訪問
なぜかすんごい時間かかった話
「はぁ、はぁ・・・子供の体力ってすごいね」
「はは、同感だ」
「って言う割には平気そうだけど」
「まぁ、慣れだな」
あれから明里は勇太と優希と遊ぶというより振り回され、疲れ切っていた。だが勇太と優希は疲れを感じさせず、むしろ満足げだった。
するとぐぅぅっという音が鳴り響いた。
「!・・・わ、私じゃない!私じゃないよ!?」
「おなか減った」
「おうち帰ろうよ」
「そうだな、もう帰るか」
(た、たすかった・・・・)
実はこのとき明里からも音が発せられていた。
「及川、よかったら家で飯食っていかないか」
「・・・・え」
驚く明里に対して陽斗はいたずらっぽく笑って言う。
「お前も、腹鳴ってただろ?」
「・・・・・」
「「「ただいまー」」」
「お、おじゃまします」
「今日は何?」
「昨日のカレーだ」
「やった!俺カレー好き」
「及川、用意するから適当にくつろいでてくれ」
「あ、う、うん」
と言われても・・・・というのが明里の率直な感想である。なにか手伝おうかと思ったが、鍋を出して皿を出して、と手際がよく入りづらかった。仕方なくリビングに行くと子供たちがテレビを見ていた。
「妖怪ボッチだ!」
「妖怪ボッチ!」
と楽しそうにしている。明里はなんだか微笑ましくて思わず笑みがこぼれた。
「ただいまー」
「ただいまー。あら、お客さん?」
「おかえり、父さん、母さん」
陽斗の父と母が帰宅したようだ。
「あ、あの、おじゃましてます・・・」
「あら、陽ったら、女の子連れ込むなんてやるわね」
「別にいいだろ」
「にしても、綺麗な子ね。よくやったわ!」
「・・・・まあ」
「何照れてんのよ~」
「あ、あの」
「どうも、陽の父親です。息子がいつも世話になってるよ」
「お、及川明里です。こちらこそ」
「明里ちゃんね。陽の彼女よね?」
「は、はい」
「ねぇねぇ、いつから付き合ってるの?どっちが告白したの?」
「え、えっと・・・・」
「おーい、準備できたぞ」
その声に一同はテーブルに向かう。陽斗の母、和子に詰め寄られていた明里は解放され安堵した。そして和子は今度は息子に詰め寄っていた。
「見計らったかのようなタイミングだったわね」
「・・・・困ってたみたいだったからな」
「こっちの様子ずっと伺ってたけど、よっぽど好きみたいね」
「な!?別にそんなんじゃ・・・って何だよその顔」
「いや~いくつになってもこの手の話は好きなのよね~。ほら、早く食べましょ」
年甲斐もなく恋愛事を好む彼女は逃げるように食卓へ向かった。
「・・・はぁ」
少なくとも今日1日はいじられまくるのだと思うと陽斗は嘆息せずにはいられなかった。
「「「「「「いただきます」」」」」」
6人の声が食卓を包む。それと同時に子供たちはがつがつと勢いよく食べ始めた。
「勇太も優希もそんなあわてて食べることないぞ?」
「だってお父さんのつくったカレーおいしいもん」
「そう言ってくれるのはうれしいけど、カレーは逃げないからもっと落ち着け」
「「はーい」」
「・・・これって沢田がつくったの?」
「ああ、そうだけど」
「そ、そうなんだ・・・」
明里は料理が得意ではない。自分ですることもなければ、母の手伝いをすることもあまりない。つまり家庭科の調理実習ぐらいしか料理の経験がないのだ。「女子力」という言葉があるように男女平等を唱っている現代の日本においても女子にそういった能力が求められている。また、それは女子にとって矜持のようなものでもある。明里はこのとき敗北感のようなものを味わった。
「陽ったらね、私たちがいないときでもこの子たちにちゃんとしたもの食べさせたいからって練習したのよ」
「っていってもネットで見たのをそのまんまやってるだけだけどな」
「いつの間にか毎晩つくるようになったな」
料理男子という言葉がある。料理をする男性というのは格好良く見えるらしい。そのため逆に格好良くなるため、モテるために料理を始める人は少なくない。しかし陽斗にはそういった疚しい理由はない。愛する我が子のためというなんとも素晴らしい理由である。明里には陽斗がとても格好良く見えた。真の料理男子とは彼のことではないだろうか。
