表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
39/53

ザ・球技大会/後編




 いよいよ決勝戦。

クラスの皆も含め、全校生徒の耳目がグラウンド中央の特設コートに集まっている。


「ふ…ふふふ……武者震い、して来たぜぃ」

もっとも、本当に武者震いなのか、それともただ単に怯えているだけなのか、いまいち分からんのだが…

さて、敵の真咲姐さんは、どうしているかのぅ。

相手が俺だから、ちょっとは手加減してくれるかな?


何て事を考えていると、

「……洸一」

ちょいと太目の眉に切れ長の瞳、端正な顔立ちの真咲姐さんが、ボールを小脇に抱え、近付いて来た。

相変わらず、美人と言うかおっとこ前と言うか……

後輩の女子から、お姉様とか呼ばれて慕われているのが良く分かる。


「よぅ、真咲」


「洸一。遂に決勝戦だな」


「そうじゃのぅ」


「まさかこの手で、お前を葬る日が来るとは思わなかった……」


「ハッハッハッハッハ…」

って、葬る気なんですかッ!!?

「や、やだなぁ、真咲しゃん。球技大会なんて、単なる遊びみたいなモンだし……もっと気楽に行こうよぅ」


「それは出来ない」

真咲さんはキッパリと言った。

そしてどこか憂いを帯びた瞳を向け、

「やるからには、勝つ」


「あ、あぁ……そうなんですかぁ」

こ、これだから体育会系は…


「だから洸一も、全力を出せ」

そう言い残し、彼女は去って行った。


「……全力を出せって言われてもなぁ。俺の全力と真咲の全力じゃ、桁が3つぐらい違うような気がするんじゃがのぅ」

うぅ~む、困ったモンですな。


★ 


決勝戦……

俺達の布陣は、内野が俺にヒョロメガネ、豪太郎に多嶋の男だけ4人。

外野がトリプルナックルに穂波と言う感じだ。

なんちゅうか、まさに紳士の布陣だ。

俺としては、最初は様子見として外野へ回りたかったのだが……そこはそれ、こうも皆に注目されていると、学園最強の漢としての面目とかプライドとか色々とあり、こうして初っ端から内野へいるわけなんじゃが……


むぅ……怖い。怖いですぞ。


目の前のコートの中には、真咲姐さんが腕を組み、独り佇んでいた。

敵の布陣は、内野に真咲姐さんただ一人。後は全員が外野という、超俺様仕様の布陣。

真咲を知らない人が見れば、非常に奇異に映るかもしれないが、彼女を知ってる人から見ればごく当然、お釣りが来るぐらいの布陣だ。

さて……

厳正なジャンケンの末、先行ボールは真咲姐さんだった。

いきなり最初から、大ピンチである。


ちくしょぅぅぅ……

ただでさえ戦闘力に差があるって言うのに、運まで相手側に有利かよ。


ピーッ!!と言う笛の合図とともに、俺は叫ぶ。

「全員、散開ッ!!」


さぁ、ラストバトルの始まりだ。

真咲姐さんは、地面の上に置いてあるドッヂのボールをグワシッと片手で鷲掴み、ジロリと逃げ惑う俺達を見つめた。

もうそれだけで、チ○コは極限まで縮まってしまいそうだ。


ぬ、ぬぅ……

背中に冷たい汗が吹き出る。

なんちゅう気迫だ。真咲姐さんが、大きく見えるぜ……

俺の目には、二荒真咲はスコープ○ッグ並のサイズに見えた。


どうする…?

どうやって、彼女からボールを奪う?

