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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
35/53

初恋談義



★7月3日(日) 


 午前3時……

草木も眠る丑三つ時。

俺はむっくりとベッドから起き上がり、部屋の明かりを点ける。

「頃合か…」

時計を確認し、俺は静かに自室から廊下へと出た。

さすがに真夜中だけあってか、まるで世界から一切の音が消滅したかのようにシーンと静まり返っている。

聞こえるのは己の呼吸する音だけだ。


さて……

極力、音を立てないようにゆっくりと歩を進める俺。

目指すは隣の部屋。

まどか達が眠っている部屋だ。

もちろん、夜這いなんて甘美で背徳的で官能的な事の為ではない。

ってゆーか、俺にそんな度胸はない。

むしろ欲しいぐらいだ。

では、こんな時間に何をしているのかと言うと……

今回の目的はただ一つ、没収されたゲームを取り戻すのだ。

皆がスヤスヤ眠っているこのチャンスしか、俺様のゲームを奪回する機会は無いと判断したのだ。

だがしかし、夜中に部屋に忍び込むと言う危険なミッションの為、ここは慎重に慎重を期さねばならない。

何しろ目的の部屋で寝ているのは、まどか以外にものどかさん、真咲姐さん、優チャンにみなもちゃんと言う、一騎当千の女武者ばかり。

まさに狼の巣だ。

一歩間違えれば即破滅。

本当に生きて戻れないのだ。


ふふ、命と引き換えにエロゲームを奪回するとは……まさに漢よのぅッ!!

俺は息を潜め、暗い廊下をゆっくりと進む。

そして彼女達の使っている部屋の前で立ち止まり、先ずは深呼吸。


……良し、行くぞッ!!


ノブに手を掛け、そっと回す。

キィーとドアの軋む音にドキドキしながら、俺は素早く部屋の中に滑り込んだ。

ぬぅ……暗い。

部屋の中は予想通り、真っ暗だった。

スースーと耳に響く可愛らしい寝息と、なんちゅうか……部屋の中に立ち込める年頃少女達の甘い匂いに、ちょいと心の臓がドキドキとしてしまう。

お、落ち着け俺!!

熟睡しているとは言え、こいつ等の感覚は並じゃねぇ……

些細な不注意からもし起きちまったら、俺の人生、エンドロールが始まってしまう。

そんな事態だけは、絶対に避けなければっ!!


え~と……問題のブツはどこかな?

目を凝らし、慎重に辺りを確認。

ビタミンAが豊富なためか、早くも暗闇に目が慣れてきたので、おぼろげながらにも周りを見ることが出来る。

ぬぅ…

皆さん、寝ている時は可愛いですねぇ。

のどかさんは横向きに、頬に手を添え乙女チックな感じで眠っていた。

真咲姐さんは仰向けで規則正しく寝息を立てているし……優ちゃんは、おやおや、少し布団を跳ね除けちゃっているではないか。

そしてまどかはと言うと……

「…むぅ」

布団を遠くへ飛ばし、大の字だった。

なんてダイナミックで腕白な寝相なんだか……

本当にこやつはお嬢様か?


俺は布団の合間を縫う様にそっと彼女に近づき、そしてポケットから水性ペンを取り出す。

復讐の時だ……

これで顔に落書きしてやるッ!!

ま、油性でない所が、俺様の残された優しさだがね。


俺はほくそ笑みながら、彼女の額に丁寧かつゆっくりとペンを走らせ『殺』と書き込んでやる。

「……」

声を殺して大笑い。

実に似合ってる。

次は頬に渦巻きでも書いてやろうかと思ったが、あまり調子に乗っているとヤバイ事になりそうなので、ここは我慢だ。


え~と……まどかの荷物はどこじゃろうか……

俺は顔を上げ、探索を再開するのだが、

「っ!!?」

思わず叫び声を上げそうになり、慌てて自分で自分の口を塞ぐ。

み、みなもチャン……

すぐ目の前に、みなもチャンがボォーっと立っていたのだ。

一体いつの間に起きたのか……全然、気が付かなかった。


「……師匠?」

クククと首を曲げるみなもチャン。

「部長と遊んでるの?」


正確には、部長で遊んでいる、だ。

ま、それはどーでも良いのだが……

俺は唇に人差し指を当てながら声を潜め、

「しーっ。みなもチャン、ワケは後で話すから……まどかの荷物はどこか教えてくんない?」


「……」

ちょいと思考的に特殊なみなもチャンはコクンと頷き、何の迷いもなく部屋の隅を指差した。


「ありがとう、みなもチャン」

俺は静かに礼を述べ、そそくさと移動。

そしてそこに置いてあるスポーツバッグのチャックを開け、中身を漁る。


え~と、俺様のゲームディスクは……どこだ?

