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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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ゴムのブレスレットとイチゴミントのタブレット

その日 萌は家族で買い物にきていた。

店内を歩きながら、なにか玲央のお見舞いになりそうなものがないか物色する。

とはいえ ママやパパに“玲央のお見舞いにいきたい、しいてはなにかお見舞いの品を買いたい”とは やはり言えなかった。

萌の両親ーとくに父親は、今回の事件で初めて萌がいじめを受けていたことを知り(ママは気づいていた、なんなら玲央の境遇に同情すらしていた)怒り心頭であったし、玲央に同情していたママですら、「他人の家庭には口出ししない」となんだか不機嫌だったのだ。


この間は近所のコンビニで、最近流行っているキャラクターのグミを買った。

一粒 一粒がキャラクターの形にかたどられており、オレンジとレモンの二種類の味が入っている。

玲央がこのキャラクターを好きかどうかは知らなかったが、そもそも玲央の好きなキャラクターなど萌は全く知らないのだ。


手紙を入れるかどうかは迷いに迷った。でもやはり最終的には怖じ気づいてやめた。

いじめっこに見舞いの手紙を書くなど いくら のんびり屋の萌でも それはないと思った。


それを言ってしまえば、お見舞いもはなはだおかしいのだが。

萌の中に、玲央を許せない、玲央を憎む気持ちと、なぜか玲央が気になる、玲央を助けたいような気持ちとが マーブル模様のように ぐるりと混ざり合っていた。


結局 萌はお見舞いを買うことはできないまま、家に帰りついてしまう。仕方なく、自分の部屋で なにかめぼしい物がないか探すことにした。

消しゴム、新しいノート、鉛筆…

ガチャガチャで当てたキーホルダーはどうだろう?鍵のモチーフで、真ん中にハートの赤い宝石がはめ込まれている。もちろん偽物だけど、ママはこれを当てたとき、

「可愛いじゃん。萌 好きそう。」

と言い、パパは

「200円もったいない」

と言った。

玲央はどうだろう?好きかな?

「そうだ!」

最近覚えた、ゴムで編むブレスレットはどうだろう?玲央は髪が長いから、髪を結ぶにも使えそうだ。萌の胸の中で ワクワクの泡がポコポコと湧いては弾ける。玲央は何色が好きだろう?何色が似合うだろう?

前にお小遣いで買ったゴムの山を眺めて あれこれ並べてみる。

玲央には柔らかく甘い色より、クールでかっこいい色が似合いそうだ。水色に白、最後の一色は迷ったけど、濃い青に決めた。

指先にゴムを引っ掛けて、早速順番に編んでいく。間違えないように、飛ばさないように慎重に。集中して編んでいると頭の中が指先のゴムだけになる。萌はその瞬間が気持ち良かった。何も考えずに編んでいると小さなブレスレットはすぐに編み終えてしまった。

もっともっと集中して編んでいたかったが、出来上がったのは嬉しい。可愛い仕上がりに、萌は満足した。ママのラッピング箱から 可愛い封筒を選び、ブレスレットを入れる。それだけでは物足りなかったので、冷蔵庫の飴ちゃん入れから、飴ちゃんを3つ入れた。

封筒がひんやり冷たくなった。

この間と同じように、《福田玲央さま》と書く。

今はこれで充分だ。

明日はまた病院でカウンセなんとかだ。その後、玲央の病室のドアに封筒を貼り付けることを考えると萌は足の先から心地よい身震いがして、いてもたってもいられないのであった。



そして翌日、萌はもっと身震いすることとなる。カウンセリングを終えて玲央の病室の前まできた萌は見たのは、病室のドアにすでに貼り付いている封筒だった。


《グミをくれた人へ》


萌である。グミをくれた人は萌である。


萌はまじまじと封筒を見つめ、驚きながらも我にかえって、慌てて封筒をはがし、自分の封筒を貼り付けると走って逃げた。


階段の途中まできて、周りに人がいないことを確認し、ゆっくり封筒を開ける。

中には イチゴミントのタブレットが入っていた。

「えーっ。ちょっと。えーっ。」

えーっ。といいつつ、顔はにやけている。

振るとカシャカシャとなる そのタブレットは甘いイチゴの香りがした。

小さなそのお菓子は、萌を笑顔にする最上級の魔法がかかっていた。

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