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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
32/53

洸一のキューピッド大作戦



ってなワケで、友である金ちゃんの恋のキューピッド役を買って出た俺は、色々と思案を巡らせながら、昼休みで賑わう校舎をブラついていた。


しっかし、まさかあの金ちゃんがねぇ……

蓼食う虫も好き好き、とは言うけど、跡部は天然……と言うか、穂波とは違う意味で何か人として根源的に設計図が狂ってる女の子だからなぁ……

何て事を考えていると、早速にその跡部を発見した。

もちろん、いつもの面子である長坂と小山田も一緒だ。


ふむ……

やはり、将を欲すれば馬からの例え通り、あの二人にも協力してもらうか。

何しろ跡部が相手だと、さすがの俺様でも難しそうだからのぅ。


「……よぅ、お三方。今日もエエ天気でゲスなぁ」

俺は片手を上げ、気さくに彼女達の元へと歩み寄った。


「あ、神代君」

ニコッと微笑む長坂に、

「なに?何か用?」

慢性的不満顔の小山田。

そして跡部は……

「うひひひひひ♪」

ただひたすらヤバイ笑みを溢していた。


な、なんだかなぁ……

コレのどこが良いんだ?

金ちゃん、何か脳にダメージでも受けて、視覚障害にでも陥ってるんじゃないのか?


「いやぁ~……そう言えば、来週はいよいよ期末テストじゃのぅ」


「な、何を藪から棒に…」

と小山田。

「だいたい、神代の口から期末テストなんて言う単語が出て来るなんて……なに?もしかして伏原の奴に何か嫌味な事でも言われたの?」


「いや、そーゆーワケじゃないけど……」

ってゆーか、あの赤い稲妻が嫌味を言うだけで済むワケないっつーの。

「実はよ、なんちゅうか……今日さ、僕ちゃん隣のクラスの金ちゃんと一緒に、テスト勉強をしようと思ってるんじゃが……」


「金ちゃん……って、金田君のこと?」


「そ。んでさ、良かったら小山田達も……その……一緒に勉強しないかい?」


「えっ!?」

小山田と長坂は驚いたようにお互いに顔を見合わせ、跡部は相変わらずポヤーンとした顔で俺を見つめながら、

「それって、神代クンのお家で?うひひひひ」


「ま、まぁな。俺の家なら邪魔も入らないし……」


「行くわっ!!」

長坂が俺の言葉を遮りながら叫ぶように言った。

「神代君と一緒に、勉強するわ」


「それは有難い。跡部もOKか?」


「ダイセーレッ!!」


「……何故にアー○語が飛び出すのか分からんが、肯定なんだな?」


「モチのロンでザンクです。千、二千持って集合」


何を言ってるんだ?

「そ、そっか……で、小山田はどーする?」


「……神代の家なんかに行ったら、妊娠させられそうで嫌だけど……長坂達が行くんなら、仕方ないわね。特別に行ってあげるわ」

と、特殊兵装である大きなツインテールをギチギチと動かしながら(どーゆー原理で動いているのか未だ未知)小山田はエラソーに言った。

少々ムカつくが、ここは友の為に我慢我慢、と俺は自分に言い聞かせるのだが……


「あら?別に……無理して来なくても良いよ?」

と、リーダー格の長坂。

「嫌々勉強しに来られたら、神代君だって迷惑だと思うし……」

「……」

小山田の顔付きが変わった。

細い目を更に細め、ツインテールの照準を長坂に合わせる。

そして一方の長坂はと言うと……これまた目を細め、小山田を冷ややかな目つきで睨んでいた。


お、おや?なんじゃろう……この殺伐とした空気は?

俺を挟み、二人の間に冷たい空気が漂っている。

まるでまどかと真咲姐さんに囲まれた時の雰囲気にソックリだ。

もっともそんな俺達の前を、跡部だけはウヒウヒ笑いながらクルクルと踊り回ってるのが、なんともまぁ……実にアカン子らしいのだが。


「じ、じゃあともかく、今日の放課後、俺様の家に集合な。俺の家は……知ってるよな?」


「……まぁね」

長坂から視線を外さずに、小山田は頷いた。

「着替えたら、神代の家に行くわ」


「お、おう、了解した。じゃ、そーゆーワケで……」

俺はそそくさとその場を後にする。


いやはや、取り敢えず作戦の第一段階は成功と言えるが……怖かった。

トリプルナックルの面々は、一見すると仲良さそうに見えるが……実際はそうでもないらしい、と言うのが何となくだが雰囲気で分かった。

特に長坂と小山田の友情は、危うい均衡の上に成り立ってるような、そんな気がする。

ま、理由は分からんが、アイツ等にも色々と悩みとか問題が、あるんでしょうなぁ。

・・・

跡部には、なーんにも無さそうだがな。



<洸一キューピッド大作戦/ザ・ルーム>


と、言うワケで、俺は学校が終わるや、そのまま逃げるようにしてお家に帰宅。

何しろ、今日は学園の禁忌であるトリプルナックルの面々と一緒にお勉強するのだ。

金ちゃんの為とは言え、こんな事が委員長様の耳にでも入った日には、俺は顔の造詣がキュピズム化するほどブン殴られるのは目に見えている。

だからここは細心の注意を払い、今ミッションは秘密裏に進めなければならないのだ。


「さて、こんなモンか」

自分の部屋に小さなテーブルと座布団を並べ、取り敢えず勉強できる準備が整うと同時に、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴り響いた。


