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この恋は愛へと繋がっている  作者: 叶山 慶太郎
3/14

待ち合わせ

「及川、帰ろうぜ」


「あ、うん、今行く」


笑顔で言った陽斗に明里が答える。

二人が付き合いはじめて数週間が経っていた。そして毎日登下校をともにし、それなりに他愛もない会話をしたりして楽しんでいたのだが


(・・・誘う!)


明里は少し不満だった。というのも未だに一度も二人きりで出掛けたことがないのだ。これまで誘ってくるのを待っていたが、それを綾子に言ったところ


『だったらいっそあんたから誘っちゃいなさい!』


と激励を受けた。


「ね、ねえどっか寄っていかない?」


「え、今からか?ごめん、放課後はちょっと無理なんだ」


「そうなの?じゃあ、土日は空いてる?」


「土曜は行けないけど、日曜なら大丈夫だ」


「それなら日曜どこか行かない?」


「ああ、いいよ」


「じゃあ、12時に駅ね」


「わかった」


(やった、初デート!)


明里が喜んでいると


「そういえば、初デートだな」


心を見透かされたようで明里は驚く。


「そ、そうだね」


「こういうのって男から誘うべきだよな、悪かった」


「そうだよもう!待ってたんだからね!」


「え?」


「あ、いや、その、」


明里は思わず出てしまった本音に焦った。


(まるで、私がデートしたくてたまらなかったみたいじゃない!

いや、まあ実際そうなんだけど・・・)


明里は恥ずかしさで顔を俯かせた。しかし陽斗からは明里の赤くなった顔がちらりと見えていた。


「そ、そうだったのか。ご、ごめんな」


そう言った陽斗の顔もわずかに赤くなっていた。それは明里に釣られたのもあるが


(及川ってこんなやつだったっけ。まるで別人だな・・・・)


見たことのない及川への戸惑いが大きな要因だった。


しばらく二人の間に会話はなかった。




(デートかぁ・・・・)


落ち着いたところでふと明里が思う。明里にとって陽斗とのデートは人生初デートなのだ。


(なんだか緊張する。前日寝れるかな?目覚ましとかも準備しといたほうがいいよね。服とかも決めとこう。)


(デートってどうしてたらいいんだろ?)


そう思い、デート時を想像する。


(一緒に隣を歩いたりとかかな?・・・ってそれはいつもやってるか。なら手を繋いだりとか?)


陽斗の手に目が行く。自分よりも大きく固そうな手を見て思う。


(繋いでみたいなぁ)


「手、繋ぎたいのか?」


「え!?べ、別にそんなことないけど?」


明里はまたもや心を見透かされたようで驚く。


「そうか?なんかそういう風に感じたんだけど」


「そういう風にって、顔に出てたとかそういうこと?」


「顔っていうか、なんだろ、雰囲気?」


「・・・?ねぇ、なんでそんなのわかるの?」


「ん?それは・・・・いや、わかんねぇ」


「・・・そっか」


(なんか誤魔化された気がする・・・)


不自然な間に明里は疑念を抱いた。


「ん、ここでお別れだな。また明日な」


「うん、また明日」


そして二人はそれぞれの帰路へと別れた。


(気になるけど、聞かないほうがいいのかな・・・・)


明里はひとまず忘れて家へと向かった。





そして迎えた当日、先に来たのは明里だった。


(ちょっと早かったかな?でも、10分前ってそこまでじゃないよね?)


などと考えていると


「お嬢さ~ん、お一人ですか~?」


「え?」


謎の三人に声をかけられた。




(着いたな。及川はもう来てんのか?)


それからまもなく陽斗は駅へ到着した。明里がいないかと周囲を見回たすと


(お、いた・・・って、あれ?)


明里を見つけたが明らかに柄の悪い不良らしき人たちに囲まれていた。


(ナンパか?そういえば・・・)


