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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
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こころのかたち



★5月31日(火)


 「_起きて下さい、洸一さん」

と言うセレスの声と、

「起きるが良いでしゅ、洸一しゃんッ!!」

と言うラピスの声と共に微かに揺れる体。

俺の意識は緩やかに、まどろみの底から浮かび上がる。

「ん……んにゃ?もう朝か……」

俺はベッドからゆっくりと半身を起こし、軽く背伸びを一回。

うむ、爽やかな朝だ……

天気も良いし、体も絶好調。

我が愚息も朝から元気いっぱいだし……

「……」

愚息こと我が将軍様は、まるで筍の如く雄雄しく屹立していた。

これは生理現象だから、仕方がない。

むしろこの歳で元気が無い方が困る。

ただ……時と場所を選ばないのが難点なのだ。


「_……」

セレスが固まったまま、俺の終末兵器を凝視していた。

ラピスに至っては、既にショートして本当に固まっている。


あぁん、いつもの暮らしだったら、こんな気苦労はしなくて済むのに……

「言っておくが、これは不可抗力だぞ?生物学上、仕方のない仕様だ」


「_ワ…ワカッテオリマス」

セレスはカクカクと頷き、ぎこちない動きで部屋を出て行った。


ぬぅ……

朝、起こしてくれるのは良いけど、コレを見られるのはチトなぁ……

いくらメイドロボとは言え、乙女には厳しいものがあるだろう。

飼主であるこの俺も、時々自分のコレが微妙に怖いしね。

「ってゆーか、ラピスが放置されてるんじゃが……どーすんの、これ?」


ラピスは朝の爽やかな陽光を受けたまま、未だ石像と化していた。



――中間テスト2日目……

本日は英語ライティング・物理・古典の3教科。

美佳心チン特製のテキストのお陰で、今日も辛うじてテストを乗り切ることが出来た。

明日はテスト最終日。あと一日の辛抱だ。


さて、そんなこんなで喜連川家に帰還した俺は、今日も今日とて皆でお勉強会。

いつもの面々にのどかさんを交え、黙々と勉強をしていたわけなんじゃが……

「はぁ~い♪」

案の定、学校から帰ってきたまどかが乱入してきた。

「私も明日からテストだから、一緒に勉強するもん」


「……勝手にすれば良いだろう」

と、問題集に取り掛かっている真咲さんは、にべもなく言った。

「ただし、邪魔はするなよ」


「うっさいわねぇ」

まどかはジロリと真咲を睨み付けると、俺に向かって、

「ねぇねぇ洸一。実はさぁ、一緒に勉強したいって子がいるんだけど……良い?」


「へ?良いも悪いも……一緒に勉強したいって何だ?お前の友達か?」

誰であろうと、可愛い子なら俺は許す。

つまり、ブスなら許さんと言う意味だ。


「いや、洸一も知ってる後輩の子なんだけど……ちょっと成績が悪くてさぁ。それで私が勉強を見て上げようかなぁ~って思って」


「俺の知っている後輩?」

はて?名門である梅女に知り合いの年下は……

「――って、よもやッ!?ま、まさか……」


「うん。そのまさか」

まどかは苦笑を溢すと、その背後から、ちんまりとした女の子が顔を覗かせた。

相変わらず、不可思議な感じと言うかちょっぴりアカン子みたいなボーッとした瞳で部屋の中を見渡し、俺を見つけるや、

「……師匠」


「み、みなもチャン」

って言うか、師匠ってなに?

何時から俺はマスターの位を授かったんだ?

みなもチャンはニコニコッと、思わず見ているこっちの頬も緩むような、純真無垢な笑みを浮かべていた。

とてもまどかの愛弟子にして優チャンのライバルである天才格闘家とは思えない、あどけなさだ。

っと、そう言えば優チャンは……

俺はチラリと、近くに座っている優チャンに視線を向け、

――ゲッ!?

心の中で仰け反った。

優チャンは、みなもチャンをキッと睨み付けながら、カタカタと震えていた。

さも有りなん…

優チャンにしてみれば、みなもチャンは現時点最強のライバルだ。

心穏やかに、と言う訳にも行くまいて。


「ん?誰だその子は?洸一の知り合いか?」

と、興味深気に真咲姐さんを始め、皆が勉強の手を止めてみなもチャンを見つめた。


「あ~……紹介しよう」

俺は席を立つとコホンと咳払いを一つ、ちんまい彼女の頭の上に手を置きながら、

「彼女は御子柴みなもチャンだ。まどかの後輩にして優チャンのライバルだ」

ちなみに俺様の脳内設定に置いては、みなもチャンは生き別れの妹と言うことになっているが、それは秘密なのだ。

言うと病院に連行されそうだしな。


「ほぅ。と言うことは、御子柴先輩の妹か……」

真咲姐さんはウンウンと独り頷き、他の皆も中々に好意的眼差しで彼女を見つめていた。

特にのどかさんは、みなもチャンのボーッとした表情がお気に召したのか、実に興味津々だ。


うむ、これならあっという間に皆と仲良くなれるな。

と思った矢先だった。

いきなりラピスが立ち上がるや、

「こ、洸一しゃんッ!!誰でしゅか、その女の子はッ!!」


「へ?だから御子柴のみなもチャンと言って……」


「しょんなことはどーでも良いでしゅっ!!」

ラピスは鼻息も荒く、ツカツカとみなもチャンに近寄り、

「どー見ても、ラピスとキャラが被ってるでしゅッ!!」

ビシッと、まるでクラーク博士の銅像のようにみなもチャンを指差した。


「……はい?」

な、なんだいきなり?

