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俺様日記~1学期~  作者: 清野詠一
16/53

THE新人戦/燃料投下




少々疲れた体を引き摺る様にして、中二階席へと向かって階段を上がる。

我がTEP同好会の誇る衛生兵・姫乃ッチの僧侶系マジックは、傷は完治するのだが如何せん、疲労までは回復しないのだ。

さすがにタフでガイな俺様とて、連戦に次ぐ連戦で疲労困憊中。

元々俺は、頭脳派なのだ(推定)。

だから肉体的行動は、ちと苦手なのだ。


「しっかし、まさかこの俺がねぇ……」

階段の手すりに凭れ掛かりながら、何とはなしに呟く。

そう……

あれから俺は、戦い抜いた。

ゴージャスヘアーのキックボクサーを倒し、合気道使いを倒し、柔道家を倒した。

そして気が付いたら……何と、何時の間にか決勝進出、と言う所まで辿り着いていたのだ。

つまりそれは、既に今大会で2位以上が確定している、と言うこと。

8月に行われる全国大会の予選に出場できる権利をゲットしたと言う事なのだ。

うむ、さすが俺。

観客席からの黄色い声援に、思わず野鳥の求愛行動にも似た得意の洸一ダンスで喜びを表現してしまったが……

よくよく考えると、なんかとんでもない事をしてしまったような気がする。

何しろ決勝まで全て、俺は自分の力で一切、勝ち抜いていないのだ。

戦う、ピンチになる、不思議時空発生、何故か勝ってる、と言う流れ。

さすがにこれは……かなり後ろめたい。

自ら望んだ事ではないが、努力して来たであろう相手選手に対して、悪い事しちゃったなぁ……と思うし、応援してくれた皆に対しても、どこか裏切っているような気がする。

ドストエフスキー風に言えば、何だか気分は罪と罰、と言った感じだ(意味不明)。

何より、俺がのどか先輩や姫乃ッチの力を借りて勝利したことが真咲やまどかに知られたら……

うへぇぇぇ……生きてるのにヘルを見せられるような気がするではないか。

この事は何としても内密にしておかなければ、己の命が危うい。


「……とは言っても、化け物相手に独力で勝てる筈はねぇーしなぁ」

ブツブツと呟きながら、俺は中二階の応援席に顔を出すと、皆は歓呼の嵐で迎えてくれた。


「す、凄いよ洸一っちゃん!!」

と、穂波が鼻から蒸気を噴出すような勢いで言えば、美佳心チンはいつものようにどこか斜に構えながら、

「ま、洸一クンにしては上出来やないか」

と褒めてくれる。

更にはセレスにラピスに智香の馬鹿、トリプルナックルや菊田サーカス、豪太郎や金ちゃんも次々と「おめでとう」だの「かっこいい」だの……

優チャンに至っては、既に瞳が眼病か?と言うぐらいにウルウルだ。

……胃が痛い。

猛烈に後ろめたさが倍増されて、胃がキリキリと痛くなってきた。


「ま、まぁ……なんだ、運が良かったんだよ、俺は……」

小さな声で答える、俺。

と、美佳心チンがそんな俺の肩を叩きながら、

「運も実力の内やで」


ぬぅ……

「そ、そうかな?あははは……」

実力0で運と言うか超常現象100%なんだが……


「ま、折角ここまで来たんやし、男やったらモチロン優勝やで」


「そ……そうだな。優勝して、俺と言う名の物語を完成させてやるぜッ!!」

サブタイトルは『他力本願』だけどな。


「はぁ?洸一クンの物語ってなんやねん?喜劇か?それとも猥談か?」


「くっ、失礼なことを・・」

俺はキシシシシと嫌な笑みを浮かべる美佳心チンに苦笑いを返しながら、鞄から昼飯を取り出した。

本日の昼ご飯は、消化吸収の良いバナナのみだ。

後はスポーツドリンク。

何だかちょいと物悲しい昼飯だが……午後からも試合があるので、これも致し方なしなのだ。