ふと、圭介が明里のことをなかなかの美人だと言っていたことを思い出す。

それから陽斗は明里のもとへ向かった。


「及川」


「あ、沢田」


「あ?なんだ、お前」


不良の一人が突っ掛かってくるのを無視して陽斗はことばを続ける。


「この人たち知り合いか?」


「う、ううん、知らな「そうなんだよ~ちょっとした知り合いなんだ。それで、俺らと遊ぶことになったからよう、悪いんだけど今日はもう帰ってくれや」


明里が言い終わらないうちに一人が言った。他の二人はどこか得意気にニヤニヤと笑っていた。それに対して陽斗は


「あんたらには聞いてない」


と強い口調で言い放った。


「なんだと、てめ「で、どうなんだ及川」


仕返しと言わんばかりに陽斗は相手が言い終わらないうちに言葉を続けた。


「わ、私はこんな人たち知らない!」


少し怯えを含みながらも明里は言った。


「ちっ!てめえ、」


一人がなにか言いかけていたがまた陽斗は無視して明里の手をとって


「走るぞ」


「え?ちょっ、きゃ!」


陽斗は明里を連れて全力で逃げ出した。


「こんの、クソガキ!」


「なめやがって、このやろう!」


「待ちやがれ!」


それを柄の悪い三人が追いかけてくる。

そして二人はしばらく逃げ続けた。




「よし、着いた」


陽斗は突然走るのを止めてしまった。


「はぁ、はぁ、ちょっと、どうしたの?」


明里が問う。前には壁があり、追い詰められたという状況に思える。


「ぜぇ、ぜぇ、はは、やっと観念したか」


「はぁ、てこずらせやがって」


「てめぇ、ただじゃ済まさねぇぞ」


三人に追い付かれてしまった。そして三人が詰め寄って来る。それを陽斗は庇うように明里の前へ出る。


「随分となめたことしてくれたじゃねぇか」


「彼女の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞ」


「とりあえず、有り金全部渡してもらおうか」


三人はありがちな言葉を吐いてさらに近づく。


(せっかくの初デートなのに、どうしてこうなるの?)


明里は悲しかった。できることなら思い出に残るようなデートをしたかったからだ。こんなことなら誘わなければよかったなんて思っていると不意に声が掛かった。


「君たち、何してるんだ?」


「「「「え?」」」」


柄の悪い三人と明里の声が重なる。


「助けてください、お巡りさん!この人たちに襲われているんです!」


陽斗が叫んだ。そう、話しかけてきた人物はお巡りさんだったのだ。そして実は壁だと思っていた場所は壁ではなく建物で、その建物は交番だったのだ。


「どうやら、そのようだね。お二人さんはもう行っていいよ。ただ・・・・君たち三人にはちょっとお話をきかないとね」


そう言ってお巡りさんは三人を睨む。三人はまさに蛇に睨まれた蛙のようだ。


「ありがとうございます。及川行こうぜ」


「う、うん」


「あ、ま、待ちやがれ!」


と、一人が追いかけようとするが、それをお巡りさんがガシッと肩を掴んで止めた。


「逃げようったってそうはいかないからね?」






「悪かったな、いきなり走って」


「本当よ!いきなりすぎ!」


「だよな、ごめん」


陽斗は申し訳なさそうにする。


「本当は自力で助けられたらよかったんだけどな。喧嘩とか全然したことないから不意をついて逃げるしかなかったんだ」


「いや、あの、責めるつもりはなくて・・・その、助けてくれて、ありがとう・・・」


最後のほうは小さくなってしまったがしっかりと思いを伝えた。

明里のその言葉に陽斗は照れくさそうに笑って答えた。


「どういたしまして」


「!」


明里は嬉しかった。それは陽斗が自分に初めて見せた表情だったからだ。恥ずかしさを圧し殺して素直に言った甲斐があったと思えた。

しかし、ふとあることに気がつく。


「・・・あの」


「なに?」


「いつまで手繋ぐの?」


「ん?・・・あっ」


陽斗も気づいたようだ。そう二人は逃げ出してからずっと手を繋いだままだった。明里自身それは嫌ではなくむしろうれしいことだ。できることなら手を繋いだままでいたいのだがこれ以上は心臓がもちそうになかった。


「・・・このままでいいんじゃないか?」


「・・・え?」


「手繋ぎたそうにしてるから」


「・・・・」


(たから、なんでわかるのよ!?)


もはやエスパーなのではないかと疑いたくなる陽斗の特技に明里は言葉が出なかった。


「あれ?また外れたか?」


「・・・・正解です」


「なら、このままで」


陽斗の手から熱が伝わってくる。明里はそれに恥ずかしさを感じるが、それ以上にうれしかった。彼の行動に一喜一憂する自分を顧みて改めて彼のことが好きなのだと思えた。しかし、彼はどうなのだろうか。先程照れくさそうにしていたがそういった表情

見せるのは今回が初めてで、いつも余裕があり自分だけがドキドキしている気がする。明里はそれが不安だった。


「・・・そんな恥ずかしがらなくてもいいんじゃないか?」


「え?」


「いや、だって、俺たち、その・・・」


「・・・?なに?」


「恋人だろ?」


「!」


そう言った陽斗は明里がいる方とは逆を向いていたので表情は見えなかったが、明里からは赤くなった耳と、ちらりとだが頬を染めているのが見えた。


「・・・うん、そうだね」


彼も自分と同じなのだと明里は思えた。

実際はこんなにあっさり行っていいなんてことにならないだろうけどね。事情聴取的なことされるんじゃないかな。まあ、そこんとこは流していただけるとありがたいです

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