貴方に質問
★6月20日(月)
フニャッと目が覚めた、ちょいと憂鬱な月曜日。
また今日から、愉快痛快、そしてちょっぴりセンチ(謎)な学園生活の始まりだ。
何を言ってるのか分からんが、俺はいつもの様に朝飯を食い、そしていつもの様に登校。
ただし隣を歩くのはセレスではなく、今日から俺様の学校に復学したラピスだった。
「しっかし……どうだった、梅女は?」
早くも梅雨明けなのか、初夏を思わせる眩しい日差しの下、ぶらぶらと歩きながら俺はラピスに尋ねると、可愛いけど残念なメイドロボは「ふぇふぇふぇ」と、朝から妙な電波を受けているのか、アカン子のような奇妙な笑い声を出しながら、
「まどかしゃんを始め、皆しゃんとっても良くしてくれたんでしゅ。……ふぇふぇふぇ」
「そ、そっか」
「はいでしゅ。皆しゃん、ラピスに色々と教えてくれたんでしゅ。それにラピスの学校の事を、色々と尋ねてきたんでしゅよ」
「ほぅ……」
なるほどねぇ。……ま、お嬢様学校とは言え、梅女も女子高だからなぁ……
男子高校生の生態とかに、興味があるんだろうねぇ。
……
それをラピスに聞くのは、間違いだと思うけどな。
「梅女では、洸一しゃんは有名なんでしゅよ」
「……は?」
俺は足を止め、マジマジと隣を歩く少し残念なメイドロボを見つめた。
「俺?な、なんで俺が?……ご近所の馬鹿高校には、それなりに名は知られているけど……梅女にはなーんにも悪さはしてないんじゃが……」
「ラピスがお話したんでしゅよぅ」
「ぬぅ…」
おいおい、妙な事、口走ってないだろうなぁ……
あまり変な噂を流されると、ジェントルメェンである俺様のプライドに、傷が付くではないか。
「それにでしゅねぇ……まどかしゃんも、よく洸一しゃんの話しているみたいなんでしゅよ」
ぬ、ぬぅ……
あの野郎、俺様の居ない所で、なに話してるんだか……
「ぐ、具体的には?」
「ふぇ?」
「だから、具体的には俺様のこと、何て話したんだ?」
「ん~~……ラピスは、洸一しゃんと出会ってからの事を話したんでしゅ。メイドロボ研究所との死闘なんかは、皆しゃん感激して聞いていたでしゅよ」
「な、なるほど。ま、あの事件は……俺様の偉大さ(と馬鹿さ加減)が分かる事件だったからな。んで、まどかの馬鹿たれは……なにを話してるんだ?」
「色々でしゅよ」
ラピスは軽く小首を傾げ、俺を見やる。
「新人戦で優勝したとか、嬉しそうに話してたんでしゅ」
「ほ、ほ~う……」
「それ以外にも、家で練習していると時々イヤらしい目で見てくるとか、ミニスカートを穿いていると太股辺りを舐めるように見てくるとか、お風呂をしょっちゅう覗かれて困るとか……言ってたでしゅ」
「あ、あのアマァ……何て事を!!」
「でも本当でしゅ」
「まぁなッ!!――って、違うわッ!?ほ、ほんのちょっとだけじゃねぇーか……思春期男子の悪戯として、許される範囲だろーがッ!!」
俺は憤懣やるかた無し、と言った感じで、鼻息を荒くする。
「全く……貴重な俺様の生態を、梅女の乙女達に過大に言いふらしやがって……悪評が立ったらどーするんだッ!!」
「でも洸一しゃん、最近少しエッチでしゅよぅ」
「そ、そうかぁ?」
「そうでしゅよ。ラピスの下着も、時々無くなるでしゅし……」
「そこまで落ちぶれてはいねぇーぞっ!?」
「本当でしゅか?」
ラピスはクリクリの瞳に訝しげな色を浮かべ、俺を見つめてくる。
「当たり前だ」
あぁ、なんて嘆かわしい事だ……
この偉大な俺が、下着如きに興味を出すかっちゅーねんっ!!
