小さな偉人たち
「…………です」
「……だから!!」
「…………がじゃ!!」
う……うるさい……なぁ。
何の声だろうか?
誰かが大声で言い合っているかのような声がする。
私は重い目蓋を開けると、ゆっくりと上体を起こした。
「一体、何の声? どこの家よ! こんな時間に近所迷惑よ」
窓を開けて外を見ようと思い、部屋の明かりを付ける。
「な、何じゃ!! 敵襲か!? 目ぇがやられたきに……」
ん!?
んんー!?
今、声がしたのは……
私の机!?
私は瞬時に、机へと目を向ける。
そこで私の目に入ったものは……
夢か幻かとしか思えないような光景だった。
「なっ……何、これ!?」
私は思わず叫んでしまった。
私が作った小さな偉人たち。
あろうことか…………それらが動き、言葉を発している。
私は夢を見ているのだろうか?
就寝前には確かに、それらは木製の小さなコケシの姿だった。
それが今はどうだろう。
サイズこそ変わりはしないが、まるで……小さな人間の様な風体をしているではないか!
「何がどうなっているの!?」
私はとにかく混乱する。
「あなた達……コケシ、よね?」
馬鹿げたことの様だが、困惑していた私は小さな偉人たちに話しかけた。
「おい、誰がコケシだ! お前、何処に目ぇ付けてやがんだよ? 俺は新選組副長 土方歳三! それ以外の何物でもねぇ」
「フン……幕府の犬っころ風情が、でけぇ面ぁしてんじゃねぇよ」
「んだと!? もういっぺん言ってみろ! そもそもお前こそ何者だ!?」
「俺ぁ長州藩士、高杉晋作だ。農民上がりのおめぇらでも、名前くれぇは知ってんだろ?」
小さい土方サンに食って掛かるのは、やはり小さな高杉サンだった。
「高杉だと!? 総司、近藤サン! こりゃあ、奴を捕縛する絶好の機会じゃねぇか」
土方サンは高杉サンに掴みかかろうとする。
「おまんら、いい加減にするがじゃ! 今は争うちょる場合じゃなか」
二人の間に割って入って来たのは、小さい龍馬サンだった。
「そうだぞ、トシ! 少し頭を冷やせ」
「貴方もですよ、晋作」
龍馬サンの言葉に続くように、近藤サンと桂サンが言った。
「あのね……少し聞きたいことがあるんだけど良い?」
私は小さな偉人達に尋ねた。
「正直、私たちも混乱しているからな。適切な答えができるかは分からんが……それで良ければ、質問を聞くぞ?」
「でも……その前にさぁ、君の名前を教えてよ? 君にだって名前くらいあるんでしょう?」
久坂サンが質問の許可を下した瞬間、総司サンが久坂サンの前に出て、私の名前を尋ねた。
「美咲……高橋美咲」
私は俯き加減に言った。
「ほんで、美咲サンは何が聞きたいがか?」
中岡サンは笑顔で尋ねた。
「そうね……私が知りたいのは、どうして貴方たちが動いたり話したりしているのか? それについてよ。だって、貴方たちは……間違いなく、私が作った人形なんだもの」
「その人形ち言うのはどういう事じゃ?」
私の言葉に、以蔵サンが反応する。
「そのままの意味よ。さっきも言った通り、貴方たちは私が幕末の偉人に見立てて作ったコケシなの。でも……今は何故か違う。コケシというより、その姿は小さな人間じゃない! どうしてこうなったのか? 私はそれが知りたいのよ」
私の言葉に、小さな偉人たちは頭を悩ませる。
そんな中、真っ先に口を開いたのは土方サンだった。