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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
20/53

帰って来たプロジェクトS ①


★6月12日(日) 


 今日は日曜日。

昨日は新人戦で、夜には星になった俺様は、さすがに疲労していた。

だから今日は一日、ゴロゴロと惰眠を貪ろうと思っていたのだが……

そんな俺のささやかな願いは、一本の電話で打ち砕かれたのだった。


《帰ってきたプロジェクトS》


朝……

気持ち良く布団の中でまどろんでいると、チリンチリンと、俺様の部屋に設置されている、どこか年代物的な趣のあるクラッシック調の電話が、優しい鈴のような音で鳴り響いた。

「……ふにゃ?」

もぞもぞと、布団から這い出す俺。

ふと、壁に掛かっている時計に目をやると、まだ朝の8時半という、大きなお友達用アニメも放映していない時間であった。

「ンだよぅ……こんな朝早くから……」

ブツブツと溢し、乱暴に受話器を取る。

そして不機嫌な声で、

「はい……俺様だ。神代洸一、その人である」


『……もしもし、私だ』

受話器から、渋い声が漏れてきた。

『昨日の新人戦で疲れていると思うが……取り敢えず仕事だ、神代君。さて、今回のミッションだが……』


「お、おいおい……一体、なんの話だ?ってゆーか、先ずは名乗れよ」

しかし、どこかで聞いたような声なんだが……


『ハッハッハッ……私だよ、神代君。二階堂だよ。メイドロボ研究所の……』


「あ、なんだ。喜連川重工の厄介者、給料ドロボーの二階堂博士でしたか」


『随分と酷い言われ方な気がするが……その二階堂だよ』


「で、その博士が何なんすか?こんな日曜の朝早くから……」

なんか、物凄く嫌な予感がするんじゃが……


『いや、実はね、また神代君に仕事を手伝って欲しくて……ほら、GWの時に手伝ってくれたMH-S計画なんだけど、それの第三次計画が発動されてね。是非とも神代クンに協力を……』


――チンッ!!

俺は速攻で電話を切った。

嫌な予感、思いっきり的中だ。

本日の僕チン、非常にお疲れ。

昨日の試合で、心身共に極限まで闘った挙句、まどかに吹っ飛ばされ流星にまでなったのだ。

だから今日は一日、ゆっくりと静養しなければならんのだ。


「と言うわけで、寝るごわす」

俺はそう独りごち、いそいそと布団の中へ戻ろうとするが、

――チリン、チリン……

と、またもや電話のベルが鳴り響く。


ぬぅ……

「……はい、もしもし?」


『神代くぅぅぅ~ん』

おっさんの妙な猫なで声が、耳に響いた。

『頼むよぅ。今日は見ているだけで良いんだよぅ。実験には別の人が参加するから、安全は保証するよぅ。もちろん、ちゃんとバイト代も出るでよ』


「出るでよって……二階堂博士、生まれはどこですか?」


『まぁまぁ……そんな訳で、頼むよぅ。のどかお嬢様も、是非に、と仰っておられるし……』


「の、のどか先輩も……ですか?」

そのワードに、俺はゴクリと唾を飲み込み、思う。

あぁ……今日はもう楽しくない……

「わ、分かりましたよ。他人ならいざ知らず、のどか先輩の頼みなら、最初から断るって言う選択肢が無いじゃないですか」

あの人の頼みは命令と同義語だもん。


『まぁ……ね』

二階堂博士は受話器の向うで低い声で笑った。

『では神代君、そーゆー事で頼むよ。私は研究室にいるから、昼前には来てくれたまえ。では……』


「へぇへぇ……了解ちまちた」

俺は電話を切り、項垂れた。

まったく……せっかくの休みだと言うのに、何でこんなイベントに巻き込まれるんだか……

昨日の今日だぞ。

疲労困憊中で、まだ体の彼方此方が痛いと言うのに……

二階堂博士は、見ているだけで良いとかヌカしてたけど……

のどかさんの頼みだぞ?

