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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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カナちゃん。

2人は補導された。


2人で逃げようと決めて駅に集合してから、たった10時間後の出来事だった。


最近の補導員は威圧感を与えないというのが方針らしく、それに伴った指導を受けているらしい。

萌たちを補導した補導員も、口調は優しく、子供たちに目線を合わせるべく、ラッキーピエロの同じテーブルに座って話そうとした。


しかし2人は何も答えなかった。もしここで要領よく笑って受け答え出来ていたら、早く帰りなさいよ、ハーイ、で解放されたのだろうか。

だが無知で頑なな2人は口を閉ざし、自分の膝頭を見つめるばかりだった。

そのため2人は近くの交番へ連れて行かれ、警察官に預けられてしまう。

(もう終わった)

と萌も玲央も落胆した。


(玲央が、なにか話したら、そしたらうちも話そう)


萌はそう考えていた。ちらりと玲央の様子を窺う。ところが玲央は玲央で、萌の様子を窺っていた。

萌が話してしまったら、仕方ない、うちも話そう。と。

図らずも2人は結局、沈黙を守ることとなるのだった。


「どおすんだ?このまま警察に泊まんのが?」

函館訛りの警察官が呆れた口調でそう聞きながら、ボールペンをクルクル回した。

玲央はそのボールペンを見つめながら、それならそれでいいと思えた。刑務所でも食事が出るとテレビで見たことがある。泊めてもらえて食事も出るなんて上等じゃないか。


一方 萌は心が折れる寸前だった。

ママの電話番号を言ってしまいたい。パパとママなら一目散に車を飛ばして函館まで来てくれるだろう。すごく怒られるだろうけど、ママは抱きしめてくれるだろう。

そこまで想像して萌はハッと我にかえる。ただでさえ虐められっ子の自分は両親から疎まれていたのだ。その上家出なんかして、見放されてしまったかもしれない。

リセットボタンを押したいのは、両親も同じなのではないだろうか。水野萌というキャラクターを削除して、また夫婦2人で最初からやり直したいのではないか。

それならやはり、私は消えるべきなんだ。あの家に帰れるわけがない。

警察官の言葉を聞きながら、2人はそれぞれの中で密かに、警察に泊まる決意を固めてしまったのであった。

泊まると決めたからには もう何も話す必要はないとばかりに、玲央は交番の入り口から外を眺めた。

深夜なので人影はまばらで、開け放された入り口から、冷たい秋の空気に混じって、小さく鈴虫の鳴き声が聞こえる。駅前なはずなのに、鈴虫がいるんだなぁとぼんやり、玲央は考えた。入院していた病院の中庭からも、夜になると同じ鳴き声が聞こえていたっけ。


その時、その鳴き声を掻き消して女性が2人、キャーキャーと笑い声をあげ、交番の前を通った。

1人は金髪の髪を綺麗なアップにして、キラキラ光る、大きな白い花をつけている。ピンクのドレスもまたキラキラ光って、交番のライトを反射させて眩しかった。もう1人も金髪で、その金髪をクルンクルンに巻き、ヒラヒラのたくさんついた青いドレスは熱帯魚のようだった。


「小林さぁん お疲れ~!」

その人たちは入り口から花を覗かせ、警察官に馴れ馴れしく声を掛けた。

「お前らぁ。なにやってんだ。こっちゃ仕事中だぞ。」

「あははは。ウケるー。あれぇ?なにこのちっちゃい子ー!迷子ちゃん?」

熱帯魚が笑った。

「迷子でねって。非行だっつの。」

「あはは。非行って。」

熱帯魚はよく笑う。


「あれあれ?メイ?サツキ?」

ピンクのドレスが2人を覗き込むので、玲央も萌もギョッとした。

「あーやっぱし!サツキじゃん!久しぶりぃー!」

「えー?カナ知ってんの?」

「おぉ。姉ちゃんの娘ー」

萌も玲央もこんな金髪と知り合いではないし、ましてや姪であるはずもなかった。(なにこれ?)萌と玲央は顔を合わせる。その顔を両手で挟んで よちよち、久しぶりでちねーと笑う。近くに来るとむせそうな程に香水の匂いがした。

「つーことだから、連れて帰んね、小林さん。」

突然、ピンクドレスはそう言って2人の手をひいた。

「あぁ?嘘でねぇべな?」

警察官は怪訝そうな目で全員を見比べる。

「カナ…ちゃん…」

小さい声で玲央がそう言ったから、今度は全員が玲央に注目した。

「おぉ、初めて喋ったでねぇが。やっぱしカナの姪っこか!?」

「だぁかぁらぁー。言ったっしょ。」

「早く帰んねーとマネージャーに怒られるわ」

熱帯魚がそう言って交番を出る。

続いて 手を繋いだ3人も交番を出た。

「じゃあねー小林さん。またねー」

2人の花はヒラヒラと手を振って アスファルトをカツカツと歩き出した。

交番から警察官が顔を出して

「嘘でねぇべなー!」

と叫ぶのが聞こえた。


「嘘でしょ。それは。」

“カナちゃん”が小さい声でそう言ったので、熱帯魚がまた大きな声で笑った。つられて萌と玲央もやっと笑うことができた。“カナちゃん”の手が、すごくすごく温かかったから。

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