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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
31/53

カミングアウト



★6月27日(月)


 今日も今日とて、変わり映えのしない日常。

ただ、期末テストまであと一週間なので、暴力の香り漂う美佳心チンに色々と、半ば強制的にテスト勉強をさせられてしまったのには参ったが……ま、そんなこんなであっという間に放課後。

テスト前週間は部活免除なので、そのまま帰宅。

もちろん、喜連川家へではなく、待望の我が家へだ。


長かった……

本当に、長かった。

やっと俺は、永き旅を終えて終末の地へと戻って来た、

自分の家に着いた俺は、思わず玄関先に土下座して口付けしてしまう。

これであの『理不尽』というセカンドネームを持つ姉妹から解放されると思うと……不覚にも涙が零れてしまうではないか。


さて、無事に我が家への帰還を果たした俺は、先ずはぐるっと中を点検。

さすが、喜連川である。

全壊したにも関わらず、殆ど以前の家のまんまだ。

俺様の大切にしていた宝物達、通称洸一コレクションも、エロ方面のアイテムを除いては完璧に戻っているし、柱の傷までもが見事に復元されている。

もっとも、何故か見知らぬ部屋が二階に増えていたり、『関係者以外立ち入り禁止』と掛かれたプレートが貼り付けてある、生態認証システム採用のごっつい扉が地下にあったりと……色んな意味で不思議要素満載の家になっちゃってるのがちと不安だが……

それでもここは、住み慣れた我が家に違いないのだ。

多分。


「さてと…」

着替えを終えた俺は、居間のソファーに転がり、気侭に一人の時間を満喫。

と、ピンポーンとチャイムの音が鳴り響き、玄関の開く音。

「もう来たのか」

俺はやれやれと立ち上がった。


そう、今日は第二回・俺様の家復活パーティーがあるのだ。

もちろん、前回のように建て直し直後に爆発四散と言う非常に切ない結果を招かない為にも、危険物の持ち込みは厳禁してあるし、ラピスにも不用意にガス及び電気系統には触るなと注意してあるから安心だ。

・・・

いや、安心だと願いたい。


「よぅ、みんな」

ゾロゾロと、勝手に家の中に上がり込んでくる女傑の皆様+男二人(豪太郎と金ちゃん)に、俺は気さくに挨拶した。

皆は手にそれぞれ、何やらパーティー用の食材を持ち、ニコニコ笑顔なのだが……

まどかだけはムスッと仏頂面を下げている。

どうやら、まだ昨日の事を根に持っているらしい。


ったく、昨日のアレは、あくまでもオカルト研究会の職務だと散々説明したと言うのに……

・・・

ま、確かにちょっとやり過ぎたかなぁ~……とは思うが、なんちゅうかねぇ?俺も若いんだから仕方ないじゃないか。

ってゆーか、何でそんなに怒るかなぁ?

