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11歳日記ーもうすぐ12歳ー  作者: ゆるゆん
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萌のお小遣い

翌日 いつも通りの時間に萌が現れてくれて、玲央はホッとした。

昨日「私も」が言えなかった自分を見限るのではないかと、玲央は不安に思っていたのだった。


しかしそんな気持ちを顔には出さず、相変わらずの態度でいつもの勉強を済ませると、玲央は萌を外に誘った。

昨日 素直になれなかった、罪滅ぼしのような気持ちだった。


この病院には小さくはあるが、中庭があり、遊歩道も作られている。

「飲み物、持ってこう」

玲央の提案にカバンから水筒を出そうとした萌をみて、

「あ、なんか…コンビニで買わない?」

と玲央はまた提案する。

萌は慌てて小さながま口の中を確認した。

お金があったのだろう、萌は いいよ、と答える。

「一階にローソンあるから」

玲央が言うと、

「前ママと行ったことある」

「なに買う?」

「なんか…甘いのかな」

「私、炭酸飲みたい」


迷った末 萌はイチゴミルクを買う。がま口には260円入っており、帰りのバス賃110円を引くと150円使える。消費税はいくらになるかな…そんなことを一生懸命計算して選ぶ萌に反して、玲央はポンポンとカゴにジュースを入れ、チョコを入れ、レジでは唐揚げを注文した。値段など見ていないようである。

(たくさん、買うんだ…)

萌はなんだか気後れして言葉に出来なかった。

「行こっ」

玲央が萌を振り返って笑う。

2人は並んで、中庭への自動ドアを抜けた。


もう、秋の風の匂いがしている。まだ午前11時なのに、スズムシが鳴いていた。

2人が座ろうとしたベンチには 赤トンボが先に陣取っていた。

静かに近づいて萌はそのトンボを捕まえる。うまく捕まえることができたのが嬉しくて、人差し指と中指で羽を挟んで、自慢気に玲央を振り返ると

「いやいや こっち持ってこないで」

と嫌がられた。険しい表情をして。

「めっちゃ野生だね」

玲央がからかうように笑うのが恥ずかしくて、萌はパッとトンボを空に離す。

真っ赤なトンボが薄水色の空を羽ばたき、大きな木の枝の向こうに消えた。

「虫好きなの?」

そう聞いた玲央に 萌はぶっきらぼうに

「いや、別に」

と答える。

萌は玲央といると、自分がずいぶん子供っぽく感じる。小さながま口の中の少ない所持金も、それを計算しながらする買い物も、虫や草花が大好きなことも、全てが子供っぽく、カッコ悪く思えてならない。

萌は初めて、コンプレックスというものを味わった。


ベンチに座ってコンビニの袋を探る玲央をみて、萌は声をかける。

「いっぱい買ったんだね」


「そう?食べる?」

玲央が唐揚げの箱を差し出す。

(分けて欲しくて言ったんじゃないのに) 

萌はそう思ったが、断るのもおかしいと思えて、唐揚げに手をのばす。

「ありがとう」

「萌、それだけ?」

玲央が萌の袋を覗き込むように見る。

「お腹空いてないから」

萌はドキっとしながら、早口に言う。すぐに答えないと、ドキドキが伝わってしまう気がした。

「お小遣い、そんなにないし」

萌は言い直す。恥ずかしさで顔が熱くなったが、恥ずかしさを隠すのが嫌だった。

心のまんまに。そういう自分でありたかったことを思い出したのだった。

「そうなんだ?」

玲央がキョトンとして、萌を見つめ返す。

「月…500円だもん。足りないよ」

「え!??500円!?」

玲央が大きな声を出したから、お散歩していたおばあさんや車椅子のおじさんが振り向く。

「声大きい玲央!みんな見てる」

「ごめーん!でも、500円て。うちなら足りないわ」

「だよね。玲央は?」

「うーん。月…とか、決まってないかも。ちょこちょこくれるんだよね。お金。なんか買う?とか、買っておいで、とか言って千円札とかくれる。」

「えー…ちょこちょこ…」

萌は驚いて、言葉が続かない。

「いいなぁ」

素直な言葉が口を次いで出た。

「うーん…わかんないよ。」

玲央は相変わらずキョトンとしたままだ。

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