ん?来たか…

階段を降りて行くと、玄関には金ちゃんの姿。

いつもの某探偵のような小汚いファッションではなく、こざっぱりとした清潔感漂う服に身を包み、髪もボサボサのロン毛ではなく綺麗に梳いた金ちゃんを見て、どこか並々ならぬ決意を感じることができる。

うぅ~む……

自分のポリシーに反する格好をしてでも、何とかあの跡部に好かれようと言うのか。

多嶋の馬鹿もそうだったが、いやはや……恋する男ってのは凄いですなッ!!

相手が跡部って言うのが、ちょいと致命的と言うか根本から間違ってるような気もするがな。


「よぅ、金ちゃん。ま、上がれよ」


「お、おう…」

金ちゃんは靴を脱ぎ、いそいそと俺の後に続いて二階へ上がる。

「な、何か悪いな洸一。色々と骨を折ってもらって……」


「気にするな」

俺は軽く肩を竦め、自分の部屋へと誘う。

「取り敢えず、今日は俺様の部屋で勉強をしようと思っちょるんだが……」


「洸一の部屋でか?」

金ちゃんは少しだけ眉を顰め、ぐるっと部屋の中を見渡す。

「な、なんか……相変わらず、色んな意味でマニアックなモノが置いてある部屋だけど……恥ずかしくないのか?女の子が来るんだぞ?」


「全然。ベッドの上に空気で膨らます口を開けた大きなお人形が転がっていたら、かなりアレだと思うが……そーゆーモノは無いから、別に少しも恥ずかしくはないぞよ?」


「……美少女フィギュアが飾ってあるだけで、かなりダメだとは思うんだが……」

金ちゃんは苦笑を溢した。

「それに、少し狭くないか?僕はてっきり、一階の居間で勉強するものと思っていたんだけど……」


「狭い方が良いじゃねぇーか。密着度が増すしな。金ちゃんも、その方が跡部にアタックしやすいだろうに」


「ま、まぁ…」


「それにだ、俺の部屋だと……ほれ、すぐ横にベッドがあるぞよ。フラグの立て方によっては、あっという間に攻略出来たりしてな。わははははは♪」


「あ、あのなぁ。そんなしょっぱいゲームみたいな展開、あるわけ無いだろ」

金ちゃんはガックリと肩を落とした。

そしてどこか非難めいた視線で俺を見やり、

「洸一……何か少し、楽しんでないか?」


「な、何を言うっ!?面白そうだからって、俺がこんな危険な橋を渡ると思うか?何しろ、トリプルナックルを家に呼ぶんだぞ?こんな事が特定の女達に知られてみろ……俺様の前には、絶望的な未来しか残されないんだぞ?」


「……伏原さんとかか?」


「先ず間違い無く、俺は簀巻きにされて川に放り込まれるな。何しろ我が委員長様とトリプルナックルの間には、パレスチナ問題より根深い怨みが漂っているからのぅ」


「そ、そっか…」


「だからこそ、金ちゃんには是非に頑張って欲しいんだぜ」

言って俺は、友の肩を軽く叩いた。

金ちゃんはどこか力無く、ははは…と笑う。


むぅ……大丈夫か?

金ちゃん、こーゆー事に慣れてなさそうだし……

ここは一つ、この硬派だけど何故かドンファンと呼ばれている俺様が、最後まで面倒を見てやらねばなるまいて。

何て事を考え、決意も新たにしていると、玄関から再び響くチャイムの音。


「き、来ちゃったよ、洸一」


そりゃ来るだろう……

「ビビるな金ちゃん。先ずは俺様が出迎えるから……金ちゃんは大人しく、部屋で待っていろ」

そう言って俺は、情けない顔をしている友をそのままに、部屋を出たのだった。



<洸一キューピッド大作戦/闇から呼ぶ声>


ピンポーン……と鳴る玄関チャイム。

「さて、いよいよですな」

俺は呟き、扉を開ける。

ぬぅ…

目の前に、私服に身を包んだトリプルナックルの面々が、勢揃いしていた。

青を基調とした、ジーンズに半袖シャツと言う夏らしい格好の長坂に、赤を基調としたコケティッシュな洋服の小山田。

それはまぁ良い。

私服姿の彼女達を見るのも久しぶりだが、それなりに似合ってる。

これで性格が良ければ、可愛い系の女の子、と言うことで、多少なりともモテると思うのだが……

問題はアカン子である跡部だ。

相も変わらずな、どこかヤバいセミナーからの帰りみたいな不可思議な笑みを浮かべているのだが……

その、黒を基調としたゴスロリな服は一体なに?

スカートも、何かフリフリがいっぱい付いて、不思議の国のお姫様みたいな感じなんだけど……

そんな格好で、俺の家まで来たのか?


