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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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ロマンス逃避行



★7月4日(月)

 

 梅雨も明け、ちょいと蒸し暑くなってきた本日より、期末テストが始まる。

準備は万端、とは言い難いが、まぁ何とかなるだろう。

さて、テスト初日だが……

本日は、現国に英語Ⅰに保健体育。

ま、保健体育は何故か簡単だったが、現国と英語は難しかった。

美佳心チンに殴られながら勉強していなかったら、確実に10点以下だっただろう。

うむ、少しだけ委員長に感謝だ。


放課後、名前に智が付いてるのに脳に智が足りない智香の馬鹿に会ったら、引き攣った笑みを浮かべていた。

予想通り、出来なかったみたいだ。

あの馬鹿、妙な所で頭の回転は良い筈なのに……何故に勉強は出来ないんだ?



★7月5日(火)


テスト二日目。

今日は物理に数学、そして音楽。

物理と数学という、数字が苦手な大魔王様な俺にしてみれば、地獄のような日ではあったが……ま、取り敢えず解答用紙を埋める事は出来た。

努力の賜物と言うやつだ。

この調子で、明日のテストも乗り切れば幸いだ。


放課後、ただでさえ少ない脳のキャパシティを遊びに使っている智香の馬鹿に会ったら、顔面蒼白だった。

やはり今日も……と言う感じ。

余りに哀れだったので、

「心配するな智香。補習を受けているお前の分も、この俺が夏休みを満喫してやるから」

と言ったら、顔面にマジパンチを食らってしまった。

逆ギレもいい所だ。


あの馬鹿、自業自得という言葉を知っているのだろうか?

補習が嫌なら、もう少し真面目に勉強すれば良いものを……



★7月6日(水)


期末テスト最終日。

今日は古典に英語Ⅱ、そして日本史……

昨日とは打って変わり、どれも文系だ。

ま、数字より活字が好きな俺様にしてみれば、何となく今日のテストは出来たんじゃないかな?


放課後、どうしてこの学校に入学を許されたのか未だ謎な智香の馬鹿に会った。

俺を見て、まるで某戦争映画に出てくる軍曹にしごかれ過ぎてアレになったデブ二等兵みたいに、ニヤァ~と奇妙な笑みを浮かべていた。

完璧に壊れている……

さすがに哀れだ。

人間、こうなったらお終いだと思う。


さて、そんなこんなで、無事に期末テストも終了。

放課後はテストの打ち上げを兼ねて、穂波に委員長、真咲に優チャン&姫乃ッチを誘って駅前のカラオケ店へ。

そこで今までのストレスを発散させるかの如く、歌いまくる。

いやはや、実に楽しかった。


……とまぁ、普通だったら、ここで本日は終わりなのだが……

俺様と言う、偉大な男の悲しい物語は、ここから始まるのだ。


「あ゛~…歌い過ぎて喉が痛ぇ」

帰宅後、俺は居間でテレビを眺めながらゴロゴロとしていた。

時刻は夕方の6時……

そろそろ晩御飯の仕度をする時刻だ。


「今日は何にしましょうかねぇ」

ぼちぼちスーパーの割引が始まる時間だし……

いや、でもなぁ、テストが終わった日ぐらいはのんびりとしたいし、何か店屋物でも頼むって言うのも有りかな。


何て事を独りぼんやりと考えていると、ピンポーンとチャイムの鳴る音。

「おや?誰でしょうかこんな時間に……」

俺は面倒臭気に起き上がり、ボリボリと頭と尻を掻きながら玄関へ向かう。

そして扉を開けると、そこには……


「……こんばんは、洸一さん」

100万パワーの魔女っ娘属性を叩き出している御令嬢様が、そこには佇んでいた。

夏らしい、薄い青地のワンピースと言う格好に、何やら大きなボストンバックを下げている。


「おや?のどか先輩じゃないですか。……どうしたんです、こんな時間に?」


「お出かけです」

彼女は相変わらず小さな声で、手にしたバッグを軽く掲げた。


「は、はぁ……そうなんですか」


「はい。……洸一さんとお出かけです」


「…………はい?」

え?今、何かワケの分からん言葉を聴いたような……あれ?幻聴かな?