「――ッ!!」

真咲の体が少し沈むと同時に、俺は緊急回避。

軽やかなモーションで彼女の手から放たれたボールは、

<キュィィィィィィィィィィィィンッ!!>

と、まるでレーザーのように大気を切り裂き、

<チュドーーーーーーーンッ!!>

目にも止まらぬ速さで、多嶋に直撃した。


「ゲッ!?」

しかもボールに当たった多嶋はそのまま弧を描くようにクルクルと大空を舞い、グラウンド片隅にあるバスケットゴールの中へ頭からダイブ。

いきなりの3ポイントシュートだ。

「お、おいおい……」


「じ、神代君、神代君」

首にギブスを付けたヒョロメガネが、膝をカクカクと震わせながら俺に囁く。

「僕はこのまま、降参した方が良いと思うんだけど……」


「ば、馬鹿野郎。あれしきの攻撃で、ビビるなって」

そう、あれしきの攻撃だ。

他の連中や観客も気付いてないかもしれないが……俺には分かる。

真咲は全然、本気を出していないと。

「と、とにかく、這い付くばり、泥を啜っても生き延びろ。そうすれば何時か必ず、チャンスは巡ってくるからなッ!!」

ただ、その前に全滅しそうだけどね。


★ 


多嶋に当たったボールを回収し、試合再開。

ちなみに多嶋は、哀れ保健室送りだ。


さて、敵はどう出てくるか……


ボールを持っているのは敵の外野。しかも智香の馬鹿だ。


くそったれが……

俺様の苦労は、全てあの火の無い所に狼煙を上げる赤点女の嘘から始まったのだ。

絶対に試合中に、血反吐を吐かせてやるっ!!

俺は智香の馬鹿を、恨みを篭めて睨み付ける。

が、彼女は余裕の笑みを浮かべながら、内野の真咲姐さんへとボールを回した。

なんちゅうか、そのご機嫌さが非常にムカつきます。


チッ、ボールはあくまでも真咲に……か。

突っ掛かって来れば、ボールを奪うチャンスだったのに……


真咲姐さんはボールを受け取り、またもや片手で鷲掴むや、肩をグルグルと回し、狙いを定める。


来るか?

受け止めようとか思うな……

何とか躱せよ、俺。


「……ハッ!!」

短い気合と共に、真咲姐さんは素早いモーションでボールを放つ。

――ヒュンッ!!

風を切り裂くそれは、あまりの速さに既に球状からラグビーボールのような形になり、最後には針のように細くなって豪太郎の腹部へと突き刺さった。


「あひぃぃーーーーーーーーッ!!!」

ドップラー効果的な声を残し、豪太郎はボールと共に、これまたグラウンド片隅のサッカーゴールへとナイスシュート。

洸一チン、声も無しだ。


「じ、神代君、神代君。もう駄目だよ……地獄の釜が、蓋を開けて待ってるよ」


「な、情けない声を出すなヒョロメガネ!!」

俺なんか既に少しだけチビってるんだぞっ!!

