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滑走路の桜が咲く頃に

作者: 北城駿

大学時代の恋。キャンパスの桜並木の思い出。それは淡く儚く切ない思い出。「初めて」を教えてくれた彼から離れ、留学を選択した彼女の失意のモノローグ。

大学の正門から敷地内の教会まで続く約600メートルの桜並木。


ここの桜は、私が愛した桜。


学生時代の思い出がいっぱい詰まっている。


600メートルでは足りないくらい。


ちなみに学生たちはこの一直線の道路を「滑走路」と呼ぶ。


戦時中、戦闘機の滑走路に使われていたことに由来するって話を聞いたけど、それが本当かどうか私には分からない。


あなたとの出会いもこの桜並木。


滑走路の途中のバス停でたたずむあなたに一目ぼれでした。


あの時、二人を引き合わせてくれた運命の女神に感謝しながら


「バス遅いですね」


私はありったけの勇気をふりしぼってあなたに声をかけたのよ。


チャンスの前髪をつかむために。


普段はなかなか着かなくてイライラする三鷹駅までのバスの車中が、あなたとのおしゃべりが楽しくて、夢のようで、まだ駅に着かないで!って思ってた。


だから、彼女はいないって聞いた時、調子に乗って思わず


「私がなってあげましょうか?」


と口をすべらせてしまったの。


でも、


「いや、彼女はいらねーんだ」


と言われてがっくり。


「どうして?」


「なんかめんどくせーし」


「私めんどくさくないですよ」


「俺、金無いからさ。バイト忙しいんだ」


「ぜいたく言わないわ」


「はははっ。何そんなムキになってんの?」


あなたに笑われて、ハッと我に返った。


急に恥ずかしくなった。顔が真っ赤になってるのが自分で分かる。


うつむいた私の左頬に、あなたの視線を感じていた。


(見ないで欲しい)


さっき出会ったばかりで、はしたない女だと思われただろうか?


しばしの沈黙の後、


「髪、綺麗だね」


突然何を言い出すのかしらこの人。ますます顔が赤くなる。


「ポニーテールにしてくれる?」


「えっ?」


「今度の日曜日デートしよう。但しポニーテールで。それが条件」


わけがわからなかったけど、あなたとデートできるのならと電話番号を交換した。


そして日曜日。


お気に入りのワンピースを着て精一杯のお洒落をした。もちろんポニーテール。


ドキドキとワクワクで胸を高鳴らせていた私を、あなたが京王線に乗せて連れて行った場所は東京競馬場。


ものすごい人混みで目眩がしそうな私に、あなたは競馬新聞を見せて


「どれがいい?1つ選んで」


分かるはずない。競馬場も初めてだし、競馬新聞も初めてだし、カタカナの馬の名前がいっぱい並んで丸や三角の印が付いているけど、一体何のことだか。


「大丈夫。うらみっこなしだから」


もう無理やり競馬新聞をつきつけられて、仕方なく目を通した私の直感。


「これ。このサクラっていう馬」


そう言った途端、あなたは露骨に嫌な顔をしたので


「ほら。だから分からないって言ったじゃない」


「なんでこれを選んだ?」


「だって私、桜が好きだから。あなたと出会ったのも滑走路の桜の下だったし・・・」


「オッケー。乗った!」


これだけでも十分めちゃくちゃだったけど、そこからはもっと大変だった。


大行列に並んであなたが馬券を買った。それも驚くような金額を。


「ちょっとごめんね、髪触るよ」


神妙な顔して言うから黙ってたけど、初デートで髪を触られるって何!?って恥ずかしかったのよ。


「おまじない。この馬券が当たりますように」


あなたは真剣な目でそう言うと黙ってしまったから、私も大人しくしているしかなかった。

それから大歓声の中レースが始まって、でも背の高くない私は人垣がじゃまで全く見えなくて、もうなにがなんだか分からなかったけど、サクラなんとかって馬が日本ダービーというレースで優勝して、あなたは大儲けしたって大はしゃぎだった。


それからまた行列に並ぶから、正直私は人混みの中立ちっぱなしでくたくただったけど、それが当たり馬券を換金する窓口で、19歳だった私が見たこともない枚数の1万円札をあなたが受け取ったから、本当にここは別世界だと思ったわ。


