疑惑
急展開、かな?
「それ、絶対怪しいよ!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!」
昼休み、いつものように明里と綾子が話している。今日もまた明里と陽斗についてのようだが、聞こえる限りではあまりいい話ではない。
「だって放課後と土曜空いてないんだよ?しかも、いつも!なんか隠してるんじゃない?」
「いや、でも考えすぎなんじゃ・・・・」
「確かにね。何もないって可能性が高いと私も思うわ。おそらくこのクラスの大半がそう思うでしょうね。あんなイチャイチャしてたもの」
「別にイチャイチャなんて・・・・」
「あら、頭なでなでキャッキャウフフをイチャイチャと呼ばず、なんと呼ぶのかしら?」
「・・・・」
試験の結果発表からしばらくの月日が経っているが、未だたまにだが、こうしてネタにされることがあった。
「あ~思い出し照れは今いいから」
「ちょっと!」
明里の抗議を無視して綾子が続ける。
「まあ何が言いたいかっていうと、可能性が高いっていうだけで逆の可能性も存在するってこと。それとあのときちょっと気になること言ってたのよ」
「気になること?」
「そう。明里の頭を撫でた後に『ごめん!つい癖で!』って」
「そ、そんなこと言ってたの?」
「余裕無さそうだったからね。覚えてなくても無理ないわ。まぁそれは置いといて、頭を撫でる癖なんて普通無いでしょ?」
「う、うん」
「そういう癖があるってことは明里以外に頭を撫でる人がいるってことよ」
「そ、それって・・・・」
「女・・・かもね」
そう言い放った綾子と告げられた明里の間に緊張感と沈黙が広がる。明里はこれまで放課後と土曜のことを不思議には思っていたが、微塵も陽斗のことを疑ってはいなかった。しかし今は、もしかしたら、という疑念が頭から離れない。
「・・・弟とか妹がいるんじゃ」
「私もそう思ってたわ。でもこの間男どもが兄弟についてしゃべってたのよ。それでその時沢田言ってたわ。一人っ子だって」
「そんな・・・」
白目のグレーから黒目のグレーへと明里の中の陽斗の印象が変化していく。
「といってもあくまで可能性があるってだけよ。鵜呑みにはしないでよね。それと私も沢田がそんなことしているとは思いたくないし、あんたを苦しめたくてこんなこと言ってるんじゃないからね」
できればこのまま明里と陽斗の仲がうまくいけばいいと思うが陽斗がそういう人間なら話は別で明里を守るというのが綾子の意思である。
「・・・うん、ありがとね」
そう言って明里は親友へと笑顔を向けた。綾子の意思を明里は感じ取ったのだ。
「どういたしまして。それでちょっと調べてみようかなと思うんだけど」
「どうやって?」
「ちょっとしたあてがあるのよ。あてって言っていいのかわからないけどね。まぁ、任せときなさい!」
翌日の昼休み、いつものように食堂に向かうため立ち上がった圭助に
「ちょっといい?」
綾子が話しかけた。
(小野田・・・だっけ。確か及川と席近くてよく喋ってたな)
「圭助、行くぞ」
陽斗が呼びかける。
「わりぃ、先行っててくれ」
「ん?あぁ、わかった」
そう行って陽斗は教室を跡にした。
「・・・それで、用件は?」
「吉田って沢田と仲良いわよね?」
「あぁ、まぁな」
「それじゃあ、沢田が放課後と土曜に何しているか知ってる?」
(・・・・やっぱり陽斗関係か)
「・・さあ?知らないな」
(・・・・本当は知っているけど)
「・・・そう」
「ただ、そっちが疑っているようなことは絶対にしてないぞ」
「・・・そう」
「話はそれだけか?」
「ええ、引き留めて悪かったわね」
「いや、大丈夫だ」
「それじゃ」
「ああ」
「何話してたんだ?」
ややにやつきながら陽斗が、遅れて食堂にやってきた圭助に尋ねた。
「お前が期待しているようなことはねぇよ。てかお前についての話だったぞ」
「は?俺?」
「お前が放課後と土曜に何してるか知ってるか、だってさ。なんか疑われてるんじゃねぇの?」
「・・・そうか。まぁ、普通そうだろうな」
「ったく、俺を巻き込むなよな」
「悪いな。それでなんて答えたんだ?」
「知らないって言っといた。あと一応フォローもしといたぜ」