「よ、よう……早かったな」

取り敢えず俺は、玄関先に佇む彼女達を、家の中に招き入れた。


「お、お邪魔しまーす…」

と、珍しくどこか緊張した面持ちの長坂。

小山田も、ニュータイプ専用ツインテールを落ち着き無くワキワキ動かしながら、

「神代の家に来るのって……初めてだよね」


「そう言えばそうだな」

俺は来客用のスリッパを並べながら答える。

「ところで跡部」


「……ふにゃ?」


「一つ尋ねるが……そのゴシックでロリータな服は、一体何の冗談だ?どこぞの喫茶店でバイトでもしてるのか?」


「神代君が何を言ってるのか分かりません」

跡部はそう言うと、いきなりクルクルと回りだし、

「神代君の家に来るから、お洒落してきたんです」


「そ、そうなのか?俺はてっきり、新作の嫌がらせだと思ったんだが……それ、恥ずかしくないか?」


「全然」

跡部は真面目な顔でそう言うが、一緒にやって来た小山田と長坂は、ガックリとうな垂れていた。


うぅ~む……

こりゃちょいと、金ちゃんには厳しい戦いになるかも……

「ま、まぁ……ともかく、上がってくれぃ。今日は俺の部屋で勉強をしようと思っているんだが……って、跡部?」

ゴスロリ衣装に身を包んだトリプルナックルの秘密兵器は、いきなり家の中に上がるやスリッパも履かず、トテテテと足音を響かせながらキッチンへ赴き、そしておもむろに冷蔵庫を開けるや、

「神代くぅ~ん。ジュース飲んで良い?」


「……好きにしろ。つーか、いきなり人の家に来て冷蔵庫を探索するのは、一般人としてどうかと思うが……」


「オレンジジュースとメッコールを発見。神代君、グレープフルーツは無いの?」


「……聞いてねぇよ、この子」

俺はトホホな溜息を漏らした。

そしてジュースを手にした跡部の頭を掴みながら、小山田と長坂を誘い、二階へと案内する。


「ところで神代。金田君は……もう来てるの?」

と、小山田。


「あぁ、ついさっき来て……もう、勉強を始めてるんじゃないか?」

俺は言いながら、自分の部屋のドアを開ける。


「……やぁ」

テーブルに向かって座っていた金ちゃんが、走らせていたペンを止め、俺達に向かってニヒルな笑顔を溢した。

如何にも、今や遅しとこのポーズのまま待ってました、と言わんばかりの素人臭い演技。

洸一チン、思わず腹を抱えて転がりそうになるが……ここはグッと我慢だ。


「ささっ、汚い部屋だけど、遠慮無く入ってくれぃ。……って、跡部は?」

気が付いたら、跡部の姿が無かった。

俺は慌てて廊下に出て、周りを確認。

すると、隣の部屋の扉が開いているではないか。


あの馬鹿……園児か?

本当に落ち着きが無い奴じゃのぅ。

「おい跡部。そっちじゃなくて、俺の部屋はこっちだぞ」

言いながら隣の部屋を覗くと、跡部は手にしたジュースを何故か天に向かって掲げながらその場に跪いていた。

目の前には、相変わらず俺に無断で設置してある、のどかさんお手製の禍々しい祭壇。

「……何してんだお前?」


「お祈り」

ゴスロリな跡部は即答した。

「この祭壇からね、呼ばれたような気がしたの」


……なるほど。

これが類は友を呼ぶと言うヤツかな?

「そ、そっか。何に呼ばれたのか考えたくも無いが、取り敢えず俺の部屋は向こうだ。早く行くぞ」


「うん」

跡部は素直に頷いた。

「でも神代君。声が聞こえたよ」


お、おいおい……

「ほぅ……どんな声だ?」


「え~とねぇ……小さな声で『女の子を家に連れ込む神代さんには、お仕置きが必要です』って聞こえたの」


「……」


「どうしたの神代君?顔が蒼いですよ?」


「な、何でも無い。ともかく、俺の部屋へ行っててくれぃ。俺様はちょいと、暗黒女神様に電話で事情を説明してくるからな。わははは……」



<洸一キューピッド大作戦/からっぽの世界>


どうして知っているのか、と言う根本的な事は考えないようにしながら、俺はのどかさんに、電話で今までの経緯を事細かく説明し、疲れた体を引き摺る様にして部屋に戻ると……

