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お呪い

作者: R-13

 もうすぐ夏休み、今年の夏は小学生最後の夏。卒業したら皆とバラバラになっちゃうし、出来る事は全部やりたいって思う。

 んで、今は放課後に親友のオッシーと一緒に夏休みの相談中。でも中々話はまとまらない。

「だからさ、旅行は無理でもちょっと遠出ぐらいなら出来るんじゃない?」

「で?どこ行くの?どっかいいとこあるわけ?」

「えぇ?それ考えんのがオッシーの仕事でしょ?」

「なんでだよ!」

 まあ相談と言っても、遊び半分だ。これ自体が今日の遊びと言っても過言じゃない。

「あ、そうそう。それより面白い話聞いたんだぁ」

「なになに?」

「嫌いな人を消すおまじないってのがあるんだって!」

「またまた物騒ですなぁ」

「簡単なんだけど、みぽしもやってみたら?」

 みぽしって言うのは私の事。本名は美緒なんだけど、なんでかみぽし。理由は忘れちゃったかな。

「えぇ、消すってようするに死ぬって事でしょ?」

「うーん、たぶんね?」

「なんか怖くない?てか簡単に殺せるってどうよ?嘘くさい」

「まあおまじないなんてそんなもんだよ」

「それ言ったらお終いじゃん?」

 オッシーはこういうのが好きで、よく私に教えてくれる。この前も頭が良くなるとか言っておまじないを教えてくれたが、テストの点数は案の定散々だった。

「で?どうやるの?」

「えっとねぇ、まずノートに嫌いな人の名前を書いて……おい、私の名前を書くな」

「うそうそ、冗談だってば」

「フルネームでね?そしたら自分の名前も書くの」

「ほうほう」

「その下に書いた時の日時も書く」

「それで?」

「破って嫌いな人の引き出しの上の所に貼るんだって」

「引き出しの上って……ここ?」

 私は机の天板の裏を指差す。

「そうそう、そこに貼って一週間気付かれなかったらいいんだって」

「あぁ、確かに気付かないかも」

「パンパンに中入ってたら無理かもね」

「じゃあオッシーは駄目か」

「いやいや!私ちゃんと片付けてるから!」

 二人で笑い合う。こんな時間がずっと続けばいいのにな……。


「そういやさ、羽柴君とはどうなの?あれから」

 オッシーはニヤニヤしながら話を変える。羽柴直人君、同じクラスの男子で、私が好きな人。スポーツも出来て頭も良いし、顔だって超イケメン。たまに意地悪されたりするけど、それもまたちょっとだけ嬉しかったりする。

「それがねぇ……はぁ……」

「なに?あんまり進展なし?」

「私は人殺すおまじないじゃなくて、恋が叶うおまじないを知りたいよ……」

「お!それならいっぱいありますぜ!?」

「あんたの言うおまじないは全部やったっての……」

「そうだっけ?」

「そうなのー」

 何度おまじないをしても、羽柴君が私に振り向いてくれることは無い。だって……。

「今日だってさ?お昼休みに一緒にドッジやったじゃん?」

「あぁ、最近私らも入るもんね」

「せっかく羽柴君と一緒のチームになれたのに、私すぐに外野に行かされるし……」

「そりゃああんたが当たるのが悪い」

「それだけじゃないんだよ!羽柴君ね!?ずっと立花のこと守ってたんだよ!?」

「あぁ、立花ユイカか……」

 そう、立花ユイカ。頭も良くて可愛くて、先生にも信頼されてる上に男子からの人気もいつも一番。私とは似ても似つかない完璧な女の子。

「酷くない!?私はすぐに当たっちゃったのに!立花が最後まで残ってたのって、羽柴君が守ってたからなんだよ!?」

「まあ確かにね……あいつは男子に人気あるから……」

「ずるいよ……あんなのただちょっと可愛くて、頭がいいだけなのに……」

「いやそれかなり点数高くないか?」

「そんなことないよ!絶対あいつ性格悪い!じゃなきゃ釣り合わない!」

「でもなぁ……」

 オッシーは何故か気まずそうな顔をする。

「な、なに?まさかオッシーまで立花信者なの?」

「いや、信者って訳じゃないけど、あいついいやつじゃん?」

「うっ……」

 そんなの知ってるよ。困ってる時に助けて貰ったことなんて何度もあるし、宿題だっていつも嫌な顔一つせずに見せてくれる。私の誕生日会にも来てくれたし……挨拶するといっつもニコッて笑って返してくれる。