さてと……

俺はモンキーかと思えるぐらいにバナナを頬張りながら、何気に辺りを見渡す。

皆、持ってきた弁当をワイワイと楽しげに食べていた。

ただ、まどかと真咲姐さんの姿はそこには無かった。

おそらく二人とも、どこかで何やら話し込んでいるのだろう。


ふむ……

俺はバナナを齧りながら席を立ち、そそくさとのどかさんの元へ。

そして姫乃ッチも手招きして呼び、二人の前でおもむろに話を切り出した。

「あのぅ……なんちゅうか、二人の厚意は非常に有難いんじゃが……出来れば決勝は、俺一人の力で戦わせてくれぃ」



決勝は俺だけの力で戦わせてくれ……

俺は真面目な顔で、のどかさんと姫乃ッチにそう告げた。

それが俺の出した答え。

俺から皆への誠意でもあるし、俺自身のケジメでもあるのだ。

が、のどかさんは首を僅かに傾げながら、

「……洸一さん……死にます」


「――ブッ!!?」

バナナが喉の奥に詰まってしまった。

「ゲ、ゲホゲホッ……い、いきなり何を……」


「……今日の洸一さんは、すこぶる運が悪いのです。私や水住さんの力が無ければ、とてもとても……大笑い」

「そ、そうですよ神代さん」

と、姫乃ッチも悲痛な顔で詰め寄って来る。

「神代さんの実力を疑ってるわけじゃないんですが……相手の人達は普通じゃないんですよ」


う、うぬぅ……確かに、一理も二理もある。

確かに俺がこれまで闘ってきた相手は、普通どころか、とても高校生には思えなかった。

いや、同じ人類かどうかも怪しい感じだった。

しかも午後からはいきなり決勝戦だし、果たしてラスボスはどんな化け物が出て来るのやら……

「そ、それでも……俺は納得して戦いたいんだ」

俺は静かに言い切った。

「勝てると思うほど自惚れちゃいないけど、俺は自分の力を試してみたいんだ」


「神代さん……」

「……分かりました、洸一さん」

のどかさんは小さく頷いた。

「そこまで言うのでしたら、洸一さんの決意を尊重します」


「のどか先輩……」


「それに、万が一の時は私が洸一さんの戒名を付けてあげましょう」


「……いや、そんな縁起の悪いことを真顔で言われても……」

って言うか、本当にそうなりそうで決意が鈍るではないか。

うぬぅ……

と、俺は少し強張った笑みを浮かべるいると、美佳心チンがキシシと笑いながらやって来た。

「なんや?3人して、なに深刻な顔してるん?」


「ん?ん~……まぁ、なんちゅうか決意表明をな」


「はぁ?なんやそれ?」


ふむ……

「そうだ美佳心チン。実はちょいとお願いがあるんじゃが……」


「お願い?」

委員長美佳心は僅かに首を傾げ、訝しげに俺を見やる。

そして分厚いメガネの奥の瞳をキラーンと輝かせ、

「なんや?お金なら貸すけど、ウチの金利はトイチやで?」


「金は別に困っていないし、そんな金利では借りたくないわい」

これだから西の人は……

「実はな美佳心チン。この俺様……午後一番で決勝、ラスボス戦を迎えるワケなんじゃが、なんちゅうかモチベーションを高めるというか気持ちを発奮させる為と言うか……ま、簡潔に言うとだ、俺が優勝したら、美佳心チンのおっぱいを少しだけ揉ませてくれぃ」


「……は?」

伏原美佳心、またの名を赤い稲妻はキョトンとした顔で、瞼を何度も瞬かせた。

そして「あははは」とにこやかに笑いながら、俺のボディに重たい一発。

試合前にいきなり大ダメージだ。

「アホか!!自分、なに真面目な顔で言うてんねんッ!!」


「だ、だってだって、なんちゅうか、御褒美的なモノがあると勝てる気がすると言うか、やる気が出ると言うか……ニンジンって必要じゃね?オリンピックの選手だって、報奨金が出るんだし」