「おいおい、何してんだよ」

皆さん、勝手気侭に振舞っていた。

小山田はタンスの上に並べてあるプラモ関連の俺様コレクションをジーッと見つめているし、長坂は書棚を漁っている。

跡部に至っては勝手にCDを掛けているのか、ヘッドフォンをしながらまるで暗黒舞踏のような奇妙な踊りを繰り広げていた。

ちなみに金ちゃんは、そんなゴスロリ衣装な跡部に照れているのか、赤面しながらただ俯いているだけだった。


な、何だかなぁ……


「ねぇ神代」

小山田が興味深けに俺様のコレクションの一つであるフィギュアを手に取り、

「アンタ、いい歳してこーゆーオモチャを集めるのが趣味なの?」


「オモチャって言うにゃっ!?」

ま、実はオモチャなんだが……

「男って言うのは、幾つになってもプラモとかそーゆーのに興味があるんだよ。女だって、エエ歳してヌイグルミとか買ってるじゃねぇーか……それと同じだ」

大人の男と少年の違いはオモチャの値段だ、と誰かが言っていたしな。


「じゃあ、こーゆーのは?」


ん?エロゲ系のフィギュアか。

「……そーゆーのは、芸術と言うのだよ、チミィ」

やれやれ、これだからロマンの無い女は……

「さて、みんな遊んでないで……期末テストに向けて勉強するぞ。……聞いてるか、跡部?」


「聞いてますよ」

跡部はヘッドフォン外しながら答えた。

そして数枚のCDを手に取りながら、

「神代君の趣味は、中々に良いです。誉めて上げます」


「そ、そりゃどうも」


「ジャックスのファーストアルバムを持ってるなんて、良い意味でマニアックです」


「まぁ、古いのは好きだからな」

ってゆーか跡部……早川義夫を知ってるのか?

侮れないヤツめ。

「で、そーゆーお前は何を聞いてたんだ?ノリノリに踊っていたぞ?」


「実は何も聞いてないですよ」


「あ、あらそう…」

純粋に踊っていただけなのね。

・・・

困ったぐらい、脳みそがウィットですなぁ。



なんやかんやで結構ドタバタしてたものの、ようやくにテスト勉強が始まった。

もちろん、本来の目的はテスト勉強にあらず、金ちゃんの好感度をUPさせて、何かしらラヴなフラグを立てようと思ったのだが……


ぬ、ぬぅ…

跡部の隣に座っている金ちゃんは、緊張しまくりでそれどころじゃなかった。

まるで石仏のようにただジッと固まっている。

ちなみに俺の両隣りは、長坂と小山田だ。

二人とも事ある毎に、「神代君。ここ教えて」だの「神代。これ分かる?」だの……

そんな事、こっちが聞きたいぐらいだ。

何しろ俺は、まだテスト範囲すら理解してねぇーのにね。


しっかし、金ちゃんも情けない男じゃのぅ……

俺様がわざわざセッティングしてやった、『ドキドキ・手取り足取り勉強を教えちゃおう大作戦』を、無にするつもりなのか?

跡部はアカン子だから、頭の良い金ちゃんが面倒を見てやって好感度アップ、と言う筋書きだと言うのに……


俺は溜息を吐きながら、何気に目の前に座る跡部を見やる。

「~♪」

彼女は鼻歌混じりに、何か得たいの知れないモノが憑依したかの如く体をゆらゆらと動かしながら、テキストに向かってペンを走らせていた。

落書きでしているのだろうか?


「……跡部。何してんだ?」


「物理ですよ神代クン。ひょひょひょひょ♪」


「物理?俺には園児が落書き帖に何か書き殴っている風にしか見えんが……」

首を伸ばし、跡部の手元を見る。

……ぬぅ。

予想外に綺麗な字で、テキストの空欄が埋められていた。

しかも何か……正解っぽい感じがする。


お、おいおい……マジかよ?

首を捻る、俺。

と、そんな俺を見て長坂が囁くように、

「跡部は、あー見えて勉強は出来るんだよ。この間の中間も、学年で10位内に入ったみたいだし……」


うそーーーーーんっ!?

この誕生した時からどこか脳に初期不良がありそうな跡部が、実は神の摂理に反して頭良い子チャンだと言うのか?

「そ、そうなのか跡部?」


「ふにゃ?」

跡部は顔を上げ、ポヤーンとした笑みを浮かべると、

「中間テストは7位で御座る。ニンニン」


……とてもそうは思えない。

「そ、そっか」


「特に物理は好きです」


「ほ、ほぅ……どうしてだ?」


「アインシュタインみたいだから」


「……なるほど」

全然、分からん。

が、跡部が出来る奴だと言うのは理解できた。

これは想定外の事態だ。

これでは、折角の作戦が台無しではないか。


むぅ……どうする金ちゃん?

ってゆーか……

跡部に勉強で負けてるって言うのは、洸一的に何か理不尽で悔しいぞ?