ついに壊れたか?


「はやぁぁぁ……ち、小さいでしゅッ!!しかもツルペタ風味満載でしゅっ!!しかもしかも、不思議っ娘も入ってるんでしゅっ!!あやややや……こ、これは侮れない存在でしゅぅ」


「……はい、どうもありがとう!!取り敢えず席に着いて勉強をしようね」

と、俺はラピスを宥めながら追い返すが、

「み、みなもサンッ!!」

今度は優チャンが現れた。

くっ……い、胃が少し痛くなってきた……


「みなもサンッ!!お久しぶりです!!」

優チャンはその瞳にメラメラと炎を滾らせ、みなもチャンを見つめていた。

そして一方の彼女はと言うと、

「???」

小首を傾げ、相変わらず不思議な瞳で優チャンを見つめ返している。


ぬぅ……ライバル同士の邂逅か……

中々に熱い展開じゃないですか。


「みなもサンッ!!来週の新人戦では、決して負けませんッ!!」

「……新人戦?」

「そうですっ!!前に出会った時は不覚を取りましたけど……今度は負けませんっ!!」


今度?ふむ……なるほど。

みなもチャンと優チャンの間には、何かあったんだろうなぁ……と予測はしてたけど、かつて闘った事があったとはな。

しかも負けないって事は、優チャン、以前は負けたのかぁ……

なるほどねぇ。こりゃ張り切る筈だ。


「あれから……本当にあれから、たくさん鍛えましたッ!!だから今度は、私が勝つ番ですッ!!余裕で勝っちゃうのですッ!!」

優チャンは鼻息も荒く、勝利宣言。

かなり強気だ。

さて、どうする、みなもチャン?


「……?」

みなもチャンは首を傾げていた。

そしておもむろに俺の服の裾をクイクイッと引っ張ると、

「師匠。この人……誰?」

「――はぅぁッ!?」

優チャンは一瞬で固まった。


「だ、誰って……優ちゃんだよ。葉室優貴チャン。みなもチャンのライバルだろ?」


「……ライバル?」

みなもチャンは首をククッと傾げた。


「そ、そうだよ?ちなみにライバルとは好敵手って意味だけど……知ってるよね?」


「うん。意味は知ってる。でも……この人は知らない」

「――は、はぅッ!!?」

優チャンは灰になった。

ロストしてしまった。

ステータス画面にはきっと墓石が映ってる筈だ。


うぬぅ……よもやライバルと思っていた相手から、知らない人呼ばわりされるとは……

まさに眼中に無いとはこの事だ。

優ちゃん、ちと哀れよのぅ……

しかもみなもチャンからは、全く悪びれた様子、悪意そのものを感じない。

つまりそれは、本当に優チャンのことは忘れていた、と言うことだ。

真実はいつも無情と言うか、現実は常に残酷だよなぁ……

「あ、ところでみなもチャン。その……師匠ってどーゆー意味?」


「師匠は……師匠」

みなもチャンは俺を見上げ、微笑んだ。

「ボクより強いから、師匠だよ」


「ボ…ボクっ!?」


「?ボクは、ボクだよ?」


「な、なんてこったい。神代洸一、ボクと言う一人称に激萌えッ!!」

と感動した途端、いきなりまどかに尻を蹴られたは言うまでも無い事だった。



みなもチャン(ボクッ娘)は、別に頭が悪いというワケではなかった。

ただ、集中力が足りないだけなのだ。

まどかが一所懸命に教えているのだが……

暫くすると、ボーッと外を見たり、何やら教科書の隅っこに落書きしたりと、まるで園児か小学生、もしくは脳がちょっと蕩けている子ばりに、集中力を持続できないのだ。


ま、ある意味微笑ましいから良いけど……

でもね、みなもチャンが時折俺の方を見てニコッと微笑むんだけどね、その度に優チャンやラピスが噛み付かんばかりの形相で睨んで来るんじゃが……これ、何とかならないかねぇ?