明里はふと隣に座っている優希を見ると、口の横にカレーが付いているのに気付いた。
「優希ちゃん、カレー付いてるよ」
そう言って明里は優希に付いていたカレーを指で取って自分の口へと運び、ふふ、と優希に笑顔を向けた。
「えへへ、ありがとう」
うれしそうに、それとどこか照れた様子で優希は笑った。
「お父さん、俺もとって!」
優希の様子を見て羨ましくなったのか、勇太は父に頼んだ。
「残念ながらお前にカレーは付いてないぞ」
「えー」
勇太の不満そうな声に食卓に温かな笑い声が響く。なおも不満げな勇太に陽斗は頭を乱暴に撫でた。ふてくされたようにしているが嫌がる様子はない。
「あなたたちって、本当の親子みたいね」
和子が微笑ましそうに呟いた。
「え?本当の親子なんですよね?」
「明里ちゃんも含めて、ってことよ」
「え!?」
「な、何言ってんだよ、母さん!」
和子の発言は2人を動揺させるには充分だった。4人が親子のように見えるということは陽斗と明里が夫婦に見えるということである。そのことが頭を過ぎった陽斗と明里は息を合わせたかのように同時に顔を赤に染めた。
2人が動揺を抑えようとする中、優希が明里の袖を数度引っ張り話しかけた。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ど、どうしたの?」
「お母さん、って呼んでいい?」
「え!?」
「優希まで何言ってるんだよ!」
追い打ちを優希が発した。明里と陽斗は当然ながら動揺を加速させる。
「だって・・・・」
そこまで言って優希は俯き黙ってしまった。だが、優希の言いたいことを誰しもが理解していた。「家にはお母さんがいない」という話が子供たちから挙がるのは今回が初めてではなかった。子供たちは他の親子、特に母親のことを羨ましそうに見つめる。陽斗はそんな子供たちを見るたびに何も出来ない自分が情けなかった。
「俺はお父さんがいればいいよ」
勇太が言った。笑っているがどこかに寂しさを孕んでいるように見える。幼いながらに気を遣っているのだろう。だがそれは幼い子供にさえ気を遣わせてしまっているということだ。
自分は今どんな顔をしているのだろうか
陽斗はふと考える。父親として情けないという顔なのか、それともこの子らの実の母親を意識して恐怖にかられた顔をしているのか。子供が心配するほどのひどい顔なのか。
「・・・いいよ」
「・・・え?」
陽斗が呆気にとられる中、明里が俯く優希に答える。
「お母さんって呼んで?」
優しく笑顔でお願いするかのように優希に語りかける。俯いていた優希は顔を上げて嬉しそうに「お母さん、お母さん」と連呼している。勇太はなにも言わないが、嬉しそうにニコニコしながら明里の方をみている。
「・・・その、いいのか?」
陽斗が問う。
「うん、だって・・・・ほっとけないから」
明里は寂しがる子供たちも情けないと落ち込むのと同時にどこか怯えている陽斗もなんとかしてあげたいと思った。これといった理由はなく、本能的な衝動で自然と口が動いていた。
「・・・ありがとな」
そう答えた陽斗の表情はすでに和らいでいた。
「陽、お風呂沸いたわよ」
「あぁ、勇太、優希、風呂入るぞ」
「「はーい」」
陽斗が扉を開けて子供たちと中へ入っていく。
一方明里は陽斗の両親とともにリビングにいた。
「ありがとね、明里ちゃん」
「え?」
「義理の娘になってくれるなんてとても嬉しいわ」
完全に不意をついたその一言は明里を動揺、困惑、混乱へと落とす。
「そ、そんなこと言ってません!」
「あら、勇太君と優希ちゃんのお母さん、ってことはそういうことでしょ?」
和子はさも当然のことだろうとでも言いたげだ。その表情はいたずら心が隠しきれず、いや、隠す気もないのかもしれないが現れていた。
「いや、それは、その・・・・」
「・・・陽じゃダメなの?」
「そういうわけではないんですが・・・」
「和子、そのへんにしとけ」