「さ、洸一さん。急ぎましょう」


「え?え?ち、ちょっと先輩、一体何がどーなって……」


「だから……駆け落ちするのです」


「……」

人生で生まれて初めて、俺は立ち眩みと言うのを経験したのだった。


★ 


「どうしました、洸一さん?」

のどかさんは、頭を抱えて蹲っている俺に、首を傾げて尋ねてくる。


「ど、どうしたもこうしたも……一体、何を考えているんですか?」

洸一チン、猛烈に泣きたい気分だ。

誰かこの人を止めてくれッ!!


「ですから、駆け落ちです」


「いやいやいや。何がですからなのか、ちゃんと説明して下さい」


「駆け落ち……してみたいです」

言って彼女は、鞄から以前に読んでいた、まどかの部屋から拝借してきたと言うラブでロマンス大盛りな本を取り出した。

そしてどこかうっとりとしたような表情で、

「許されぬ愛の物語です」


あぁ……もうワケが分からない。

「あ、あのですねぇ……駆け落ちに憧れるのは分かりますが(本当は分からんが)、それをしたいからやっちゃうって言うのは、なんちゅうか我侭な子供と同じと言うか……もう少し、考えてから行動した方が良いと思いますよ?世間の常識とか」


「さぁ洸一さん、行きましょう。愛の逃避行の始まりです」


あ、ダメだ……全然聞いてねぇよ。

この人、思い込んだら試練の道をズンズンと突き進む人だからなぁ……例え行き先が地獄でもな。

「だ、だからぁ……そもそも間違ってますよ、のどか先輩」


「……間違い?」


「そうですよぅ。だいたい駆け落ちって言うのは、こう……色々と条件って言うか理由みたいなモノがあるでしょ?例えば両親が二人の付き合いに反対しているとか、片方が強制的に結婚させられそうになるとか……そーゆー、逃げるのに明確な理由ってヤツですよ」


「……そう言うのは無いです」


「でしょ?だから先輩がやろうとしているのは、単なる家出です。御分かりいただけましたか?でしたら、さ、早く御家に帰りましょう」


「……駆け落ち……」


まだ言うか?

「だからぁ…」


「でも、駆け落ちするって既に書き置きを残してきてしまいました」


「――ブッ!!?」

鼻が出た。


「今ごろ屋敷は大騒ぎ」


「そりゃ大騒ぎでしょうに……」

ロッテンの爺さん、脳の血管が3本ぐらい切れて昇天してたりしてな。

「だったら、ここは一刻も早く家に戻った方が良いですよ?何でしたら、僕ちゃんから家の方に電話でも入れておきましょうか?」

ってゆーか、これ以上俺様を、巻き込まないで欲しいなぁ……


「それは……危険です。凄く危険」

心が少し困った事になっているお嬢様は、困った顔で俯いた。


「へ?何が危険なんです?」


「書き置きには、洸一さんに誘われて、と書いてしまいました。だから洸一さんは、事件の首謀者なんです」


「……」

既に巻き込まれていたーーーーーッ!!?

しかも駆け落ちの主犯としてだよッ!!


「ですから洸一さん。早く逃げ…駆け落ちしましょう」


「い、いや、でも……いきなりそんな事を言われても……」


「早くしないと、鬼のような形相でまどかチャンが来てしまいます」


「ひッ!!?」


「洸一さん。タコ殴り」


「ひぃぃぃぃーーーッ!!?」


★ 


ガタンゴトン……と音を立てて走る急行電車。

俺は4人掛けの座席に腰掛け、頭を抱えていた。

目の前の席には、のどかさんがボーッとした表情で座っている。


俺は……俺は一体、何をしてるんだ?

自問自答。

今日はテストが終わり、のんびりダラダラと過ごそうと考えていた…いや、現に過ごしていた筈なのに……何故にこんな時間に、行き先も決めないまま電車に乗ってるんだ?

分からない……

ただ、まどかに殴られると言う恐怖心から、取るものも取らずに家を出て、そのまま何かに導かれるようにして電車に飛び乗ってしまったのだが……

「……マズった」

俺は口の中で小さく呟いた。

いくらまどかが怖いからと言って、何で逃げ出してしまったんだ?