それだけでで済むはず無ぇーじゃねぇーか……

「あ~~……やれやれだぜ」

俺は大きな溜息を溢し、パジャマ代わりに着ているTシャツを脱ぎ捨てる。

「さて……んじゃ着替えて飯食って遺書書いて……とっとと研究所へ行きますかねぇ」



MH-S計画……

簡単に言えば、不慮の事故等で肉体的損失を伴った人に、惑星メー○ルばりに機械の体をあげようと言う、神をも恐れぬ悪魔の計画。

人の魂をメイドロボのボディに組み込むという、それは倫理的に見てもどうよ?と思われるのだが……

やっている人達(主に二階堂博士と魔女)は真剣だ。

だから余計に性質たちが悪いと言うか、手に負えない。


「ったく……魂なんちゅうモンは、ちゃんと輪廻の輪に乗せてやるモンなんじゃがのぅ」

軽い朝食を食べ終えた俺は、腹ごなしも兼ねて、自転車で喜連川重工エレクトロニクス管轄のメイドロボ研究所へ。

休日なのに出勤している受付のお姉さんに、研究所内を散策できるIDカードを発行してもらい、入館。

研究所内は、白衣を着た、頭の良さそうな研究員で賑わっていた。


ありゃまぁ……

休みなのに、皆さん張り切ってお仕事してますなぁ……


さすが、天下の喜連川だと思う。

それにだ、今の時代、メイドロボ産業は花形なのだ。

聞けば看護士の代わりにメイドロボを採用している病院とか老人医療施設もあるぐらいだ。

確かに、メイドロボは看護も出来るし24時間働けるし……そーゆー仕事場には向いてると思う。

もっとも、ラピスクラスのメイドロボがそんな職場に送られた日には……

医療ミスとかそんなレベルじゃなく、皆殺し大作戦、と言う有様になってしまうのは間違いない。

アイツの場合、凄く良い笑顔で、うっかり患者をっちまうだろう。

うむ、なんて恐ろしい。


「いやはや、それにしても活気に溢れてますなぁ」

他のメーカーも、こぞって新型メイドロボを研究したり発表したりしているそうだ。

世界トップシェアを走る喜連川重工とて、うかうかとはしてられないのだろう。

「さて…」

エレベータを乗り継ぎ、《レベル5・二階堂研究室》と表示されている、一般研究員は入れない特殊施設へと俺は入る。

と、研究室の一角から、見慣れた顔がヒョイと出て来た。


「_あら?これは洸一さん」


「よぅ、セレスじゃねぇーか」

喜連川家のメイドをしているセレスは、珍しく他の研究員と同じような白衣に身を包んでいた。

如何にも、優秀な科学者、と言う雰囲気が漂っている。

ただ、どちらかと言うとマッド寄りなのが少々残念なのだが……


「_今日は疲れていると思い、起こさないようにしていたのですが……研究所に御用とは、珍しいですね」

と、セレスは少し小首を傾げる。


「まぁな。俺も本当は、今日一日はゆっくりしよう、と思ってたんだけどさぁ……朝一番に、髪の長い偉大な魔女様に呼び出されてねぇ……」


「_……そうですか。ならば仕方ないですね」


「うん、本当に仕方ないね」

俺は力無く笑った。

「んで、セレスは何してるんだ?」


「_お片付けを少々。どうも博士の頭の中には、片付ける、と言う概念が存在しないようでして……」


「ふ~ん……なるほど」

俺は頷き、チラリと視線を走らせ、

「セレスが研究室の片付けをしているのは理解できたが……アレは一体、何をしておるのだ?」

俺の視線の先には、ラピスがいた。

セレスと同じく白衣を着ているが……

床にペタンと座り込み、何やら作業に没頭している。

良く見ると、ウヒウヒ笑っている彼女が手にしているのは、メイドロボの頭やら手やら足やら……

うむ、かなり猟奇的な絵だ。


「_……さぁ?」

セレスは小さく頭を振った。

そして溜息混じりに冷笑すると、

「_何でも、余っているパーツを使って新しいメイドロボを製作するのだ、と言っておりましたが……さすがはラピスさんです。スクラップにはスクラップがお似合いです」


「ふ、ふ~ん……なんか、冷蔵庫の余り物で作ったアイディア料理、みたいな感じでメイドロボを作っているのか」

そう言って俺は、ラピスの作っている物体を眺める。

ショートなヘアーが可愛い名も無きメイドロボの頭部パーツ。

