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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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ヤング・ワン



★6月29日(水) 


 期末テストに向け、美佳心チンのノートをコピーしたり何だりで、気が付いたらあっと言う間に昼休み。

俺は購買で買ったパンを片手に、ブラブラと中庭へ。

そしていつもの奥まったベンチに、いつもの様に座る御令嬢様を発見。

お弁当は既に食べ終わったのか、何やら文庫本らしきものを読んでいる。


「よ、のどか先輩。今日もまた、ボチボチと暑い日ですなぁ」

俺は彼女の隣へ腰掛けた。

のどかさんはコクコクと頷き、再び手にした本に視線を落とした。

「……テスト勉強ですか?」

俺は紙袋の中から、新発売の『デラックス唐揚げ焼きそばパン~和風味~』を取り出しながら尋ねる。

新製品にも関わらず、何故か大量に売れ残っていたけど……どんな味がするんじゃろう?


「……」


「……のどか先輩?」


「本を読んでおります……」

のどかさんはそう言って、その文庫本の表紙を俺に見せた。

そこには、何やら妙に美形の男女がお互いに見つめ合っている、見ているだけで無性に背中が痒くなり、あまつさえムカつくような……そんなイラストが描かれていた。

暗黒系魔導士であるのどかさんの読み物としては、非常に似つかわしくない気がする。


「……何スか、これ?」

俺はパンを齧りながら尋ねる。

ちなみに新発売の惣菜パンは、なんちゅうか……申し開きの出来ない味だった。


「……ラブ・ロマンス」

のどかさんは呟いた。

「とある貴族の令嬢とその使用人が、禁断の愛ゆえに駆け落ちをする物語です」


「う、う~わ~……ベタな展開の小説ですな」

どーせ最後は、どっちかが死ぬか、はたまた二人とも死んじゃうか……そんな話でしょうな。

どうせなら、お互いに力を合わせて世界を征服するとか、そーゆーワクワクする話の方が良いよね。

・・・

ま、それは既にラブロマンスじゃねぇーけどな。


「ベタ……ですか?」


「良くある話っスよ」

俺は苦笑を溢し、紙パックのカフェオレを一啜り。

「しっかし、珍しいですねぇ。のどか先輩が、そーゆー恋愛小説を読むなんて……」


「……まどかちゃんの部屋にあったので、拝借してきました」


「へ?まどかですか?」

それはまた大笑いと言うか、少し怖いな。

「へぇ~……あの馬鹿、こんな恥ずかしい本を読んでるんですか?」


「まどかちゃんに、少し失礼です…」


「いや、だってそーでしょう?アイツ、妙に現実的って言うか、クールじゃないですかぁ」


「それは洸一さんの偏見です」

のどかさんは困ったような顔で、俺を見つめた。

「本来のまどかちゃんは、乙女なのです。ステキな恋に憧れる、純な乙女なんです」


それはどこのまどかちゃんだ?

「そうっスかぁ?素のアイツは、単なる野蛮人だと思うんですがねぇ」

もしくは対人攻撃能力に特化した究極生物だ。


「で、のどか先輩。その本はどーですか?面白いですか?」


「ドキドキします…」

のどかさんは本を抱え、うっとりとした眼差しでそう呟いた。

「試練を乗り越えた、究極の愛を感じました」


「そうなんですか?」

うぅ~む、男の俺には分からん世界だね。


「洸一さん」


「ん?何すか?」


「私も、駆け落ちをしてみたいです…」


「真顔な顔で何を言うてるんですか?」


しっかし、まどかがこーゆー本を愛読しているとはねぇ……

そう言えばあの馬鹿、ヌイグルミにキルヒアイスとか名前を付けてたし……本当にのどかさんの言う通り、あいつは夢見がちな女の子かもしれないな。

だとした俺は……

思いっきりからかってやろう。

わははははは♪



★6月30日(木)