これか?

って、これはまどかのスマホか……

ならばこれか?

って、これは歯磨きセット。

じゃあ、これかな?

って、なんか柔らかいし……


その瞬間、いきなりパッと部屋の明かりが点いた。

「っ!!?」

慌てて振り返ると、額に「殺」マークの付いたまどかに、真咲姐さんと優チャンが、驚いた顔で佇んでいた。

のどかさんだけは、未だ爆睡中だが……


「お、おやまぁ。皆さん、お目覚めですかにゃ?」


「耳元でガサコソしてたら、嫌でも起きるわよ」

と、額に文字を書いていた時は起きなかったまどかが、ジロリと俺を睨み付ける。

そして怒気を押し殺したような声で、

「で、アンタは一体、こんな時間にこんな所で何してんのよぅぅぅぅぅぅぅ」


「さ、探し物を…」


「探し物って……アンタの手にしている物は何よッ!!」


「何って……げぇぇぇぇッ!!?」

俺が手にしていたのは、可愛い下着だった。

しかも使用済み。

思春期男子にとってはお宝と称すべき逸品だ。

「え、え~と……これは違うんですよ?いやホント、マジで」

俺はそそくさと、それをバッグの中に戻す。

そして大きく唾を飲み込みながら真面目な顔で、

「とにかく、落ち着いて俺の話を聞いてくれ」


「……」

まどかは無言で、俺に近づいてきた。

確か過ぎる程の殺気をビシビシと放ちながらだ。


「いや、だからその……誤解と言うか何と言うか……」

主演

神代洸一

脚本

神代洸一

監督

神代洸一

「って、アカン。脳内にエンドロールが流れちまった……」

もう終わりだ。


「洸一。覚悟は良い?」


「……うん。取り敢えず、殴られてからワケは話すよ」

・Fin(笑)


外は初夏の陽気な良い天気。

が、今日も朝からお家の中でテスト勉強だ。

「しっかし……眠い。眠すぎて死にそう」

朝飯(本日はトーストと目玉焼きとカフェオレ)を食った後、俺は昨日に引き続き、居間でみんなと一緒にテスト勉強に勤しんでいた。


「なんやねん、朝から…」

と、委員長様が眉を顰める。


「だってよぅ。僕ちゃん、明け方まで逆さ磔にされてたんだぜ?しかも玄関先で。満足に寝られるワケないっつーの」

俺は唇を尖らせながらチラリとまどかに目をやると、彼女はジロリと俺を睨み付け、

「洸一。自業自得って言葉、知ってる?」


「くっ…分かってるよ。漢字で書けと言われると、辛いものがあるけどな」

ったく、夜這いを掛けたんならまだしも、ゲームを取り戻そうとしただけなのに……

俺はブツブツと文句を溢しながら、テキストに取り掛かる。

点けっ放しになっているテレビからは朝のワイドショーなんぞが流れており、『別れ話から女性が男性を刺殺』なーんてニュースが読まれると、物凄く心臓がドキドキしてしまうは何故だろう?