その愛らしい頭部の小さな耳の辺りからはニョキッと腕が6本ほど生えており、更に首の下からは細い指が無数に飛び出し、ウネウネと動いていた。

新しいメイドロボ、と言うよりは、何か得体の知れないクリーチャーを創造しているようだ。

「……遠目で見ると……なんか平家蟹みたいに見えるのぅ。もしくは遊星からの物体」

夢にまで出てきそうな造詣だ。

「それで、出来上がったらアレ……どーすんだ?もう一回バラバラにするのか?」


「_さぁ?」


「まぁ……どーでも良いけど……屋敷には連れ帰って来るなよ?アレと廊下でばったり出くわしたら、確実に俺はチビるからな」



研究施設の一番奥にある、『MH-S企画開発室』と言うプレートが貼ってある部屋に入ると、

「やぁ神代君。……早かったね」

小さなお洒落メガネが相変わらずどこか胡散臭い二階堂のおっさんが、人畜無害な笑顔で出迎えてくれた。


「どうも、博士」


「どうだい、コーヒーでも飲むかい?」

と、二階堂氏はカップを掲げる。


「……そうですね。いただきましょう」

言って俺は、部屋の中を何気に見渡し、

「ところで、のどか先輩は?」


「向こうの部屋で準備中だよ」


ぬぅ……やはりもう来てたのか……

「それで……博士。さっきの話だと、俺……今日は見学だけで良いんですよね?」


「……」


「……なぜ黙る?」


「はっはっは……ま、大丈夫だよ」

二階堂博士は笑いながら、コーヒーの入ったカップを俺に手渡してくれたが……何が大丈夫なんだ?

「今回も前回と同様、試作機であるMH-S・P04-32型改・ヴァルガリマンダを使って実験を行うんだが……」


「俺の魂は使わないんですよねぇ?」

もし、またヌイグルミ的な物に憑依しちまったら……俺、恐怖の人形として参上しますよ。

そして包丁振り翳して暴れた挙句、その喉首、掻っ切ってやりますよ。


「もちろん、君の魂は使わない。今回はねぇ……のどか御嬢様の用意してくれた霊魂を使うんだよ。前回の失敗は、生きた人間の魂を使った事にあると思うんだ。やはり当計画の基本コンセプト通り、死んだ人の魂を使わないと、上手く行かないような気がしてねぇ……はっはっは」


「死んだ人間の魂ねぇ……」

なんか、猛烈に嫌な予感がするんじゃが……

「で?誰の魂…もとい、どんな故人のを使うんですか?」


「う~ん、私も具体的に知らないんだが……」

と、二階堂のおっさんは白衣のポケットを弄り、皺くちゃのメモ用紙を取り出すと、

「のどか御嬢様が是非に推薦されたのだが、え~と……色々と候補があるみたいだねぇ」


色々って……そんなに用意してどーするんだ?


「先ずは……都井睦夫さんの霊魂を……」


「――ブッ!?」

俺は口に含んでいたコーヒーを威勢良く吐き出した。

「ゲ、ゲホッゲホッ……」


「ど、どうしたんだね神代君?」


「ど、どうしたって……都井睦夫って言えば、一時間に30人の村人を殺した人ですよ?」

八つ墓村のオリジナルになった人だ。

「そんな人物の魂を吹き込んで、何をどーしようって言うんですか?」


「そ、そうか。それは知らなかったなぁ……はっはっは」


なに笑ってるんだ、このオッサン?

「で、他には?他はどんな霊魂を呼び寄せる予定なんです?」


「え~と……外国の方かな?ジョン・ウェイン・ゲーシーって書いてあるんだが……」


「殺人ピエロだよっ!?世界で一番、豪太郎が尊敬する奴じゃねぇーか!!」


「ほう……なるほど。次に書いてあるのは、梅川照美……」


「猟銃強盗殺人犯だよっ!?」


「それと、小原保……」


「吉展ちゃん事件かよっ!?」


「そして最後に神代洸一……」


「俺だよっ!?」


「いやぁ~……見事なラインナップだねぇ」


「言うことはそれだけか?」

俺はキッと二階堂博士を睨み付けた。

「魂を呼び寄せるのは良いとして……や、別に良くは無いけど……どーしてマトモな人がいないんです?何故?」


「何故と言われても……そりゃあ、のどか御嬢様の趣味だからねぇ」


「あ、そりゃそうか」

って、納得してどーするっ!?

