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この恋は愛へと繋がっている  作者: 叶山 慶太郎
11/14

再会

「いってきます」


「ちょっと待ちなさい」


陽斗がいつものように家を出ようとするが和子がそれを止めた。

和子が手に持った物を陽斗へ差し出す。


「陽、はいこれ」


「え、これって・・・・」











その日の昼休み。

ガタガタと椅子を動かし明里は綾子の方へ向く。


「あ、明里、私今日から学食になったから」


「え、急になんで」


「じゃあね~」


「あ、ちょっと・・・・」


明里を置いて綾子は行ってしまった。


「明里」


「陽、どうしたの?」


ポツンと一人になってしまった明里に声を掛けたのは陽斗だった。しかし、彼は学食派で今頃は食堂にいるはずだ。


「あーその、一緒に食べないか?」


そう言った彼の手には弁当箱があった。


「もちろんいいけど、それって・・・・」


「母さんが作ってくれたんだ。なぜか突然」


綾子の席に腰を下ろしながら陽斗が答える。本人にも理由はわからないようだ。

沢田家では朝食や弁当は母の和子が作っている。これは単純に陽斗は朝が苦手だからだ。ちなみに勇太と優希を保育園へ送るのは父の健治の役目である。


「へぇ・・・・あ、そういえばさ、お父さんが勇太君と優希ちゃんにまた会いたいってぼやいてたよ」


「そうなのか?なら、あれ聞き間違いじゃなかったのか」


「あれって?」


「俺たちが帰る時言ってなかったか?孫っていいなって」


「あ、聞こえてたんだね。あの後私とお母さんが思わず笑っちゃったんだけど、そしたらお父さん拗ねちゃって大変だったんだ」


「・・・明里のお父さんに対しての印象がどんどん変わっていくんだけど」


「正直、私も驚いてるんだ。お母さんから聞いたんだけど私が小さいときも結構甘やかしてたんだって」


「どこの親も一緒なんだな」


「陽のお父さんとお母さんも?」


「いや俺が」


「はは、そういえば親バカは誉め言葉なんだっけ?」


「親バカにならない親は親じゃないと思ってる。明里もだんだんそうなってくるかもな」


「あーもうなってるかもしれない」


子供たちが可愛いから仕方ない、なんて思ってしまうほと既に明里は堕ちていた。

その後も楽しげな会話が繰り広げられ、まるで世界に2人しかいないかのようだった。


(仲いいなあ、おい。他所でやってくれよ頼むから)


(しゃべりづれえ。なんだあの邪魔しちゃいけない感)


(てか、親に挨拶済みなの?)


(孫って何の話?顔が早く見たいわーとか言われたの?)


(あー恋人ほしいなー)


無論、周りの視線など気付くわけもなかった。














「ここ空いてる?」


「ああ、どうぞ・・・ってお前か」


「どうも~」


食堂にて昼食をとっていた圭介の向かいに綾子が座る。


「御一人なんですか?」


「いやいや、そっちの案でこうなったんだからな」


「ご協力感謝いたします」


「まあなんでこいつ俺と飯食ってんの?って思ってたし」


「うん、私もそれ思ってた」


まず、綾子が圭介から陽斗に弁当持ってこいと言ってくれないかと頼んだ。次に圭介は陽斗が、母親が弁当をつくるのは手間だろうから学食にする、と言っていたのを思い出し、今回の件を伝えても断る気がしたので、先に陽斗の母親である和子に連絡したのだ。つくってしまったものを要らないとは言えないだろうから。和子はもちろん了承してくれた。