<洸一のキューピッド大作戦/中辛大盛り>


さて……

チラリと壁に掛かっている時計に目をやると、時刻は既に16時を半ばほど回っていた。

窓の外にも、夕焼け空が色濃く広がっている。

「……ところでみんな、今日はどーする?」


「どうする……って、何が?」

小山田がペンを止め、首を傾げた。


「いや、なんちゅうか……もうちょっと勉強をするか?それとも、時間も頃合だし……夕飯でも食ってくか?」


「え?いいの?」

小山田は目を丸くし、長坂と顔を見合わせて軽く頷くと、

「じ、じゃあ……ご馳走になっても、良いわよ」


「OK。……跡部は?」


「カレーライスッ!!福神付き」


「……既にメニューまで決定ですか」

俺は苦笑を浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。

そして腰の辺りをトントンと叩きながら、

「んだば、今から買い物に行って来るけど……小山田に、それと長坂。悪ぃけど、付き合ってくれるかなぁ?」

俺がそう言うや、何故かいきなり金ちゃんが立ち上がった。

そして俺の肩に手を回しながら、囁くような小声で、

「ここ、洸一……ちょっとこっちへ……ちょっと……」

と、廊下へ誘う。


「な、なんだよ金ちゃん」


「ぼ、僕を置いてかないでくれよぅ」

金ちゃんは泣きそうな顔になった。


「……はぁ?」


「だ、だって……跡部さんと二人っきりになるなんて……ぼぼ、僕はどうしたら良いのか……」


「あ、あのなぁ」

俺はガックリと項垂れながら、そんな彼の肩を軽く叩いた。

「俺はワザと、お前達を二人っきりにしようとしてるんだぞ?なにビビってるんだよ」


「そ、そうなのか?」


「ったり前だ。先の作戦(ドキドキ・手取り足取り勉強を教えちゃおう大作戦)が失敗した今、大本営は次の作戦へと移行しました」


「次の作戦って……」


「その名も、『ワクワク・二人っきりの甘い空間大作戦』だ。分かるだろ?俺様が余分なのを連れて席を外してやるんだ。その間に、何か気さくなトークで好感度UPを狙うんだよ」

もっとも、まともな会話が成り立つ可能性はかなり低いと思うが……

「だから、金ちゃんは積極的に話し掛けろよ?10個も話題を振れば、その内1つぐらいは食い付いて来るかも知れないじゃないか。とにかく、間を置かずに話し掛けることだ」


「そ、そんな事を言っても……」

金ちゃんはヘタレ顔で、オロオロとしていた。


何故だ?

良い意味で度胸がある筈の金ちゃんが、脳のネジが最初から無いも同然の跡部相手に、何故にそうも緊張しちゃうのだ?

それほどに惚れているのか?

・・・

ま、俺も違う意味で、アレと二人っきりだと緊張してしまうが……

「ともかく、俺達はゆっくりと買い物してくるから、金ちゃんはその間に彼女と親睦を深めてくれぃ」


「で、でもなぁ……」


「ほれ、早く部屋に戻るぞ。こんな所にいると、怪しまれてしまうではないか。な」

俺は渋い顔をしている金ちゃんの腰を叩きながら、部屋へと戻った。



俺は長坂と小山田を連れて家を出ると、いつもとは違う方向にある、ちょいと遠いスーパーへ向かって歩いていた。

もちろん、理由はある。

遠いスーパーの方が、金ちゃんと跡部を二人っきりにさせる時間が多く取れるし、何より、いつもの商店街のスーパーへ行くと、バッタリと真咲姐さん等と出くわす危険性があるからだ。


「ねぇねぇ神代君」

隣を歩く長坂が、僅かに首を傾げ、俺を見やる。

「ちょっと聞きたいんだけど……」


「んにゃ?なんじゃ?」


「どーして、私と小山田を誘って、跡部は誘わなかったの?逆に言えば、夕飯の買い物ぐらい、誰か一人でも良いと思ったんだけど……」


ふむ、鋭いね。

「もちろん、理由はあるぞ」

俺は歩く速度を落とし、長坂と小山田を見やる。

「まず第一に、俺はお前達二人と一緒になりたかった。ちょいと話しておきたい事があるしな。第二に、跡部と金ちゃんを二人っきりにさせたかった。以上だ」


「……どーゆー事?」

と小山田。


「つまりだ……」

俺はこれまでの経緯を、掻い摘んで二人に話した。

彼女達は驚きで目を丸くしている。

「……ちゅーワケで、俺は金ちゃんの淡い恋を実らせてやりたいワケなのよ。それには、君達二人の協力も必要なのだ。みんな……オラに少しだけ元気を分けてくれぃ」


「そ、そうなんだ。あの金田君が跡部に……」

と、長坂はコクコクと頷くが、小山田は渋い顔で

「それはちょっと、難しいんじゃない」


「にゃに?俺様に協力するのが難しいとでも言うのか?」

ぬぅ……これは暗に、何かリベート的なモノでも要求しているのか?

・・・

俺様の大切なフィギュアは絶対にやらんぞ?