「あ、あんなぁ……せやったら、もう少し他になにかあるやろ?」


「ない」

即答である。

「俺は硬派な男だが、それでも一応、思春期なんだぞ?年頃の男にとって、女体に勝る御褒美なぞ存在はしないのだ」


「ど、どこが硬派やねん……」


「なぁ、頼むよぅ。別に貞操を汚すワケじゃないし、ちょっとだけ触らせてくれぃ。洸一クンからのささやかな願いだよぅ」


「そーゆー事を本気で頼むアンタの性格、少しだけ呆れると同時に尊敬するわ」

美佳心チンは「ハァ~」とこれ見よがしに溜息を吐きながら肩を落とした。

「全く、それがウチのような可憐な女子高生に向かって言う台詞かいな」


可憐な女子高生は、トイチで金は貸さんと思うが……

「な?頼むよぅ美佳心チン。ほんのちょっと触るだけだから」

俺は両手を合わせてお願いのポーズを取る。

と、いきなりのどかさんが俺の胴着の裾を引っ張りながら、呟くような小さな声で、

「分かりました、洸一さん」


「……へ?」


「洸一さんが優勝したら、キス……して差し上げます」


「……マジですか先輩?」


「……」(コクン)

のどかさんは少し頬を染め、頷いた。


おいおいおい、勝てばお嬢様とキス出来るのかよ……


「わ、私も……」

姫乃ッチも前に出て俺を見つめた。

「その……神代さんにキスぐらいなら……」


「ほ、本当に?」

生唾が溜まり、喉がグビビィッと鳴ってしまう。

のどかさんと姫乃ッチが、俺にチュウをしてくれるなんて……

いやぁ~…戯言も、偶には言ってみるモンだなぁ……

と、俺が感動に打ち震えていると、

「……しゃーないなぁ」

美佳心チンが大仰に溜息を吐いた。

「洸一クンが頑張るためや。胸ぐらい……少しなら揉ましたるわ」


「マジっスか!?」


「な、なんやねん。そないギラついた目で……ヤ、ヤラシイ奴っちゃなぁ」


「や……やれる!!これで俺は戦える!!それどころか神だって殺せるッ!!」

拳を強く握り締め、俺は大きく吼えた。

決勝戦を独力で戦う不安も何のその……

勝てばキスとおっぱいが俺を出迎えてくれるのだ。

これでやる気が出なけりゃ、男失格だ。

「お、俺の魂は今、猛烈に勝ちを欲しているぜ!!」


「な、なんて世俗的な男なんや……てゆーか、単なるエロ餓鬼やないけ」


「ふははははは……今の俺を止める事は、何人にも出来ぬわっ!!ふははははは!!」



昼食タイムも終わり、各試合場では午後の試合が始まっていた。

俺は壁に寄り掛かり、

「んふーんふー…」

と鼻息も荒く、出番はまだかと逸る気持ちを抑えていた。

実はあれから……話は皆に伝わり、俺の勝利へのご褒美は格段に増えた。

のどかさんや姫乃ッチのキスや美佳心チンのオッパイに加え、どーゆーワケかトリプルナックルの面々も俺にキスをプレゼントしてくれることになり、更に智香の馬鹿はお尻を触っても良いと言った。

ラピスやセレスはお風呂で背中を流してくれると約束してくれたし(しかもスク水を着て)、穂波のキ○ガイに至っては、幼少のころ嗜んだお医者さんゴッコ―産婦人科編―をやっても良いと言ってくれた。