今回はこの2人が仕組んだことだった。


「本当、世話がやけるよね」


「全くだ」


言葉とは裏腹に2人ともふふっと楽しげに笑う。それと同時に今頃楽しくランチしているであろう親友を思い浮かべた。









「明里、帰ろう」


「うん」


放課後、いつものように2人は一緒に帰る。


「ちょっと頼み事があるんだけど、いいか?」


「うん」


「勇太たち迎えに行くんだけどさ、一緒に来てくれないか?」


「いいけど・・・・どうして?」


「ここ最近保育園で2人がお母さんができたって騒いでたらしくてさ。それで田中さん、保育士さんが見たいって」


「・・・・それ、私が産んだとか思われてるんじゃ」


「それは大丈夫だ。田中さんは知ってるから」


「あ、そうなんだ」


「近所に住んでる人でさ、昔から知り合いなんだ」


「へ~・・・・なんだか緊張してきた。なんていうか、授業参観みたいな感じ?」


家族に恥をかかせないために気を配る親のような心情、ということなのだろうか。明里はよくわからない例えを出した。


「はは、なんだよそれ。そんな気張らなくてもいいだろ。家に来たときだって大丈夫だったろ?」


陽斗が笑い飛ばす。陽斗の言う通り、彼氏の家に上がり両親に挨拶することに比べれば授業参観などとるに足らないことだ。


「確かにそうだね」


そんな陽斗の言葉が、表情が、明里の不安を取り除いた。

















ウィーンと自動ドアの開く音が鳴り、陽斗と明里が保育園へと入る。と言っても玄関から先には行かないのだが。

2人が入ってすぐに一人の女性が出迎えた。


「あ、勇太君たちのお父さんですね・・・そちらは?」


「彼女です」


「初めまして、及川明里といいます」


「あ、ど、どうも」


そう言って明里がペコリと頭を下げる。それを見て女性も頭を下げる。


「それじゃあ、勇太君と優希ちゃん・・・それと田中さんも呼んできますね」


「お願いします」


その女性が去り際に「いや、別に私は狙ってないし・・・」と呟いていたのは誰にも聞こえることはなかった。


ほんのしばらくするとトタトタと元気な音が2人の耳に入ってきた。


「お父さん!」


「あ、お母さんもいる!」


「はは、今日は私も一緒だよ」


「わーい!」


「やったー!」


「この子が彼女さん?」


「はい」


子供たちに遅れてやって来たのは保育士の田中美子だ。


「へー、綺麗な子ね。にしてもすんごいなつかれてるわね」


確かに日数を考えると、このなつき様は少々おかしいのかもしれない。


「うちの親もかなり気に入ってるんですよね明里のこと。血筋的に相性がいいのかもしれません」


「え、紹介済みなの?結婚するの?」


興奮気味に、それでいてからかうようににやつきながら美子が言った。明里は結婚というものを瞬時に想像してしまい、顔を真っ赤に染め上げてあわてふためいている。その傍らに誰がいたかは言うまでもない。陽斗は明里ほどではないが頬を僅かに染め、明里のようにあわてふためくのではなく、呆れた様子でいた。それとどこか考え込むような姿勢も見られた。