「違うわよ。神代に協力するのは別に良いんだけど……跡部と金田君をくっ付けるって言うのは、凄く難しいってことよ」


「むぅ……どーしてだ?確かに金ちゃんは、特殊な部類に入る男だけど……根は良い奴だぞ?見た目も普通だし」


「だからぁ……」

小山田は長坂と何やら目配せし、溜息を吐くと、

「あのね神代。跡部には……その……気になる男の子がいるのよ」


「なんとっ!?」

衝撃の事実に、俺は仰け反った。

まさに晴天の霹靂だ。

「そ、それは……知らんかった」


「……でしょうね」


「そ、そっか。ふむ……よくよく考えれば、あの脳の一部分がどっか足りない跡部も年頃なワケだし、好いちょる男の一人ぐらいいても、不思議ではないのぅ」

うぅ~む、こいつは参った。

これはミッションを、最初から練り直さねばなるまいて……

「だがしかし、まだ望みはある。跡部は別に、誰かは知らんけどそいつと付き合ってるワケじゃねぇーんだろ?だったらまだまだ、金ちゃんが入り込む余地はあるわい」


「まぁ、そうなんだけど……」


「うむ。ならば君達二人も、何とか跡部にな、それとなく金ちゃんをアピールしてやってくれぃ。この神代洸一からの頼みだ」


「……アンタがそこまで言うんなら、少しぐらい協力しても良いけど……無理だと思うよ?何せ、目の前にその男がいるんですからね」


「は?それ、どーゆー意味?」


「別に」

小山田はふんっと鼻を鳴らした。

「ただ、相変わらず神代は、唐変木のこんこんちきって話」


「???」

俺は益々、ワケが分からなくなった。



<洸一のキューピッド大作戦/へたれ野郎の哀歌>


小山田&長坂とのんびりと買い物を済ませ、家に帰る頃には既に夕焼け空は西の彼方に殆ど沈み、既に辺りは夜の帳が降りていた。


「腹減ったなぁ…」

俺は苦笑を溢しながら、腹を擦る。

「ちょいと遅くなっちまったけど、アイツ等どーしてるかなぁ?ま、俺的には、金ちゃんの気さくなトークで跡部との仲が一気に縮まっている事を期待しているんじゃが……どーなんだろう?」


「さぁ」

小山田は軽く肩を竦めた。

「跡部に話を合わせるのは難しいと思うけど……でも、ずっと二人っきりって言うのは、少しマズくない?金田君も一応は男だし……」


「そうだな。跡部と一緒にいる内に、金ちゃんの理性が枯渇して大人の階段を一っ飛びしているかもな。……ま、それはそれで俺様的には面白い展開だとは思うが……」

何て事を言いながら、家に着いた俺は玄関の扉を開ける。

「ただいまぁ~♪」


「よぅ、おかえり」

返事を返してきたのは金ちゃんだった。

しかもキッチンから顔を出し、エプロンすら着けている。


「な、何してんだ金ちゃん?」

靴を脱ぎながら、俺。


「何って……カレーを作るんだろ?だから今の内にご飯を炊いておこうかと……」


「ぬ、ぬぅ…」

エロティカルな展開どころか、会話すらせずに何故に飯を?

わざわざ二人っきりにした意味が、まるで無いジャン。

「あ、あのなぁ金ちゃん」

俺はガックリと肩を落とし、溜息を吐いた。

予想外の展開に、小山田や長坂も呆れた顔をしているではないか。

「なんちゅうか……俺達が千載一遇のチャンスをプレゼントしてやったと言うのに、お前はそれほど白米が大事なのか?もしかして前世は、飢饉で死んだ農民か何かか?」


「こ、洸一の言いたい事は、良く分かる」

俺のエプロンを着用した金ちゃんが、難しい顔で頷いた。

「だけど、何て言うのか……彼女は実に掴み所が無いと言うか……会話が微塵も成立しないと言うか……」


「それを何とかするのが、金ちゃんの役目でしょーが。全く……で?その跡部は何してんだ?」


「さ、さぁ?寝てる……んじゃないかな?」


「……はい?」


「いや、さっき『小寝します』っていきなり宣言してたし……」


「お、おやまぁ。そーなんですか」

俺はさらにガックリと項垂れ、買い物袋を金ちゃんに手渡して二階へと駆け上がった。

そして自分の部屋の扉を開け、

「おい跡部。……って、なに俺様のベッドで丸くなってるんだよ」

天然気質に小さじ一杯ほど分裂症が入っている跡部は、俺のベッドの上で、団子虫みたいに丸くなりながら静かな寝息を立てていた。

初めてやって来た同級生、しかも異性の部屋のベッドで心安らかに眠っているとは……ある意味、天晴れである。

ぶっちゃけた話、レイプOKな状況だ。

もちろん、男である以前に紳士である俺様は、そのような不埒な真似はしない。

この場に小山田と長坂がいない状況だとしてもだ。


「お、おい、跡部」

俺はベッドに近づき、変形前のワ○セブン(要塞モード)みたいな格好で寝ている跡部を軽く揺り動かす。

「なに寝てるんだよ……起きろ、跡部」


「……起きました」

跡部はむっくりと立ち上がった。

そしてベッドの上で仁王立ちしながら、

「神代くぅ~ん……金閣寺を買って下さい」


「……はい?」


「……はっ!?少し夢を見ていました」


「……」

どんな夢だ?


「神代君の匂いに誘われて、少しベッドで寝てしまいました」

言いながら跡部はベッドから飛び降り、そして俺をジッと見上げると、

「カツカレーは……」


「いや、今日はただのカレーだろ?ってゆーか、何でグレードUPしてるんだ?」


「神代君。実はここだけの話なんですが、私は人参が嫌いなんです」


「あ、あらそう。……相変わらず、唐突に話が飛びますね」


「でも、キュウリは好きなんです」


「そ、そっか。でもな、カレーにキュウリは入れないぞよ?」



<洸一のキューピッド大作戦/赤いヤツ>


「と言う訳で金ちゃん。次の作戦を説明する」

俺はカレーを作りながら、小声でサラダを作っている金ちゃんに話し掛けた。

チラリと目を横にやると、居間では跡部が一人、体を揺らしながら何やらテレビを見ている。


「次の作戦って……まだ何かやるのか?」


「当たり前だろ?そもそも今回の勉強会は、金ちゃんの対跡部好感度をUPするのが目的なんだぞ?しかし誠に遺憾ながら……現時点では、好感度はUPしてないし、何のフラグも立ってはおらん。全く以って由々しき事態だ」


