいわよッ!!だいたい中世的世界って、いつの話よ!!どこの国よ!!」

「まどかちゃん……お黙り」

「あぅ…」

のどか先輩の一睨みで、まどかは引き下がった。

「二荒さんは……お姫様でもあり、また勇者でした。……凄い前世です」


勇者……女勇者ねぇ。

なるほど、真咲姐さんならちょいと納得だが……そもそも勇者ってなんじゃろう?


「ふんっ、真咲がお姫様なら、私なんか世界の女王よ」

まどかは納得してなかった。


や、やれやれ……

何の確証も無い前世占い如きで、何故にこうも敵愾心を燃やすのか、サッパリ分からん。

あくまでも、余興ではないか。

や、もしかしてもしかすると、実はまどかの前世は王族に搾取されてた農民なんて可能性も……


「では、次にまどかちゃんを見てみましょうか……」

「そ、そうね。真咲の前世より、私の前世の方がずーっと凄いんだから」


「お、おいおい、そんなに自分を追い込んで良いのか?」


「う、うっさいわねぇ」

まどかは唇を尖らせ、フンッとそっぽを向いた。

「……では、始めます」

のどかさんは淡々とした表情で水晶に手を翳し、再び囁き詠唱。

だが、すぐに眉を曇らせると、

「これは……」

「な、なになに?」

まどかが首を伸ばす。


な、なんじゃろう?

何やら水晶玉が、どす黒くなってるんじゃが……


「まどかちゃんの前世は……凄いです」

のどかさんは畏怖に満ちた瞳で妹を見やると、

「まどかちゃんの前世は……ズバリ、魔王です」

「……へ?」

時が止まった。

皆も瞳をパチクリとさせてるし、俺なんか顎が外れた。


ま、魔王?

魔王ってなに?

そんなモンが実在するわけ?

ってゆーか、冷静に考えると、何故か納得しちゃうよ。

まどかが魔王で真咲さんが勇者か……うん、有りだね。


「な、なによそれっ!?」

まどかが金切り声を上げた。

「魔王ってなによ!?!どこに住んでるのよっ!!」

「……異世界です。まどかちゃんは偉大な魔王様の生まれ変わりです。……ちょっと尊敬」

「な、何言ってるんだか。だいたいねぇ、私にしろ真咲にしろ榊さんにしろ、洸一と全然繋がりがないじゃないの。因果とか因縁とか、何もないじゃないのぅ」


そう言われてみれば……そうだよな?

女子高生に女勇者に魔王と……どんな世界観だ?

ベタなライトノベルか?


「では、先に洸一さんの前世を調べて見ましょう」


「お、俺ですか?」


「行きます……」

のどかさんは水晶に手を翳す。


ぬぅ、少しドキドキ。

俺様の前世か……

ま、ナイスガイは間違いないと思うが……


「……あれ?」

のどかさんの手が止まった。

水晶玉が、ぼんやりと明滅している。


「ど、どうしました?」


「洸一さんの前世が、見られません」


「見れないって……どーゆー事です?」


「洸一の前世は、小さいんじゃないの?」

と、まどか。

「きっとチフス菌とかベスト菌とか……」


「黙れ魔王ッ!!で、のどかしゃん。これは一体、どーゆー事で……」


「分かりません」

魔女様は困惑したような顔で、フルフルと首を横に振った。

「おそらく、何かしらのプロテクトが掛かっているものと思われますが……」


「プロテクト?」

と、その時だった。

ピシッと音を立てて水晶玉に大きな亀裂が入るや、のどかさんは目を大きく見開き、

「あっ、反物質エネルギーが……」


「へ?」

瞬間、俺達の居る居間は、眩いばかりの真っ白な閃光に包まれた。

そして……

俺様の家は改築したその日に、再び大破爆沈したのだった。










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