ま、それだけは御免こうむるが……

皆にそこまで言われた以上、俺のやる気は既に限界突破、オーバーロード状態。

負ければ試合中の不幸な事故で死亡……そして地獄行き。

勝てば現世でおっぱいとチュウが乱れ飛ぶハーレム。

まさに究極の二者択一。

潜在能力の全てを出し切る覚悟で、俺は戦ってやるのだ。


ちなみに……

ご褒美云々の件については、まどかや優チャン、そして真咲姐さんには秘密なのだ。

なんちゅうか……あの御三方にバレたら、格闘技を舐めるな、とか何とかイチャモンを付けられた挙句、ボコボコにされて洸一昇天と言う非常事態になるかも知れないからね。

「しっかし、まぁ……全ては勝ってからの話だよな」

何しろ決勝戦だ。

出てくる相手は、のどかさんや姫乃ッチに助けられてきた俺とは違い、真っ当に勝ち上がってきた猛者中の猛者だ。

俺様の純愛力(別名:エロパワー)を持ってしても、勝てるかどうか非常に怪しい。

まぁ……ご褒美の確約も取り付け、人事は尽くした。

後は天命を待つだけなんじゃが……その天からは思いっきり見放されてるのが可哀想な所なんだよなぁ……


と、俺は独りヤレヤレな苦笑を溢していると、

「あ、洸一」

ニコニコ顔でまどかが駆け寄ってきた。


「よぅ…」


「どう、調子は?」


「調子はバッチリだぜ」

俺はグッと親指を立てる。


「ふ~ん……」

まどかはそんな俺を、少しだけ不思議そうな顔で見つめた。

「洸一の事だから、決勝を控えてビクついてるかと思ったけど、何か気合が入ってるじゃないの」


「……まぁな」

何しろ、キスとかオッパイが掛かっているのだ。

気合も入るし、想像しただけで下腹部の将軍様も少し大きくなりそうなのだ。

ふふ、若いね、俺。


「うんうん、気合が入ってるのは良い傾向だわ」

まどかはどこか嬉しげに言って、俺の肩をポンポンと軽く叩いて来た。

「2位以上が確定したから、どこか安心して気が抜けてるんじゃないかと思ったけど……その心配は無さそうね」


「当たり前だ。ここまで来たんだ……どうせなら優勝してやるわい」

御褒美の約束をする前は、危険を避ける為に決勝はわざと負けよう、とか思っていたんだが……それは言うまい。

言うと殴られるから。


「その意気よ。2位なんて所詮、負けの一番って事だからね。洸一なら、絶対に優勝できるわ」


「そ、そうか…」

なんか……まどかにそう言われると、俄然やる気が出てくるのぅ……

「それよりも、女子の方はどうだ?優ちゃんの準決勝はまだか?」


「もうすぐよ。みなもは順当に勝ち残るだろうし……予想通り、準決勝は優とみなもの戦いね」

まどかはこれまた嬉しそうに、目を細めてそう言った。


「そっかぁ……やはり優チャンとみなもチャンの戦いか……」

俺は暫し考え込む。

「なぁまどか。ぶっちゃけた話、優チャン……勝てると思うか?」


「それは……やってみないと分からないわ」

まどかは明言を避けるが、何となくその目は、優の負けね、と言ってるように見える。


確かに、今の優チャンの実力では、少しキツイかもしれんなぁ……

「そっか。ところで、覆面姐さんはどうしてる?」


「ん?瞑想中よ」


「瞑想中?」


「まさ…じゃなくてあの覆面、本気で優勝を狙ってみたいだからね。正直、楽しんでくれれば良いと思ったんだけど、まさか格下相手にここまで真面目にやるとはねぇ……」


「覆面姐さんは気真面目だからな。でも、これで優勝者は決まってるみたいなモンだし……2位と3位はみなもチャンと優チャンで決まりかな」


「さぁ……それはどうかしら?」

まどかは意味深なことを言う。

「勝負って言うのは、何が起こるか分からないものなのよ。洸一が決勝まで来たことだって、ある意味奇跡みたいなモンなんだし……」


奇跡と言うかインチキなんだがね。かっこ笑い。

「なんか微妙に失礼な気がするが……確かに、勝負というのは下駄を履くまで分からんと言うしな。意味は良く知らんが」


「そーゆーこと。それに洸一の決勝の相手だって、同じことが言えるわ」


「ん?……と言うと?」


「洸一の対戦相手、アンタと同じで全くの無名なのよ」

まどかは口をへの字に曲げ、どこか難しい顔でそう言った。

「私も試合とか全然見てなかったけど……なんかね、対戦相手を不思議な力で倒してるって言う噂なの」


「不思議な力?」


「そ。具体的には分からないけど……ともかく、注意が必要よ」


「ふむ……何かよく分からんが、相手は俺と同じ、大穴的選手か。それはそれで面白い試合が出来そうだな」



試合場に一際大きく黄色い歓声が飛び交う。

どうやら、男子の3位決定戦が終了したようだ。

「さて……いよいよ真打登場。俺様の出番か」

グローブを装着し、拳をパンッと打ち合わせる。


大丈夫……

のどかさんや姫乃ッチの力が無くったって、俺なら何とかなる。

キスもオッパイもお尻も、全て俺様のモンじゃいっ!!