・・・
無意識下の行動なら、ちょっと分からんけどなッ!!
「しっかしなぁ……実際問題、あの環境じゃあ少しはHになるぞ。お釈迦様だって独りでハァハァするかも知れん」
「そうなんでしゅか?」
「そりゃそうだろ。中身はともかくとして、取り敢えず見た目は美人な姉妹に可愛いメイドロボ。更にお姉さん的メイドさん達に囲まれている生活だぞ?並みの男だったら心がリミットブレイクして、いつ性犯罪に走ってもおかしくはないわい」
「ふ~ん、しょーゆーモンなんでしゅか……」
「そーゆーモンだ。ま、思春期の男っちゅーのは、著しく心と体のバランスを欠いているからな。多少のお茶目ぐらいは大目に見ろ、と俺様は言いたいワケなのよ」
「でもしょんな事言ったら、きっとまどかしゃんに殴られるんでしゅ」
「わははは……だから言わないでいるんだよっ!!」
ま、何はともあれ……
まどかの馬鹿には一度、俺様の評判を落とすような事を言い触らすな、と言っておかねばな。
・・・
言った所で聞いてはくれないとは思うけどね。
★6月21日(火)
今日も今日とて、何時もと同じように穂波の神懸り的な発言に惑わされたり、委員長美佳心チンのお小言を聞いたりしている内に、あっと言う間に放課後。
俺は鞄を担いで裏山の社へと続く階段を駆け上がり、ちょいと環境的に寂しい感じのするTEP同好会の地球に優しい練習場へと到着。
そこには相変わらずブルマが見目麗しい優チャンと、お淑やかな雰囲気の姫乃ッチの姿があり、更には
「遅いわよ洸一」
「遅いぞ、洸一」
この世にグランドクロス並の大災害をもたらすであろう闘神様のお姿も何故かあった。
あぁ……何だか今日はもう帰りたい気分だ。
「よ、よぅ。まどかに真咲じゃねぇーか。ど、どうしたんだ今日は?」
僕ちゃん、またシバかれるの?
え?何か悪いことをしましたか?
「別にぃ……ただ、偶にはアンタや優を鍛えてあげようと思ってね」
と、まどか。
「そうしたら、何故か真咲までいるじゃないのぅ。……何でアンタがいるワケ?」
「それは私の台詞だッ!!」
真咲姐さんがキッと鋭い眼光でまどかを睨み付けた。
「私も、偶には洸一や優貴の練習を見てやろうと思ってやって来たら、貴様がいるじゃないか……何でここにいるんだ?貴様は梅女の生徒だろうがッ!!」
「う、うっさいわねぇ……そーゆー真咲だって、空手部でしょーがっ!!」
「そ、それがどーしたっ!!」
あぁ……また不毛な戦いが始まっちまった。
よくもまぁ、毎日毎日、飽きないと言うか、もしかして習性か?
そーゆー種類の動物なのか?
俺はちょっとだけウンザリしたような溜息を吐きながら、苦笑を浮かべて優チャンを見やると、彼女はもう慣れてしまったのか、睨み合うまどかと真咲を、まるで空気か何かのように軽やかに無視しながら、
「さ、先輩。早く着替えて練習をしましょう♪」
「そ、そうだな」
いやぁ~……逞しくなったなぁ、優チャン。
でもね、どのみち後からまどか達に難癖を付けられて、拷問チックな練習をさせられるんだよなぁ……うん、分かってるんだよ、僕には。
俺はトホホな気分で、カバン片手に着替えようと林の中へ入ろうとするが、
「……ん?」
耳に届く、タッタッタッと軽やかに階段を駆け上がってくる足音に、思わず足を止め振り返った。
……はて?こんな場所に関係者以外に……まだ誰か来るのか?
もしかして、美佳心チンでもやって来るのかな?