なんだか胃がキリキリとしてきたよ。

ま、そんな感じで淡々と勉強は進み、あっという間に外は鮮やかな茜色の景色。

うむ、一通り問題集は終わったか。

う゛~と背伸びを一回、首を軽く回すと、気持ち良いぐらいに骨がコキコキッと鳴る。

皆もさすがに勉強疲れが出たのか、それぞれ好き勝手な事をやり始めていた。

美佳心チンと姫乃っチはTVでニュース見てるし……穂波と智香は、何やらファッション雑誌を読んでいる。

ラピスとセレスはお屋敷の仕事でいねぇーし、まどかは真咲とお喋りか。

んで、のどかさんはみなもチャンとボーッとお外を見てるし、優ちゃんは……

「あれ?」

部屋の中に、優チャンの姿はなかった。

そう言えばさっき、ふらっと外へ出て行ったけど……

みなもチャンの事もあるし、色々と思う所があるんだろうなぁ。


俺は席を立ち、静かに部屋を出た。

ま、ちょいと慰めると言うか、先輩として多少なりともフォローぐらいはしておかないとねぇ……

廊下に出て、辺りを見渡す。

と、端っこの方で、窓から外を眺めている彼女の姿がそこにはあった。

辺りには何だか、負のオーラが充満している感じがする。


な、なんか……ちょいと声を掛け辛い雰囲気なんじゃが……

とは言っても、ここは年上として、そして同好会の仲間として、更には男として、このままスルーする事は出来ない。

しかしなぁ、みなもチャンに完璧に無視されていたんだモンなぁ……何と言って良いやら、サッパリ分からんぞよ。

優チャンの気持ちは、良く分かる。

みなもチャンをライバルとして切磋琢磨してきたのに、当のみなもチャンが、全く優チャンの存在を気に掛けてなかったのだ。

一人相撲と言うヤツだ。

優チャンの格闘家としての誇りは、結構ズタボロになっちゃったんだろう。

それに敬愛するまどかが、みなもチャンを可愛がっているからなぁ……


俺は溜息に苦笑を織り交ぜ、ゆっくりと可愛い後輩に近づいた。

「……よぅ、優チャン。こんな所で何をしてるんだ?」


「……別に……何もしてないです」

優チャンは窓から外を眺めたまま、静かに答えた。


ぬぅ……

暗い。

物凄く、雰囲気が暗いですたい!!

「な、なぁ優チャン。一つ聞きたいんじゃが……前にみなもチャンと、何かあったのかい?」

俺がそう尋ねると、彼女はチラリと俺を見やり、どこか自嘲めいた笑みで、

「……負けました」

と、呟くように言った。


「う、うん。それはさっきも言ってたから知ってるけど……」


「……去年、会ったんです。まどかさんに紹介されて」


「ほぅ…」


「年末に……まどかさんに鍛えてもらっている時に、紹介されたんです。今度梅女の格闘技倶楽部に入る将来有望な女の子だって……」


「ほ、ほぅ…」

まどかも罪作りだよなぁ……

優チャンが自分を慕ってるって分かっているのに、そんな事を言うなんてのぅ。

・・・

ま、アイツの事だ、優チャンの熱血パワーに期待して、焚き付けたんだと思うけどな。


「それで……ちょっと試合ってみる事にしたんです。だけど……」


「負けちゃった……と言うわけだね?」


「……」

優チャンは唇を噛み締め、無言で頷いた。


うぅ~む……

俺はまだ、みなもチャンと本気で闘った事はないから良く分からんが……確かに、みなもチャンは強いと思う。

だけどポテンシャルは、優チャンも同等かそれ以上だと思うんじゃが……

ま、今はそんな事はどーでも良いか。

問題はだ、みなもチャンが一度戦った優チャンの事を完璧に忘れていた、と言うことだ。

これはちと、キツイ現実ですなぁ。

「あ~~…優ちゃん?俺さ、みなもチャンの事を擁護って言うか彼女に肩入れするつもりじゃないけど、彼女に悪気はないんだよ?」


「……」


「彼女が優チャンの事を忘れていたのは、単に天然だからだ。下手したら、みなもチャンは今朝食べた飯だって思い出せないかも知れん。だからだ、なんちゅうか……もう一度戦えば、思い出すんじゃないか?それこそ、今度は完膚なきまでに叩きのめせば良いじゃないか。私が葉室優貴よ、って彼女の心に刻み込むぐらいにさ。その為に、今まで頑張って来たんだろ?」


「そ、そうですね」

と、優チャンは一瞬瞳を輝かせたが、またすぐに肩を落とすと、

「でも……みなもサンは強いです。また負けるかも……」


ぬぅ…

「おいおい、戦う前からそんな事を言ってたんじゃ、本当に負けちまうぞ?」


「……」


「……あぅ」

こ、困りましたねぇ。

優ちゃんはいつも元気ハツラツなんだけど、その反動か、いったん落ち込むと徹底的にネガティブになるなぁ……

はてさて、どうしたもんか。

俺はどうやって優チャンの元気を取り戻そうかと、無い知恵を絞って思案。

ちっとも良いアイディアが浮かばないがその時、不意に部屋の扉が開き、元凶であるみなもチャンが顔を覗かせた。


「……師匠」

と、ニコニコ顔で駆け寄ってくるみなもチャン。

うむ、実に可愛い。

さすが俺の架空の妹だけの事はある。

もし仮に彼女がお嫁に行ったら、俺は式場で、『だって俺、みなもが好きなんだもん』とか言って号泣するかも知れん。

って、今はそんな馬鹿な事を考えてる場合じゃねぇーし……

優チャンはと言うと、みなもチャンを睨んだまま、固まっていた。


「師匠、何してるの?」


「え?いや……ちょいと外をな」


「……夕焼け?」


「そ、そうだ。綺麗な夕焼け空じゃのぅ……はっはっはっ」

さ、さて……どうする?