「はぁ、やっぱり立花には敵わないのかな……」

「あれは強いわ」

「だってマジでいい奴だもん。私が男子なら絶対好きになってるよ……」

「そうだな、私も自信ある」

「なんかいい方法ないの?立花から羽柴君を奪い取る秘策とか」

「夏休みに入るまでが勝負だよな……」

「やっぱりそう?」

 教室に貼ってあるカレンダーを見る。夏休みは21日からで、今日は14日だからもう後一週間しかない。

「一週間でなにが出来るのよ……」

「そうだな……人を殺せる!」

「もういいよ、それは……」

「いっそ立花にやっちゃう?」

「……え?」

 そうか、立花がいなくなれば……。

「で、でもさ?それって自分の名前も書くんでしょ?」

「そうだね」

「じゃあやっぱりやだよ。バレたら超気まずいじゃん」

「確かにね。てか立花殺すなよ」

「分かってるって!私だってそんなことしたくないよ」

 立場上好きにはなれないが、死ねばいいと思う程嫌いにもなれない。


「あら?まだ残ってたの?」

 その時、教室に例の立花ユイカが入ってきた。

「うわわ!立花!?」

「え?なに?」

 突然入ってきた立花に驚き、私は取り乱す。

「は、話聞いてた!?」

「話って?あ、まさか……」

「まさか?」

「私の悪口でも言ってたの?」

 怒る顔さえ可愛い立花は、すぐに笑ってこう言った。

「ま、みぽしとオッシーが悪口なんか言う訳ないよね?」

「も、もちろんだよ!」

「神に誓おう」

 危なかった……。

「それよりなにしに来たの?」

「え?あぁ、ちょっと忘れ物をね?」

 ホント可愛いなぁ。こんなのがいたらそら羽柴君も……。

「みぽし?」

 考えてたらなんか腹立ってきた。立花はより取り見取りなのに、なんで私の好きな羽柴君まで取っちゃうのよ。

「立花ってさ……好きな人とかいるの?」

 私の突然の質問に少し戸惑う立花。しかし意外に答えはすぐに返ってきた。

「い、いるよ?」

「うそ……誰!?」

「絶対言わない?」

「言わない言わない!」

「神に誓おう」

 顔を赤らめた立花は、もじもじしながら小さい声で言った。

「えっとね……羽柴君……」

 詰んだ。はい詰んだ。終わったよ、私の夏。

「あれ?みぽし?」

「みぽし大丈夫か?」

「え?なに?全然大丈夫だけど?」

 駄目だわこりゃ。こんな化け物になんか勝てる訳ない。むしろ勝ってる部分が見つからない。

 いや、待てよ……。そうか、これなら……。

「ねえ立花!おまじない教えてあげようか!」

「おまじない?」

「うん!好きな人に思いが通じるおまじない!」

「なにそれ!教えて!?」

「えっとね?まず、ノートに自分の名前と相手の名前を書くの」

 オッシーがビックリして私を見るが、私は睨みつけて黙らせる。

「それでその下に書いた時の日時を書く」

「ふんふん」

「最後にそれを破って、相手の机の引き出しの上の所に貼るんだよ」

「それだけ?」

「そのまま一週間、誰にも見つからなかったら成功らしいよ?」

「へえ!そうなんだ!」

「ねえ、立花もやってみなよ」

 オッシーがオドオドしている。でも大丈夫だ。別に一週間そのままにしようって思ってる訳じゃない。頃合いを見て、私が羽柴君に教えればいいのだ。このおまじないの方法と、本当の意味を。そして羽柴君に言うんだ、羽柴君の机には貼ってないよねって。

「えぇ、でも私はいいや」

「え!?な、なんで?」

「あ、そうそう。忘れ物取りに来たんだった」

 立花はそう言うと私の席に近づいて来る。なんだ?立花の席は向こう……。

「ちょっと退いてくれる?」

「え?」

 立花は自分の席に座っている私を退かすと、勝手に机の引き出しに手を入れた。

「よし、ちゃんと貼ってあったわね」

「……え?」

 立花が引き出しから出したのは、一枚のノートの切れ端。

「じゃあまた明日。バイバーイ」

 私はいつも通り満面スマイルで帰っていく立花を、ただ茫然と見守るしか出来なかった。

「み!みぽし!これ……」

 机の上に置かれたままのノートに書いてあったのは……。

『立花ユイカ 飯田美緒 2015年7月7日15時55分』

 時計を見ると、もうすでに16時を回っていた……。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、お呪いなんてこんなものですよね。 明日からリアルな修羅場が始まりそうな気がしますが
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