そんな事を考えていると、
「あ、神代さん……♪」
足音の主が、ヒョイと社の陰から顔を覗かせた。
ベレー帽にチェックのショートパンツと言う可愛い出で立ちの彼女は……
「み、澪香ちゃん?」
「へっへっへ」
梅女中等部の制服を身に着けている彼女は、相変わらず悪戯っ気な表情を浮かべていた。
「ど、どうしたんだ、こんな所に?」
もしかして、君も僕をシバきに来たのかね?
「いやぁ~……実はちょっと、神代さんに聞きたい事が……って、何でまどか姉ぇがここにいるワケ?」
「それはこっちの台詞よ、澪。アンタこんな所で何を……」
と、真咲との不毛な争いを一時中断したまどかが、ちょいと驚いた顔でやって来る。
そして腰に手を当て、訝しげな顔をしている真咲や優チャン、姫乃ッチに向き直り、
「え~と……この子は私の従姉妹で、喜連川澪香って言うの。梅女の中等部に通っているわ」
「ほぅ……」
と真咲さん。
「言われてみれば確かに、何処となくお前に似ているな」
「まぁね。それよりも澪、こんな所に何を……」
「だからぁ、神代さんに話があるのよぅ」
言って澪香チャンは、おもむろにズボンのポッケからスマホを取り出すと、
「えと……実は神代さんに、100の質問があります」
「……はい?」
な、何か言い出したぞ、この小悪魔は……
「だから、ちょっと質問に答えてよぅ」
「……断る」
俺様は拒絶した。
何故なら、何となく『嫌な予感』と言うのを感じるからだ。
この神代洸一……
幾度と無く修羅場を切り抜けてきたお陰で、危機探知能力のレベルは上がっているのだ。
「え~~……なんでよぅ?質問に答えるだけだよぅ」
澪香ちゃんはプゥ~と頬を膨らまし、俺を睨む様に見上げる。
この辺は、ホントまどかにソックリだ。
「ふっ、何故なら俺様は忙しい。100もある質問に答えている時間などは無いのだよ」
「じゃあ10個にするから」
「いきなり10分の1ですかっ!?」
「うん。だからちゃんと答えてね」
「くっ……」
ったく、面倒臭ぇなぁ……
そもそも、質問ってなんだよ?
意味が分かりませんなッ!!
「……しゃーねぇーなぁ」
「えっへっへっへ……お時間は取らせませんよ」
澪香ちゃんは妖しげな笑みを浮かべ、スマホを操作しだした。
★
チマチマと小さなスマホの画面を操作しながら、澪香チャンは言う。
「神代洸一さんに質問です」
「はいはい、どーぞ」
「え~と……神代さんは今現在、付き合ってる人はいますか?」
「――ブッ!!?」
思わず鼻水が出てしまった。
「な、何だその直球ど真ん中な質問はっ!?個人情報保護法違反に該当しますぞ!!」
「そ、そんなこと言ったって……いいから答えてよ」
「や、答えて、と言われてもなぁ……」
俺はポリポリと頭を掻きながら、何気に周りに視線を向けると、
―――ンゲッ!?
何故かまどかに真咲、優チャンや姫乃ッチまでもが、どこか真剣な眼差しで俺様を見つめているではないか。
う、うぅ~む……
やはり嫌な予感、的中ですか。
泣きたいね。
「え~と……まぁ……なんだ、今は付き合ってる女の子はいないぞよ」
「あ、そうなんだ……」
と、澪香チャンは頷き、何かしらのアプリか、スマホを手早く操作しているが……
「ちょっと待て、洸一」
いきなり真咲姐さんが俺達の間に割り込んできた。
「な、なんでしょうか?」
「……お前、今は付き合ってる人はいないと言ったが……前はいたのか?」
「……は?」
「ま え は い た の か、と聞いてる。……どうなんだ洸一ッ!!」
「――はうっ!?」
な、なぜ怒鳴る?
そして何故、皆さん俺様を睨む?
洸一、少々尿意を催してしまったではないか。
「いや、その……今のは言葉のアヤと言うやつだ。恥かしながらこの神代洸一、未だかつて女性と正式にお付き合いした事はないですぅ……クスン」
「ふ……だろうな」
真咲姐さんはフンッと鼻を鳴らし、さも当然と言った具合に頷く。
その表情は、何処と無く喜んでいるような安心したような……
俺様がチェリーなのが、そんなに嬉しいのか?