どうする洸一?

ただでさえ優チャンが精神的に参っているこの状況でみなもチャン登場とは……これはちと、色々とヤバイんでないかい?

いきなりイベントバトルが発生するとは思えないけど、取り敢えず今はみなもチャンと優チャンを近付けない方が無難か……

と、結論に達するものの、時既に遅し。

みなもチャンは相変わらず不思議な瞳で優チャンを見つめながら、

「……誰?」

「――はぅっ!!?」

優チャンはまたもや石化してしまった。


ぬぅ……

「や、やだなぁ~みなもチャン。彼女は葉室の優貴チャンだよぅ。ほら、去年まどかに紹介されただろ?」

俺はさっき、そう聞いたぞ?


「去年……」

みなもチャンは首をククッと傾げ……そしてポンッと手を打った。

「思い出した」


「お、おぉ…そうかっ!!」


「うん。弱いヤツ」


キャーーーーーーーーッ!!

「み、みなもチャン。それはちょいと失礼と言うか、優チャンは別に弱くはないと思うけど…」


「……弱いよ?」

みなもチャンはあっけらかんとそう言う。

これはもしかして、優ちゃんに喧嘩を売ってるのか?

だとしたら俺は……逃げるよ?



「弱いヤツ…」

と、いきなり優チャンの目の前で爆弾発言をかましたみなもチャン。

俺の心臓は、バックンバックンと今にも破裂しそうだ。

「弱すぎて、敵にならない」


そこまで言いますかッ!?

「い、いや、あのぅ……みなもチャン?さすがにそれは言い過ぎかと――」

「――みなもサンッ!!」

はうっ!?

優チャンの怒声に、ちょっとだけ下腹部に熱いモノが漏れた。

「お、落ち着け優チャン」


「先輩はすっこんでて下さいッ!!」


「……はい」

俺はゆっくりと一歩下がった。

うむ。え、えらい事になってもうた……

ネガティブモードだった優ちゃんは、闘争心に火が点いたのか、仁王のような形相でみなもチャンを睨み付けていた。

一方のみなもチャンは……あ、外を眺めてる。

枝に止まってるカラスが気になるみたいだ。


「みなもサンッ!!確かに前は私があっさり負けましたけど……それでも、今の私はその時とは違いますッ!!」


確かに、その通りだ。

優チャンの頑張りは、この俺がよーく知っている。

何だったら俺が、如何に優チャンが鍛錬を積んで来たか、説明してやっても良いぞ。


「……同じ」


ぬぉーーーーーーーーいっ!?


「……前と同じ。ちっとも変わってない」

みなもチャンは淡々と、窓の外を眺めながら呟くように言った。

「どんなに頑張っても、弱いまま。少し可哀想」


お、おいおいおい、みなもチャン、凄ぇ事を言ってるよ……

しかもカラスを眺めたままッ!!

優チャンは……ゲッ!?怒りでプルプルしてるよぅぅぅ。


「だ、だったらみなもサン!!今ここで、勝負をつけましょうか……」

優チャンは震える声でそう言った。

その体から、ムンムンと殺気が零れている。


こ、怖ぇぇぇーーーーーッ!?

こんなに怖い優チャンは、初めて見たよ!!