と、俺が人知れず溜息を吐いていると、

「じゃあ早速、御飯を作るよぅ」

榊さん家のアカン子がそう言うや、皆さんいそいそとエプロンを着用し、台所へ。

「ほら、洸一クンもさっさと準備をしーや」

と委員長様に急かされ、俺は居間のソファーを片付け、テーブルを並べる。

ったく、主賓である俺様が、何故にこのような雑用を……

「しっかし、洸一は相変わらずモテるなぁ。しかも美人ばかりだ」

と、座布団を並べていた金ちゃんが、ウッシッシと笑みを零した。


「ま、俺様がモテるのは当然だが……って、別に俺は、アイツ等とはそーゆー関係じゃないぞ?」

あくまでも、友達だ。

ただちょっと、時々デートしたりする間柄なだけだ。

・・・

後、数人とキス的な事もしちゃったがな。


「……ま、そーゆー事にしとくよ」

親友の金ちゃんは肩を竦めた。

「だけどな、あまり色んな女の子にちょっかいを出してると、後で色々と問題が起きるぞ?」


それは肯定しよう。

現に昨日も殴られたしな。

「だから、俺達はそーゆー関係じゃねぇーって。……多分。つーか、金ちゃんが色恋問題に口を挟んで来るとは、珍しいなぁ」


「……まぁ、僕にも色々とあるのよ」


「ほぅ…」

こりゃ驚いた。

この三度の飯より猟奇殺人事件が大好きな金ちゃんが、よもや一般婦女子に興味を抱くとは……

「金ちゃんも、色を知る歳なのかぁ」


「僕だって、普通の男だぞ?」


「普通の男は情報を得る為に職員室に忍び込んだり、理科室から薬物をちょろまかしたりはしないと思うぞ?」



楽しい楽しい、夕食の時間。

テーブルの上には、皆が作ってくれた色取り取りの料理が並んでいる。

実に美味そうだ。

・・・

中には、泣きたくなるほど致命的にダメな料理も並んでいるが……


「さて、いただきますか」

と、先ずはジュースで乾杯。

そして料理に箸を付け、楽しげに宴は進むのだが……


ぬぅ…

まどかはまだムスッとしていた。

真咲達とは楽しそうにしているのに、俺と目が合うと唇を尖らせ、不機嫌な顔になる。

実になんちゅうか……胃が痛い。


ど、どうしたら機嫌を直してくれるんじゃろう?

なんて考えていると、まどかはスッと俺の目の前に、無言で皿に盛られた料理を差し出してきた。

「……うわぁ」

思わず口の中で呟いてしまう。

一体、これはなんだろう?

誰も手を付けようとしないこの異形の物体からは、何か心を不安にさせるような匂いが立ち上っている。


よもや……これはまどかが作ったのか?

俺はゴクリと唾を飲み込み、まどかに目を向けると、彼女は仏頂面のまま、どこか真剣な瞳で俺を見つめていた。

それはあたかも、『許して欲しかったら、ちゃんと私の手料理も食べなさいよ』と言ってるように思える。

これを……食え、と言うのか?

この、大量殺戮兵器にも成り得る物体を、俺様に食せよと言うのか?

「ぬぅ…」

ど、どうしよう?

物凄く怖い。

こんな物を食ったら、明日の朝には布団の中で冷たくなっているかも知れないではないか。

だがしかし……

食わないと、益々機嫌が悪くなる事は確実だ。


し、しゃーねぇーなぁ……

小さく呟き、俺はその皿を手に取り、山と盛られた手の施しようのない料理を一気に掻き込む。

「……あ゛ぅっ!!?」

殺意の歯応えばっちりな感触。

甘くて辛くて苦くて酸っぱくて……それでいて、どこか切なくなる味。

楽しかった思い出が、次々と脳内から消えて行く。


ど、どうだ、まどか?

俺はちゃんと、踏絵をしたぞよ?

定まらない焦点で、必死に彼女を見つめると……彼女はニコッと微笑んだ。

どうやら、ご機嫌は直ったらしい。


良かった……

俺は安堵の溜息を吐き、そして一瞬で思考回路がシャットダウンしたのだった。



★6月28日(火) 


昼休み……

俺は購買で買った惣菜パンを片手に、金ちゃんが主催する表向きは推理小説研究会。裏は学園情報部(HIP)の部室へとやって来ていた。


「んで、話ってなんだ、金ちゃん?」

椅子に腰掛け、好物の一つであるヤキソバパンに齧り付きながら俺は尋ねる。


「ん…んん……」

珍しく歯切れの悪い我が友・金田一は、アイスカフェオレの入ったグラスを差し出してきた。


「お、ありがとう」

グラスを受け取りながら、俺は訝しげな視線で彼を見つめる。

むぅ…

一体、どうしたんだ金ちゃんは?

どこか思い詰めたような顔をしているが……

もしかして、どこぞの小悪党に因縁でも付けられているのか?

