天才剣士の戦い
小さな偉人たちは腹ごしらえをし満足したようで、みんなそれぞれ好きに過ごしていた。
私はこっそり、その様子を覗く。
「有名な剣豪とやりあえるなんて嬉しいな。土佐の剣と僕の剣どちらが強いか……行くよ!」
「おまん……男のクセにごちゃごちゃと、ようしゃべる奴じゃのう。江戸の男は好かんがじゃ」
家の裏側で刀に手を掛けるのは、総司サンと以蔵サンだった。
剣術の天才と呼ばれた総司サンと、土佐の暗殺者として名高い以蔵サン。
どちらが強いのか……そのドリームマッチに興味が湧く。
が……
そこで不意に気付く。
私から見たら針の様に小さい刀ではあるが、本人達からしたら本物の刀と同等サイズなのだろう。
「ちょっと待ったぁ!!」
今にも斬りかかりそうな総司サンを、私は摘まみ上げる。
「美咲!? な……何するんだよ!」
総司サンは、私の手の中でジタバタと暴れる。
「そんなモンで斬りかかったら、危ないでしょうが! 怪我をしたら大変よ?」
そう言うと私は、爪楊枝を取り出し、先を危なくないように加工してから手渡す。
「これでやりなさい!」
「…………わかった」
総司サンは不機嫌そうな表情で楊枝を受け取ると、以蔵サンの前で構えた。
先に斬りかかったのは総司サンだった。
流石、有名な剣豪たち……とでもいうべきだろうか?
中々決着がつかない。
総司サンの得意とする突きも、それをヒラリとかわす以蔵サンの姿も、その小ささからか何だか可愛く見えた。
「お前……やっぱり凄いな」
総司サンも以蔵サンもその場に座り込む。
「おまんも中々やるきに」
二人は息を切らせながら、笑い合った。
結局、勝敗はつかないのか……どちらが強いのか、それが気になっていた私は何だか残念だったが、逆にこれで良かった様な気もする。
「久しぶりに、こんな風に剣を振り回せて……何だか嬉しいな。病で臥せていたのが嘘みたいだよ」
総司サンは小さく微笑んだ。
「わしもじゃ……暗殺なんぞじゃない、こうして真っ向から純粋に剣を振るったのは、いつぶりじゃろうなぁ」
以蔵サンは寝っころがると、呟くように言った。
「以蔵……次は手加減しないからね?」
「ほう。さっきのは手加減じゃったか? ほんなら、わしも次は手加減はしないがじゃ」
そう言うと、二人は顔を見合わせ笑い合った。
史実では、決して笑い合う事のない二人。
そんな二人がこうして仲良く剣術をしている姿が、何だか微笑ましかった。
「美咲サン」
私を呼ぶ声がする方に目を向ける。
「久坂サン……どうかしましたか?」
真剣な表情を浮かべる久坂サン。
「お願いがあります。私が死んだ後の歴史を……教えてはくれませんか?」
「そんなモン知ってどうすんだよ?」
久坂サンの隣に居た土方サンは、眉間にシワを寄せる。
「死んだ後の事など知っても仕方がねぇだろうが?」
「ですが……私は知りたい。私は我が殿に大変な事をしてしまいました。私ごときの命では償えないくらいの大罪を……ですから、その後の長州がどのようになったのか知りたいのです」
悲痛な表情を浮かべる久坂サンに、同情心が芽生えた。
「わしらも知りたいぜよ! なぁ慎太郎?」
「何じゃ、面白そうじゃのう」
龍馬サンと中岡サンも興味を示した。
「僕も知りたい! ねぇ、近藤サン?」
「そうだな……新選組の局長として、新選組の末路を知らねばならぬな」
総司サンの言葉に、近藤サンは同意した。
「うーん。わかった! じゃあ、高校の教科書を持ってくるから待っていて?」
小さな偉人達にそう声を掛けると、私は日本史の教科書を本棚から取り出した。
「どの辺りから見るのが良いかなぁ?」
私は教科書をペラペラとめくる。
みんなは、この歴史を知った時……何を思い、何を考えるのだろうか?
そして、現代の日本を見た時……彼らはどう感じるのだろうか?
この日本は、彼らが望んだ世の中となったのだろうか?
私は、それが気になって仕方がなかった。