・・・

こ、これからは、セクハラまがいの練習とかは、ちょいと止めようね、俺。


だが、一方のみなもチャンはと言うと……振り返りもせず、ただ一言。

「やだ」

勝負を避けた。

「な、何故ですかっ!!」

「……弱いものイヂメは、好きじゃない」

「――な゛ッ!?」

こ、こりゃアカン。

もはやバトルは決定的だ。

さ、さて、取り敢えずどこかに避難しないと……


「じょ、上等ですッ!!」

優チャンは啖呵を切り、そして構えた。

「私がどれだけ鍛えたか、お見せしましょうッ!!」

「……何も分かっていない」

みなもチャンはフゥ~と溜息を吐いた。

と、その時、バンッと扉が開くや、

「ちょっとぅ、何してるのよぅ」

まどかと真咲、二大闘神様が降臨あそばされた。

「ったく、部屋の中まで殺気が伝わってきたわよ」

まどかは腰に手を当て、みなもチャンと優チャンをジロリと睨み、

「で、何をしてたの?」

「……カラス、見てた」


いや、それはみなもチャンだけのような……


「あ、あらそう」

まどかも少し苦笑だ。

「で、優。アンタは何を殺気立ってるのよ」

「い、今ここで、勝負を付けるんですっ!!」

優チャンはみなもチャンを睨み付けながら吼えた。

「これ以上の屈辱、耐えられませんっ!!」

「ゆ、優…」

少しビックリ顔のまどか。

真咲姐さんはそんな優ちゃんを微笑ましく見つめながら、

「こんなに気迫を見せる優貴は、久しぶりだな」

「真咲。そーゆー事は言わないの」

まどかは腕を組み、そして軽く息を吐く。

「みなも。優に何か言ったの?」

「……教えてあげた」

みなもチャンは怒っている優チャンを不思議そうに見やり、そしてちょっと困惑したかのように、

「だけどこの人、分かってない。自分が弱過ぎることに」

「――くッ!?」

優チャンが遂にブチ切れた。

おもむろに踏み込むや右正拳が風を切り、ボーッとしているみなもチャンに襲い掛かる。

が、みなもチャンは微動だにせず、優チャンの拳を手の甲で軽く払いのけるや、何をどうしたのか……

気が付いたら優チャンは、床の上に転がっていた。

キュ~と目を回している。

「ほほぅ……合気道か」

と、真咲姐さんが感嘆の声を漏らした。

まどかもどこか自慢気に、

「この子は空手だけじゃなくて、柔道や合気道にも通じているからねぇ」


「って、おいおいおい。そんな事より優チャンは……」


「ん?ちょっと気を失ってるみたいね」

まどかはそう言うと、微動だにしない優ちゃんを担ぎ上げ、

「ったく、世話の掛かる子ねぇ」

「確かにな」

真咲姐さんも、どこか優しげな瞳で頷いた。

「さて、取り敢えず優は医務室へ運ぶけど……みなも、貴方も付いてらっしゃい」

「……なんで?」

「まぁ……色々と話があるのよ」

まどかはそう言うと、優チャンを抱えたまま歩き出した。

「ほら、みなも。特別にケーキを用意してあげるから」

「行く♪」

みなもチャンは即答だった。

まるで知らないオジさんに着いて行く子供のようだ。

洸一チンは兄(自称)として、少し将来が心配です。


「しっかし、参ったなぁ」

俺は窓から差し込む夕焼けに伸びて行く自分の影を見つめながら、深い溜息を吐いた。

優チャンがブチ切れた事にも驚いたけど、まさかみなもチャンがあそこまで強いとは……

正直、勝負にならねぇ……って感じだ。

まさに瞬殺だったよ。

「みなもチャンが、優チャンを弱すぎると断言する筈だぜ」


「ん?それはどーゆー意味だ?」

と、真咲姐さんが不思議そうな顔をした。

「一体、あの二人に何があったんだ?」


「ん?実はよぅ…」

俺は二人の間で交わされたやりとりを、出来るだけ正確に伝えた。

「まぁ、そんな感じで優チャンがキレちまったんだけど……」


「……なるほど」

真咲は腕を組み、重々しく頷いた。

「確かに、優貴は弱いな。あの子の言う通りだ」


「まぁ、そうなんだけどよぅ……でも優チャンだって、努力してたんだぜ?それをいきなり弱いって決め付けられたら、普通はキレるわな」


「……洸一。お前は勘違いしている」

真咲姐さんは苦笑を溢した。

「もちろん、優貴も勘違いしているみたいだな」


「ど、どーゆーこと?」


「あの子の言った弱いとは、格闘の強さの事ではない。恐らく心、メンタル面の事を言ったのだろう」


「メンタル……」

俺はその言葉を反芻し、ハタッと膝を叩いた。

「そ、そうか。そーゆー意味か……」

みなもチャンが弱いといったのは、優チャンの心、気構えとか気の持ち様とか、そう言う事だったんだ。

確かに、優チャンの心はちと弱い。

緊張癖はあるし、みなもチャンに無視されただけでダウナーになったし、挑発にもすぐ乗ってしまった。

精神がまだ未熟なのだ。

そしてそれは即ち、格闘センスにも直結する。

