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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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エブリディ


★6月22日(水)


昼休み、中庭で少々汗ばむような初夏の日差しを受けながらボーッと食後のまったりタイムを過ごしていると、

「……ニャア」


「ん?」

草むらから、猫がチョコンと顔を出し、瞳を縦にしながら此方を見つめていた。

あどけなさが残る真っ白な子猫だ。


ほぅ……

チッチッチッと囀りながら腰を曲げて手を差し出すと、好奇心が旺盛なのか、子猫は何の躊躇いもなく近づき、鼻を寄せてくる。

どうやら、かなり人に慣れているようだ。


「捨て猫か」

俺は子猫を抱き上げた。

既に乳離れは終わっているようだが、痩せているのか、背中辺りの骨がごつごつと飛び出しており、かなり軽々としている。

「警戒心の無さから言って、元は飼い猫かな?まったく、なっちょらんのぅ……動物を捨てるとは」

俺はマジマジと子猫を見つめた。

雌猫で、毛並みなどは薄汚れているが、その器量はかなり良さげに見える。

のどかさんの愛猫と言うか使い魔が先祖代々の野良なら、この子猫は没落貴族の御令嬢と言う感じだ。


「しっかし、黒兵衛といいこの子猫といい……野良猫が闊歩している学校というのも、何だか恐ろしいな」

俺は独り苦笑を溢しながら、その子猫を地面に下ろした。

が、子猫は甘えた声を出しながら、俺の足元に擦り寄ってくる。

ちっとも退散しようとはしない。


ぬ、ぬぅ……

「悪ぃが猫ちゃんよ。お前さんを拾う事は、俺には出来ねぇ。もっと心優しい人を見つけるんだな」


「……ニャア」


ぐぬぅ……

「そ、そんなつぶらな瞳で見られてもなぁ。僕ちゃん、現在は居候なワケよ。分かる?勝手に生き物を拾ったりする事は出来ない身分なのよ」


「……ニャア」


あぁん……物凄い見つめてる。

期待の篭った眼差しで僕ちゃんを見てるよぅぅぅ……


「くっ、許せ猫ちゃん。俺には……どーする事も出来ねぇ」

俺は拳を振り上げ、そしてそれを軽く、子猫の頭上へと振り下ろした。



「ただいまぁ…」

放課後、部活を休み、コソコソと既に慣れてしまった喜連川家の自分の部屋へと戻ると、俺は辺りを見渡しながらスポーツバッグのチャックを開けた。


「……ニャア」

白い子猫がちょこんと顔を出し、そしてバッグから飛び出すと、部屋の中を物珍しそうに鼻を鳴らしながら動き回る。


「……拾ってきちまった」

俺はポリポリと頭を掻いた。

「さぁ、どうしましょう?」

俺はコンビニで買ってきた牛乳を小皿に注ぎ、それを子猫に与えながら呟いた。

「なんか、ちょいとマズイですねぇ」


天下に鳴り響く喜連川家なら、猫の一匹どころか一個師団は余裕で飼えると他人は思うかもしれない。

いや、確かにその通りなんだが……

そう簡単に上手く行かないのが、世の常なのだ。

何しろこの屋敷には、あの御方がいるのだ。

そう、現代に蘇った魔女様こと、のどかさんだ。

どうもあの人は、発想が暗黒面に偏りがちと言うか何と言うか……

現に昨日も夕食の席で、

「……新しいにえが欲しいです。特に猫が」

と、呟いていたではないか。

それを聞いていた黒兵衛なんか、速攻で逃げ出していたぞ。


「とにかく、拾って来ちまったモンは仕方がねぇ。心優しい飼い主を見つけてやるまでは俺様が飼ってやるとして……問題は、どうやってあの人に見つからないようにするかだ」

俺は子猫の頭をそっと撫でた。

この子猫は、毛並みも良いし顔付きも可愛い。

実に器量の良いメス猫だ。

しかしながらそれは、全てあのお嬢様の趣味に反している。

黒兵衛の時とは違い、見つかったら速攻、生贄として邪神に捧げられてしまうかもしれない。

いやそれどころか、プ○モ狂四郎ばりの魔改造を施された挙句、目からレーザー出るとかになったら……どうしよう?

