01 転生したらカラスだったんだが
俺は代々続く貴族"シルビア家"に仕える執事をしている、レン。17才
執事という仕事、最初は抵抗していた
こき使われるし掃除ばかりでつまらないと感じることも多々ある
…そんな疲れも吹っ飛ぶような美少女に出会うまでは!
その美少女というのは、この家の三女"エレナ"だ
その可愛らしい顔つきに加え、ツンデレの白髪ツインテールというたまらない構成のエレナ
最初こそ俺を軽蔑していたものの、今では俺のメイドになってくれるんじゃないかと思うくらい懐いてる
エレナとタメ口で話せるのは俺だけ、俺のことをこんなにも好いてくれるのはエレナだけ
そんな幸せ絶頂の生活を日々送っている中、今日も洗濯物を取り込むことから朝は始まる
朝6時…さすがにエレナは熟睡中かな
きっと今日も可愛い顔で寝てるんだろう
そんな事を考えながら男のパンツを回収していると
「レン、ぉはよ」
この声はエレナだろうか?
振り向くと、そこにはパジャマ姿のエレナがいた
短い純白のワンピースを着ていて、寝癖のついた前髪、うとうとしながら目を擦る
今にもパンツが見えそうだが、エレナの下着なんか洗濯や普段でも何度も見てきた
「おはよう。エレナ、今日早いね?」
「ぅん…だって今日、レンの誕生日だもん」
俺の胸にハートの矢が突き刺さった
「嬉しいな、ありがとう。でも無理しないようにな。昨晩なんかずっと起きてただろ?」
誕生日は明日だということは置いておき、今日もデレデレタイム
「だ、だってぇ…レンの選んだ本が面白くて止まらないの」
「"勇者カルロスの冒険"?」
「そう。あれすっごく面白かった。さすがレンだね!」
そう言うと俺に抱きつき、頰をスリスリと押し付けてくる
あぁ、癒し!
そんな幼気のあるエレナだが、12歳でいながら天才魔法使いの一人である天才少女なのだ
俺の読ませた本だって、どれも長文の難しいものばかりだし
用事を済ませ、エレナに朝食を食べさせた
「レン、遊ぼ遊ぼ」
俺の腕を握りしめながら、上目遣いでこっちを見てくる
「どうしよっかなあ。まだ用事あるし…」
「えー、なあに?」
お、ワガママなエレナも可愛い
「買い物だけど…ついてくる?」
エレナは魔法で一瞬で支度を済ませ、俺とエレナは手を繋ぎながら出かけようとした
「おい、娘に何してる!」
が…毎日そんな上手くいくわけないか
バスローブ姿で登場したシルビア家の父カロルは、しかめっ面でドスドスと歩み寄ってきた
「もうパパ、邪魔しないでよっ!」
ぷくぅーっと頰を膨らませたエレナは、父カロルを睨みつける
「何を言っているんだエレナ!執事と貴族という身分差で親しくなるんじゃないと何度言わせればわかる?!」
「申し訳ございませんカロル様、以後気をつけます。それでは私は掃除を…」
「しねっ!」
そう言うとエレナは指から銀の光を発射し、実の父カロル目がけて光は飛んでいく
カロルはビリビリと身体を痺れさせると風圧で吹き飛ばされた
こんな関係上、いつクビにされてもおかしくないのだがこんな激強の娘がいる限り無理らしい
俺とエレナは食料を調達しに、村へと馬車で出発した
風になびくながい白髪の髪は、光に透けて美しい
「着いたー」
エレナがはしゃいで迷子になるのを阻止し、手を繋ぎながら屋台をまわる
「ピーマンはダメだよ。あ!こっそりブロッコリー買ってる!もう、ダメって言ったのにぃ」
あぁ、怒るエレナはなんて可愛いんだろう
すると足が疲れたのか、「だっこ」とエレナは両手を広げる
12歳だが小柄なエレナは軽く、ひょいと背中に乗っかった
白くて柔らかい太ももはふにふにしてて最高。少し髪が耳に触れてくすぐったい
あぁ、
俺はなんでこんなに油断してたんだろう
今となっては、こんなに有名でいながら警戒心のない12歳の魔法使いが俺とだけで外に出るなんて馬鹿げてると思う
俺とエレナは、気づかぬうちに闇に囲まれていたのである
町は一瞬で暗闇に飲み込まれ、人々は怪物へと豹変していく
周りには、敵しかいない
執事の俺には、どうすることもできなかった
「レンはここで待ってて。私がやっつける」
エレナは一人たくましく立ち上がる
見ていてあげることしかできない
俺は草を指で強くかきむしる
その場で座り込む
もっと、強くなりたかった
あんなに甘えていたエレナは偉大な魔法使いへと変わり、髪を自ら出る風になびかせ、場を自分のものに一変させる
「レン、もうすぐ終わるよ!あと、ちょっとで…」
終わる?
あぁ、終わるよ
俺の人生が、終わる
高台からこちらを狙っていた闇に包まれた魔法使いから、真っ黒な一筋の線が放たれる
エレナの横を掠めて、それは俺の胸へと突き刺さった
まるで身体の中をその闇が徘徊するように、身体は命を失っていく
「レン!レン!」
頰に水滴が落ちた気がした
口にそれが入り、少ししょっぱい
「エレナ、油断、する…な…」
するともう一人の敵がエレナの頭目がけて今度は緑色の閃光を放った
エレナの頭に光があたり、バタリと倒れる
悪夢だ
俺が強ければ…
エレナ…生きろ
好きって…言えなかったな
俺は静かに命を失った
…はずだった
無の世界
そこから命が現れる
そして…何か、しょっぱいものが現れる
水滴?
二つが混ざり合い、生まれたのは…
俺はもう一度生き返った
しかし、何か棒状のモノの感覚は一切しないし身体がすごく軽い
目を開けると、俺はものすごく高い丘の枯れ木の上にいたようだ
恐怖心が湧かないのは何故だろう
それにしても、なんで周りのものがこんなにも大きいんだ?
すると俺の周りには、次々に"カラス"が集まってくる
目線は俺と全く同じだ
なぜ、こんなにカラスに安心するんだ?
家族といるような、不思議な気持ちが湧く
ん…これは食べ残しじゃないか
う、美味そう…
俺は思わずクチバシを近づけた
ん、クチバシ?
自分を改めて見ると、黒い羽根がついている
黒い羽根、クチバシ、家族のような安心感、高所への恐怖心の無さ、食べ残しが美味そう…
俺、カラスになってる?