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この恋は愛へと繋がっている  作者: 叶山 慶太郎
6/14

過去

「勇太、優希、俺たちはちょっと話があるから2人で遊んでてくれ」


「うん、わかった!」


「行ってくる!」


子供たちが楽しそうに駆けていく。

陽斗と明里は公園にあるベンチへと腰掛けた。

少し間を置いて陽斗が話し始める。


「まずは・・・・そうだな。勇太と優希のことだけど

正真正銘、遺伝子学上の俺の子供だ」


「!・・・・」


明里はあまりのことに言葉が出てこない。彼は今何を言っているのだろうか。高校2年生の彼に実の子供?そんなことあり得るのだろうか。だとしたら母親は?経緯は?

あらゆる思考が駆け巡る。冷静でいられるほうがおかしい。それほどまでにこれはイレギュラーだ。


「まあ、そうなるよな。・・・・5年前のことだ」




その日は平日でいつものように俺は学校へ向かっていた。

それでいつもどおり1日を過ごすはずだった。

でも、道の途中で突如誰かに布みたいなのを顔に押しつけられてな。俺はそこで気絶してしまった。

気がついたら知らない場所にいて、手を後ろに縛られてた。困惑していたら誰かが来た。女の人だった。

一見どこにでもいるような人だったけど、目がおかしかった。ギラギラしているというか、狂っているというか、とにかく尋常じゃなかった。その人は言ってた。

「子供ができたと言えば、きっとあの人は戻ってくる」ってな。後から知ったことだけどあの人は数日前に彼氏と別れていたらしい。それで復縁のために力尽くで言うことを聞かせられるまだ12才だった俺を襲ったんだろうな。

そっからは地獄だったよ。無理矢理服を脱がされて、そしたら向こうも服を脱いでな、まだ幼かった上に手を縛られてた俺はされるがままだった。たくさん殴られたり蹴られたりした。そして何度も何度も・・・・・

1日か2日か、それすらも覚えてないけどようやく俺は発見されてその女性は捕まった。

俺は女性に対して恐怖を感じるようになっていた。女性恐怖症とでも言うのかな。女性を見る度にフラッシュバックして、体の震えが止まらなくなる。今はもう大丈夫だけどな。

恐怖症がわかってしばらくして、その女性の妊娠がわかった。その人はずっと彼との子供だと主張し続けた。DNA検査ではっきりと俺の子供だとわかっても主張はやめなかった。

聞いた話だと、彼の子供だと嘘を言い続けてる間に本当に彼の子供だと思い込むようになってしまったらしい。変に刺激すると流産や自殺の危険性があったから子供が産まれるまでそっとしておくことになった。


「そして、勇太と優希が産まれた」


「・・・・その女性はどうなったの?」


「懲役5年。さらに精神科での治療だったかな。詳しくは知らない。今何をしてるのか、もな。・・・知りたくもないけど」


「・・・そっか」


陽斗の表情には怒りや憎しみではなく、恐怖が浮かべられていた。そしてつらそうだった。きっと想像もつかないほどの、それこそ彼が言ったような地獄のような出来事だったのだろう。それを話すと言うことは思い出すということだ。聞いていただけの明里でさえもつらかったのだから、陽斗はその何倍もだろう。


「2人はうちで育てることになった。施設でって話もあったんだけど、父さんと母さんが『経緯はどうあれ自分たちの孫には変わりない』って言ってさ」


「・・・お父さんもお母さんもいい人なんだね」


「同感だ。でも当時の俺はあまりいい気はしなかった」


「え・・・」


「いきなり父親とか言われてもな。しかもあんな目に遭わせたやつとの子供だからな。普通の親と同じ気持ちでいられる気がしなかった。そんなふうに悩んでたら親に言われたんだ。『一度会ってみろ』って。

そんで病院行ったんだ。たくさん子供が並べられてるんだけど、自然とある2つのベットに目が行ったんだ。そんですぐにわかった。この子たちが俺の子供だってな。そしたら向こうも俺に気づいたみたいでさ」


「・・・!」


そう言って陽斗は公園で元気に遊ぶ勇太と優希を見つめる。その目と表情は温かく優しいものだった。


「気のせいだったかもしれないけど、俺と目が合って2人とも無邪気に、うれしそうに笑ったんだ。ありきたりかもしれないけど、この子たちは何も悪くないんだって思った。そしたらもう子供たちが可愛くて仕方なかった。守りたいって思った。俺は父親なんだって自覚した。ごちゃごちゃ考えなくてよかったんだ。父さんも母さんもそれがわかってたんだろうな」