少しムカつくぞよ。
「っもう……神代さん、ちゃんと正確に答えてよぅ」
「わ、分かっているよ澪香ちゃん」
ってゆーか、何故に質問されているのかが全く分からないんだけど……
「じゃあ次の質問ね。え~と……神代さんの誕生日は?」
「ぬ…?」
一転して、無難というかオーソドックスな質問だねぇ……一体、何の意味があるんだ?
「俺様の誕生日か。俺様のバースディは元旦、1月の1日だぞよ。日本で一番めでたい男なのだ。がははははは♪」
「……何となく、そんな感じ」
「ん?」
「何でもないよ」
澪香ちゃんはふるふると首を振り、スマホを操作しながら更に次の質問を繰り出してくる。
「え~と、神代さんの好きな色は?」
「色?色って言われてもなぁ……まぁ、群青色とか好きだな。ディープブルーと言うやつか?何となく、心惹かれる色と言うか、あの深みのある青さが……」
「それはどーでも良いの。ともかく、群青色ね」
「う、うむ……」
なんか知らんが、僕ちゃん、年下の女の子に好い様に扱われてないかい?
澪香ちゃんは少し、俺様に対する尊敬が足らないのではないか?
「じゃ、次の質問いくよ。え~と……神代さんの夢は?」
「は?夢?ふむ、夢かぁ……そうだなぁ……」
そんなモン決まっている。
ズバリ、世界征服だ。
この星を統一し、初代皇帝になるのだ。
が、これは言わないでおこう。
心に重度のハンディキャップがあると誤解されるからね!!
「うぅ~ん、そうだなぁ……別にこれと言っては……無いかな?」
「え?そうなの?神代さんって、夢が無いのか……」
「……無いと言うか、誇大過ぎて少々持て余すと言うか……」
「え?」
「や、何でもないですよ?」
「ふ~ん……じゃあ次ね。神代さんは、どんなタイプの女の子が好きですか?」
「ど、どんなタイプ?」
「そ。髪型とかスタイルとか性格とか……何でも良いよ」
「それは……」
それもズバリ、答えはある。
俺様の好みな女の子……それはただ一つ、僕ちゃんを殴らない女の子だ。
だけど、今はちょっと言えない。
だって、まどか達が凄い目で睨んでいるんだモン。
言ったら最後、後でどれだけブン殴られる事やら……
ちなみにまどか達をタイプ別に分類するとしたならば……局地戦仕様、と言うことになるのかな?
「ねぇねぇ、早く答えてよ神代さん」
「そ、それは……その……なんだ、特定の好みって言うのは、無いな」
「え?そうなの?」
「まぁな。スタイルがどうとか髪型がどうとか、どんな性格をしているとか……そーゆー事で、俺様は女の子を選んだりする気はないし、惹かれる事もあまり無いかな。要はね、相性。フィーリングなのよ、フィーリング」
「ふ~ん、良く分からないけど……でも神代さんも、初恋ぐらいは経験してるんでしょ?」
「初恋?初恋かぁ……俺の初恋は、アニメヒロインなんじゃが……」
そして初めての失恋も、アニメヒロインだ。かっこ笑い。
「むぅ……神代藤田さんって、やっぱりちょっと普通と違うよね」
澪香チャンは複雑な顔をしていた。
「じゃあさ、最後の質問だけど……」
「ん?まだ10個聞いてないぞ?」
「良いの。何を聞いても参考にならないみたいだし」
参考?
何の参考だ?
「え~とねぇ……神代さん、今は付き合ってる人はいないって言ってたけど、だったら好きな人は?」
「……へ?」
澪香チャンの言葉に、俺は思わず頭を上げた。
視線の先には、酷く真剣な面持ちの4人の美少女……
合計8つの瞳から発せられるレーザー的視線が、俺に容赦なく降り注いでいる。
え?あ、あれ?なんか知らんけど……僕ちゃん、精神的に追い詰められている?