「お父さん、お母さん、帰ろ!」


勇太の声に2人はハッと我に帰る。


「あ、ああそうだな。それじゃ、帰ります」


「気を付けてね」


「お、お邪魔しました」


「うん、また来てね」


明里が軽くお辞儀をし、美子が手を振って見送った。


「早く行こ!」


優希が促し、明里は3人の元へと駆け寄った。







「・・・・いいなぁ、家族」


四人を見て美子が独りで呟いた。


「・・・・私も結婚したい」


もっとも、陽斗と明里はまだ結婚していないのだが、29歳独身には彼らがとても眩しく見えた。















「今日も公園行くの?」


「いや、今日は食材買いに行くからすぐ帰る」


「お父さん、私、ハンバーグがいい!」


「俺はトンカツがいい!」


「ハンバーグ!」


「トンカツ!」


「じゃあ、唐揚げだな」


「え、どっちでもないの?」


普通は子供の言い争いに頭を悩ませる展開だが、陽斗はあっさりと決めてしまった。しかも、それはどちらの意見でもなかった。明里が驚くのは当然だ。


「どっちかを優先したりはしないようにしてるんだ。意見が別れたらどっちもやるか、どっちもやらない」


「へ~」


「「え~」」


「ははは・・・・」


明里は納得したが、拒否された二人はもちろん不満である。


「唐揚げ嫌いか?」


「ううん」


「好き」


「ならいいだろ?また今度つくってやるから」


「「はーい」」


陽斗はあっさりと子供たちを納得させた。


「なんだか手慣れた感じだね」


「まあよくあることだからな」


明里は陽斗の方に向けていた顔を子供たちの方にむき直し尋ねた。


「ねえ、二人はほかに何が好きなの?」


「う~ん。あっ、お母さん!」


「えっ、私?」


予想外のことに思わず明里は驚く。


「うん!お母さんのこと好き!」


「俺も!もちろんお父さんも好き!」


「そっか、俺も二人のこと好きだぞ」


「私も好きだよ」


陽斗と明里が勇太と優希に微笑みかけると子供たちは破顔した。そしてその表情のまま尋ねた。


「お母さんはお父さんのこと好き?」


「お父さんはお母さんのこと好き?」


「「え」」


2つの声が重なり、その声の主たちは焦り、戸惑う。


「・・・・ああ、好きだよ」


「私も、その、好きです」


陽斗はすぐに正気を取り戻し、穏やかに答えた。しかし明里はそうはいかず、やや恥じらいが見られた。

親たちの返答を聞いて子供たちは満足したようでさっきと変わらない笑顔で騒いでいる。


「・・・なんか、親子にありがちな会話だったな」


「わ、私もそう思った」


(意識しちゃうからできれば言わないでほしかったけどね・・・)


先程結婚という言葉を聞いたこともあり、明里はかなり気にしている。実際、ここ最近は恋人というより夫婦、親子のようだと自分で思うことが多々あったのだ。


「・・・あのさ」


「え、何?」


明里は慌てて思考をとめて陽斗に顔を向ける。


「将来のこととかって考えたことあるか?」


「将来のこと?」


「まあ、その・・・結婚、とかさ」


「え!?」


やや躊躇いながらも発せられた言葉は明里を驚かせるには充分だった。突然のことに明里は歩みを止めた。遅れて陽斗もそれを見て止まる。子供たちは何かあったのかと不思議そうに2人の様子を伺っている。陽斗は振り向いて言葉を発した。


「考えたんだ。この先どうしたいか、どうなりたいか。それで思ったんだ。明里、いつか本当にあいつらの母親に・・・・」




突然、そこまで言って陽斗はとてつもない恐怖を感じた。


体の震えが止まらない。背筋が凍る。鳥肌が立つ。呼吸がしづらい。挙げればきりがないほど体が異常だ。

しかし、この恐怖には身に覚えがあった。かつて経験したことがあった。

陽斗の視界には、こちらを見つめる明里、そしてその後ろに女性がいた。その女性を陽斗は知っている。忘れたくても忘れられない女性だ。できれば二度と会いたくないと願っていた。

そしてその女性の手にはナイフが握られていた。そしてあろうことか、それを明里目掛けて降り降ろそうした。


「明里!」


叫ぶと同時に陽斗は明里を後ろへ引きつつ左腕を前に出しナイフを受け止めた。


「がぁッッ!!」


痛みで陽斗は顔が軋み、今まで出したことのない声が出る。


「陽!」


「「お父さん!」」


悲鳴が響く。そしてそれを煽るかのように女性は2本目のナイフを取り出し陽斗の頭目掛けて振り下ろした。


「ぐッ!」


陽斗は痛みをこらえながら右腕で頭を庇いつつ女性を蹴り飛ばした。それにより頭を切り裂こうとしたナイフが右腕を掠めるだけにとどまり、左手はナイフから離れた。


「痛いじゃない。女性を蹴飛ばすなんてひどいわ」


「あんたのことは女どころか人とすら思ってない」


血を滴らせ、呼吸を荒くした陽斗が答えた。


「だ、誰なの・・・あなた」


明里は陽斗に駆け寄りつつ恐る恐る尋ねた。恐怖で言葉が震えている。子供たちに至っては動くことさえ出来ない。


「私はね」


その女性はちらりと子供たちを見て告げた。


「その子たちの母親よ」


ニタリとその女性は不気味な笑みを浮かべた。

突然すぎかなあ。「過去」の時にフラグを立てたつもりになってたけど。どうなんだろ

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