・・・

いや、それはねぇーか。

金ちゃんの情報能力なら、相手のウィークポイントぐらいは簡単に見つけられる筈だし……

「金ちゃん、どうしたんだよぅ?」


「いや、別に…」


「別にって事はないだろう。何か話したい、と言う顔をしているぞ?」


「そ、そうかなぁ?僕はいつも通りだと思うんだが……」


「もしかして……恋の話か?」


「ッ!!?」

金ちゃんの体がピクンと椅子の上で跳ねた。

どうやら図星のようだ。

「は、はっはっはっ……こ、洸一。なんでそう思うんだ?」


意外に分かりやすい男じゃのぅ……

「いやまぁ、ただの勘だ。それに昨日、珍しく色恋話に興味があったみたいだし……」


「……素晴らしい推理だよ、ワトソン君」


「そりゃどうも」

俺はグラスの中のカフェオレを飲み干し、御代わりを所望する。

「しっかし、金ちゃんから恋の悩みについて相談を受ける日が来るとは……これだから人生は面白いですな。ビバッ!!思春期」


「茶化すなよ」

金ちゃんは渋面を作りながら、空になった俺のグラスを受け取った。

そしてそれにカフェオレを注ぎながら、

「僕だって……本当は自分の力で何とかしたいんだが、どうも彼女は……何と言うか……良く分からなくてなぁ」


「ほぅ……んで、お相手は誰だ?俺に相談と言うことは……俺の知ってる奴か?」


「益々、素晴らしい洞察力だよ小林少年」


「ほほぅ…」

俺の知り合いか…

って誰だ?

この、知りたい情報を得る為だったら己の尻穴すら提供しそうな金ちゃんでさえ、迂闊に探れない相手とは……

「まさか……金ちゃんの想い人って、真咲姐さんか?」


「は?二荒さん……の事か?」


「違うのか?」


「違うに決まってるだろ…」

金ちゃんは苦笑を溢した。

「二荒さんはこの学園のヴァルキリー様だぞ?それに彼女には、お前がいるじゃないか」


「まぁな。って別に俺は、真咲とはそーゆー関係じゃないぞよ?」


「そう思ってるのはお前だけだ」


ぬ、ぬぅ……どーゆー意味だ?

「じゃあ誰だよ?まさか智香の馬鹿とか?」


「風早さんは面白いけど、付き合うのはちょっとなぁ…」


「ふむ。……ならば穂波か?」


「僕は多嶋ほど病んでないよ」


「もしかして、のどか先輩とか?」


「……僕は自分を弁えているつもりだ」


「分からんなぁ……だったら委員長か?それとも後輩で、優ちゃんか姫乃っチ?よもやラピスとか……」


「全て外れだ」

金ちゃんは椅子に深く腰掛け直し、フゥ~と大きな溜息を一つ吐いた。


「ふむ……全く分からん。降参だ。で、金ちゃんが気になる女って言うのは……ズバリ、誰だ?」


「……跡部さんだ」


「跡部……」

一瞬、気が遠くなった。

「お、おいおいおい……本気か?いや、この場合は正気か?よりにもよってトリプルナックルとは……しかも長坂とかならまだしも、跡部は……ぶっちゃけ、真性のアカン子だぞ?」


「あの不思議さに、心惹かれるんだ」


「……」

不思議と言うより、アレは単なる特殊学級だと思うんじゃが……

「なるほどな。ま、好みは人それぞれだと思うんだけど……確かに、攻略は少し難しい相手かもな」

今朝も気さくに「おはよう」と声を掛けたら「ヴィッピ!!」と返してきたもん。

何語だよ、一体。


「だろ?それに何とか彼女に話し掛けようと思っても、いつも他の二人が側にいるし……中々に、チャンスが無いんだよ」


ふむ……

友の為に、俺としては何とかしてやりたいが……しかし跡部かぁ……

見た目は可愛いけど、頭の中は麹味噌こうじみそか何かで出来てるような女の子だからなぁ。

「……よっしゃ、分かった」

俺はポリポリと頭を掻いた。

「金ちゃんには色々と世話になってるし、何が出来るか分からんが、俺も協力するとしよう」


「ほ、本当か?」


「まぁな。そうと決まれば、善は急げだ。幸い、今はテスト前週間だし……金ちゃん、放課後はヒマだろ?」


「あぁ…まぁな」


「良し。だったら予定は空けておけ。早速に俺様が、彼女を誘って来てやるわい」









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