陽斗の視線に気づいたのか、勇太と優希がこちらに向かって手を振っていた。それに陽斗微笑みながら同じく手を振って答えた。その様子はまさに父親だった。


(そうか。だから・・・・)


明里は陽斗の目や表情に惹かれた。そしてなぜそんな目や表情ができるのかが不思議だった。それが今わかった。彼は愛を知っている。愛を注ぐことを知っている。彼は愛情に溢れている。だからこんなに惹かれるのだ。


「ん?どうした?」


「あ、ううん。なんでもない」


明里は気づかぬうちに見惚れていたようだ。


「・・・・おかしいよな」


「・・・え?」


陽斗の表情が曇る。


「いや、いきなり襲われたとか、子供がいるとかさ、やっぱ普通じゃないだろ」


「それはそうだけど・・・・でも沢田はなにも悪くないでしょ!」


「・・・・・!」


「そんなことで私の好きだって気持ちは変わらない!」


やや興奮気味に明里が言い放った。その言葉に陽斗は思わず両目を見開いた。


「それに子供のこと大切にしてて、すごいなとか、かっこいいな・・・・って、その、思って・・・・」


(あれ、私さっきから何言ってるんだろう・・・・)


明里は自分を卑下するようだった陽斗をなんとか励まそうとした。その結果恥ずかしいことまで口走ってしまったことに気付いて顔が熱くなるのを感じた。


「その、話してくれて、ありがとう」


きっと話すのに勇気が必要だっただろう。思い出すのはつらかっただろう。拒絶されるのが怖かっただろう。そんな中彼は話してくれた。だから明里はこれだけは言っておきたかったのだ。

ふと明里が陽斗を見ると嗚咽もなく静かに涙を流していた。


「ご、ごめん。なんか変なこと言っちゃったかな?」


明里は慌てて捲し立てる。


「いや、違う。そうじゃない。そんなこと言われたことなかったから」


陽斗は頬を伝った涙を拭き、表情を笑みに戻した。


人は受け入れられたとき格別な喜びを感じる。


「やっぱりお前と付き合ってよかった」


「・・・・きゅ、急にどうしたの?」


「不思議な話なんだけど、及川に告白されたとき、付き合ったらどうなるかなって考えたらある光景が浮かんだ」


「・・・・どんな?」


「俺が勇太を肩車して、及川が優希を抱っこして、そんで4人とも楽しそうに笑ってるんだ」


「・・・!」


(だから、あのとき・・・・)


「それがなんだか気になってさ。不思議だよな、及川のことあまり知らなかったのに。今俺は気が楽になったっていうか・・・その、お前にすごく救われた気がしたんだ。だから、お前と付き合ってよかったって

それと・・・・


聞いてくれて、ありがとう」


照れくさそうにはにかんで陽斗が言った。


(・・・おかしくなっちゃいそう)


「お話終わったー?」


「遊ぼう!」


待ちかねた勇太と優希が催促に来た。明里にとっては思わぬ助け船となった。


「ああ、話は終わったよ。待たせたな」


すくっと陽斗がベンチから立ち上がる。勇太が「早く、早く!」と服を引っ張る。それに対して優希は明里の前で明里をじっと見つめていた。


「な、なにかな?」


そう戸惑いながら明里が問うと、優希はにこっと笑った。


「お姉ちゃんも遊ぼ!」


「!」


その言葉にさらに戸惑う。幼い子供と接することなど普段無い明里はどのように答えればいいのかわからなかった。むしろ自分は邪魔になるのではないか、と思っていた。


「え、えっと」


「お前さえよければ、付き合ってくれないか?」


そう言われて陽斗の方を見ると屈託なく笑っていた。勇太も笑っていた。父親のまねをしているのか、それとも単に似ているからなのかはわからないが、2人の笑顔はよく似ていた。前を見ると優希が変わらず笑顔でじっと明里を見つめている。その笑顔を見ているとなぜか一緒にいたいと思えた。


「・・・それじゃあ、遊ぼっか!」


「うん!」


判決についてはよくわかりません。ググったら一応3~8年とか出てきましたが執行猶予だとか精神鑑定とかでいろいろ変わってくるので5年という数字は深く考えないでいただけるとありがたいです。あとDNA検査で誰の子供かを決めることは無いそうです。今回は特例中の特例で仕方なく行われた、てことでお願いします。講義で割と、特例で、というのが結構出てきたんで多分大丈夫だと思います。長文失礼

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