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この恋は愛へと繋がっている  作者: 叶山 慶太郎
9/14

自覚

翌日、いつものように明里は登校していた。


「どうだった、明里!」


「どうって何が?」


やや高ぶった様子で教室に入ってきた綾子が明里を問い詰めるかのように話しかけてきた。


「尾行よ!」


「ちょっ、ちょっと声大きいよ、さっきから」


「あ、ごめん」


尾行という単語を周りに聞かれるのはどう考えてもマズい。


「それでどうだったの?」


さて、どうしようか。と明里は考える。が、結論はすぐに出た。


「ごめん。言えない」


言わないのではなく、言えない。なにかと協力してくれた綾子には悪いが、あまりにも陽斗の深い奥の部分に踏み込んだ内容のため軽々しく言うことはできない。


「ってことは知るには知れたの?」


「うん」


「ならいいわ」


「え、いいの?」


思いの外綾子はあっさりと引き下がった。彼女はかなり気になっていたはずなのだが。


「いいよ。確かに気にならないかって言われたら気になるけど、彼女に隠し事してるってのが気に入らないっていうのが最大の理由だし。半ば強引にあんたに迫ったのはそうまでしないと行動しそうになかったからよ。確かめるなら自分でしてほしかったから。上手くいったようでよかったわ。感謝しなさいよね」


「うん。ありがとね」


「どういたしまして」


明里が感謝を述べると綾子は得意気に口角をあげて答えた。人間、大抵何かすれば見返りを求める。恩を売る、ギブアンドテイクなんて言葉があることや、学校などでボランティアを呼び掛けたところで大して人が集まらないことがそれを証明している。しかし、綾子は心の内のほんの僅かも見返りを求めていない。

明里はそれがたまらなく嬉しくてありがたかった。改めて彼女が友達でよかったと思えた。















「昨日尾行されて」


「ああ」


「勇太と優希見られて」


「ああ」


「全部話して」


「ああ」


「そんで家に招いて」


「・・・ああ」


「親とも会わせたと」


「・・・ああ」


「・・・・は?」


「・・・まあ、そうなるよな。すまん」


いつものように陽斗と圭介が昼食をとっている。そして圭介が驚きを通り越して呆れた表情を見せる。対して陽斗は少し申し訳なさそうだ。


「いや、確かに後押ししたけどよ。いくらなんでもその日に言っちゃうとは思わねえよ」


「俺も昨日言うつもりはなかったんだよ。長くなるだろうから休日にでもって思ってた。実際日が落ちるまで付き合わせちゃったし」


「一応聞くけど、俺が言ったからとか、仕方なくとかで話したんじゃないよな?」


「ああ、明里には話すべきだって、いや、話したい、受け入れてほしいと思ったから話したんだ」


「・・・そうか」


(俺も親づてに聞いたからな。自分からってのは初めてなんじゃないか?)


圭介の家はもともと陽斗の家の隣で、親同士も知り合いである。勇太と優希が産まれた際に迷惑をかけるかもしれないと近所に説明したため、圭介は知ることができたのだ。余談だが、圭介は健治と和子はもちろん、勇太と優希とも面識がある。そして子供たちにおもちゃのように扱われたのは圭介にとって苦い思い出だ。


(ま、それだけの存在ってことか。こいつ自身気づいてんのか知らねぇけど)


