ルート 1
私は中学二年生。
今日は始業式だ。
桜が美しい学校として知られている私立呉青葉中学高等学校は本日午後、入学式が行われる。
この学校は二学期制で授業の進みが速い。しかし、それに対応できるよう生徒は少人数制により全校生徒は250人程。教師にいつでも質問可能な立場にある。
私は楽しみにしていた。
だって今日は、クラス替えに新しい先生、新しいものたくさんに出会えるのだもの。
あぁ、素敵です。
……え?
少し甘いウィスキー?いや、ブランデーのような香りにつられ少しの喜びを感じた。
ドンッ!
「きゃっ」
「……!ごめん!大丈夫か?」
私は誰かにぶつかったようだ、またぼーっとしちゃったかな。謝らなきゃ。
「ごめんなさい。私の不注意のせいです。」
「君、大丈夫?タイツが破れてしまってるよ。それに、傷も……」
「あ……。大丈夫ですわ!あなたは大丈夫でした…か?」
この香り。
この方の香りでしたか。
子供の私には少し刺激の強い気がする、そんな印象を受けた香りはやはりブランデーのようだ。私の大好きなケーキの香りに似てた。
この方もあのケーキが好きなのでしょうか。ただ昨晩飲まれただけなのでしょうか。
久々です。人のことを考えたのは。
「大丈夫?」
我に返ったのはそれから数秒後。
廊下に座り込んだ私に注目が集まりすぎたからだろう、突然彼は私を持ち上げ歩き出した。
何が起こったのか、何が始まったのか。これほどわくわくしたのも久々です。
ぼふっ……
保健室に二人。
ソファーに降ろされ、私は今初めて彼へ視線を向けた。
海底の中の様に、彼の瞳は暗かった。けれど、その中に光があるように、すごく下手くそな笑顔。笑うのが下手な人。
「ふふっふふふっ」
「どうした!?どこか痛い?」
「いえ、面白い方だと思って。ふふふっ」
困ってる困ってる。こんな顔もするのね。
「……脚は大丈夫?」
「ただの擦り傷ですわ。タイツも替えがあります。ご心配ありがとうございます。」
「ダメだよ!君は女の子だ。手当てして跡が残らないようにしなきゃ!」
そう言って彼は、私の脚に手を添えた。
ビックリしてたら少し間抜けな声でこう言うの。……タイツ脱いでくれないか。って。
私は思わず吹き出してしまいました。新学期早々こんなに面白い方に出会えるなんて。
私は素直にタイツを脱ぎ、彼の方へ脚を向けた。スカートの中が見えるか見えないか、そんなスリルを彼は無視して手当てに集中。
実際には頬を少し赤らめていたような、そんな気がします。
「終わったよ。」
「あ、ありがとうございます。あの、お名前を伺っても?」
彼を見つめながら言った。やはり暗い。
「雅也……じゃなくて。川西雅也だよ。」
少しオドオドしている様な…。猫背な彼。
「雅也さんですか。ありがとうございます。私がぼーっとしていたばかりに手間をとらせてしまい。」
事実。
これは私が悪い。
廊下で立ち止まった私が悪いのだ。
「大丈夫」
優しいトーン。聞き取りやすい声で言うのだ。俺は男だよと。
本当に面白い方です。
「じゃあ。また後でね。」
保健室を出ていく彼を見て私は思った。
スーツを着てるって。