「しっかし、期末テストが終わると、もうすぐ夏休みか……ワクワクしますなッ!!」


「アホか」

美佳心チンが鼻で笑った。

「なに悠長な事を言うてんねん。大学受験を制するには、二年の夏からが勝負なんやで?」


「ふっ、受験なんてナンセンスだぜ。この才能溢れる偉大な俺様には、きっと大学からのお誘いぐらいいっぱいあるだろうよ。がははははっ!!」


「そーゆーのを誇大妄想って言うんや。洸一クンみたいな男に限って、将来はホームレスか犯罪者や。……可哀想やなぁ」


「勝手に俺様の未来像を哀れむなっ!!」

全く……

「しかし受験といえば……のどか先輩は大学受験、どーなんですか?確か喜連川大学へ進学とか聞いてましたけど……」


偉大な魔女様である喜連川の御令嬢様はコクンと頷いた。

「もう既に、入学する事は決定です」


「へぇ~……そりゃおめでとう御座います」

って、まぁ喜連川の跡取娘だから当たり前だよね。

しかも既にのどかさんの為に、魔法学部(謎)って言うのが新設されたらしいし……

・・・

よく文部科学省が許可を出したよなぁ。


「ですが少し、悩んでいます」

のどかさんは少しだけ困ったような顔をした。


「ほぅ……何がです?」

他に入学希望者がいないってことかな?

希望者が殺到していたら、それはそれで凄く嫌だが。


「実は……攻撃魔法科に進もうか防御魔法科に進もうか、悩んでいるのです」


「……なるほど」

って、何がなるほど何だか。


「洸一さんはどう思います?」


「え?いや、どう思うと言われても……」

そんなモン勉強して、何か社会の役に立つのか?

就職先は一体何処だよ……秘密結社かな?

「え~と、なんちゅうか……回復魔法とか、もう少し平和的な科目はないんですかい?」


「……洸一さんはワガママです」


「いきなり何を言うてるんですか?」

俺はトホホな溜息を吐く。

そして優チャンに勉強を教えている真咲姉さんの方に向き直り、話題を変えるように、

「ところで真咲しゃん。夏になればインターハイが始まるんじゃが……空手の試合はいつなんだ?」


「ん?」

真咲は顔を上げた。

そしてペンを指先で玩びながら、

「今年のインターハイは、8月1日から25日まで開催だ。空手は15日から3日間の予定だったな」


「ほぅほぅ、15、16に17の3日間か。もちろん、応援に行くぜッ!!」

俺はグッと親指を立てながら言うが、

「それは無理よ」

まどかが横から口を挟んできた。


「な、なんでだよぅ」


「だってTEPの全国大会予選は、15日にあるのよ?あんた憶えてないの?」


憶えてないも何も、初耳でした。

「ありゃま。そっか……むぅ……でも大丈夫だろ?こっちの予選は15日だけだけど、空手は16日と17日もあるんだろ?」

俺がそう問うと、真咲さんは少しだけ眉間に皺を寄せ、

「まぁ、勝ち残っていればの話だが……」


「真咲なら大丈夫だろ?ってゆーか、俺様が応援に行くまで負けるな」


「だから無理だって」

と、まどか。


「な、何がだよ。真咲がそう簡単に負けると思っているのか?」

姐さんは、本気を出せばお前よりも強いんだぞ?


「そーじゃなくて、予選大会は15日だけだけど、洸一の場合はその後1週間ぐらい入院とかしそうだし……」


「……それは決定事項なのか?」



昼食ミートスパゲティとサラダの後、テスト勉強を再開。

が、さすがに昨日からずーっと勉強していた所為か、集中力も途切れがち。

テキストの余白に、僕の地球を書いて核攻撃を加えている内についウツラウツラと……

皆も同じく集中力が切れたのか、お喋りなんぞに興じている。


あ~~……長閑な日曜日ですなぁ……

何て事を考えながら、机に突っ伏してまどろんでいると、

「初恋かぁ」

と、美佳心チンの声。

どうやら皆で、勉強そっちのけで恋だの愛だのシュガーな話しに花を咲かせているらしい。


やれやれ、年頃の女の子ってのは妖精と同じだね。

そー言った類の話がホンマに好きですなぁ……

俺は目を瞑りながら、静かに苦笑を溢す。

しかし初恋談義ですか……

皆さんお年頃ですから、初恋の一つや二つ(普通一つしかないが)ぐらい、あるんでしょうなぁ。


美佳心:「初恋は、確か小3の頃やったかな?クラスの担任やねん」


あ~……良くあるね、そーゆーの。


美佳心:「その担任、チビでデブでハゲててなぁ」


……普通は無ぇーだろ、それ。


美佳心:「今思い出しても、何でアレが好きになったのか、よぅ分からへんわ」

穂波:「ふ~ん……でも、小さい時って意外にそうだよね」


……そうか?