「勇太と優希とは仲良くやれそうか?」


「ああ、すぐなついて驚いたぐらいだ」


「へー。はは、それなら、お母さんなんて呼んじまうんじゃねぇか?」


「・・・・もう呼んでる」


「は!?」


思わず圭介は声を荒げる。からかうつもりがまさかの返答だった。


「それに俺の親のことお父さん、お母さんって呼んでた」


「えーマジかよ。お前確実に外堀埋められてるぞ。及川ってそんな大胆なの?」


「いや、お母さんって言い出したのは子供たちだし、親の件も本人たちからそう呼べとでも言われたんじゃないか?」


「・・・容易に想像できるな」


「だろ」


陽斗の両親を知る者にとっては、という話である。


「にしても急展開すぎだろ」


「成り行きだ」


「いつのまにか名前呼びだし」


「・・・・成り行きだ」


「・・・・なんで笑ってんだ」


この時陽斗は笑顔だった。それは昨日のやりとりをふと思い出して自然と出たものだった。しかし、それを知らない圭介には不思議だった。


「・・・・なんでもない」


どこか恥ずかしくなって陽斗は圭介から目を逸らし目の前のおかずを口に運ぶ。


「なんかお前変わったな」


「そうか?」


「この前までは精神的に歳の差があるっていうか老けてるっていうか」


「老けてるってほどじゃないだろ」


「いつも余裕ある感じでムカつく」


「おい」


「冗談だよ」


「どうだかな」


「今のお前にはそういうの感じない。まあ、なんとなくって程度なんだけどさ」


「・・・・そうなのかもな」











私は今、沢・・・・陽と勇太君と優希ちゃんと4人で公園に来ている。前回早々にダウンしてしまったので今日はベンチに座って3人が遊んでいるのを眺めている。走り回ったり、遊具に登ったりと動きっぱなしだ。子供たちは元気だなぁ。陽もよくついていけるよ。3人とも楽しそうに笑ってる。見てるだけなのにこっちまで笑みがこぼれてしまう。不思議だ。

ちなみに今日は陽がいつも用事があると言っていた土曜日だ。土曜は子供たちの日だと決めているらしい。本当に陽は家族想いなんだと思う。

なんて考えていたら陽がこちらに来て、ドカッとベンチに座った。


「はぁ、ちょっと休憩」


「はは、お疲れさま」


さすがに疲れたようだ。ずっと動いてたもんね。陽の額には汗が浮かんでいた。喉も渇いているだろう。


「なにか飲み物買ってこようか?近くにコンビニ有ったよね?」


「なら俺も付いてくよ」


「それは無理じゃない?」


「え?」


「「お父さーん!」」


重なった2つの声が聞こえる。勇太と優希は父である陽の膝の上に飛び乗った。


「子供たち見てなきゃね、お父さん?」


「・・・・はい」


陽は苦笑いを浮かべ、子供たちは陽の膝の上ではしゃいでいる。

そんな微笑ましい様子を尻目に私は歩いて行く。


母親ってこんな感じなのかなぁ。


子供たちが笑顔でいるとなんだか嬉しいけど、陽が子供たちばかり構っているのが実はちょっと寂しい。嫉妬なんて大層なものではないけど、よくある「あなたったら子供たちのことばっかりで私のこと全然見てくれない!」なんて言う気持ちが今なら少しわかる。

さてと、飲み物なに買おうかな?

陽は汗かいてたしスポーツ飲料かな。子供たちはジュースとかがいいのかな。


コンビニでそれらを買って公園のベンチへと戻る。


「あれ?」


ベンチの3人が全然動いてない。どうしたんだろ。そう不思議に思いながら近づいていくと


「・・・寝てる」


3人ともぐっすり寝ていた。疲れもあったのだろうが完全に日向ぼっこ状態だ。子供たちは陽の膝に乗り、勇太くんは陽の背中に体重を預け、優希ちゃんは右腕を枕にしている。そしてなぜか3人とも頭を少し右に傾けている。そっくりだ。こういうところを見るとやっぱり親子なんだなぁと思う。この寝顔をずっと見てたいなんていうのはおかしいかな。

それでも私を放っておくのはどうなんだろう。なんだか仲間外れにされた気分だ。やっぱりちょっと寂しい。私のことも構って!なんて思ったりもする。

そんなときなぜかふと思い出したあの言葉。


『陽をドキドキさせてあげてね』


自分のことを意識してもらうには、こちらから行くしかないのかもしれない。















「・・・・んぁ」


なんとも腑抜けた声を出してしまった。どうやらベンチで寝てしまったらしい。膝の上には子供たちが乗っかっている。


「お前ら温かいんだよな」


そう言ってワシャワシヤと頭を撫でてやる。


「うー?」


「なにー?」


起こしちゃったか。2人が目を細めて欠伸をしている。

・・・ん?なんか右肩が重い?

そう思って右を見ると


「え」


明里が俺の右肩に頭を乗せて眠っていた。


「あ、純君だ!」


「本当だ!」


「ねぇねぇお父さん、遊んできていい?」


「あ、ああ、行っておいで」


「行こ、優希!」


「うん、お兄ちゃん!」


勇太の問いに答えると子供たちは駆けていった。子供相手にどもってしまうほど今の自分には余裕がないようだ。

再度右を見るとやはり明里がいる。というか近い。すぐそこに顔がある状態だ。それを意識すると心臓がうるさくなり、顔が熱くなっていった。

すると明里の頭がするっと俺の右肩から滑った。


「おっと」


とっさに明里の肩と側頭を支えて勢いを止める。そしてゆっくりと自分の膝へと下ろした。

その時手に触れた黒く長くそして綺麗な髪は驚くほどさらさらだった。手が引き寄せられるように再び頭へと伸びる。そして優しくゆっくりと撫でてゆく。さすがに子供たちのように雑にはやれない。