「そうか。ありがとな」
「気にすんな。・・・・なぁ、言ってもいいんじゃないか?」
「・・・かもな」
そう言う陽斗だったが、まだ表情に迷いがあった。
(話すのは怖いが、本当は受け入れてほしいってところか)
もう一押し必要だと感じた圭介は親友に告げる。
「・・・ことがことだからな。話しづらいってのもわかるし、どう思われるのかって不安なんだろうけど、それじゃ前に進めねぇぞ?」
「・・・・!」
「大丈夫だろ。それにお前は何も悪くねえんだからな」
「・・・あぁ、そうだな」
すでに陽斗の表情に迷いはなかった。
「・・・・ありがとな」
「・・・おう」
(ったく世話がやけるぜとか言うのは臭いか)
2人はいつも通り昼食を口に運ぶ。
「どうだった?」
同じ頃、教室で圭助のもとから戻ってきた綾子に明里が尋ねた。
「知らないってさ」
「そっか」
「あと、私が疑っているようなことはしてないって」
「よかった~」
「安心するのはまだ早いわ」
「え?」
「私が質問した時ね・・・一瞬目を逸らしたのよ」
無意識下で行われたため、圭助自身もこのことには気づいていない。しかし綾子はそれを見逃さなかった。
「え、嘘ついてるってこと?」
「そうね。少なくとも知らないっていうのはきっと嘘よ」
「どうしてわかるの?」
「だって、知らないって言ってるのにそんなことはしてないって断言するのはおかしいじゃない」
「あ・・・言われてみればそうね」
「でしょ?だからね・・・・あんた尾行しなさい」
「え!?そんなストーカーみたいなこと・・・・」
突然の提案に明里は慌てる。
「何言ってんのよ。彼女でしょ、あんたは。見つかってもどうとでもなるでしょ」
「で、でも・・・」
「気にならないの?」
「気になるけどさ、手段がちょっと・・・」
「秘密とか暴きたいじゃない!」
興奮気味に前のめりになって綾子が言う。
「それもう、綾の興味だよね・・・」
前のめりな綾子に対して明里はやや体を引いて答える。
「わたし、そういうのすごく気になる質なのよ!」
「そんなこと言われても・・・」
「いいから、やりなさい!」
「わ、わかったから落ち着いてよ」
「本当ね?頼んだわよ!」
「・・・う、うん」
(押し切られちゃった・・・・まぁ、気になるのは本当だし・・・)
かくして尾行することが決定した。
「それじゃ」
「うん、また明日」
帰り道、いつもの場所でいつものように陽斗と明里は別れる。のだが、明里は帰路を行くふりをして遠くから陽斗の背中を見つめる。
(・・・・バレませんように)
そう願いながら後をつける。慎重にバレないようにかなり距離を置く。角を曲がった時のみ距離を詰める。
それを幾度か繰り返していると陽斗がある場所に入っていった。
(・・・・着いたのかな)
明里は追いかけてその場所を確認した。すると
(ほ、保育園?)
門には朝日保育園と書かれていた。予想外のことに驚いていると建物から人が出てきた。
「お父さん、公園で遊びたい!」
「あぁ、いいぞ」
「やったー!」
男の子がうれしそうに笑っている。
「ねえねえ、お父さん」
「ん?どうした優希?・・・・手、繋ぎたいのか?」
「うん!」
「わかった、ほら」
父親と思われる人物が女の子に手を差し伸べる。女の子はその手をぎゅっと握る。
「お父さん、いつもなんでわかるの?」
「それはな優希がそういう顔してたからだ」
「ふ~ん」
「お父さん!俺は肩車!」
「あぁ」
「はやくはやく!」
「わかったから、落ち着け勇太」
そういって父親がしゃがみ、頭を下げる。そして男の子がその頭を跨ぐ。父親が立ち上がると男の子は楽しそうに騒いでいる。
非常にほほえましい光景だ。だが、その父親は
「・・・沢田?」
陽斗だった。
「え・・・・及川、なんでここに・・・」
「お父さん、このお姉ちゃん誰?」
「知ってる人?」
「あ、ああ、まあな」
「お父さんって・・・・」
状況に頭が着いていかず言葉が続かない。
「・・・本当は週末にでも言うつもりだったんだけどな」
陽斗はそういって困ったように頭をかいた。
「俺の家の近くに公園がある。・・・そこで」
覚悟を決めるかのように息を吐いて最後の言葉を出した。
「全部、話すよ」
伏線はそこそこ書いてたつもり