チャイチキ。
二回の乗り換えを繰り返し、2人を乗せた電車が旅の終着点、函館に到着する頃には、あたりはすっかり真っ暗になっていた。
新しくなった函館の駅前は広く、幸運にもすぐ近くに2人の目的のラッキーピエロ函館駅前店がある。電車の中で、おにぎり以外にもハイチュウやポッキーは食べたが、それだけでは11歳のお腹はぺこペこだった。
看板を見るなり、またしても2人のお腹が合唱する。
「入ろ!」
「入ろ!入ろ!」
2人はいちもにもなく、店内へ滑りこむ。
賑やかな店内は平日なのに混んでいて、黄色の紙にびっしり黒い文字でメニューが並んでいる。その数の多さにしばし2人は圧倒されたが、とにかく腹ペコの2人は、人気ナンバーワンのチャイニーズチキンバーガーのセットを選ぶ。ポテトとドリンクがついて650円。トレーに乗せられたそれらを大切に窓際の席まで運んだ。
「ブランコの席ないね」
萌が残念そうに店内を見渡してそう呟いた。
「ブランコ?」
「うん、前きたときは、ブランコの席があってね、そこに座ったの。」
「へぇ、そうなんだ。うちは前も、こんな感じだったな。」
「乾杯しよ。」
萌が、玲央のメロンソーダに自分のコーラを近づける。
「乾杯」
2人は小さな声を揃え、Mサイズの紙カップをコツンとぶつける。カップの中で炭酸が優しく弾けた。
そしてその炭酸が、渇いた2人の喉をスルリと通り抜け、空っぽのお腹に流れていった。
「はぁぁー、おいしい!」
思わず玲央が声をあげる。
「喉渇いてたもんねー」
萌は相槌をうちながら、ハンバーガーの包みを開く。ゴマがたくさんついたバンズにたくさんのチキンがレタスとともに挟まって、いまにもコロリとこぼしてきそうな勢いだ。
口を大きく開けてかぶりつくと、中華風の甘辛いソースとマヨネーズが絡まって、口の中で溶けていく。
「やばいめっちゃおいしいんだけどー!」
「本当!ヤバい!」
ほくほくしたポテトとともに、2人は夢中でハンバーガーにかぶりついた。
小さな唇のまわりに、ソースがついていて、でも、それを拭き取ってくれる大人は側にはいない。異空間に飛び込んだような感覚にワクワクして、2人は不思議と寂しさや不安を感じていなかった。
テーブルの上のトレーは空になり、ソースのついたくしゃくしゃのワックスペーパーと、ポテトの入っていた袋だけが残った。
この時すでに時計は午後11時43分。
小学生2人がファーストフード店にいるような時間ではなかったが、2人には次の行き先がないのだった。
「どうしよっか…これから…」
萌が小さな声で呟いた。
店内には、大学生らしき男の人が一人いるだけになってしまった。
店員がチラチラと、玲央と萌を気にしている。
(行くところ、ないね)
2人ともが心に浮かんだ言葉をお互いに口に出せずにいた。言ってしまうと、現実が迫ってきて、自分たちがどれだけ子供で、無力なのかを思い知らされてしまいそうだった。
無言のまま向かい合う2人。
店内はすっかり静かになり、店の前を走りすぎる車の音だけが静かに響いて聞こえた。
その時、突然店の自動ドアが開き、入り口から中年の女の人が入ってきた。
静かな店内に、彼女の靴音が響く。
「出よっか」
なにかを察したように玲央が言い、リュックを背負おうとしたその時、2人のテーブルに彼女が近づいてきた。
慌てて席を立つ2人の前に彼女が立ちはだかる。
「あなたたち、中学生?2人だけ?」
萌も玲央も青ざめる。
それは、補導員だった。