心を乱され、さらに余計なことを口走りそうになった明里を見かねたのか、陽斗の父である健治が口を挟む。
「はいはい、ごめんなさいね。からかいすぎたわ」
「い、いえ、大丈夫です。助かりました、お父さん」
「ほう、お義父さんか。これからもぜひそう呼んでくれ」
「?・・・!いえ、そういう意味じゃ」
「あなたも人のこと言えないじゃないですか」
「いやーついな」
「あ、私もお義母さんって呼んでね」
「え、は、はい」
救いの手を差し伸べていたはずの健治が和子と一緒に笑みを浮かべながら明里を見ている。しかし、明里は恥ずかしさは感じるものの何故かそこまで嫌ではなかった。
ちなみに和子と健治は自分の名前を名乗っていなかった。それもわざと。
「あ、でも感謝してるのは本当だからね?」
「ああ」
和子の言葉に健治が頷く。
「えっと、さっきのことですか?」
「もちろんそれもあるんだけど、あなたのおかげで陽は変わったのよ」
「?」
「明里さんは全部知ってるのかい?」
健治が尋ねる。かなり抽象的な質問だが明里には何を聞かれているのか容易に理解できた。
「はい、彼から全て聞きました」
「・・・そうか、あいつが自分からなあ・・・」
健治が少し俯いて独り言のようにそっと呟く。どこか嬉しそうな声音と表情をしていた。和子も同様な表情を浮かべている。
すっと顔を上げた健治が話を続ける。
「陽はあんなことがあったから一気に大人になった。いや、ならざるをえなかったって言った方がいいか」
「そのこと自体は決して不幸なことではないけど、親としてはいろいろ思うところがあるのよ」
「一気に大人になった分不安定なんじゃないのかとかな。親の自分がなんとかしないとって思ってる節もある。あと年相応の経験ができないんじゃないかとかな」
「年相応・・・?」
「そうだな、いわゆる青春してほしいというか。陽は愛情は知っているが恋愛感情は知らないんだ」
「異性と少し距離があったんじゃないかしら」
「そうなんですか?」
(あ、でも言われてみれば・・・)
明里は尋ねたが、最初デートに誘ってくれなかったことなどの思い当たる節があった。
「未だに引きずってるんじゃないかな」
「きっと無自覚でしょうね。それに、たまにだけど夜魘されてたのよ。本人は気付いてないみたいだけど」
「それってやっぱり・・・・」
「思い出してるんだろうな」
「でも、最近になって魘されなくなったの。それで何か変わったことあった?って聞いたら彼女ができたって。それも嬉しそうに」
「驚いたよあの時は。今まで一度も無かったからな」
「きっと陽はあなたに救われてるのよ」
その一言は陽斗自身からも言われた。明里は陽斗と一緒にいると嬉しいのと同時に安らぎを感じる。そして陽斗もそう感じてくれているのだと思うとより一層嬉しくて、安らぐ。
「だから余計気になるのよねぇ。明里ちゃんと陽はどんな風に付き合うことになったの?」
さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへ行ったのか、興味津々だと言わんばかりに目をキラキラさせ和子が尋ねる。
「えっと、私から告白しました」
やや照れながら明里が答える。
「それでそれで?」
身を乗り出して和子が催促する。
「その時に私と勇太君と優希ちゃんと4人でいる光景が浮かんだらしくて・・・」
「あら、なにそれ。運命感じたってやつじゃないの?」
「う、運命・・・」
明里は大げさだと思いつつも嬉しいという感情がこみ上げてくるのを感じた。
「孫たち、特に優希のなつきようを見ると確かにその通りかもしれんな」
「息子だけじゃなくて孫までお世話になっちゃって頭が上がらないわ」
「い、いえ、私はそんな大したことしてま・・・・」
「「わ~~~~~~」」
バタンという音ともに勇太と優希が扉から走り出していく。素っ裸で。
「こら2人とも。まだ体拭いてないだろ」
すると今度は陽斗が扉から身を乗り出して子供たちに呼びかける。
素っ裸で
「・・・・え」
「ん?・・・あ」
上半身だけだからセーフとは言えない。見てしまった明里も気付いた陽斗も顔を真っ赤に染める。
