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この恋は愛へと繋がっている  作者: 叶山 慶太郎
13/14

ずっと、いつか


(・・・・ここはどこだ?)


陽斗が目を覚ますと、そこは外でもなく家でもない場所だった。


「・・・っ!」


上体を起こすと左腕に痛みが走った。腕に刺さっていたナイフはすでに無く包帯が巻かれていた。よく見れば服が替えられていた。所謂治療服というやつだ。そこでここが病院であることと一応の治療が行われたことがわかった。


(確か、あの後気絶したんだっけ)


記憶を掘り返す。あまり良いことは思い出せなかった。が、不幸中の幸いというか一つの事実が確かにあった。


「・・・・生きてるな」


一度死を覚悟した陽斗にとってその事実は喜びのようであり安心感のようなものを享受させた。

ふうっと一息吐くとスライド式のドアがゆっくりと開いた。


「・・・明里?」


「え、陽!?目が覚めたんだね!」


「あ、ああ」


ここが病院であることを忘れ、大きな声を出して明里は陽斗に詰め寄った。


「あれからどれくらい経ったんだ?」


「丸2日だよ。一日あれば目が覚めるって聞いたんだけど全然覚めないから心配したよ」


「・・・そっか」


それから陽斗はあの後のことを聞いた。あの女性は無事逮捕されたこと、陽斗の傷は跡は残るが正常に動かせるようになること、昨日は陽斗の両親と子供たち、そして明里が付きっきりだったこと、そして


「明里は怪我とかしてないか?庇ったつもりだけど」


「うん、大丈夫。陽のおかげだよ」


「よかった。勇太と優希は大丈夫そうか?」


「うん。最初は怯えてるっていうか塞ぎ混んでたけど、お父さんがそんなとこ見たら悲しむよって言ったら少し持ち直してくれたみたい」


「そっか。ありがとな」


「・・・・ねえ」


「うん?」


「私、ちょっと怒ってるんだけど」


「・・・・あ」


陽斗が思い出したのは自分を犠牲にすることで明里と子供たちを逃がしたこと。無事で済んだからよかった、とはとても言えない。逆の立場だったらと考えれば明里の気持ちは陽斗にもよくわかった。


「あれが最善だったのかもしれないけど、それでも嫌だった。あのとき陽は死ぬことも覚悟してるように見えたからよっぽどね」


明里の目には涙が溜まっていた。


「頼むとしか言わなかった。後で逃げるからとか、死んだりしないからとか何か言葉が欲しかった・・・!」


とうとう留まりきれなくなった涙がこぼれ落ちた。

明里の欲しかった言葉は生きて戻れない人間の言葉かもしれない。だが、それが無いことは待つ人にとって心の拠り所が無いということだ。その言葉を信じて、あるいは縋ることで心は持ちこたえられるのだ。それがなければただ不安が募っていくだけだ。


「一人でなんとかしようとしないで。一人で背負い込まないで。私にも分けてくれないかな」


涙ながらに明里は訴え、陽斗は考えさせられる。


子供のことを重荷だと思ったことはない。子育てを苦しいと思ったことはない。それは絶対に無い。だが、子供が重いんじゃなくて俺にまだ支えられる胆力が無かったというのなら納得できる。


(・・・・俺はまだ未熟なんだな)


世間的には17歳というのは子供てある。陽斗は親をやれていると思っていた。しかし、疲労は着実に僅かずつだが溜まっていたのだ。目覚めるのが遅かったことがいい証拠だ。

陽斗は未だに泣き続ける明里に近づき自分の胸に頭を引き寄せるように優しく抱き締めた。


「ごめん・・・ありがとう」


「・・・・うん」


涙を指で拭いながら明里が答えた。


「これからずっと俺たちのことを支えてほしい」


「・・・うん。支えてあげる」


「ずっと一緒にいてほしい」


「・・・うん。私も」


明里の肩をそっと掴んでゆっくりと離す。陽斗が明里を見つめ、微笑みを浮かべて口を開いた。


「いつか本当にあいつらの母親になってほしい」


「・・・・!」


明里がその言葉を理解するのに数秒かかった。


「いつか俺の家族になってくれないか?」


言葉を変えてもう一度告げられた。明里は引っ込めたばかりの涙を再度流した。だが先程の涙とは違い、その表情は柔らかかった。


「今日は泣かせてばかりだな」


陽斗は手を伸ばし明里の涙を指で拭う。明里は必死で嗚咽を抑え返答する。


「・・・・はい!」


「・・・ありがとう」


明里の返答を聞いて陽斗は明里の手を握ってゆっくりと顔を近づける。明里は察したように瞼を閉じた。それを見て陽斗は更に距離を縮めてゆく。

やがて二人の距離は完全に埋められ、そっと何かの誓いのように唇が重ねられた。


「明里、愛してる」


「私も、愛してる」
















あれから日は経ち、陽斗の怪我は無事完治した。そして何事もない平穏が訪れ、今日は久しぶりに四人が揃い道を歩いていく。


「お父さん、肩車して!」


「ああ、いいぞ」


勇太の要望に陽斗は応え、自らの肩に乗せる。


「お母さん、抱っこして!」


「うん、いいよ」


明里が優希を持ち上げる。




陽斗が思い描いた風景がそこにあった


一応完結です。気まぐれでその後とか書くかもしれないんで残しときます。

ブックマーク一つもつかんかった・・・

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