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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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みんなの本当の心

玲央からもらったそのタブレットを 萌は食べずに大切に持ち歩いている。

1日に何度もポケットから取り出しては眺めて、ニヤニヤしていた。

玲央と繋がったことで、萌の息苦しさがずいぶん軽くなっている。玲央の方は相手が萌とは知らないことが萌の心に影を落としたが、やはり タブレットのイチゴミントの匂いを嗅げば、萌は笑顔になることができた。


その頃になると萌は学校へも行き、元通りといっていいだろう生活を過ごしていた。

しかし 萌の心にはやはり、ザラザラした砂のようなものが溜まったまま、なにもかもを素直に受け入れられなくしていたのである。


怪我をした萌に、みんな優しかった。みんな、玲央を悪く言って、「萌 可哀想」と言った。

家でも ママもパパも今まで通り、優しく明るかったし、表面上は変わらなく見えた。


でも。


萌はなにもかも、信じられなくなってしまっていた。

みんなの笑顔を素直に見ることができない。

みんなが、《苛められた可哀想な子》として萌を見ているように思えて惨めだった。

ママもパパも、苛められっこの娘にガッカリしていると思えてならない。

自信も、自尊心も、粉々に砕けてどこかへ消えた。


萌は惨めだった。

自分が大嫌いだった。


そんな萌の家に放課後、彩芽と苺が遊びにくることになった。

家に帰ってママに

「今日、彩芽と苺くるから」

と萌がいうと

「え?彩芽と苺!?」

ママの顔が一瞬にしてパッと明るくなる。

萌にはそれが うっとうしかった。

「久しぶりじゃーん!え!お菓子あるかな!」

ママは明らかに浮かれて、キッチンの引き出しを探り始めた。


(良かったね 苛められっこの娘のとこに友達来てくれて)


また萌の心にザラザラと砂が積もる。


彩芽と苺がくると、萌の心のザラザラはさらに降り積もった。


その時、クラスの噂話で、彩芽が

「あの子はうちらみたいに仲良くないじゃん? 」

と言った。

「あ、だからかぁ~」

苺も笑って相槌をうつ。


ウチラミタイニ ナカヨクナイジャン。


うちら?萌は息が苦しくなる。《うちら》の中に、私は入ってるの?《うちら》は《仲良い》の?

私は 彩芽と苺と、本当に友達なのかな…

そんな気持ちが萌の心を支配する。でも言えないし聞けるわけがない。

萌のザラザラの気持ちは誰にもわからないし、ママや彩芽や、他のみんなの本当の気持ちも、萌には見えない。

萌は身構えている。

また、いつ裏切られても傷つかないように、いつ独りに戻っても大丈夫なように、優しくされても喜ばないし、《仲良し》なんて言われても本気にしない。でも、だからって こうして誘われれば断るなんてできない弱虫だし、みんなといるとずっと愛想笑いを絶やさない、カメレオンな自分だった。


(疲れた……)


誰とも本音で話せない。

顔色をうかがってしまう。


「あ、もう5時だ!」

苺がそういうと、彩芽も慌てて帰り支度をし、2人は足早に帰っていった。

「じゃ~ね~ また明日ね!!」

「お邪魔しましたー!」


「気をつけてねーまたおいでー!」

ママがそんな風に友達を送り出すのを久しぶりにみた。

「彩芽、また背ぇ伸びたんじゃない?」

ママは嬉しそうに萌に話しかける。

「そうかな」

萌はもう作り笑いもできず、無表情なまま、自分の部屋に入る。3人分の空になったグラス。おやつのお皿、みんなで見て盛り上がった雑誌。

全部ぐちゃぐちゃにして窓から捨てられたら どんなに爽快だろう。大声で叫んで、暴れて、全部壊したら気が済むだろうか。


ふと、萌は思い出した。

前に学校で、玲央がそんな風にキレたことがあったっけ。階段で言い合いになって、玲央は窓から机を投げた。

玲央はあの時、スッキリしたのかな。


やっぱり玲央と話したい。誰とも話せない本音を 玲央に話したい。

玲央が自分を拒絶しようとなんだろうと、次に病院に行ったら 病室に入ろう。萌は密かに決心した。

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