勇太や優希に触れてる時はなんというか一方的というかあくまでもこっちが何かを注いでる、伝えているって感じがする。そして嬉しそうにするのを見て、よかった伝わってるって思う。

明里には告白されて付き合った当初は勇太や優希に近い接し方をしていたような気がする。4人でいる光景を思い浮かべたからだろう。もしくは勇太と優希が母親を求めていたから彼女としてではなく、母親役になってくれればいいとしか思ってなくて、だから家族のように接していたのかもしれない。あまり誉められたことじゃないな。


初めて手を繋いだ時、子供たちとは違ってなんか変な感じがした。形容し難いなんだか落ち着かない気分だった。いつもは子供の手は温かいなとか思ってたのがその時はなぜか全身が少し熱くなった気がした。異性として意識したのはこのときだろう。


初めて頭を撫でた時、嬉しそうにするのを見て、周りが見えなくなった。明里しか見えなくなっていた。それが全然嫌じゃなくて、もっと嬉しそうにしているところを見たいと思った。


全部話した時、正直不安だった。今は無いけど、昔は可哀想だとかよく言われたし、憐れむような、そして距離をとるように接してくることが多かった。けど、明里はそんなことしなかった。

驚いてはいたけど受け入れてくれた。それどころか2度目の告白をされてしまった。不安なんてまるで無かったかのように消えていた。残ったのは喜びだけだった。


この喜びはなんだろう。手を繋いだ時や頭を撫でた時の感情と似ている気がする。子供に対してとは明らかに違う。勇太や優希に対して恥ずかしくなったり、鼓動が速くなったりはしない。


あるひとつの答えが浮かぶ。聞いたこと、あるいは読んだことでしか知識は無いが、かなり当てはまっている。それは自分には縁がないのではないかと考えたこともあった。女性にそんな感情は抱けないのではないかと。でも、俺は今確かに目の前にいる彼女と一緒にいたいと思っている。もっと彼女のことを知りたいと思っている。


本当はもう考えなくてもどこかでわかっていたのかもしれない。改めて確認したかっただけで。


俺は及川明里に


「・・・・惚れてるんだろうな」


そう呟くと明里の顔が赤くなった気がした。









「・・・・起きてる?」


陽斗が尋ねると明里がビクッと体をわずかに震わせた。寝ているならば反応することはない。つまり


「いつから?」


「・・・・頭を撫でられてた時から」


明里は起きていた。もちろん陽斗の告白も確りと聞いていた。


「じゃあ、改めて言うよ。


明里のことが好きだ」


「!」


(き、聞き間違いじゃなかった・・・)


最初は驚いたが、すぐに好きになってもらえたという喜びが明里の心を満たしていく。それは付き合うことになった時以上だった。


「気づいたのはついさっきだ。そしたら思わず口に出してた。好きって不思議だな。それに気づいたら、言葉にしたら、どんどん心の奥から溢れて止まらない。もっと相手に伝えたくなってくる。好きだよ、明里」


陽斗は明里にそう言って再度明里の頭を撫でた。子供たちとは違った笑顔を向けて。


(この笑顔も私は好きだなぁ)


「私も、陽のこと好きだよ。付き合う前よりずっと」


「・・・・ありがとう」


「・・・うん」


「あらあら」


「若いっていいわねぇ」


「「!!」」


通りがかった奥様方がなにやら囁きながら2人を見ている。それに気づいた陽斗は明里の頭を上に乗せていた手をどかし、明里陽斗の膝から飛び起きた。


「・・・・」


「・・・・」


暫しの沈黙。やはり人目があると恥ずかしくなるものだ。


「あ、飲み物買ってきたんだった」


「そ、そうだったな。いくらだった?」


そう言って陽斗は財布を取り出す。


「いいよ、これぐらい」


「いや、そういうわけには」


「じゃあ、この前ご馳走になったお返しってことで。それなら文句ないでしょ?」


「・・・・わかった。ありがとな」


「どういたしまして」


陽斗はペットボトルの蓋を開け、口に運んでいく。


「あ、お父さん何飲んでるの?」


「俺もほしい!」


戻ってきた子供たちが要求する。来た方を見ると幼い少年が陽斗に向かって大きく手を振っていた。陽斗はそれに対して軽く手を振って答える。すると今度は少年の隣にいた女性が微笑みながら少し頭を下げた。陽斗も同様に少し頭を下げて返した。この親子と思わしき2人と陽斗はちょっとした知り合いだ。