・・・

ま、どうしても勝てんと思った時は……情けないけど棄権すれば良いだけの話だしなッ!!


「洸一。頑張んなさいよっ♪」

と、まどかが笑顔で俺の背中を叩いた。


「お、おうよっ!!」

俺は気合を込めて答える。

よっしゃッ!!いっちょ俺様の本気って奴を、応援してくれてる皆に見せてやりますかねぇ……

・・・

でも、ちょびっとだけ不安な今日この頃。

「……な、なぁまどか」


「なに?もうすぐコールされるから、早く行った方が良いわよ?」


「おう。でもその前にな、なんちゅうか……やっぱ男なら、優勝した方がカッチョ良く見えるだろ?」


「へ?」

まどかは首を傾げた。


「いや、だから……俺が優勝したら、皆は嬉しいと言うか……喜ぶと思うか?」


「それはまぁ……喜ぶんじゃない?わざわざ応援に来てくれてるワケだし」


「そっか……うん、そうだよなッ!!」

俺は独り、何度も頷いた。

何だか、不思議と気分が落ち着き、妙に元気が出てくる。

「で、もちろんお前も、俺が勝つと嬉しいだろ?」


「へ?う~ん……まぁ、アンタは馬鹿だけど、一応は……私の知り合いって言うかボーイフレンドなワケだし……負けるよりは、勝った方が嬉しいわよ」


「……そっか」


「ん?どうしたの洸一?もしかして怖気づいたの?」


「は!!この俺様がこの程度でビビるかッ!!」


「だったらナーバスになってないで、早く行きなさいよぅ」


「おうよっ!!俺様の見事な勝利を目にし、感動で咽び泣くが良いわさ!!」

俺はそう言うと、パンッと両の掌で自分の頬を打ち付け、気合を入れる。

皆が応援してくれてるのに、無様な試合は出来ねぇ……

何より、またまどかの目の前で負けるなんて事は、俺様のプライドが許さねぇ……

だから俺は……勝つ!!

勝たねばならんのだっ!!

「……よし。では行ってくる」

俺は胴着の帯をギュッと締め、試合場に向かって歩き出した。

観客席から、一際大きな声援が沸き起こる。

「こここここ洸一っちゅわぁぁぁん」と言う、どっかオカシイ奴の声も響いてくる。

さて、俺様の前に立ち塞がる最後の敵は、どんな化け物なんだか……

俺は顔を上げ、試合場を見やり、

「……ぬぅ」

思わず唸ってしまった。

試合場を挟んで向こう側に佇む男は、俺の予想とは裏腹に、ごく普通の男だったのだ。

茶髪で痩身のその野郎は、ニタニタとだらしなく笑っていた。

ちょいとワルぶった目つきに、品性の欠片も見えない態度……

なんちゅうか、その辺の商店街の隅の方で屯っている奴等と、何ら変わりは無い。

ウチの学校でいえば、菊田サーカスの面々と同じレベルだ。


アレが……俺の対戦相手か?

今までの相手とは違い、ちっとも怖くない。

ポコンと一発殴れば、土下座して侘びを入れてくるようなタイプの男だ。

あの体の細さ……とても格闘技をやってる奴には見えねぇーぜ。

それに、野郎の着ている空手胴着も、着慣れてないっちゅうか、殆ど新品じゃねぇーか……

どーなってんだ、これは?

頭が少し混乱してくる。

だが、これは決勝戦なのだ。

野郎も、弱そうに見えるが、一応は勝ち残ってきた猛者なのだ。

……ま、油断は禁物と言ったところか……










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