「まぁ、確かに……」


「そこで、今回のミッションとなるわけだ」

俺はスープパン(鍋)の中で煮込んでいるカレーを掻き混ぜながら、更に声を潜める。

「いいか金ちゃん。実は跡部は、人参が嫌いだそーだ」


「それは知っている」

と、情報通の金ちゃんは、何故かエッヘンと胸を張った。

「彼女の事は、大抵知っている。ま、あんなゴスロリな衣装を持っているのは知らなかったが……で?それがどうしたんだ?」


「どうしたって……いいかい金ちゃん?俺はカレーを盛り付ける時、跡部の皿には人参を大量に盛り付けるつもりだ。そうしたら、どーゆー事になるか……分かるだろ?」


「……」

金ちゃんは思いっきり首を捻っていた。

案山子みたいに突っ立ったまま、不思議そうな顔をしている。


ぬぅ……

金ちゃんは情報には敏いけど、その情報を使うって事を知らないんだよなぁ。

ま、根が善人過ぎるから、しょーがねぇーけど……

「だからだ、人参がいっぱい入っていると、跡部は嫌がるだろ?そこで金ちゃんの登場です」


「僕…?」


「そうだ。金ちゃんがさりげなく、嫌いなら僕が食べてあげるよ、とか何とか言って人参を取って上げるんだよ。これで跡部の好感度はUPだ。名付けて、『胸キュン!!嫌いな物は僕にお任せ大作戦』だ」

俺がそう言うと、金ちゃんは今にも泣き出しそうな情けない顔になった。

更に近くで話を聞いていた小山田や長坂も、呆れたような顔で俺を見つめている。

な、何故だ?


「こ、洸一。何て言うのか……ものすご~く、情けない作戦な気がするんだけど……」


「たわけっ!!」

俺は鋭く渇を入れた。

「女の子に好かれようと思ったら、小さな事からコツコツとだ。マメな男は好かれるだろ?塵も積もればマウンテンの例え通り、些細な事の積み重ねで生まれる恋もあるのだ。……覚えたかっ!!」


「で、でもなぁ……洸一は普段、絶対にそんな事しないじゃないか」


「俺様ぐらいビッグな男になると、自然と女どもは寄り集まるんだから別に良いんだよ。つーか、俺様は硬派だ。女になんか興味は無い」

ただし、二次元の女の子は別だがな。

何故なら、画面の中の女の子は俺様を殴ったり罵倒したり呪ったりしないからね。


「物凄く説得力が無いんだけど……取り敢えず分かったよ」

金ちゃんは困ったような顔で、ポリポリと頭を掻く。

「だけどさ、一つだけ問題があるんだけど……」


「んにゃ?なんだ?」


「実は僕もさ、その……人参はあまり得意じゃないと言うか、むしろ嫌いなんだよ」


「……」

俺は無言で、金ちゃんにアイアンクローを決めてやったのだった。



<洸一のキューピッド大作戦/ファイナルプロジェクト>


楽しい楽しい夕食の時間。

もちろん楽しいだけではなく、このイベントは跡部に恋する金ちゃんの為に用意した、好感度UPを狙うためのイベントでもあるのだ。

もしここがゲームの世界ならば、これは攻略に欠かせない必須イベントになる筈なのだ。

さて、本日のディナーメニューなんだが……

野菜たっぷりのビーフカレーに、夏野菜のシーザーサラダ。

それにコンソメスープと言うラインナップ。

うむ。我ながら、中々上手く出来たわい。


「さて皆さん、準備が出来ましたぜ」

俺はキッチンテーブルに、各自のカレーが盛り付けられた皿を並べながら言う。


「へぇ~……凄く美味しそうじゃない」

と、小山田。

長坂もどこか感心したように、顔を綻ばせている。

そして今作戦のターゲットである跡部だが……

「……」

無言だった。

まるで線路脇に佇むお地蔵さんのように、目を細めて固まっている。


ま、そりゃそうだろう……

彼女の目の前には、嫌いな人参が山ほど入ったカレーが鎮座していた。

いや、あれをカレーと呼べるのかどうか……

カレー3に対して人参が7と言う、嫌がらせ以外の何物でもない悪意に満ちた謎の料理。

許せ、跡部。

俺は心の中で頭を下げた。

これも全て、金ちゃんの為……


「で、では、いただきましょう」

手を合わせ、俺は箸を手に取る。

スプーンでない所が、俺のこだわり、美学なのだ。

さぁ金ちゃん。跡部に『嫌いなら僕のカレーと交換しようか?』とか歯を光らせながら言うんだッ!!