「はい。2人の分もちゃんとあるよ」


明里がジュースを2つ取りだしプルタブを開けて渡す。


「ありがとう、お母さん!」


「あ、ありがとう。お、お母さん」


元気のいい優希とは対称的に勇太はややぎこちない。


(そういえば勇太君とは話したことないかも。避けられてるってほどでもない気がするけど・・・・)


「勇太、別に恥ずかしがらくてもいいだろ」


「だ、だって」


「俺と同じようにすればいいさ。明里はお母さんなんだろ?」


「・・・・・」


勇太はまだ戸惑っているようだ。そんな中明里は


(なんでそんなことさらっと言えるのよ。それ私たち夫婦ですって言ってるようなもんよ?・・・・まあ、嬉しいけど)


別の意味で戸惑っていた。


「お、お母さん」


勇太が勇気を出して話しかける。


「な、なにかな?」


明里は思考を止め、目線を少し下げて勇太に問う。


「・・・・ぎゅってしていい?」


「!!」


(か、可愛い!)


上目遣いで少し遠慮がちに甘えてくる勇太。明里は衝動的に勇太を抱き締めた。勇太は驚きつつも明里の背中に手を回す。すると徐々に勇太の表情が緩んでいく。


「どうだ、勇太」


「お父さんといっしょであったかい。けどちょっとちがう」


「嫌か?」


「ううん。ちょっと痛いけど」


「あ、ごめん」


明里は落ち着きを取り戻して勇太から離れる。しかし、今度は勇太から明里に抱きついた。


「・・・えへへ」


嬉しそうに笑う勇太を明里は微笑んで今度は優しく抱き締める。


「じゃあ、私はお父さん!」


優希が陽斗に向かって両手を伸ばす。陽斗は優希の両脇を掴んで持ち上げ胸の辺りまで持ってくる。優希は陽斗の服に掴まって勇太同様に笑う。


誰がどう見てもそれは美しい親子の姿だった。







「そろそろ帰るか」


日が西に傾き、空が茜色に変わってきた頃、陽斗が告げた。


「うん、それじゃあね」


明里が手を振って去ろうとする。


「いや、送るぞ?」


「え、でも」


子供たちは早く家に帰りたいのではないかと明里は考え、遠慮する。


「勇太、優希、ちょっと寄り道してもいいか?」


「えー」


「どこ行くの?」


「お母さんの家」


「行ってみたい!」


「行くー」


「ってことで」


「ちょっとずるくない?」


この流れで断ることなどできない。陽斗自身もそれをわかって言っている。その証拠にニヤリと笑っている。


(・・・・変なところが似てるなぁ)


誰に、というのは言うまでもない。血は争えないのだ。


「さ、帰ろうぜ」


「うん」


陽斗と明里の間に勇太と優希を挟み、手を繋いで歩いてゆく。道中他愛もない話を繰り返し4人とも笑みが絶えなかった。



そうこうしているうちに明里の家へと着いてしまった。


「来週もどうだ?」


「大丈夫だよ」


「お母さん、また会える?」


「うん」


「やった!」


優希が尋ね勇太が喜ぶ。そして二人で顔を見合わせて嬉しそうに笑う。


「ほら、二人ともそろそろ帰るから挨拶」


「「バイバイ、お母さん」」


「うん、バイバイ」


子供たちが手を振り、明里も同じ様に手を振る。

と、その時ドサッとなにかが落ちる音がした。

4人が音のした方を向くと1人の女性が唖然として立っていた。そしてその足元には買い物袋があった。先程の音は買い物袋を落とした音のようだ。


「お、お母さん・・・・」


「え?」


明里の呟きに陽斗は驚く。またそれと同時にこの状況は見られるとまずいのではないかと困ったような表情を浮かべる。


「あ、明里?そ、その子供は?え、どういう・・・・さっきお母さんって・・・・・・え?産んだわけないし・・・・」


このまま何事もなく、なんてことはおそらくないだろう。










オマケ




「・・・寝てる・・・あっ、そうだ!」ガサゴソ、パシャ


「・・・・子供たちも」パシャ


(・・・かわいい)









「え」


明里が俺の右肩に頭を乗せて眠っていた。


「・・・・あっ、そうだ」ガサゴソ、パシャ


(・・・かわいい)


明里が母親しすぎてる気がしなくもない

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