僕ちゃん、もう二度と人を信じられなくなってしまうぞよ。


「まぁ、ともかくだ、早急に飼ってくれるヤツを見つけないとなぁ」

って言うか、俺様の家が直っていれば話は早いんだが……

一体、いつになったら直るんだ?



★6月23日(木) 


今日も今日とて、取り敢えず表面的には平和な日常。

クラスメイトが恋の話やゲームの話題に盛り上がっている休み時間、俺は机に突っ伏し、暫しのまどろみを堪能していた。


あ~……何だか最近、体がちょいとダリィなぁ……


――キーン…――


やっぱ、殆ど日課になってる、寝る前のまどかの特訓(強制)の影響かのぅ……


――キーン…――


それとも、単なる思い付きで始まった、夕食前ののどかさんの魔法講義で頭を使うからか……


――キーン…――


何にせよ、早いところ自分のお家へ戻りたいよなぁ……


――キーン…――


喜連川の家は至れり尽せりで快適だけど、ヒマがあるとあの姉妹の突発イベントに巻き込まれるからのぅ……


――キーン…――


ってゆーか、この耳鳴りみたいな音はなんじゃ?

俺は眠い眼を擦りながら、ゆっくりと頭を起こす。

と同時に、

――ドカーーーーーーーンッ!!

凶悪な破壊音と猛烈な爆風。

窓ガラスは枠ごと砕け飛び、クラスメイトの大半は廊下にまで吹っ飛ばされていた。


うきゃっ!?

な、なんじゃ?

遂に某国からのミサイル攻撃でも受けたのか?


机と共に壁際にまで転がっていた俺は慌てて立ち上がり、もうもうと立ち込める白煙の中、取り敢えず周りを確認。

美佳心チンはケホケホと咽ているだけで無事みたいだし、穂波に至っては悲しい事ながら全くの無傷だ。

しかも恐ろしい事に、ケタケタと笑ってやがる。

これだからアカン子は……


「しかし一体、何があったんだ?ガス爆発?それとも校庭に不発弾でも埋まっていたのかにゃ?」

俺は最初に衝撃を受けたであろう、校庭に面した窓側に目をやると、そこには薄れ行く煙の中、ウチの学校の制服を着た一人の少女が佇んでいた。

床まで届くような大きく長いツインテールの髪をしたその少女は、俺様を見てニッコリ愛らしく微笑むと、

「#お久しぶりです、神代洸一ッ!!」


ンげっ!?

「き、君は確か……豊畑椎奈ちゃんこと、試作メイドロボのシーナか?」


「#その通りッ!!」


「そ、そうなんだ…」

俺は唖然とした顔で、不敵に笑う豊畑技研製のイリーガルな試作メイドロボを見つめた。

「でも君は、確かぶっ壊れてそのまま学校の焼却炉へ消えて行ったような、そんな悲しい記憶があるんじゃが……」


「#蘇りましたっ!!」

シーナちゃんは轟然と胸を張って答えた。

「#しかもパワーアップもしたのです。今の私は以前のシーナとは違い、正式名称は豊畑技研製試作メイドロボ・TH02改シーナMkⅡですッ!!」


「へ、へぇ……」


「#脚部に3連装バーニアを装備することによって、空中戦をも可能にしたのですッ!!」


「……」

それ、メイドロボに必要?

しかもバーニアって……このメイドロボ、豊畑技研が作ったんじゃなくて、ツィ○ッド社辺りで作られたんじゃないのか?


