秘密上映会
冬の夜空はどこまでも高く澄み、2人の頬に吹き付ける風はとても冷たかった。
だけれど映画館を出た美樹と透は、なんだかとても暖かい気持ちに包まれて、そうしたことなんて今までなかったのに自然と手をつないでいた。
「フリーの上映だっていうからどんなものかと心配してたけど、とても良かったね。」と透。
「うん。えへへ、なんか、透と見れて良かったって思った。」と美樹。
カップル達は寄り添いながら雑踏へ紛れていった。
映画の内容はとてもシンプルで、とても長い間離ればなれになった恋人たちの物語だった。
とある小さな街で、留学中に出会った青年とヒロインは必然かのように恋に落ちた。彼らの国からこの街へきた者達は少なく、遠く故郷を離れた2人の心を慰めることが出来るのはお互いだけだったのだ。
青年は街から離れた小島に住んでおり、少女が訪ねるとカヌーを漕いで小さなラグーンで繋がった島々を案内した。小さなロッジがならぶ、別荘島。ヨットを繋ぐためだけのものもある。カヌーが逆流をゆくとき、青年の腕に隆々と漲る力の強さを、少女はとても頼もしいと感じた。彼が群島の一つにカヌーを寄せると、船体はブッシュに囲まれた小さな渚へと吸込まれていった。
「君に見せたい場所があるんだ。」と彼は言った。「そこで一緒にキャンプをしよう。」
青年はカヌーに積み込んだグッズを素早くまとめ担ぎ上げると、背丈程の薮の間を縫ったトンネルを抜けた先の小さな空間に彼女を案内した。周囲を梢に囲まれた小さな広場。見上げるとぽっかりとまあるく夕焼けの空が切り抜かれている。
「ちょっと素敵なところでしょう?」かれはテキパキとテントを準備しながら少女に微笑みかけた。
2人は協力して、薪をあつめ、火をおこし、一緒にささやかな料理をした。暗くなると星々が空のくぼみに橋を掛けた。夜更けに2人がテントに入ると、少しだけ雨が振ってきた。思いつきであまり準備をしていなかったため、2人は寒さに寄り添った。青年はそのとき初めて彼女に想いを告げた。少女はうなづいたきりだったが、とても嬉しく思っていた。無人島のテントの中、2人はキスをして、愛し合った。
映画はのちに彼らが帰国し、再開するまでを描いた。
先進国である彼らの国の目まぐるしい忙しさ、自分たちそれぞれの夢の実現や社会的立場の違いのため、2人がともに過ごすことは難しくなっていた。それに少女はまだ幼かった。青年のような朴訥な感性は異国では彼女を慰めたけれども、この国では物足りなさも感じていた。
そして、2人は別れる事をきめ、時は流れた。
映画はここで、彼女の視点に切り替わる。すっかり大人になった彼女は自分に語りかけた。忙しさの中で忘れていた気持ち。どんなに沢山の人に囲まれて、その数だけ愛の可能性があるのだと思っていたけれど、本当に自分の事を分かってくれる人は探したって見つからないものなんだわ。
だが、もう遅かった。青年はとうにどこにも手が届かない場所へ行ってしまった後なのだった……。
……………。
………………………。
「あっあああああっあああっああああああっああっああっあ!」
薄暗い上映室には不気味な声が響き渡る。映写機からはいくつものカラフルなケーブルが接続され、それはその背後の燭台へと伸びている。燭台の先には人間のモノと思われる首が据え付けられ、むき出しの脳に様々な電極が接続されていた。なんということだろう。この映画館で上映されていたものは紛れもないこの世界で起こった出来事であったのだ。それは故人のメモリー。暗闇から伸びた白い手袋に包まれた指先が、あのヒロインのものと思われる脳を優しく撫で回すと、小さな部屋にまた声が木霊した。
「ああっあああっあーっあーっあーっあーっ…………。」
最後は、なんかすいません。基本SF畑の人間なので、つい。
前半部の雰囲気で本気で恋愛話書いて欲しいとかって要望があれば、頑張ってみたいって思います。読んでいただいて光栄値MAX!!