ちゃんと訳を話せば済む筈なのに……

これではもう、完璧に駆け落ちではないか。

捕縛された最後、ブン殴られるのは決定的。

いや、殴られるだけで済むかどうか……甚だ疑問だ。


あぁ……嫌だ嫌だ、まだ死にたくねぇよぅ……


「……どうしましたか、洸一さん?」

頭を抱えている俺に、のどかさんは状況が分かっていないのか、のほほーんとした感じで尋ねてくる。


ぬぅ…

よもやのどかさん、俺に何か妖しげな術とか掛けて、こんな状況に追い込んだのでは……

ま、それは考え過ぎか。


「洸一さん……」


「のどか先輩。これからどうしましょうかぁ?」

俺は半泣きな声で尋ね返した。

「ワケも分からず、取り敢えず来た電車に乗ってしまいましたが……これ、どこまで行くんです?」


「北です…」

頭の中がお茶目な魔女様は、簡潔に答えて下された。

「人間、追っ手から逃げる時は北へ向かう習性があるのです」


「そ、そうなんですか…」

そんな習性、初めて聞いたぞ?

「あのぅ……一つお尋ねしますが、このまま引き返す、と言う選択肢はないんですか?」


「ありません」


「お、おやまぁ……即答ですか」


「洸一さんは、楽しくないのですか?」


「え?」

この状況を楽しめ、と言いたいのか?


「私は……洸一さんとお出かけ、楽しいです」

言ってのどかさんは、はにかんだ笑みを見せた。


むぅ……

なるほどッ!!

そーゆー考え方もあるのね。

洸一チン、ちと納得だ。

俺は元々ポジティブな性格だし……こうなった以上、今更ウジウジ悔んでいても仕方がない。

ここは一つ、のどかさんとの秘密の小旅行と割り切って、楽しんだ方が得ではないか。

どーせ最後には見つかるんだしなッ!!


「あ、でも……情けない話ですが、僕ちゃん殆ど金も持たずに逃げて来たんですが、どうしましょう?飯食う金も無いですよ?」

って言うか、まだ夕飯食ってないし。


「心配御無用……です」


「で、ですよね?だったらこのまま、温泉にでも行きましょうっ!!」

俺は拳をグッと握り締めながら言った。

こうなったら、これが今生の別れだって感じで、とことん楽しんでやるッ!!

のどかさんと仲良く温泉……

おっぱいポロリもあるでよ!!大作戦だッ!!(謎)

「期末テストの慰労会を兼ねて、今日はのんびり温泉にでも浸かりましょう!!」


「ナイスアイディア……です」

のどかさんはコクコクと頷いた。

が、不意に顔を曇らせると、

「ですが、無事に温泉まで辿り着けるかどうか……」


「え?何でです?」


「……」

のどかさんは困った顔で窓の外を指差し、俺もそれを視線で追う。


「……んげぇぇぇぇッ!!?」

そこには、走る電車と併走するように、KDF(喜連川・ディフェンス・フォース)に所属するRAH-66『コマンチ』が、音も無くすぐ横を飛んでいるではないか。

しかも何か機銃らしき物が、何の躊躇いも無く問答無用と言った感じで俺様に向けられている。

「ののの、のどか先輩。窓の外に武装ヘリが飛んでいるんですが……しかもたくさん」


「もう追っ手が……」


「そ、そうなんですよぅ」

くっ、さすが喜連川だぜぃ。

「でも、何でこんなに早く……」


「それは……私が護身用に、全天候型位置測定発信機を持たされているからではないでしょうか?」


「あ、なるほど」

って、なるほどじゃねぇーよッ!!?


その後……

案の定というか、規定路線というか……

次の停車駅で待ち構えていた喜連川の厳つい顔をした兵士達に、僕ちゃん呆気なく捕縛。

そしてそのまま喜連川邸に護送。

その後は、言わずもがなだ。

あれれ?

おかしいなぁ?

僕ちゃん、ほんの数時間前まで、のんびりと過ごしていた筈なのになぁ……


『俺様・本日のお仕置き』

★まどかを納得させるのに掛かった時間:3時間26分

★まどかに殴られた回数:96発(内、顔面へ80発)

★まどかに蹴られた回数:17発

★パイルドライバー:3回


俺……何か前世で、よほど悪い事をしたのか?







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