「審判、ちょいとタイムだッ!!」

俺はここで試合を一旦止め、外野から跡部を内野へと入れた。


「はむぅぅ……神代君は、私を殺す気デス」

跡部はウヒウヒ笑いながら、俺様の体操服を指で引っ張る。


「そ、そんな事は無ぇ」


「あのボールに当たったら、確実に気持ち良く保健室へ運ばれます」


「大丈夫だ」

俺は跡部の肩に手を置いた。

「あのボールは、味方だ。邪気の無い者なら、跳ね返すことが出来るのだ」


「……元○玉?」


「もちろんッ!!」

嘘である。

今はとにかく、内野を少しでも補強しないと……


ピッ!!と言う笛の音と共に、試合再開。

真咲は外野から回ってきたボールを手の上でポンポンと弾ませながら、今度は軽やかに放った。

狙いは跡部だ。

もっとも、軽やかにとは言っても、それは先程と比べての話で、そのボールはその辺の野郎が投げるそれよりも、遥かに速い。


「は、跳ね返せ跡部ーーーーっ!!」


「OKです」

跡部はバレーボールのレシーブの要領で、真咲のボールを弾き返すが、

「あひゃッ!!?」

その跡部も、思いっきりコートの外へと吹っ飛ばされていた。

しかしながら、

「大チャーーーーーーーーーンスッ!!」

跡部に当たったボールは、ふらふらと俺の真上を飛んでいた。

まさに千載一遇のチャンス。


「真咲ーーーーーーッ!!」

俺はボールを受け止めると見せ掛け、そのまま落ちて来たボールに渾身の中段蹴りを放ったのだった。


★ 


俺は賭けに出た。

落ちて来るボールを受け止めず、腰の辺りまで引き付けて渾身の蹴り放つ。

足の力は、腕の力の約3倍だ。

手で投げるより、蹴った方が速度も威力も増す筈。

もっとも、受け止められたらジ・エンド。

俺も跡部もボールに当たった事になり、敗者として外野へ回されてしまう。

・・・

って言うか、蹴ること自体が反則だけど、それはそれだ。


「落ちろーーーーーーーーーーーーッ!!」

俺様のダイナミックシュートは、真咲目掛けて飛んで行く。

この距離、この速度。何より、虚を突いた攻撃だ。必ず当たるッ!!