まどかや真咲は気が短いように思えるし、実際にはその通りなんだけど……だけどそれでも、いざ闘う時は完璧に冷静に戻る。

が、優チャンにはそれが無い。

ただ我武者羅に突っ走ることもあれば、前に真咲と戦った時みたいに、緊張して萎縮してしまうこともある。

それをみなもチャンは、弱いと指摘したんだ。

私には勝てないと、断言したんだ。


「分かったか、洸一?」


「お、おう。みなもチャンが何を伝えたかったのか、遅まきながら理解したぜ」

常に平常心のみなもチャンから見れば、直ぐに感情を露にする優ちゃんはまだまだ子供だ。

それでは勝てるワケが無い。

そう言うことを、みなもチャンは言いたかったのだ。

ただあの子は、頭の弱い子みたいに言葉が少ないからなぁ……


「ふっ、分かれば良い。しかし、さすがに御子柴先輩の妹だな。一瞬で優貴の弱点を見抜くとは……ふふ、まどかが可愛がる筈だ」


「……そうだな」

俺は軽く溜息を吐き、夕焼け空に染まる外を見やる。

枝に止まっていたカラスは、何時の間にかいなくなっていた。



飯を食ったり風呂に入ったりで、気が付くと既に時計の短針はⅨの文字を回っていた。

俺は今日もまた、ブラブラと長い廊下を歩いてまどかの部屋の前。

コンコンッと扉を軽くノックし部屋に入ると……パジャマ姿の彼女は大きなクッションの上に寝転がり、音楽を聞きながら雑誌を読み耽っていた。

とてもまぁ、御嬢様には見えない。

「……おいおい、いくら何でもテストの前日ぐらい、少しは勉強した方が良いんじゃねぇーのか?」


「へ?なんで?学校のテストなんて楽だモン。って、なんか毎日言ってるわねぇ、この台詞」

まどかは苦笑を零しながら起き上がり、

「ところで洸一、こんな時間に女の子の部屋に来るなんて……何の用?」


「ふっ、決まってるじゃねぇーか。この時間に若い男がガールフレンドの部屋にやって来たんだぜ?やるべき事は一つだと思わないか?」


「ぐ、具体的には?」


「ふふふ、抜いたり挿したりする事だぜぃ」


「それってもしかして……」


「そう、自作PCの組み立てだっ!!」


「……オチが全然、弱いわねぇ。面白くないわ」

まどかはこれ見よがしな溜息をついた。


「ま、そう言うな。自分でも必死になって考えたんだが、ナイスなオチが思い浮かばなかったんだよぅ」

俺は笑いながら、まどかの対面にあるクッションの一つに腰を下ろした。

「で、まどかよ、話なんだが……」


「優の事でしょ?」


「ご名答。ってか、それしかないわな」


「OK。あ、その前に……」

と、まどかはスマホを取り出し、

「……あ、メイド長?私よ。今部屋に洸一が来てるから、何か飲み物と軽いお菓子をお願い。私はジンジャーエールね。洸一は……」


「俺様はビールだな」


「この馬鹿は水でいいわ」


「すまんっ!!出来れば僕ちゃんも、ジンジャーエール的なドリンクを……」


「……私と同じもので良いわ。じゃあ、お願いね」

まどかそう言って、電話を切った。

「さて、優の話だったわね」


「まぁな。優チャン、飯の時もかなり鬱入ってたみたいだし、俺様としてはここで何か対策ちゅうか心のケア的なものを施すべきだと思うんだけど……」


「そうね。優にはそれとなく、みなもが何を言いたかったのか伝えたけど……やっぱ、ちょっとショックだったみたいねぇ」


「そりゃそうだろ」

俺は肩を竦めてみせた。

ライバルであるみなもチャンに、自分の欠点をズバリと言われた上、たった一撃で熨されたからなぁ……ショックを受けない方がおかしいよね。


「でも洸一、これは少し難しい問題よ?」

まどかは眉間に軽く皺を寄せてそう言う。


「……確かにな」

何しろ問題は格闘技術云々ではなく、心の問題なのだ。

心理カウンセラーでもない俺様にしてみれば、そのようなスピリチュアル的ケアは、ア○ック25の最後の問題より難しい問題だ。


「まぁ、優は確かに――」

と、まどかが何か言い掛けると、コンコンと扉をノックする音が響き、

「――お嬢様。お夜食をお持ちしました」

メイドさんが銀のお盆を掲げて入ってきた。


「あ、こりゃどうも……」

俺はそそくさと、お盆ごと受け取った。

盆の上には、グラスに入ったジュースと高級そうな焼き菓子が載っている。

「ではお嬢様、失礼します」

メイドさんは一礼し、去って行った。

うむぅ、メイドさんの居る生活も悪くないのぅ……

俺様も将来は、かくありあたいものだぜ。


「ほれ、まどか」

俺はジンジャーエールの入ったグラスを手渡す。

「ありがとう」

まどかは受け取り、ストローを口に咥えて一啜り。

そして「少し酸っぱいなぁ。レモン果汁でも入れてあるのかなぁ」とか何とか悪態を吐きながら、

「優はちょっと単純って言うか、思ったよりも感情の起伏が激しいからね。直情型だし、変な緊張癖もあるし……」