「神代くぅ~ん♪」


「ん?なんだ跡部?」


「交換」

言うや跡部は、おもむろに手を伸ばし、俺の皿を引っ掴むと自分の所へ持って行き、そして自分の皿を俺の元へと押し戻した。

その素早い動きに、一片の迷いも感じられない。

しかも唖然としている俺や金ちゃん、小山田や長坂を余所に、跡部は一人、美味そうにカレーを食い始めた。


な、なんて恐ろしい……

「あ、あのぅ……跡部さん?」


「なんですか神代君?」


「これは一体、どーゆー事で……」

俺は目の前に置いてある、人参だらけのカレーを見下ろしながら尋ねた。


「プレゼント・フォー・ユー」


「……はい?」


「神代君の前世はウサギです。だからニンジンを食べるのです」


「……そうなんですか」

し、知らんかった。

俺の前世が、寂しいと死んじゃう小動物だったとは……

しっかし……どうしよう、これ?

俺は暗惨たる思いで、人参過剰カレーに箸を付ける。


「……どうしたの神代君?」

と、長坂。


「ん?いやその……俺、人参は別に嫌いんじゃないんだけど、かと言ってそれほど好きってワケでもねぇーし……」

これが所謂、策士、策に溺れると言うやつかな?


「だったら、少し交換してあげるよ」

長坂は苦笑を溢しながら、俺の皿の中にジャガイモやらお肉やらを放り込んでくる。

更には

「じゃ、私も」

とか言いながら、小山田も食材を交換。


お、おぉっ!!

なんか、ちゃんとしたカレーに戻ったぞッ!!

自分で蒔いた種だが……ちと感動。

俺の中で小山田と長坂の好感度がUPしたぞよッ!!

・・・

って、俺が自分で好感度を上げてどーするんだっ!?



食後の後は、居間でまったりと雑談などを交わし過ごす。

ふむ、そろそろ時間か……

俺はチラリと時計に目を走らせ、

「さて諸君。ぼちぼち時間も時間だし……そろそろお開きにしようか?」


「あ、もうこんな時間…」

長坂がソファーから立ち上がった。

それに倣い、小山田、跡部に金ちゃんも立ち上がる。

「じゃ、神代。……今日は楽しかったわ」

と小山田。


「そりゃどうも」

あくまでも勉強会だから、楽しいとは思わなかったが……

問題は、ここからだ。

これまで、全てに於いて金ちゃん好感度UP作戦は、ことごとく失敗していた。

原因は跡部の天然さと金ちゃんの意気地の無さにある事は明白なのだが……俺はまだ諦めていない。

まだ最後の作戦があるのだ。


俺は玄関先まで、彼女達と金ちゃんを見送る。

外は既に暗く、月も綺麗に輝いていた。


「それじゃあね、神代君。今日はどうもありがとう」

長坂が微笑んだ。


「おう、気を付けてな。それと金ちゃん」

俺はボーッと突っ立ってるだけの、気の利かない友人に声を掛ける。


「ん?なんだ洸一?」


「いや、夜も遅いし……彼女達、特に跡部なんかフラフラしてて危なそうだから、ちゃんと家まで送り届けてやれよ」

そう……これが今回最後の作戦。

名付けて、『戦慄!!送り狼大作戦』だ。

俺がきっかけを作ってやるのだから、後は金ちゃん次第。

とにかく、帰るまでに何としても好感度をUPさせるのだ。

そして例え強引でも、最後は相手の家に上がり込んでしまうのだッ!!


「そ、そっか……うん、そうだな」

やっと気付いたのか、金ちゃんはコクコクと何度も頷いた。


やれやれ、手間の掛かる友人だぜぃ……


「じ、じゃあ跡部さん。夜道は危ないから、僕が家まで……」


「ノーサンキュウッ!!」

跡部はいきなりストレートに拒絶した。

「こーゆー場合は、ホスト役の神代君が送るべきです」


「えっ!?俺っ!?」

な、何で俺様が……

「いや、でも……金ちゃんが送るって言ってるし……な?金ちゃん?」


「金田君に悪いです。何故なら、金田君の家はあっちです」

跡部はスッと右手を上げた。

「そして私の家はあっち」

今度は左手を上げる。

「スタート地点から違います。だから無理」

言って両手を広げたまま、クルクルと回り出した。


ぬ、ぬぅ……

これは参った。

そう言われると、もう何も言えない。

ここで強引にでも送って行けば、魂胆が見えちゃうではないか。

金ちゃん……どうする?


「そ、そうだね」

金ちゃんはちょいと固い笑顔で、ポリポリと頭を掻いた。


むぅ……さすがヘタレな金ちゃん。

安全策を選んだか……


「じゃ、みんな……気をつけて。洸一も、色々とありがとうな」


「お、おう。まぁ……まだまだチャンスはあるから、挫けるなよ?」


「ありがとう…」

金ちゃんはそう言って、一人去っていった。

その後姿の、何と寂しいことか……


「神代くぅ~ん。さ、行きますですよ」


「お、おう」

め、面倒じゃのぅ……

ってゆーか、本当に何で俺が?

「じゃあ……行くか跡部?小山田も長坂も、俺が家まで送って行ってやるよ」



しっかし……

跡部は本当に分からんヤツだな。

金ちゃんも、こんなののどこが良いんだか……

ま、見た目が可愛いからかな?






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