放課後……

俺は図書室に来ていた。

いや、正確には拉致同然に連れて来られていた。

美佳心チンや穂波。そして智香を交えてテスト勉強をする為だ。


「うへぇ……混んでますのぅ」

図書室はいっぱいだった。

来週から期末テストが始まるせいか、皆さん黙々と勉強をしている。

ウチの学校の場合、中間テストと期末テストの平均値が規定の点数に達してないと、漏れなく夏休みの強化補習と言う有り難くない特典が付いてくるので、みんな必死なのだ。

「ま、俺様の場合は、中間テストがそれなりに良かったから、期末テストはちょいと手を抜いても楽勝じゃのぅ」


「なにアホなことヌカしてんねん」

美佳心チンが裏拳で俺のボディを叩く。

「中間より、更にエエ点数を取ったるっちゅう向上心を持たんかい」


「え~……僕ちゃん、そんな大それた望みは……」


「アホか。洸一クンの事や、手を抜いたら間違いなく0点やで?そしたら補習決定やないか」

椅子に座りながら、美佳心チンは俺を睨んだ。


「0点はさすがにねぇーだろぅ。俺はの○太か?」

ってゆーか、の○太って小学校のテストで0点を取ってたんだけど……

普通は取らねぇーよなぁ。

ぶっちゃけ、頭が悪いとかそんなんじゃなくて、単なる知恵遅れだよ。


「なにボーッと考えてるねん。ほれ、さっさと座りーや」


「へぇへぇ…」

俺は美佳心チンに急かされ、面倒臭げに椅子に腰掛けた。

穂波や智香もそれに習う。


「期末テストまで後少しや。ががが頑張るでぇ~♪」


「お手柔らかに…」

俺は肩を竦めた。


やれやれ、本当に面倒じゃのぅ。

でもまぁ、素晴らしき夏休みを満喫するためにも、美佳チンの言う通り、少しは頑張らないとな。

俺はポリポリと頭を掻きながら、教科書とノートを広げる。

教科書は殆ど広げた形跡が無いし、ノートに至っては何故か新品だ。

我ながら、男らしいほど勉強してねぇーなぁ……

何て事を考えながら、ふと視線を上げると、智香の馬鹿が必死こいて勉強していた。

穂波に教わりながら、鬼のような形相でノートを取っている。


「……えらく真剣だな、智香」


「黙っててよっ!!」

智香はキッと俺を睨んだ。

「今度のテストで良い点取らないと、夏休み補習になっちゃうじゃないのッ!!」


「お、俺に当たるな。自業自得だろうが……」

そう言えば智香は、中間テストで全科目赤点と言う、THE馬鹿の代名詞に相応しい点数を取ったんだよなぁ……

さすが、期待を裏切らない女だ。

「頑張るのは結構だが、少し無理じゃねぇーか?」


「う、うっさいわねぇ…」


「だってよぅ……お前の場合、補習を回避するには今度のテストで全科目、中間テストの倍以上の点数を取らなきゃならんのだろ?僅か一ヶ月ちょいで、そこまで脳が進化しているとは思えんが……」


「で、出来るわよ。この智香ちゃんを甘く見ないことね、コーイチ」


「甘くは見てねぇーよ。馬鹿にしてるだけだ」


「くっ…ぐぎぎぎ……」

智香はギチギチと歯を鳴らし、心底悔しそうに、まるで親の仇のように俺を睨み付ける。

うむ、何て気持ちが良いんだか……わはははは。


「ほれ、洸一君も遊んどらんで、このテキストやってみーや」

委員長様が問題集を手渡した。

何やら見たことも無い記号や文書が、嫌がらせのように羅列してある。


「……わ、分かんねぇーなぁ……ちと難しいですなッ!!がははは♪」


「毎日遊び呆けてるからや。とことん、アホな男やな」


「不思議と、あまり遊んだ記憶が無いんじゃがのぅ。色々と殴られたり蹴られたりした記憶は、ハッキリ残っているんだがな」

ま、何はともあれ……

赤点を取らない為にも、少しは真面目に勉強しますかな。

何しろこの神代洸一、やれば出来る子じゃからのぅ。

こんな問題、ちょちょいのちょいだぜっ!!