「さすがに、付き合いが長いだけあって良く知ってるな」

俺は薄板を張り合わせたような焼き菓子を口の中へ放り込む。

うむ、美味いなぁ、この菓子。


「まぁね。昔はね、何度となくその辺の事を言って聞かせようとしたんだけどさぁ、生れ付きの性格とか、そーゆーのって言って治せるモノとは違うでしょ?」


「そりゃそうだ」

口に出して治せるぐらいなら、この世は全て良い子ちゃんばかりだ。


「それにさ、今現在、その役目は洸一なワケだし……」


「……何故に俺?」


「アンタは優の先輩なんでしょ?それに自称コーチじゃないの。逆に私は、全くの部外者よ。ってゆーか、みなもの先輩だから……むしろ敵?」


「それって、ちょいと冷たくないかい?」


「それが現実よ」

まどかはシレッと言った。


ぬぅ……

この辺りの割り切り、さすがまどかだぜぃ。

とは言っても、非情になりきれないと言うか、心の隅では心配してるのが良く分かるんだが……

「しかしなぁ……俺、優チャンに心構えがどうのとか言うほど、自分の心とか性格が完璧だとは思ってないんじゃが……」


「当たり前よ。アンタだって結構直情型で単純だし、おまけに馬鹿と来てるから」


「……物凄い侮辱的発言、ありがとう御座います」


「ま、こんなこと言うと身も蓋もないけど、正直、心構えとか性格とかそーゆーのは、他人が言っても無駄よ。あくまでも、自分自身の問題ね。それに普通はさ、私や真咲もそうなんだけど……心の足りない部分をカバーするのは、あくまでも経験値なのよ」


「そんな事は分かってる。幾度となく修羅場を潜り抜ければ、心が強くなるのは道理だ。だけどな、新人戦はあと10日ほどで始まるんだぜ?」

今日のあの状態では、正直、試合どころではないような気がする。

俺は単純プラスB型気質だから、一晩寝れば『何とかなるッ』とか思って開き直っちゃうんだけど……

優チャンはタイプ的に、悩みを引き摺ってしまう傾向が強いからなぁ……


「そうね。このままでは新人戦、みなもの敵じゃないわよねぇ」


「だろ?だからその前に、何かしてやれることはないかと……」


「さっきも言ったけど、それは洸一の仕事でしょ?」


「そ、それはそうなんだがねぇ」

僅か10日で、誰が相手でも物怖じしない強い心に変わるほどの経験を積ませる事が出来るか?

そんな事、出来っこねぇべッ!!

かと言って、このまま手を拱いていたら、新人戦では余裕で負けちゃうだろうし……

負けたら負けたで、優チャンはまたダウナー気味になっちまうし……おおぅ、凄い悪循環だ。

「あ~~う~~…っもう、どうしたら良いんだッ!!」

頭を抱えて悶絶。

と、その時、俺様の苦悩が天(もしくは地獄)に届いたのか、いきなりまどかの部屋のクローゼットがバンッと音を立てて開き、

「……お助けしましょう」

魔女衣装に身を包んだのどかさんが、颯爽と現れたのだった。



「ね、姉さんっ!?」

まどかが仰け反った。


そりゃそうだろ……

何しろ、奇抜な魔女衣装に身を包んだ実姉が、いきなり自分の部屋のクローゼットから飛び出して来たのだ。

これを笑いと取るか狂ってると取るかは個人の自由ではあるが、どちらにしろ、ユニークを通り越して奇怪な行動であることは間違いない。

ちなみに俺は、少しだけ腰が抜けた。


「ね、姉さんっ!!そんな所で何をしてたのよッ!!」

「……まどかちゃんが洸一さんを押し倒さないか監視を……」

「そ、そんな事するわけないでしょっ!!」

「……冗談です。実はあそこからナ○ニア国への道が……」

「えっ!?それ本当っ!?」

「もちろん嘘です」

のどか先輩は表情一つ変えずに、まどかを翻弄していた。


さ、さすがだ。

優チャンも物事に対し、あのぐらいクレバーに対処出来れば……


「洸一さん。お話は聞きました」

先輩は怒っているまどかを軽やかにスルーしながら俺に向き直ると、

「実はこんな事もあろうかと、秘密道具を造っておいたのです」

と、まるで眉毛の無い技術者みたいな台詞を吐き、懐から何やら妖しさがプンプンと匂ってくる小瓶を取り出した。


「な、何ですか、それ?」


「私が調合した、神秘の精神向上剤です。名付けて、『性格変わりま酢・プロトタイプ版』です」


ま、またヤバ気な物を作ったよ、この魔女様は……

「へ、へぇ~…飲み薬なんですかぁ。ってゆーか、酢、なんですか?」


「……お料理にも使えます」


サッパリ意味が分からんし……

「な、なるほど」


「これを飲めばあっと言う間に、強き心を持つ事が可能です。……理論的には」


「は、はぁ…」


「ですが悲しいことに、これはまだ試作段階なのです。実験途中なのです」


「実験途中……って、よもやっ!?ま、まさかまた僕ちゃんを使って臨床実験をしようなんて事は……ないですよね?」


「大丈夫です」


え?マジ?