「ともかく、俺がのどか先輩に掛け合いますよ。もう少しまとも……って言うか、ちゃんと大往生した人の魂を呼んで下さいってね」



実験室はさながら、サバトのような光景だった。

台の上に横たわる半裸の美少女(試作メイドロボ・ヴァルガリマンダ)。

そしてその周りを、太くて大きい赤い蝋燭が幾重にも取り囲み、床にはこれまた大きな魔方陣。

相変わらずな魔女衣装ののどかさんの足元には、使い魔である黒猫の黒兵衛と生き人形の酒井さんがちょこんと突っ立ていた。


うへぇ~……

外は初夏の陽気を思わせる良い天気なのに、何故にここはこうもダークネスな感じがするのか……


「……洸一さん」

部屋に入ってきた俺に、トテトテとのどかさんが嬉しそうに駆け寄り、

「おはようございます……」

先ずはご挨拶。


「おはよう御座います、のどか先輩」


「今日はお日柄も良く、絶好の降霊日和です」


「……」

意味が分からん。

が、ともかく……先ずは誰の魂を呼び寄せるのか、それを確認しないと……

万が一、シリアルキラーな奴の魂を降ろしてみろ……間違いなく、研究所は阿鼻叫喚の地獄と化すぞ。

二階堂博士に到っては、真っ先に殺されるかも知れん。

「の、のどか先輩」


「……なんでしょう?」


「あのぅ……つかぬ事をお伺いしますけど、今日は死んじゃった人の魂を入れるんですよねぇ?」


「はい…」

偉大な魔女様はコクンと小さく頷いた。

「今日は降霊術を使い、さ迷える魂を呼び寄せ、あのメイドロボに一時的に吹き込みます」


「なるほど。で、一体どなたの霊を呼ぶんでしょうか……」


「……ジム・ジョーンズ」


「今度は教祖かよっ!?」


「???」


何故そこで首を傾げる?

「あ、あのですねぇ、のどか先輩。なんちゅうか……色々と候補は二階堂博士から聞きましたけど、その……器となるメイドロボは女性型じゃないですかぁ。だから呼び寄せる魂も、女性の方が宜しいかと……」


「……アイリーン・ウォーノス」


まだ言うか?

「いや、だからね、何故にそうも猟奇犯罪者に走るんです?何かそう言う縛りでもあるんですか?」


「でしたら、まどかちゃんの魂を呼び寄せて……」


「それはまだ生きてます」


「もぅ……洸一さんはワガママです」


「何を言うてるんですか?」

俺はガックリと項垂れた。

本当にまぁ……この人は世間的常識が欠如していると言うか何と言うか……

御嬢様だから世間を知らない、って言うレベルじゃなく、人としての常識と言うかねぇ……

や、世間的常識と言う観点から考えれば、この実験そのものがおかしいのだがな。

そもそもだ、呼ばれる方の魂だって、そう簡単に実験に協力してくれるか?

俺がその辺を漂ってる霊なら、舐めんな、ってキレるぞ?

「……って、そうだっ!?」

俺はパチンと指を鳴らした。

「のどか先輩、のどか先輩」


「……なんでしょうか?」


「いや、今、不意に思い付いたんです。俺達のごく身近にいるじゃないですか……実験に打って付けの霊魂が」


「???」


「彼女ですよ、彼女」

言って俺は、のどかさんの足元を見やり、

「酒井さんですッ!!」


「……キ?」

市松人形に宿っている酒井さんは、小首を傾げ俺を見上げる。


「人形に宿ってる魂なら、メイドロボにも難無く移れる筈ですッ!!ど、どうですか先輩?」


「……洸一さんは天才です。それは盲点でした」

のどかさんは少し驚いた顔で、コクコクと頷いた。

そして戸惑っている生き人形をそっと抱き抱え、

「聞いた通りです、酒井さん。どうか実験に協力してください」


「キキ…キーーーーー(そ、そんなこと言われても…)」

と、酒井さんは突然の事で戸惑っているのか、珍しく気弱な台詞を吐いた。

「キキキ……(あそこで横たわっているメイドロボとやらに乗り移るんでしょ?な、何て言うのか……あの身体は、私の趣味には合わないと言うか……)」


何を言うてるのだ、この人形は?

ダッチ○イフの類ならともかく、最新のメイドロボだぞ?

市松人形より、よほどマシじゃねぇーか……


「酒井さん……」


「キキキーーーー(う゛っ……わ、分かったわよ。他ならぬのどかの頼みだし、何よりオカルトの為ですもんね)」


「さすがは酒井さんです」

のどかさんは満面の笑顔で、優しく酒井さんの頭を撫でる。

「では、早速ですが試してみましょう。酒井さんの魂を一時的にこの人形より切り離し、メイドロボに吹き込みます」


「……う、上手く行くんですかねぇ?」

洸一、自分で言っておいて何だが……ちと心配だ。

ここだけの話、俺は魔女様の力は信じているが、信用はしてないのだ。


「……大丈夫です」

のどかさんは自信満々に答えた。

「この私が執り行うのです。失敗などありません」


「……」

だから、どうしてこの人は、いつもそんなに自信たっぷりに言うんだ?

俺様の統計だと、成功率は2割を切ってるんだぞ?








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