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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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初めての夜

そのまま カナちゃんのお店の更衣室でカナちゃんの仕事が終わるのを待ち、「ラーメン食いたくない?」というカナちゃんについて、ラーメン屋に入った。あんなに一緒に騒いでいた熱帯魚は、あっさり「バイバーイ」と男のお客さんと一緒に行ってしまった。

「もっとうまいラーメン屋もあんだけどさ、こんな時間だからさぁ、ま、今日はここで許して」

カナちゃんがそう言うとカウンターの中のオジサンが

「カナちゃん聞こえてっから」

とちょっとカナちゃんを睨み、萌と玲央を見てニッコリした。

「ウソウソ。あたしはオジサンのラーメンが一番好きだから。で…えーと、名前なんだっけ?」

カナちゃんが2人を覗き込む。

「水野萌です」

「福田玲央です」

2人は順番に自己紹介する。

「萌と、玲央ね。萌と玲央。どこ中?何年?」

カナちゃんも警察官と同じく、2人を中学生と勘違いしているようだった。萌と玲央は顔を合わせて、目だけで、どうする?と言い合う。2人とも、“小学生なんて、言って大丈夫かな”と不安に思っていた。そして小さく頷いた玲央は、カナちゃんに向き直って、

「小5です。」

と言った。

「あ!?」

カナちゃんは眉間にシワをよせて眉をひそめ

「小学生!?」

と驚いて聞き返した。一瞬、萌と玲央が凍りつく。

やはり年を誤魔化すべきだったか。


しかしその後 カナちゃんは札幌から来たと聞いてラーメンを吹き出し、JRを何度も乗り換えた話を興味深々で聞いてくれた。

「で…結局、家出なんでしょ?行くとこあんの?」

ラーメンを食べ終わったカナちゃんの問いに、2人は食べかけのラーメンをじっと見つめた。答えられなかった。

それを見たカナちゃんはふふふと笑い、スマートフォンを片手に、うちおいで、と言ってくれた。


若干二十歳の、函館のキャバ嬢のカナちゃんだったが、2人には それはそれは頼もしく、ずいぶん大人に見えたのだった。ラーメン代を支払う時も、財布を出した2人に

「まさか小学生には払わせらんないよー」

と言って全部奢ってくれた。2人が恐縮してスミマセン、だの ご馳走さまです、ありがとうございますだのしつこく言うので

「もういいよ。いちいちスミマセンとか言わなくて。周りの人も変に思うっしょ」

とカナちゃんか言った。

「スミマセン…」

玲央がまたそう言ったので

「ほらまた~それだって~」

とカナちゃんは笑い、玲央の肩を軽く叩いた。

2人もつられて笑った。カナちゃんが笑った萌の頬を優しくつねる。カナちゃんは笑うと鼻の上にクシャっとシワがより、それがなんとも魅力的で可愛く思えた。萌は嬉しくて、でも恥ずかしくて、俯くことしかできない。

夜の中を走り抜けるタクシーの中で、萌と玲央は、そんなカナちゃんの柔らかい魔法に包まれて、ゆるりとしたゆりかごに揺られているようだった。



10分程でゆりかごならぬ、タクシーはカナちゃんの家に着いた。

カナちゃんは一人暮らしで、カナちゃんの部屋は広めの1LDKだった。部屋の家具は白と木目で統一されていて、大きなベッドには 水色のカバーがかかっていた。なにやら いい匂いまでする。

飾ってある雑貨、出されたグラスにさえも11歳は心を奪われ、憧れた。キッチンにかかっているビーズの暖簾の可愛さといったらなかった。

しかし何度もいうが、カナちゃんは若干二十歳、田舎のキャバ嬢である。

家具は量販店のものだったし、グラスもカゴも百円均一だった。それでも11歳の2人から見るとカナちゃん自身も、カナちゃんを取り巻く世界も、全てがキラキラして、光ってみえたのだった。


「あたし、先にシャワーしてきていい?その後、順番に2人入んなよ」

カナちゃんは2人からの憧れの視線には気付きもせず、バッサバッサと服を脱ぎ捨て 浴室へ消えた。

そんなオープンさまで、カッコいい。


数時間ぶりに2人きりになった萌と玲央は疲れきっていた。現在午前3時20分。2人ともこんな時間まで起きていたのは初めてだ。

ソファに寄りかかり、ポツリポツリと言葉を交わす。もう眠気でお腹に力が入らず、話すのも億劫だった。


「どっち先に入るー?!」

サッパリして元気になったカナちゃんがリビングに戻ってくる頃には、2人は寄りかかり合って寝息をたてていた。

「充電切れちゃったかぁ」

カナちゃんは小さく呟き、そっと2人に毛布をかけた。音をたてないように電気を消し、手元の小さなライトに付け替える。

カナちゃんの部屋で、優しい魔法に包まれたままの2人の眠りに、悪い夢が入りこむ隙間はないのだった。

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