「早く引っ込みなさい!」
「ご、ごめん!勇太、優希、戻ってこい」
「「はーい」」
たったったという足音の後再びバタンという音が響いた。
「うちのバカ息子がすみません」
「い、いえ」
「いいもの見れた?」
「なっ!?そ、そんなこと思ってません!」
「あいつ昔はひょろひょろだったのになぁ」
「そうねぇ。今じゃ平気で子供2人と買い物袋抱えちゃうもんね」
親が子を育てるのと同時に親自身も成長する。それは身体的なものであったり精神的なものであったりする。陽斗はそれが顕著に現れている。
人には大きく変わる瞬間というものがあったりする。例えば大きな成功をしたとき、大きな失敗をしたとき、そして子供ができたとき、恋をしたとき。
「・・・・陽はきっとあなたに惹かれていってるんでしょうね」
「え・・・・」
独り言のように和子が呟いたのを明里は聞いた。すると和子はさきほどのように話し始める。
「2人はどこまでいったの?キスはもうした?」
「キ、キス!?いえ、頭撫でててもらったぐらいです・・・・」
「あらそうなの?ってことは今のところ愛されてはいるみたいね」
「あ、愛されて・・・」
「あいつは恋愛感情より愛情を先に知ってるからな。行動もそうなんだろう」
「明里ちゃん、陽をドキドキさせてあげてね」
「ド、ドキドキ・・・ですか?」
「あぁ、そしてあいつに青春させてやってくれ」
健治は笑みを浮かべた。息子をよろしく頼む、そう言ってるように明里は感じた。
「・・・・はい」
明里は自信があるわけではないが頼りにされているというのが嬉しかった。好きな人の家族ならばなおさらだ。自然と笑顔になる。それを見た和子と健治も笑みを浮かべた。
(この2人は結構というか、かなりからかってくるけど本当に沢田のことを大切に思ってる。ひょっとしたらからかってるのも話しやすくするためなのかもしれない。なんというか雰囲気が温かい)
明里が考えていると再びバタンと音が鳴った。勇太と優希、そして陽斗が風呂から上がったのだ。
もちろん服は着ている。
ふと明里と陽斗の目が合った。
「・・・・その、さっきは悪かった」
「え・・・・あ、うん」
そう言って明里はなんとなく目をそらした。陽斗も同様に目をそらしている。
「もうドキドキしてるのかもね」
和子が陽斗には聞こえないようにささやいた。
(・・・・・・やっぱり楽しんでるだけなのかな)
「明里ちゃん、あんまり遅いと親御さんが心配するからもう帰ったほうがいいわ」
「あ、はい」
「陽、あんた送って行きなさい」
「わかってるよ」
3人は玄関へ。明里と陽斗は靴を履く。見送りは和子だけだ。
「勇太君と優希ちゃんは任しときなさい」
「はいはい。じゃあ行こうぜ」
「うん。あの、お邪魔しました」
「またいらっしゃい」
明里がぺこりとお辞儀をし、和子は手を振り、陽斗がドアを開ける。
明里は外に出て、少し寒いと感じた。冷え込む時期では決してないから不思議だった。
「そういや、2人となに話してたんだ?」
帰り道、ふと陽斗が話し始める。
「えっと、まあ、その、いろいろ・・・・」
かなり明里は濁した。陽斗についてなどいろんな話をしたが、それを陽斗本人に話してもいいものなのかと思ったからだ。
「・・・・悪いな、うちの親が」
陽斗は自分の両親にいろいろと下世話なことをされたのだと思った。最も実際に明里はからかわれたりしていたのだが。
「う、ううん。全然気にしてないよ。それだけじゃなくてほかにもいろいろ話したし。2人とも本当に陽のこと大切に思ってるんだなって感じたよ」
「・・・・」
「どうしたの?」
陽斗は驚いたように目を開き、口をわずかに開いていた。
「いや、今、陽って・・・・」
「・・・・え?あ、いや、今のはなんていうか、さっきまでお父さんとお母さんと話してて、その、2人とも陽って呼んでたからつい言っちゃったっていうか」
明里は意識していなかったようで焦った様子で言葉を並べていく。だが、陽斗は別のことが気になっていた。
(お義父さん、お義母さんって言ったよな、今。そう呼ぶように言われたのか?)