「#更にですッ!!ボディには新開発の特殊コーティングを施し、長距離レーザーなら跳ね返すことが出来るのですッ!!」


「ふ、ふ~ん……軍事採用が決定したのかにゃ?」


「#お分かりいただけましたか、神代洸一?ならば私を愛しなさいッ!!今すぐにッ!!」


「そりゃ無理だろっ!?」


「#何故ですッ!!?」

戦闘仕様になったメイドロボのシーナが、ズズィッと詰め寄ってくる。

「#やはり、あのメイドロボが存在しているからですかッ!!」


「いやいやいや、なんちゅうか……根本的に間違っちょると言うか……」


「#おのれセレス。またしても私の前に立ちはだかるかッ!!」


聞いてねぇよ……

俺、もう泣きそうだよ。


「#ふふ、こうなれば先ず、あのメイドロボを破壊するしかありませんね」


「あ~~……そうなんだぁ」

俺はポリポリと頭を掻いた。

もう、本当にどうして良いのやら……

「で、でもなシーナちゃん。セレスは梅女へ戻って行って、もうここにはいないんだけど……」


「#逃げたのですかっ!!」


「いや、だから帰ったんだって。聴音機関に不具合でもあるのか?」

な、なんだかなぁ……

このシーナちゃんといい、ラピスやセレスといい……

こんなアナーキーなメイドロボばかり作る業界は、きっとキ○ガイの集団に違いないぞ。


「#おのれセレスッ!!この私から逃げられるとお思いかッ!!」

叫ぶやシーナは、いきなり御自慢のバーニアを全開。

シュゴーと音を立て、足首辺りから白煙が巻き起こる。

「#神代洸一。私はセレスを倒しますッ!!」


「あ、そうなんですか」


「#ふっ、貴方はそこで私の帰りを待っていれば良いのです。ではっ!!」

と、シーナはクルリと振り向き、爆音を立てて窓から飛び去って行ってしまった。


「……な、なんだったんだ、一体……」

俺は呆然と立ち尽くしたまま、もう一度ポリポリと頭を掻いた。

そして辺りを見渡し、呟く。

「教室が半壊してるんじゃが……これ、どーすりゃ良いんだろう?」


PS…

シーナちゃんが唐突に現れ、そして唐突に去ってから小一時間ぐらいした時、梅女のある方角から、なんかタイムでボカーンなシリーズを思わせる、ドクロマークの爆煙が立ち昇っていたんじゃが……

彼女、どーなったんだろうねぇ?




★6月24日(金)


放課後、俺様はとあるファミレスに来ていた。

いや、正確には、呼び出されていた、だ。


目の前に座るは、質実剛健、脳みそが半分筋肉で出来ているんではなかろうかと思う真咲姐さんと、既に人ではなく地獄辺りから召還された鬼じゃないのかと疑うノーフューチャーなまどかのお二人。

彼女達は真剣な面持ちで、俺を見つめていた。


「あの~……一体、お話って何なんでしょうか?」

僕ちゃんはカフェオレを啜りながら、おずおずと尋ねた。


「決まってるでしょ?明日のデートのことよ」

と、まどかがどこか素っ気無い感じで口を開く。


「あ、やっぱりその話ですか」


「それ以外にないでしょ?」

言って彼女は、鞄から何か取り出し、テーブルの上に投げ捨てるように置いた。

レポート用紙の束だ。

表紙には、『デート・スケジュール表/作戦名・バグラチオン』と書かれてある。

実に意味不明だ。


「やっぱ、言う事を聞かないとダメかねぇ?」


「当たり前だろ?」

と、何が当たり前なのかサッパリ分からないけど、真咲姐さんはジロリと俺を睨み付けながら言った。

「これはお前の為なんだ」


「そ、そうなんですか……」

どこがだろう?