「既にまどかちゃんで試してありますから」

「へ…?」

まどかは瞳をパチクリとさせた。

「ちょ、ちょっと姉さんッ!?た、試したって……」

「実はさっきのジュースの中に、数滴ほど入れてあるのです」

のどかさんは全く悪びれずにそう言った。

確信犯だ。

「入れたって……あっ!?だからあのジンジャーエール、ちょっと酸っぱかったのねッ!!」

「そう言う事です。まどかちゃん、料理は壊滅的ですが味覚は正常です。……摩訶不思議」

「ね、姉さんっ!!今日という今日は、ちょっと許せないんだから……」

まどかは眉を吊り上げ、のどかさんを睨み付ける。

肩の辺りがぶるぶると震えていた。

今回はさすがに、本気で怒っているようだ。


まぁ、普通は怒るわな。

何しろ毒を盛られたんだし。

しかも犯人は実の姉と来たもんだ。


「姉さんっ!!」

まどかが怒声を放つ。

が次の瞬間、彼女は『ヒック』と大きなしゃっくりをすると、いきなり顔を真っ赤にし、自分の体を押さえてその場にペタリとしゃがみ込んでしまった。

しかも俯きながら、

「こ、洸一……見ちゃ、ヤダ」

か細い声でそう言った。


「は、はい???見ちゃヤダって……何がでしょうか?」


「だ、だって……パジャマ姿……恥ずかしいモン」

まどかは耳まで真っ赤にしながら、まるでチワワのようにプルプルと震えていた。


ど、どうしたんだ?

新手のスキルか?

それとも罠??

「の、のどか先輩。これは一体……」


「性格が変わりました。今ののどかちゃんは、お転婆強気っ娘ではなく、内向的照れ屋さんなのです」


「ほ、ほほぅ……照れ屋さんとな」

俺はマジマジと、蹲るまどかを見つめた。


「み、見ちゃヤダって……言ってるのに」

まどかは益々顔を赤らめ、のどかさんの背後にそそくさと隠れる。


ぬぅ……

ちょっとだけ、グッと来た。

あの破天荒なまどかが、恥ずかしそうにモジモジしている。

ただ見つめているだけなのに、顔中を真っ赤にしている。

なんちゅうか……可愛い。

可愛すぎて、イヂメたくなってくるではないか。

「おいおい。そんなに恥ずかしがることはないだろ?」

俺はともすればウヒヒヒと零れてしまう笑みを抑えながら、更にまどかを見つめた。


「み、見ないでよぅ」

まどかはチラリと俺を見やり、そして慌てて視線を外す。


「見ないでと言われると、余計に見たくなるんだよなぁ」

俺は苦笑を溢しながら、照れているまどかに一歩近づいた。

その瞬間、再び『ヒック』と言う大きなしゃっくりの音と共に、

「あ、あん?洸一……なに見てんだよ?」

まどかの顔付きが変わっていた。

傲岸不遜と言うかふてぶてしいと言うか……ともかく、何か少しヤバイ感じだ。


「……あ、あれ?」


「ンだよ。アタイの顔に何か付いてんのか?」


ア、アタイ???

「え?いや、別に……ただ、まどかは相変わらず可愛いなぁ~と思って……」


「あん?そんな事、当たり前じゃねぇーか」

まどかは腰に手を当て、踏ん反り返りながらガハハハと豪快に笑うと、おむむろに俺の首に腕を回し、

「照れること言いやがって……良しっ!!明日からアタイはテストだし、ここはいっちょ景気付けに、一杯飲やるかッ!!」


「何を言うてるんですかッ!?ってゆーか、のどか先輩!!ま、まどかの心の調子が……」


「やはり改良の余地ありです」


「そんなアッサリとッ!?」


「な~にブツブツ言ってるんだよッ」

まどかは俺の首に腕を回したまま、スマホ携帯を取り出し、

「おう、アタイだ。あん?アタイはアタイ、まどかだよっ!!今から洸一と飲るから、テキトーに酒持ってこいや。ツマミもな。あぁん?ごちゃごちゃ言わずに、さっさと持って来いっ!!」


うひぃッ!?

蓮っ葉な女と言うか、かなりガテン系が混じってるよ……尋常じゃねぇーよ。

「あ、あのぅ……まどかさん?僕ちゃん、テストに差し障りがありそうなので、今日のところはお暇したいんですが……」


「あぁん?なに女みてぇーな事を言ってるんだよ!!」

まどかは俺の首をギュ~と締め付けた。

「アタイが朝まで飲むっつったら、アンタも付き合うのが道理だろーが!!」


「そんな道理があったんですかっ!?」


「ゴチャゴチャ五月蝿いッ!!今日はアタイ、とことん飲みたい気分なんだよっ!!テストなんて、やってられるかってんだ。なぁ洸一!!」


「ひぃぃぃぃぃッ!?だ、誰かお助けぇ……」


結局、日が昇るまでガテン系まどかに付き合わされた。

死ぬんじゃないかと思うぐらい、酒を飲まされた。

そして僕はまた一つ、トラウマが増えた。

・・・

優ちゃんの心のケアより、自分の心のケアが最優先ですよ。





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