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家づくり


 時刻は変わって早朝5時。


 突如現れた小さな偉人達に起こされ、その話を聞いていたところ、いつの間にかそんな時間になってしまっていた。


 数時間しか睡眠をとっていなかったが、その後また寝なおす気にはなれなかった。




「貴方たちにも、おうちが必要よね? 動いてしゃべって……本当に人間みたいだものね」


 私は桂サンに尋ねた。


「家、ですか。あれば嬉しいですが……そんな事が可能なのですか?」


「そうねぇ……できない事もないかな」


 そう言うと、私はクローゼットの中を物色した。


「あった! これこれ」


「それは何ですか?」


 桂サンは不思議そうな表情を浮かべる。


「これはねぇ、ドールハウスよ!」


 幼いころに遊んでいた人形の家を、机の上に置いた。


 大きさとしては机にギリギリのりきる程で、中指サイズの偉人達が九人生活したとしても十分過ぎるほどの広さだろう。


 コンセントを入れれば電気も付くし、後ろにあるタンクに水を入れれば蛇口から水も出る。


 ただし、お湯は出ないので入浴には適さないし、コンロも無いので料理はできない……というのが難点だった。



「素晴らしいですね! これは、異人館を思い出させる近代的な造りですね」



 桂サンは目を輝かせた。


「なんだ、なんだ? ほう、こりゃあ中々良い屋敷じゃねぇの」


 高杉サンはそう言うなり、ズカズカと中に入って行った。


「あ! 高杉サン、まだ入っちゃダメだよ。これから綺麗にするんだから、ちょっと出ていて!」


 私は、高杉サンを摘まみ上げた。


「ったく、おめぇは……いちいち摘み上げんじゃねぇよ」


 高杉サンは不満そうな表情を浮かべる。


 そんな高杉サンなどお構いなしに、私は作業にとりかかった。





 寝室はここの三部屋を三人一組で使おう。


 ベッドは四つしかないから……何かで作らないとね。


 あとは……布団も衣類も必要ね。


 必要なものを一つ一つ確認すると、ミシンを取り出し布団から先に作り始めた。





「わしゃあ……腹が減ったぜよ」


 私の作業を隣で見ていた龍馬サンが、突然そう訴えた。


「お腹なんて……減るの?」


「何を馬鹿な事を言っちょる。こげな小さいナリをしちょっても、わしらは人間じゃ。ほいたら、腹が減るんも普通の事じゃろ?」


「そりゃあそうだけど……。じゃあ、先にご飯にする? えっと、それからこの食器を持ってみて」


 本当は、人間じゃないでしょ? と突っ込みたかったのだが……何だか、その言葉をこれ以上言ってはいけない気がした。


 お腹が減ったという龍馬サンに、人形用の食器を持たせてみる。


 思った通りピッタリだ。


「じゃあ、今何か作るから待ってて!」


 勢いよく部屋を飛び出し、キッチンに来てみたものの……よくよく考えても、そんな小さな料理は作れない。


 主食は……米、かな?


 お米なら、二・三粒しか入らなそうな小さな食器だ。


 何をあげたら良いか、必死で悩んだ。


 ふと冷蔵庫を開けると、パンを見つけた。


 パンを焼き、スクランブルエッグを作ると、それらをスライスする。


 ホットミルクとそれらを持ち、部屋へと戻った。


 ドールハウスのテーブルに食事を並べると、皆を呼ぶ。


「ご飯できたよ~! 集まって」


 私が呼びかけると、皆はぞくぞくと集まってきた。





「何だ? これは……」


「トシも見たことが無いか……これは、食べられるのだろうか」


「美咲~! これ、食べられるんですかい? 美味そうな匂いはするんですけどねぇ」


 新選組の三人は、明らかに戸惑っている。


 総司サンに至っては、食べられるのかどうか尋ねてくる始末だ。


「何じゃおんしら、知らんがか? こりゃあ……ぶれっど、ちゆうモンじゃ」


「何だそりゃ」


 龍馬サンの言葉に、土方サンは首をかしげる。


「西洋風の朝餉……ですよ。新選組の皆さんは異人との付き合いも無かったでしょうし、明治の世も見ぬまま……でしたからね。知らないのも無理はないですよね。徳川の世が終わり明治の世が訪れ、この日の本は富国強兵を目指し、諸外国との交流を本格的に始めました。そこで……」


「桂サン……そこまでにしておけ。世界の広さなんざ説いたところで、田舎侍にゃどうせ理解なんざできゃしねえさな」


 桂サンの説明を、高杉サンは制止する。 


「晋作! 貴方はどうしてこうも口が悪いのですか!? 今更争って何になるのです? 私たちの維新は成し遂げられ、幕府だ長州だなどといがみ合う必要はもう無くなったのですよ!」


「桂サンの言うとおりなのかもしれんなぁ……新選組も無くなった今じゃあ、我々が争う意味など無いのかもしれんなぁ」


 高杉サンをたしなめる桂サンの言葉に、近藤さんは同調した。



「おんしら、話してばかりおらんで早う喰おうぜよ。わしゃあ腹が減って死にそうじゃ」


「ほうじゃ! 話があるならば、喰いながら話せばええがじゃ」


 龍馬サンと中岡サンは、みんなに席に着くよう促した。


 桂サンや龍馬サンら以外は、不思議そうな表情を浮かべながら食事を口に運んでいたが、美味しいと感じてくれたようで、食事が終わる頃には皆満足そうな表情に変わっていた。


 皆のその姿に私は胸をなで下ろすと、家づくりの作業を再開させた。




 食後は皆それぞれ、思い思いの時間を過ごす。



 意外にも皆はこの生活に馴染んでいるようで、寛いでいるようだ。



 その適応力と神経の図太さに、思わず感心してしまう。



 何をやっても駄目な私には、きっと真似できないだろう。



 しかし



 だからこそ偉人……なのかもしれないな。



 小さな偉人たちの姿を見ていると、何だか楽しい気分になる。



 それは、久々に感じる感覚だった。



 面白い……な。



 珍しくも、自然と笑みがこぼれた。

















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