だが真咲姐さんは、その人とは思えない程の反射神経で、辛うじて俺様の攻撃を躱した。


「チッ…」

あれを避けるのか……


俺の蹴ったボールは、真咲の脇を逸れてそのまま外野へ。

それを何とか、ツインテール小山田が受け止めた。


「よっしゃッ!!ナイスキャッチだぜ小山田!!」

良かった。ノーバンキャッチだから、俺も跡部も一応はセーフだぜ……


「……ふ…ふふふ」

真咲姐さんが低い声で笑う。

「今の奇襲攻撃は、ちょっと驚いたぞ」


「そりゃどうも」

俺は小山田から高いパスで回ってきたボールを受け止めながら答える。

うぅ~む、どうしたら真咲姐さんを仕留める事が出来るんだか……

「でぇーーーーーい、ままよッ!!」

片手でボールを掴み、大きく腕を振ってボールを投げる。

並みの男なら受け止めることすら出来ない程の豪速球だ。

だが二荒真咲は、並みの男でもなければ普通の人類でもなかった。

彼女はコート中央から微動だにせず、俺様の放った特急殺人ボールを、片腕を伸ばして意図も簡単に受け止めたのだ。


ぐ、ぐぬぅ。

俺のダイナマイツボールを片手だけで……


「ふむ。中々いいボールだ」

真咲姐さんはそんな事を呟きながら、ヒョイッと軽くボールを投げた。

狙いは跡部みたいだが……それにしても、緩いボールだ。


「楽勝です」

と、跡部は真咲のボールを受け止めようとするが……


「なにっ!!?」

手を伸ばした跡部の前で、いきなりボールは何かに操られているかの如く、急激に跳ね上がった。


「あぅっ!?」

跡部は下から突き上げるように飛んで来るボールに、思いっきり顎を直撃。

そのまま空中で一回転し、コートの中にゴロゴロと転がった。


な、なんちゅう変化球だ……

地球の物理法則すら捻じ曲げるのかよ……

「って、跡部?だ、大丈夫か?」

俺は慌てて駆け寄り、ピクリとも動かない彼女を抱き抱える。


「……」

跡部は幸せな笑みを浮かべたまま、気絶していた。


ぬぅ…

これで3人が保健室送りか。

どうすれば、この殺戮の螺旋から、逃げ出せることが出来るのか……


「神代君…」

跡部に当たったボールをゲットしたヒョロメガネが、今にも号泣しそうな顔で俺の体操服の端を抓み、

「ど、どうしよう?このままだと、僕達もあんな目に遭っちゃうよ。も、もう保健室はヤダよぅ……」


「泣き言を言うにゃっ!!取り敢えず、ボールを一旦外野へ回せッ!!」

まったく、泣きたいのはこっちだぜ……

ヒョロメガネはボールを外野へと投げ、外野から再び俺の元へとボールが飛んで来る。

くそったれ……

豪太郎と多嶋が外野にいれば、まだ何とかなったかもしれんが……


「でぇーーーーいッ!!考えても仕方がねぇ。今は攻撃あるのみッ!!」

俺は助走を付け、ハンドボールさながらに軽やかにジャンプしながら叩きつけるようにボールを投げる。


「……ふ」

真咲姐さんは片手どころか指一本でそれを受け止めた。


「ぬ、ぬぅ…」

ア、アカン。やっぱ基本戦闘力に差があり過ぎじゃわい。



「さて、お次は……」

真咲姐さんは指の上でボールをクルクルと回しながら、狙いを定める。


むぅ……

あの美人でシャイな真咲姐さんが、今は地獄の牛頭とか馬頭に見えるぜ。


「じ、神代君、神代君…」


「……なんだ、ヒョロメガネ?」


「ふ、二荒さん。さっきから僕をずっと見てるんだけど……」

我らがクラスの副委員長は、今にも泣き出しそうな顔で言う。


「……そっか」

次のターゲットは、ヒョロメガネと言う事か……

「心配するな。我に策あり、だ」


「ほ、本当にかい?」


「もちろんッ!!」


「……目を逸らして断言されても、物凄く不安なんだけど……」


「大丈夫だって」

言いながら俺はヒョロメガネの肩を抱き、小声で言う。

「いいか副委員長。ちと無謀だとは思うが……真咲の球が飛んで来たなら、それを正面で受け止めろ」


「えっ!?じ、神代君。それって僕を、亡き者にするって言う意味かい?」


「馬鹿野郎……俺がそんな事をするかってんだ」

俺は軽くヒョロメガネの頬に拳を押し付けた。

「相手の球は、確かに人を簡単に殺せる殺戮ボールだが……それでも所詮は、たかがゴムで出来た球だ。一人では無理でも、二人なら受け止めることが出来る筈だ」


「二人って……」


「吹っ飛ぶお前を、この偉大な俺様が受け止めるッ!!だから安心して、真咲のボールを受け止めろ」


「そ、そんな無謀な……」


「大丈夫っ!!男ならやってやれだッ!!」


「こ、こんな局面でチャレンジ精神を発揮されても……」


「むっ!?来るぞヒョロメガネ」

俺は素早く、オロオロとしている副委員長の背後に回り込む。

見ると真咲姐さんはゆっくりとボールを掲げ、投球モーションに入る所だった。

「根性出せよぅ……ヒョロメガネ」


「そ、そんな事言われても…」

首にギブスを巻いたヒョロメガネは、ガタガタと震えながら後ろを振り返る。

と同時に、シュゴーーーーーーッ!!、とまるで鎌鼬の如く空気を切り裂く音。

――ズガンッ!!

やけに鈍い音と共に、ヒョロメガネの体は後方へと吹っ飛んだ。


「さ、させるかーーーーッ!!」

俺はヒョロメガネの腰に腕を伸ばし、衝撃を押さえる。

「ぬ、ぬぅぅぅぅぅッ!?」

だがそれでも、ボールの勢いは止まらないのか、ヒョロメガネを支えている俺までズルズルと後退を始めた。

地に足を着けて踏ん張ってるものの、それでも真咲の球の勢いは中々に止まらない。

シューズの底が擦り切れそうな勢いで、ヒョロメガネを支えたままコート内から押し出されそうになる。


な、なんちゅうパワーだ。

ヒョロメガネは怪我人なんだから、もうちょっとマイルドな球を投げてくると思ったのに……

なんて大人げないんだッ!!


「ちくしょぅぅぅ……こうなったら、3倍だッ!!」

歯を食い縛り、足と腕にありったけの力を篭める。

「ぐぅぅぅ……止まれ、止まれーーーーーーッ!!」

やがて、徐々にではあるがヒョロメガネの勢いは緩やかになり、ここが踏ん張りどころと俺は最後の力を振り絞る。

そして遂に、内野の白線ギリギリと言うところでその動きは止まったのだ。


や、やった。俺は……俺は勝ったぜっ!!

