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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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おかしな子

その日、萌が玲央と別れて家に帰ると、玄関に見慣れないベージュの靴が揃えてあった。

(…誰か来てる?)

萌は自然と肩に力が入り、身構える。

恐る恐るリビングのドアを開けると、そこには少し前まで毎日見ていた、担任教師の顔があった。


「水野さん、久しぶり。元気?」

先生は笑って、でもその目は笑ってなくて、一瞬で萌の様子を窺っていた。先生の目から光線が出て、頭からつま先まで、調べられているような、そんな視線だった。

「はい、元気です」

言いながら萌は、ママの顔を横目で見る。

今日のママは お化粧もしてなくて、髪をギュッと結んだだけで、すごく疲れているように見える。

(先生になにか言われたのかな…)

萌は ママが笑ってくれないので、胸とお腹の真ん中あたりをグゥーっと押さえられるように苦しくなる。誰かが萌のことをベルトで締め付けているみたいに。


「水野さん。来月は ほら、学芸会だよ。学活で話し合って劇と、合奏に決まったの。来週、配役とか決めるんだけど…学校、来られるかな?」

先生は いつもより少しゆっくり、萌に言い聞かせるように話す。

萌はお腹が苦しいから、力が入らなくて、返事がうまくできない。

「萌?」

ママも答えを急くように、萌の顔を覗き込む。


萌は2人から目を逸らして、じっと壁を見つめる。

白い壁に小さな模様があることを知る。


「合奏ね、嵐の曲がいいって人がいたり、絶対セカオワ!って人がいたりで決まらないの。水野さんはどっちが好きかな」

先生の問いに、萌の頭の中にクラスメートの盛り上がる様子が浮かんできた。かつて その中心にいた玲央。玲央がどちらかを選べば 自然、女子は全員それに賛同しただろう。しかし今は…

玲央は学芸会に出るだろうか。そもそもいつになったら学校へ行くのだろうか…


大人2人の視線が萌に集中する。


そうされればされる程、萌は何も答えられなくなった。学校は嫌い、学芸会は玲央に聞いてから考える、なんて不正解な答えだとわかっている。学校に行きたいです!と笑顔で言えたら。そんな娘だったら、ママも安心して喜ぶのは萌だってわかっている。明るくて快活な、そんな女の子になれたら。なれるなら、萌だってそうなりたいのだ。

わかっている、わかっているのにそうできない、出来損ないの自分が嫌になる。


「お腹がいたい…」


萌はひどく小さな声で、やっとそれだけ、言葉にする。

聞き取れなかったママが萌に近づいて聞き返す。しかし 2度目を発する力は、萌には残っていなかった。みんなが萌を責めているような気がする。学校へ行けない萌を ダメなやつだって言っているような気がする。



翌日、家族から逃げるようにして、萌は病院へやってきた。

玲央には失礼かもしれないけれど、玲央といると安心する。玲央は仲間だから。学校へ行けない仲間。

みんなの列からはみ出しちゃった私たち。ダメな子。私と同じくおかしな子。


玲央の病室は、今や私たち2人の秘密基地みたいだった。

早く。早く玲央に会いたい。

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