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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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冷たい抹茶オレ

「ここに誰がきているか、どんな話をしたかは、秘密なんだよ。誰にも言わない約束なんだ。萌ちゃんだって、自分のこと色々言われたら嫌だろう?」

先生が諭すように ゆっくり言った。


萌はその大きな目で、先生を見つめた。

(嫌もなにも、すでに自分のことなんか色々言われまくりなんだけど…)


萌は自分で自分が不思議だった。

あんなに大嫌いで、死ねばいいとすら思っていた玲央のことが気になるなんて。

でもなんだか、この事件のあとは 玲央が仲間になったような、きっと、萌と玲央は似たような気持ちを共有しているような、そんな気が、していた。

玲央が辛いなら、わかってあげられるのは自分だけのような、気がしていた。


20分程のカウンセリングを終えた萌は、ママには電話せずに 病棟に向かった。

先生が教えてくれなくたって、玲央がこの病院に入院してるのは玲央のお母さんが言ってたのを聞いたから知ってる。以前 おじいちゃんが入院した時に、病室に何度か行ったことがある。海はエレベーターで上の階へ上がり、ひとつひとつ病室を覗いて歩いた。

歩きながら、探しながら、(玲央がいたらどうしよう)とドキドキしている。玲央に会ってもどうしたらいいのかわからないのに、やっぱり気になる気持ちが萌の足を右、左と動かした。


昼間の大部屋はたいていがドアを開け放していたのは萌には都合が良かった。

子どもは小児病棟などという知識は萌にはあるはずもなく、ひとつひとつ病室を覗くしか、萌には手段が無かったのだ。


三階を一回りして、次は四階へ上がる。


エレベーターに近い病室から、またひとつひとつ覗いて歩いた。キョロキョロして歩きながら、一番奥の病室から玲央のお母さんが出てくるのを見つけて萌は、慌てて 背中を向け、トイレへ逃げ込んだ。

必要もないのに個室へ入り ドキンドキンと高鳴る胸を両手で押さえる。

(どうしよう…)

萌は、急に怖くなってきた。

ほんの1ヶ月くらいのいじめだったけれど、萌の心に深い深い傷がしっかり残っていた。


玲央の病室に玲央の仲間がいたら?

のこのこ病室までやってきた萌を皆で笑うかもしれない。

刺されたのになんでまだ生きてるの?って言われたら…


萌の手が冷たくなって、目の前が暗くぼやけた。


いじめられてたことを思い出すと、いつも自分が とるにたらないゴミみたいに思えてくる。

自分は 皆から嫌われていて、世界中のどこにも自分の居場所は無くて、誰も自分を必要としていない。そんな考えで頭がいっぱいになってしまう。


「怖くなったり、苦しくなったら、ゆっくりゆっくり深呼吸しなさい」萌は、ママの言葉を思い出す。

1、2、3、4、5…

ゆっくり数えながら、萌は、鼻で息を吸い込んだ。それから 今度はゆっくり、息を吐いていく。

目を瞑って、ゆっくりゆっくり繰り返すと、次第に心臓も穏やかになってくる。


(トイレで深呼吸しちゃった…)

なんだかしょんぼりして、萌はトイレを出た。

廊下の遠い場所から玲央の部屋のドアを見つめる。

(もしも玲央が1人でいたら、会っても大丈夫かもしれない。)

萌はそう思ったが、やっぱり拒否される不安の方が勝って、ドアを開けることはできなかった。

(明日またこよう)

萌は、バックから携帯を取り出してママにメールを打った。

《終わったよ(^_^)どこにいるの?》

すぐにママから返信が鳴る。

《1階の受付のとこ(*´▽`*)♪》


五年生にもなると 周りの子たちも母親への不満を漏らしたり、親はわかってくれないというような話をよくする。

萌も類に漏れず 一緒になって不満を並べてみてはいるが、家では かなりの甘ったれであった。

(学校のみんなには絶対知られたくない)と思いつつ、ママの膝に乗ったり、抱きしめてもらったりしていた。

(ママ、ママ)

萌は心の中で呼びながら一階へ急いだ。

萌に気づいて立ち上がったママに、萌はそのまま抱きつく。

いつものママの匂い。

その腕の中で萌はもう一度、ゆっくり深呼吸をする。トイレなんかじゃなくて、ママの腕の中で深呼吸をして、萌は心から安心することができた。

(やっぱりあんなおじさん先生より、ママの方が癒やされる)


「萌?大丈夫?」

ママが心配して萌を覗き込む。

萌は最後にもう一回 ママの匂いを吸い込んで 顔を上げた。

「大丈夫」


「なにか…飲みたいね?」

ママが笑ってそう言うから、萌の頭の中に色々な飲み物が次々浮かんできた。

イチゴオレ、抹茶オレ、バナナオレ。100%の酸っぱいオレンジジュース。りんごもいいかも。前に空港で飲んだ完熟メロンジュース、美味しかったなぁ。

「冷たい、抹茶オレかなぁ」

萌も笑った。

「よし。虎奈さんとこ寄ってくか。」

2人は手をつないで、自動ドアをぬけた。

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