「そもそもだ洸一。お前は、そのユッチーとか言う後輩と付き合うつもりはないんだろ?」


「ま、まぁな。だからこそ、一度実際に会ってみて、その……機を見て断ろうかと……」


「お前には出来ん」

真咲姐さんは断言した。

そして鬼……もとい、まどかも頷きながら、

「アンタは変な所で優しいって言うか臆病って言うか……チキンだからねぇ」


「チ、チキンって言うにゃッ!!」


「なによぅ。だって本当じゃない。洸一……アンタ、本当にその女の子を振る事が出来るの?告白してきた年下の女の子に、ちゃんと断わる事が出来るの?」


「ぬ、ぬぅ……」

確かに、ちょいと辛いものがあるかもな。

目の前で泣かれでもしたら……僕ちゃん、速攻で前言を撤回しちゃうかも……


「それにだ、洸一」

真咲姐さんが腕を組み、溜息を吐いた。

「もし仮にだ、相手が告白してこなかったらどうする?また今度会いましょうとか言って来たら……お前のことだ、そのままズルズルと……何て事になってしまうぞ?そして段々と外堀を埋められ、気が付いたら付き合っていた、と言う事になったら、どうするんだ?」


「どーするって言われてもなぁ……まぁ、それはそれで、恋愛の一つの形かと……」


「……あ゛?」


「いや、何も言ってないですよ、僕は」


「だから、それを阻止する為にも、私と真咲が考えた予定通りに行動しなさいって事なの」


「う、うむぅ……良く分からんが、ともかく俺は、この予定表通りに動けば良いんだな?」

俺は難しい顔をしながら、まどか達が書いてきたレポート用紙を手に取り、それをパラパラと捲って、

「ぎゃひぃぃぃぃぃぃぃッ!!?」

思いっきり仰け反ってしまった。


「ど、どうした洸一?」

「なによぅ、変な声出して……虫でもいたの?」


「いや、そんな不思議そうな顔して……一体、何なんだこれはッ!!」


「は?何って……行動予定表よ」

シレッとした感じでまどかは言いながら、目の前に置かれている特大パフェを美味そうに口へと運ぶ。


「た、確かに……これは予定表だ。だけどな、例えばこの……『18時00分/ウンコを漏らす』って書いてあるんだけど……君達、ついに気が触れたのか?」


「だからぁ、それがこのデートのポイントなのよ」


なに言ってんだ、この人達は?


「発想の転換よ、洸一。アンタは付き合う気はないけど、それをキッパリとは中々言えないでしょ?だから、言わなくても良いように、最初から相手に嫌われるように行動するワケよ。分かる?」


な、なんてイージーな思い付きなんだ……

脳味噌のどの部分を使えば、そんな反社会的且つパープリンな考えが出て来るんだか……

「そりゃ確かに、デートの最中に目の前でウンコ垂れたら、相手に一発で嫌われるよ?だけどな、自分で自分をも嫌いになっちまうよッ!!」


「洸一なら平気でしょ?」


「どこがだよっ!?」

こ、このアマァ……頭の中に悪魔でも飼ってるのか?


「ともかく、洸一は私と真咲の決めた予定通りに行動しなさい」

まどかは酷く真剣な面持ちで言い、真咲姐さんも同意するかのように頷く。


本当にまぁ、なんてワガママ全開なんでしょうか。

「で、でもなぁ……こんな社会的破滅確定な予定、その通り行動しろと言われても……そっちの方が勇気がいるんじゃないか?」


「やらないと、なたで足の指を全部チョン切るわよ」


「……もちろん、やりますよ僕は」


そんなこんなで、明日は澪香ちゃんのお友達、ユッチーこと夕依ちゃんと、放課後にデート。

俺はプログラムされたロボットの如く、まどかと真咲の企画した行動通りに動かねばならない事になってしまった。

確かに、まどか達の言う通り動けば……僕ちゃんは相手の女の子に完膚なきまでに嫌われるだろう。

ま、それは仕方のない事だとしても、なんちゅうか……デートが終わると同時に、屈辱のあまり自我が崩壊するかもしれん。

僕ちゃんは、少しそんな気がするんだ。








作業用のPCが壊れ

一ヶ月ぶりの更新です。


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