★
澪香ちゃんは好奇心と期待の入り混じった瞳で俺を見つめており、その後ろではまどか、真咲、優チャンに姫乃ッチの4人の美少女が、好奇心と期待とそれを遥かに凌駕する殺気の篭った瞳で、俺を睨み付けていた。
「え、え~と……その……なんだ、なんちゅうか……何と言えば良いか……」
「ねぇねぇ、早く答えてよぅ」
と、人の気も知らない澪香ちゃん。
「神代さんも高2なんだから、好きな人ぐらいは当然いるでしょ?」
「ま、まぁ……好きな人っちゅーか……気になる女の子はいるかな?」
そりゃあ俺の周りには、闘神だの魔女だの超能力者だのロボだの関西だのキ○ガイだの……
実にスペクタルな一面を持つ欠陥人間ばかり集まっていますからねぇ……気にならない方がおかしいだろう。
己の身の安全を守る為にもね。
「だよねぇ。で、神代さんが好きな人って、どんな人なの?」
「ど、どんな人って……」
何て言えば良いんだ?
心に何かしらの障害がある女の子って言えば良いのかな?
って言うか、皆さん、俺を物凄く真剣な目で見ているし……
洸一、腹が痛くなってきたで候。
「そ、その……実は俺様が気になる女の子は、たくさんいるのだよ」
「え?」
「だからな、一概には誰が好きとかは言えないなぁ……はっはっは」
「……ふ~ん」
澪香ちゃんは、ちょっと難しそうな顔で何度も頷いた。
「神代さんって、ちょっと優柔不断なところがあるんだぁ」
「そそ、そんな事はねぇべ。ただ……まだ自分の中で、上手く気持ちの整理がついていないだけだ」
もちろん、嘘である。
なんちゅうか……
今の俺は、特定の女の子を好きになる事が許されない立場なのだ。
考え過ぎかもしれないけど、誰か一人の女の子を好きになった瞬間に、物凄い不幸が己の身に降り掛かるような……そんな気がするのだ。
「そもそも澪香ちゃん。何で俺に、そんな質問ばかりしてくるんだ?」
「え?んと……それはですねぇ……実は神代さんを、好きになっちゃったんですよ」
「へ?」
ビシッと音を立て、時が止まったような錯覚を覚えた。
澪香ちゃんはあっけらかんとした感じで言ったけど……
俺はドキドキしながら、ツイと視線を上げると、
――い、いや~ん……
4人の超人的乙女達の身体から、殺気を通り越して怨念みたいなものが噴出していた。
神代洸一、こんなに嬉しくない告白は初めてだ。
もちろん、面と向かって告白されること自体、初めてなんじゃが……
「み、澪香ちゃん」
ちょいとドキドキしながら、俺はニコニコ顔の年下美少女を見つめる。
と、
「み、澪っ!!」
憤怒の形相でまどかが割り込んできた。
そして俺をビシッと指差しながら、
「こ、この馬鹿は……駄目よッ!!」
「へ?なに?どうしたの、まどか姉ぇ……」
「澪が誰を好きになろうと構わないけど、この馬鹿はダメ。これはアンタには相応しくないのッ!!コイツは馬鹿だしスケベだし我侭のオタンコナスなのッ!!こんな奴を好きになったら、次の瞬間に妊娠させられちゃうんですからね。リアルに14歳の母になっちゃうわよッ!!」
ひ、酷ぇ……
俺の尊厳はどこへ消えた?