・・・

って全然勝ってはいないんじゃが……


「だ、大丈夫かヒョロメガネ?」

俺は腰から手を離し、真咲の地球破壊ボールに真正面から立ち向かった勇気ある副委員長の様子を伺う。


「あ…あがが…あがががが……」

ヒョロメガネはガタガタと小刻みに震えていた。

しかも何か、キュルキュルと妙な音がする。


「ど、どうした?」

俺は彼の前に回り込み、

「げっ!!?」

腰が抜けた。

真咲の放ったボールは、まだ地面に落ちずに、ヒョロメガネの体に減り込んでいたのだ。

しかも恐ろしい事に、それは股間……男が男である為の神秘の場所に。

股間にめり込んだまま、キュルキュルと音を立て高速で回転していたのだ。



「ヒョ…ヒョロメガネ……」

あまりのショッキングな映像に、俺の声は震えていた。

副委員長の股間にめり込んだボールは未だ高速で回転しつつ、しかも何やらブスブスと短パンから煙まで出始めている。

これぞまさに、二荒真咲のフェイタリティに違いない。

洸一チン、思わず自分の股間まで押さえてしまうような恐怖に捕らわれるが……それどころではない。


「ち、ちくしょうッ!!」

我に返った俺は、慌ててヒョロメガネの股間で暴れるボールを押さえ付ける。

手の平が回転の摩擦で火傷するぐらいに熱いけど……早く止めなければッ!!

「でぇーいッ!!」

俺は回転ノコギリの如くキュイーーーンと音を立てて回っているボールを辛うじて押さえ込み、戦友である副委員長の大事な部分から引き剥がす。

「だ、大丈夫かヒョロメガネっ!!?」


「……」

彼は無言で崩れ落ちた。


「ぬぉいっ!!?」

俺は咄嗟に抱き起こす。

「し、しっかりしろっ!!傷は浅いぞっ!!」


「……も…もうダメだよ」

ヒョロメガネは口からカニのように泡を噴出しながら、途切れ途切れに呟いた。

「僕のシンボルは……クラッシュしたよ。……まだ未使用なのに」


「ヒョロメガネ……」

それが彼の、最期の言葉だった。

白目を剥き、ピクピクと体を震わせているヒョロメガネの体をそっと地面に横たえ、俺はボールを片手に立ち上がる。

脳内で埃を被っているヒーロー回路に、稲妻が走った。

今の俺は……復讐の鬼だッ!!

俺は真咲を睨み付け、

「許さねぇ……男として、許さねぇぜ真咲!!テメェの血は何色だッ!!」


「ふっ、赤だ」


「ぐぬぅぅぅぅ……哀れチェリーのまま逝ったヒョロメガネとその息子のため、俺はお前を葬るッ!!」

言って俺は、駆け出した。

駆けて駆けて、反動を付けて渾身の力でボールを繰り出す。

「いっけぇーーーーーーーーーーーッ!!」

俺の攻撃としては、最高にして最強のボールだった。

しかも悔しさと憎しみのスパイスもちょっぴり効いた、辛口の攻撃だ。

いくら真咲でも、この攻撃は避け切れまいッ!!


だがしかし、真咲は避けるどころか受け止める動作もせず、

「……ハッ!!!」

豪快に気合一発。

と同時に、ポトリとボールはコートの中に落ちた。


「うそーーーーーんッ!?」

俺は慌てて緊急回避。

駆けて駈けて、ライン際ギリギリの所まで下がる。

ヒーロー回路は一瞬でショートしてしまったみたいだ。


「ば、馬鹿な。俺の最高の攻撃……ファイナルクラッシュを、気合だけで受け止めやがった」

どう考えても、やっぱ人間じゃないです。


「洸一。悲しいけど、勝負は非情なんだ。ふふ……ふふふふふ」

真咲は呟きながら、足元に転がっているボールを無造作に掴んだ。

そして爛々と輝くコヨーテのような瞳で、怯える俺を睨み付ける。


ひぃぃぃっ!!?