「……アホかっ!!いきなり最初から間違えとるやないけッ!!」


「あ、あれ?」

ぬぅ……ちと前途多難ですな。



★7月1日(金) 


今日も今日とて、休み時間に美佳心チンにみっちりと期末テストへ向けての勉強をさせられつつ、気が付けばあっという間に放課後。

俺は速攻でお家に帰り、着替えてまた速攻で駅前のショッピング街へ。

何を買いに来たのかと言えば……もちろん、ゲームだ。かっこ笑い。

今日は金曜。毎週、新作ゲームが発売する日なのだ。

ただ、ゲームと言っても、餓鬼どもがプレイする軟弱なゲームには非ず。

ゲーマーの心を鷲掴み、ついでにチ○チンも掴んじゃうような大人のゲームなのだ。


「うぅ~む……また買ってもうた」

俺はゲームの入ったビニール袋を鞄の中へ仕舞い込みながら、独り苦笑を溢した。

今回は、殆ど衝動買いみたいなものだった。

別に期待の新作や予約していた商品も無いから、テキトーに商品を眺めつつ、これだっ!!と思った物を買ってしまったのだ。

所謂、ジャケ買いと言うヤツだ。

ちなみにタイトルは、『陵辱・格闘娘~ボクの淫靡な復讐~』と言う、何だか凄くダメそうなタイトル。

俺の本来の嗜好としては、ギャグお及び純愛系で、こー言った黒い箱に入っているダーティーなゲームは普通だったらスルーする所なんだが……

『いつも学園の格闘娘達に殴られているボク。だけどボクだって男なんだ。男の本気(下半身)、見せてやるぜっ!!』

と言う、妙にリアリティ溢れるコピーに心動かされ、買ってしまったのだ。

それに、一応は純愛ルートみたいなモノもありそうだし……

何より、格闘娘にお仕置きなのだ。

なんちゅうか、微妙に現実世界とリンクしていて、ストレスが発散できそう……そんな気がしたのだ。


「しっかし、何でテスト前に買っちゃうのかねぇ」

俺は駅前公園から商店街に向かって歩きながら、独りごちる。

ま、取り敢えずインストだけしておいて、プレイするのは期末テストが終わってからにしようかのぅ。

何て事を考え、ブラブラと歩いていると、

「あれ?洸一?」


ふにゃ?

振り返ると、ストレスの元凶その一である格闘娘、喜連川さん家のまどかがそこにいた。

後輩のみなもチャンも一緒だ。

二人とも、学校帰りか制服のままだ。

「よぅ、まどか。それにみなもチャン」

俺は片手を上げて気さくに挨拶。


「何してんの洸一?」


「ん?買い物だよ。今から夕飯の食材を買いにな(嘘)。そーゆーまどか達は、何か買いに来たのか?」


「うん、みなもの参考書をね。ウチの学校も洸一と同じで、来週から期末テストなんだけど……みなも、ちょっとヤバそうだからさぁ」

まどかはそう言って、相変わらずポーッとしているみなもチャンの頭に手を置く。


「ふむ……なるほど」

みなもチャン、頭の基本性能は良いんだけど、どうも集中力と熱意に欠けるからなぁ……


「……師匠」

そのみなもチャンは、俺の服の裾をクイクイッと引っ張り、

「ジュース」

いきなりねだる。

相変わらずだ。


「あ~…分かった分かった。ジュースぐらい、奢っちゃる。何しろ俺はナイスガイだからな」

もっとも本当のナイスガイは『陵辱・格闘娘~ボクの淫靡な復讐~』何て言うソフトは絶対に買わないと思うが……それはそれだ。


「ところで洸一」


「んにゃ?何じゃまどか?」


「明日なんだけどさぁ……また一緒に、洸一の家で勉強しても良い?」


「ん?別に構わんぞ。どーせ他の皆も、来ると思うし……」


「そうなの?」


「さぁな。でも多分、来るんじゃねぇーか」

俺はジュースを買いに、歩き出しながら答える。

「何か知らんけど、俺の家に集まるのが好きみたいだしな」


「そうね」

と、まどかが顔を綻ばす。

「洸一の家って居心地が良いって言うか……気兼ねしなくて済むからね」


「少しは気兼ねしろ」

ま、そんなこんなで、明日は勉強会だ。

まどかとみなもチャンがやって来る。

そしておそらくは……他の皆も来るだろう。

うぅ~む……

俺がもし、エッチゲームの主人公なら、ハーレムエンドへ向けて千載一遇のチャンスなんだが……

どーせ明日も、理不尽な要求の上に殴られたりするんでしょうなぁ。

洸一チン、もう慣れっこだよ。

それに今の俺には、このエッチゲームがあるからな。

悔しさを画面の中で晴らしてやるぜッ!!

・・・

あぁ、少し情けない……







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