「お、おい、まどか」
「お黙りっ!!何時の間にか澪まで誑かして……このロリコン!!」
まどかはグイッと俺様の胸倉を掴み、ポイッと林の中へ放り投げた。
洸一、やはり今日は厄日であります。
「分かった澪。洸一みたいな無鉄砲の真性馬鹿は、アンタみたいに大人しい女には制御できないの」
「わ、分かったけど……誤解だよぅ、まどか姉ぇ……」
澪香ちゃんはちょっと硬い表情で笑った。
「あのね、神代さんを好きになったのは、私の友達で……」
「へ?と、友達?」
「うん。神代さんの事が気になるから、色々と聞いて来て欲しいって頼まれたんだけど……」
な、なんだよ……
澪香ちゃんじゃないのか。
俺様はゆっくりと林の中から復活した。
そしてポリポリと頭を掻きながら、
「んで、誰が俺様の事が気になるって?って言うか僕ちゃん、澪香ちゃんの友達って、全然知らないんだけど……」
「ほら、この間ナンパしてきた男の人達から助けてくれたでしょ?その時、一緒にいた女の子だよぅ」
澪香チャンは言いながら、スマホを操作して、俺に見せ付けるように差し出す。
その小さい画面には、澪香ちゃんともう一人、ちょっとウェーブの掛かった長い髪の大人しそうな感じのする女の子が写っていた。
かなり可愛い部類に入る女の子だ。
「ほ、ほほぅ……この娘が……もしかして?」
「うん、ユッチーがね、神代さんに一目惚れしちゃって……」
「ユ、ユッチーって……」
「夕依って言うんだよ。もちろん、れっきとしたお嬢様だよぅ」
ほぅほぅほぅ……
なるほど、確かにどこぞの御令嬢って感じがしますなぁ……
「ちょっとぅ……なに鼻の下を伸ばしてるのよぅぅぅ」
まどかがギリッと奥歯を鳴らしながら、俺を睨み付けて来た。
うむ、此方はとても御令嬢には見えない。
「だだ、だってよぅ……こんな可愛い女の子が俺様の事をなんて……男冥利に尽きるだろ?」
「どれ…」
と、何時の間にかやって来た真咲さんが、スマホを覗き込む。
「ふむ、確かに可愛いな。うむ、洸一には相応しくない」
「ぬおぃッ!?」
「ん?なんだ?何か文句でもあるのか?」
「……全然、無いですぅ」
「ま、と言うわけよ、澪」
まどかはにこやかな顔で、澪香チャンの肩を叩いた。
「その子には悪いけど、洸一は興味無いって」
「そ、そうなの神代さん?」
ぬ、ぬぅ……
「いやぁ~……どーなんだろう?正直、直接会ってみないと分からないなぁ」
なんて言った瞬間、俺の両足はまどかと真咲に思いっきり踏ん付けられ、地面に減り込んでいた。
大地に根を下ろすとは、まさにこの事だ(全然違う)。
「アンタねぇ……なに期待させること言ってるのよ」
と、小声で耳打ちしてくる、まどか。
「まさか、本気で付き合う気じゃないでしょうねぇ」
「いや……多分、それは無いでしょう。……色んな意味で自殺行為に近いし」
俺も小声で答える。
「でもな、断るにしろ何にしろ、やっぱ一度は会って少しはお喋りとかもして、それから断る時もちゃんと自分の口から言うべきだと……それが礼儀じゃないかい?それにだ、紹介してって頼まれた澪香チャンの立場ってモンもあるし……」
「ふむ、道理だな」
真咲姐さんも囁く。
「こーゆー事は、キチッとしておいた方が後腐れが無いからな」
「まぁ、そーゆー事だ」
「うむ。では早速、今から会いに行こう」
「えぇぇっ!!?」
とまぁ……
別れ話は早い方が良いだの何だのと言われ、今日の今日で話を付けに行こう……と言うか行けッ!!と言うことになったのだが、さすがに正式に交際を申し込まれた訳でもないし、此方から断るのは如何なものかと……
何より、そのユッチーちゃんなる少女の予定もどうか分からないので、取り敢えず今日の所はこれでお終いと言う事になりつつも、その後の侃侃諤諤の協議(ただし何故か僕は加わってない)の末、その少女の気持ちや友達である澪香チャンの立場も考慮し、今度の土曜日、学校が終わってから最初で最後のデートをする事になってしまった。
もちろん、僕は何をしていいのか分からない。
分かっているのは、デート当日はまどかと真咲の指図に従う、と言うことだけだ。
……どうやら今の僕には、恋愛の自由すら許されないらしい。
なんでだろうねぇ?