な、何だあの殺気の篭った眼差しは……

いつもの真咲姐さんじゃないッ!!

僕の知ってる、可愛い真咲じゃないッ!!

真砂子さんだッ!!(誰?)


「コーイチ。そろそろ降参したら?」

俺のすぐ後ろ、外野にいる智香のど馬鹿が、ニヤニヤ笑いながら話し掛けてくる。

「二荒さんには、どう足掻いたって勝てないって」


「黙れ赤点」


「な、なによぅ。まだ赤点じゃないわよっ」


「元はと言えば、貴様が嘘をついたから、俺はこのドッヂに参加してるんだぞ。その責任は、地獄で取ってもらうからなッ!!」


「ど、どうするのよ……」


「こうするんだよっ!!」

俺はサッと体を伏せた。

と同時に、頭上をシュゴーッ!!と球技とは思えない音でボールが掠め飛んで行き、ドカンッ!!と嫌な音を立てて外野の智香に直撃。

「い、いやぁぁーーーーーーっ!!?」

智香の馬鹿は衝撃で校舎を飛び越え、裏山方面まで吹っ飛んで行った。

彼女の立っていた足元には、ボールだけが取り残されている。

うむ。先ずは一つ、復讐は終了だ。


「味方にも、容赦の無い攻撃ですな」

俺はボールを引き寄せ、呟く。

俺に残された力からして……次が多分、最後の攻撃だ。

だが俺は、勝負を諦めないッ!!

勝つのは俺だッ!!


「どりゃーーーーーーーッ!!」

腕を伸ばし、叩きつける様にボールを投げる。

くっ……

だ、駄目だ。予想以上に遅ぇ。

こうなったら……

「真咲!!当たってくれたらデートしてやるぞッ!!」


「…え?」

キョトンとする真咲姐さん。

ボールはそんな彼女の腕に当り、コートを転がった。


や…やった……

俺は遂に仕留める事が出来た……

「か…勝ったぞ俺はッ!!!!」

洸一チン、思わずガッツポーズだ。


「ば、馬鹿が。驚いて、受け損ねたじゃないか」

と、真咲が顔を赤らめながら、ジロリと俺を睨み付ける。

「皆の前で……いきなりデートとか叫ぶな」


「ふふーん、勝負の世界は何でも有りなのだよ。要は、勝てば良いのだよ、勝てばッ!!がはははははははッ!!」


「はぁ?まだ勝ってないじゃないか」


「え?」


「まだこっちは、7人もいるんだぞ」

真咲はそう言いながら、内野から出て外野へと歩いて行く。


「……あ、そうか」

俺はポンッと膝を打った。

よく考えたら、これはドッヂボールだった。

真咲を倒したら勝ちだと、勝手に思っていたわい。

「って、あれ?と言うことは……ボールに当たった真咲しゃんは、今度は外野から攻めてくるんだよねぇ…」


「ん?当たり前だろ?」


「そ、そっか。うん、そうだよなぁ……当たり前のように攻撃してくるんだよねぇ」


結局、僕のチームはそれから一瞬で壊滅しました。

全員が保健室送りと言う、末代まで語り継がれるような偉大な功績を残し、消滅しました。

ま、相手が悪かった、と言えばそれまでなんですが……

ちなみに総合優勝は、のどかさんのクラスでした。

2位が真咲姐さんのクラスで3位が姫乃ッチのクラス。

俺のクラスは……情けない事に10位にも入っていねぇ。

これは少し、クラスの奴らを鍛え直さなければなッ!!


PS……

智香の馬鹿は、まだ行方不明です。

一体、どこまで飛んで行ったのやら……








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