なんなら陽って言わせるためにあえて頻繁に陽って使ったんじゃないかとも思ったがさすがにそれは考えすぎだと思い直した。
「よかったら、陽って呼んでくれ。俺も名前で呼ぶからさ。・・・その、いいか、明里?」
「うん、わかったよ・・・・陽」
(なんか名前で呼ぶのって・・・・)
(なんか名前で呼ばれるの・・・・)
恥ずかしい
(でも、名前で呼ばれると・・・・)
(でも、名前で呼ぶのって・・・・)
嬉しい
「・・・・・」
「・・・・・」
互いに顔を合わせず黙ってしまった。2人の顔はわずかに赤くなっている。
「ねえ」
「なあ」
2人の声が重なる。そして気まずそうに一度合わせた顔を戻した。
「・・・・さきにどうぞ」
「あ、あぁ。黙ってるのもなんだから、何か話さないか?」
「うん、私も同じこと言おうとしてた」
「そっか。ならよかった」
「そういえば、もともとなんの話してたんだっけ?」
「確か・・・・父さんと母さんの話じゃなかったか?」
「あ、そうだったね」
「俺のこと大切に思ってるとかなんとか言ってたけど」
陽斗はそう言ってなにか怪しむような顔を明里に向ける。
「父さんと母さんは俺の何を話したんだ?」
「えっと、まぁ、いろいろ・・・・かな?」
「・・・ふ~ん」
過去の恥ずかしエピソードを暴露などということはないのだが、夜魘されてたこと、女性と距離があったことなどの陽斗本人も知らないことはもちろん、ドキドキさせてほしいと頼まれたなんて言えるわけがなかった。
「・・・・あとで問い詰めるか」
ぼそっと陽斗が呟いたのが明里の耳に届いた。
「ふ、2人とも優しそうだよね。怒ったりとかしなさそうっていうか」
「あー、確かにあんまりないかもな」
このままではなんとなく和子と健治に申し訳ない気がした明里は話題を逸らせたことにほっと一息つく。
「あ、でも一度だけすんげえ怒られたことあったな」
「え、そうなの?」
話を逸らすためとはいえ、さっき言ったことは本心だったので明里は驚いた。
「俺、中卒で働こうとしてたんだ」
「中卒って・・・・」
「心配やら迷惑やらかけたうえに子供の面倒も見てもらうってのは気が引けてさ。1人と3人じゃかかる費用も全然違うからな。まぁ親の俺が頑張んなきゃって変に気張ってたんだ」
陽斗は軽く笑みを浮かべて続ける。
「それ伝えたらめちゃくちゃ怒られた。特に父さんに。馬鹿にするな、親をなめるな、意地でも大学行かせてやる、とかな。・・・・お前は確かに親になったが、まだ子供なんだから甘えていいんだって言われたのは嬉しかったな。怒られてんのに嬉しすぎて涙が出た」
「母さんもすんげぇ形相してたなあ」と言いながら陽斗は軽く笑い、続ける。
「俺、かなり愛されてるんだろうな」
自分が親から愛されていると感じる子供は少ないだろう。子供にとってはそれが当たり前で特別なことだとは思わないからだ。だが、陽斗にはそれがわかる。特殊な経験がきっかけになったというのもあるが、子供という愛する対象がいることが大きな要因だろう。
「もし、父さんと母さんが俺の親じゃなかったらお前とも会えなかったのかもな」
(!・・・・・そ、それって遠回しに私と会えてよかったって言ってる?)
「お前と会えてよかったと思ってる」
(え!?)
突然陽斗は嬉しそうな笑顔を明里へと向け困らせる。そして次にわずかに笑みを浮かべて続けた。
「だから父さんと母さんには頭が上がらねぇよ」
ここで明里はあることに気づいた。
(優しそうなときと嬉しそうなときがある気がする。なんでだろ?)
なにか違った感情がそれぞれあるのだろうが明里にはそれはわからなかった。
「孫にすげぇ甘いのが欠点だけどな」
「そうなの?」
「あぁ、多分俺がいない間に可愛がってるんだろうな。父さんには見送りに来なかっただろ?」
「あ、確かにそうだった」
「多分子供たちと遊んでんだよ。孫が可愛いのは世界共通だとか言うぐらいだからな」
「そうなんだ。でもそんなに意外じゃないかな。あ、着いたよ」
そうこうしているうちに明里の家へと到着した。
「結構遅くなったな。悪い」
「ううん、気にしないで。連絡はいれてあるし」
「そっか。改めて今日はありがとな、話きいてくれたり子供たちのこととかさ」
「別に大したことはしてないよ。言ったでしょ?話してくれてありがとうって。なんだか認めてくれたっていうか、信頼してくれてるって気がして嬉しかった」
「・・・・・・・なんか素直になったな。付き合う前とか全然だったのに。なんでそんなストレートに言えるんだよ」
照れているのか陽斗は目をそらす。
「なっ、そっちだって会えてよかったとか平気で言うくせに」
「いいだろ別に・・・・本心なんだし」
「・・・・・だ、だったら私だってそうなんだけど」
「お、おう」
「・・・・・」
「・・・・・」
「じゃ、じゃあ俺もう帰るわ」
「う、うん」
「・・・・・またな、明里」
「!・・・・うん、またね、陽」
陽斗は背を向けて家へと向かった。明里はそれを見て玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
明里の声が響くと彼女の母である葵が出迎えた。
「おかえり。友達と遊んでたんだって?」
「あ、うん」
彼氏の家行ってましたと言える度胸を明里はまだ持っていなかった。
「あんまり遅くなったら駄目よ?気を付けなさいね」
「・・・・うん、わかった」
それだけ言うと葵は玄関をあとにした。
(今までなんとも思わなかったけど、さっきのって心配して言ってくれてるんだよね)
なんとなく自分は変わっていってることを明里は自覚した。
この辺で一回読み返すと面白いかもしれない