美佳心:「そーゆー榊さんはどうやねん?やっぱ初恋は、コレか?」


コレ?

コレってなんじゃろう?

寝たフリをしているから分からんぞ?


穂波:「え~……違うよぅ」

ウヒョヒョヒョヒョと、気味の悪い笑い声。


穂波の初恋ねぇ……ま、俺は知ってるけどな。


穂波:「私の初恋はねぇ……幼稚園の時、ずっと一緒だったクマの大三郎だよぅ」

美佳心:「へ、へぇ~……それ、ヌイグルミなん?」

穂波「そうだよぅ。本気で愛してたんだよ」


つまり、昔からアカン子だった。と言うわけだね。


穂波:「でもね、そのヌイグルミ……洸一っちゃんが燃やしちゃったの」


……確か、背中のチャックを開けて中に爆竹を一箱入れてやったんだよなぁ。

盛大に燃えて、面白かったわい。

もっとも、その後でお袋に思いっきりブン殴られた苦い思い出があるけどな。


穂波:「あの時は、本気で洸一っちゃんを殺そうと思ったよぅ」


園児の時に既に殺意を持っていたのかよ……


まどか:「へぇ~……ま、洸一は昔から洸一って事ね。そう言えば姉さんの初恋も……確か幼稚園の頃だったっけ?」


……なに?

のどかさんの初恋だと?

俺は腕枕で机に伏したまま、全神経を耳に集中させる。


のどか:「……アレイスター・クロウリーです。写真でしか見た事がありませんが……」


相変わらず、のどかさんらしいですなっ!!

ってゆーか……それは初恋って言うか、単なるファンじゃないのか?

・・・

ま、初恋の相手がアニメ美少女の俺が言うのも何だがね。


まどか:「姉さんらしい初恋ね。あ、そう言えば優の初恋は……確か大山クンだったっけ?一緒の道場にいた」

優チャン:「ま、まどかさんっ」


……大山くん?

誰だ?

マスか?空手のマスの事か?


真咲:「ほぅ……小学校の時に通っていた、あのひょろ長い奴が好きだったのか?」

優チャン:「あぅ……初恋って言うか、その……色々と優しく教えてもらってたし……でもでも、大山さんは、その……実は二荒先輩の事が好きだったみたいで……」

真咲:「私か?」


ほぅ……


真咲:「それは気付かなかった」

まどか:「私は何となく気付いてたわよ。でもアンタは、毎日お構いなしに大山くんをボコボコにしてたし……見ていて凄く可哀想だったわ」


……恐ろしい話だ。

その大山君、今ごろ女性不信になってなきゃ良いけど。


真咲:「む、そんな事を言われてもな…」

まどか:「ま、アンタはそーゆー事に鈍いからね。ここで寝てる馬鹿と同じで」


……それ僕のこと?


真咲:「ふん、そう言うお前はどうなんだ?初恋はいつだ?」

まどか:「小学校の時かなぁ?家庭教師の大学生に、初恋って言うか……ちょっと憧れていたわ」


ほぇ~……意外に無難な恋ですな。


まどか:「でもある日ね、なんか腕相撲やってて……それでその先生の腕を折っちゃって……それっきりなの」


お、おいおいおい、何か凄ぇ話になったぞ?

おっかねぇよぅ……


真咲:「子供の時は、力の加減が分からないからな」


そして問題の論点がずれてるし……


まどか:「で?そーゆー真咲の初恋は何時なの?やっぱ小学校ぐらいなの?」

真咲:「……いや、記憶にはないな。そもそも男を好きになるとかは、今まで無かったような……」


ほぅ……さすが真咲姐さん。実に硬派ですなっ!!

・・・

って、今まで?

今までって事は……今は好きな男がいるってことか!?

や、そう言えば前に金ちゃんも言ってたし……一体誰だ???


まどか:「ま、アンタらしいわね」


え?それでお終い?

もっと深く聞けよ。気になるじゃねぇーか……


その後、初恋の話云々は続き……俺は悶々としながらも、何時しか本当に爆睡。

起きたのは夕方。既に解散の時間だった。


さ、明日からは期末テストだ。

いっちょ頑張りますかねぇ。

・・・

ところで、ゲーム本当に返して貰ってないんだけど……マジで没収なのかな?







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