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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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キラキラの鎧

今日の朝食。


ビーンズサンド、人参のコールスローサンド。

スナップエンドウと大根のサラダ/玉ねぎドレッシング。

春雨と錦糸卵と水菜の和え物。

イチゴ2粒。


午前7時30分の検温を終え、毎朝8時にママが朝食を運んできてくれる。病院に勤めているママは勤務中、勤務時間外に関わらず 毎日 朝食の時間を一緒に過ごしてくれるようになった。

入院当初は両腕が使えなかった為、生活全般をママに世話してもらう必要があり、食事介助もトイレも全て、ママがしてくれた。

玲央は赤ちゃんに戻った気分だった。

最初は気恥ずかしく、ぎこちなかった2人の全てが、二日目には全く気にならなくなり、心の全てを開け放してママに甘えることが出来るようになっていた。

玲央は一人で頑張ってきた時間を取り戻すように過剰に痛がり、何も出来ないフリをした。

ママにスプーンでご飯を食べさせてもらう。

「次 ご飯」「たまご」と注文をつける。

「熱いー」

ワガママさえ言った。

そうすれば そうするほど、玲央の心にのしかかっていた小石が、ひとつひとつ消えていくような気がした。

ママが笑ってくれた。


そんなママとの蜜月は、玲央の怪我の回復とともに時間が減り、それでも玲央が寂しく感じずにいられたのは、ママが朝のご飯の時間だけは、毎日欠かさず一緒に過ごしてくれようにしてくれたからだった。


そして午前8時45分。


玲央の病室に毎日欠かさずやってくる、2人目の訪問者がいた。それは、玲央が苛め、玲央が傷つけた張本人、水野萌なのである。


「おはよー」


当たり前のようにやってくる萌に、玲央は違和感をおぼえずにはいられない。

なぜ

あれほど嫌なことをした、憎むべき自分のところへ見舞いにきたのか。


いつも萌は勉強道具を持ってやってきて、数時間、玲央と一緒に勉強をする。学校へは玲央のところに来るようになった一週間前から、行くのをやめたらしい。

一緒に勉強、といっても 塾で先に先にと勉強を進めていた学力の高い玲央が、萌に教える場面が多かった。

「違うってバカ。昨日も言ったじゃん」

玲央は相変わらず言葉がキツい。

「間違っただけ。バカじゃないし」

歯に絹着せぬ物言いも、2人の間で通用するようになっていた。

玲央は萌が嫌いだった。大嫌いだった。顔を見るだけで、声を聞くだけでイライラしたし、だからこそみんなに「萌を無視しよう」とけしかけたのだから。

なので その気持ちそのままに萌に接した。

「マジうざー。かえってよ。」

玲央がベッドにバサッと倒れると

「やだ。うざいのはそっちだし。」

萌もベッドの足元で倒れる。

「狭いっ!」

「もっとそっちいって!!」

「てゆーか降りろっ!」

「お前が降りろっ!!!」

狭いシングルベッドの上で 口喧嘩しつつ 結局2人は笑っている。

大嫌いな人と毎日一緒にいるのに、不思議と苦痛ではなかった。


今まで学校で、精一杯かっこつけていた玲央である。見栄っ張りの母親のため、洋服はいつも新しく、ブランド品ばかりであった。量販店で洋服を買う同級生たちをダサい、貧乏だとバカにし、陰口を叩いた。習い事は掛け持ちし、塾でずいぶん先の勉強をしていたことで、学校の成績はいつもトップクラス。


自分は他の同級生たちとは違う、ワンランク上の人間なのだった。


特別でなくてはならなかった。

みんなから羨ましがられ、いつも羨望の的になる必要があった。


だから玲央はみんなから見える外側をどんどん飾りつけ、それに比例するように 玲央の内側は空っぽになっていった。空っぽの内側がバレないように、また玲央は外側を固めた。


それが今はどうだろう。


髪はボサボサ、病院貸し出しの寝間着、心療内科のカウンセリングに通うボロボロどん底の玲央だ。


キラキラの鎧を身につけていない玲央の内側に、萌が土足で侵入してきたのである。


嫌ではない。


自分の弱いところ、格好悪さをさらけ出すことがまた心地良いのが不思議だった。

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