祝勝会だって連れて行かれた吉祥寺のステーキハウス葡萄屋。


名前ぐらいは知ってたけど、学生には敷居の高い高級レストランだった。


サーロインとフィレの両方を一度にオーダーする人なんて、私は後にも先にもその時のあなたしか知らないわ。


「勘違いするなよ」


「えっ?」


「今日はビギナーズラックをプレゼントしてくれたキミに感謝感激のお礼。でも、次からデートは成龍だから」


私は飲みなれないグラスワインを吹き出しそうになった。


成龍って正門前の汚い中華料理店。体育会系の男子がよく行ってるみたいだけど、女子はまず近づかない店だ。


「当たり前だろ。こんな店、学生が来るとこじゃない」


「別に私こんな高い店じゃなくてもよかったのに」


「ぜいたくは言わないって言ったもんな」


あなたはケラケラと笑う。


「でも、この店初めてだろ?」


「うん」


「よし」


あなたは満足そうにうなずく。


「何がよしなの?」


「俺は恋人に初めてをプレゼントするのが好きなんだ」


「恋人?」


ちょっとドキドキしながら私はあなたの真意を探った。


「彼女はいらねーって言っちまったからな。キミを俺の恋人にする。俺、彼女っていう言い方好きじゃないんだ。だから「恋人」な」


何言ってるんだろこの人。でも私は嬉しさと気恥ずかしさとワインのせいで、顔が真っ赤になっていた。


「何か不満ある?」


うつむいてた私に、さらにあなたは追い打ちをかけた。


「今からキミのこと、サトミって呼ぶから」


不満なんかあるはずなかった。ちょっと照れ臭いけど。


それから次の店で、私たちは色々な話をした。


大学に入学してからこれまでのこと、趣味や夢の話。


一番盛り上がったのは、やっぱり今日の競馬で儲かったお金で何を買うかって話だったけど。


それはバイクだってあなたは言った。


あなたが中学の時に見たバイクレーサーの映画に感動して、中型二輪の免許を取ったって。


「サトミのおかげで儲かったから、バイク買えるよ」


あなたは上機嫌だった。


「初めてのタンデムはサトミだからな」


「タンデーって?」


「タンデーじゃなくてタンデム。二人乗りのことだよ」


「バイクちょっと怖いかも。二人乗りなら自転車でいいじゃん」


長い滑走路だけじゃなく、東京ドーム13個分のキャンパス内を移動するのに、自転車は学生のマストアイテムだった。


「だめだめ。ニケツは高校時代の彼女で経験済み。サトミだって自転車の二人乗りは経験あるだろ?単車のタンデムは俺も初めてだから。お前を俺の初めての女にしてやる」


彼氏と自転車の二人乗りなんかしたことない、って言おうとしたけどやめた。


「ヘルメットかぶるんでしょ?ポニーテールじゃ無理じゃない」


その代わりちょっと意地悪く言ってみた。


「ばーか。学内は私道だからノーヘルでいいんだよ。気持ちいいぞ。楽しみに待ってろ」


あなたが言い出したら聞かない人だって、もう私は分かっていた。


そして、初めてのデートで、私は自分の1番大切な「初めて」もあなたにゆだねた。



メジャー(専攻学科)が違うとはいえ、1年間同じ大学にいてなぜあなたのことを知らなかったのだろう。


イケメン好きの仲間内でも、誰もあなたのことを知らなかった。


理由は簡単。あなた滅多に学校に来ないんだもの。


夏休みが終わって2学期からは、少しでも一緒にいたいから、せっかく同じ授業を選択したのに、あなたと教室で顔を合わせることはほとんど無くて。


あなたの名前が呼ばれて返事があったから振り返ったら、それはたいてい友達の代返。


うちの大学は珍しい3学期制で、それぞれ中間と期末に試験があったから、年間6回もテストかレポートがある。


それでもあなたの情報収集能力は素晴らしくて、出席よりもテストやレポートを重視する教授の授業ばかりを選択してた。いかに学校に来ないで単位を取るか、お見事としか言いようがない。


夏休みに入ってすぐ、あなたの元にバイクが届いた。


ピカピカの新車。


「すごい。かっこいいね」


「だろ?」


あなたは自慢げだった。


「前もって言ってくれないから、私今日スカートで来ちゃったよ。これで二人乗りできるの?」


「ごめん。免許取っても1年は後ろに乗っけられないんだ」


「あなたって案外と真面目なのね」


「サトミが大切だからだよ。サトミの身体には、絶対に傷は付けられない」


あなたは時々歯の浮くようなセリフをさらっと言う。


そこにまた魅かれてしまう私。


秋になり新学期が始まって、あなたが教会前のロータリーで事故ったと聞いて、私は息が止まりそうだった。


でも、病院に駆け付けた私の前に、右腕にギプスを付けて現れたあなたは、本当に情けない顔してたから笑っちゃたわ。


あなたには申し訳ないけど、この事故は運命の女神様の粋なはからいかもって私は思ったの。


ギプスが外れるまで身の回りの世話をして、それまで完全にあなたにリードされていた私の立場が逆転したから。


あなたのアパートに通いつめて、すごく距離が縮まった。


なんだか新婚さんみたいで夢みたいな約1か月だった。



冬が過ぎ、そして、あなたと迎えた初めての春。


滑走路の桜並木はまた見事に咲き誇っていた。


でも、1年間はタンデムしないっていう真面目なあなたは、もちろん私をバイクの後ろに乗せてくれることはなかった。


その代わり、吉祥寺の井の頭公園で一緒にボートに乗った。


井の頭公園も私が大好きな場所だった。


もちろん恋人と一緒にボートに乗るのなんて初めてで、あなたはそれが満足そうだった。


「なあ、井の頭公園でボートに乗ったカップルは別れるって都市伝説知ってるか?」


私は心の中を見透かされたようでドキッとした。


もちろん知っている。それだけが心に引っかかっていた。


「俺、そういう迷信みたいなの一切信じねーから。この池にいるカップル、みんな幸せそーだろ?ほら、あれとか夫婦じゃね?弁天様の嫉妬だかなんだか知らねーけど、ここでボートに乗ってるカップル全員毎日破局させるとかありえねーだろ」


まあ確かに。


行列に並んでまでボートに乗るカップルが、全部別れちゃうとか信じられない。


「来年の春は、バイクに乗せてやるからな。滑走路走ろうぜ」


そう笑うあなたの笑顔に、私は少し心が痛んだ。


いつあなたに言いだそうか。


ごめん。私、秋から留学するの。


私はそれをいつあなたに言うか困っていた。



夏が近づいてきた頃に、わたしはついに留学を打ち明けた。


「知ってたよ」


あなたからの意外な返事。


人づてに聞いていたらしい。


大学にほとんど来てないくせに、色んな情報は知ってるからお手上げだ。


「頑張ってこいよ。待ってるし」


あなたはそれだけ言って、いつものようにやさしく微笑んでくれた。


それから私が出発する日まで、今までと変わらない付き合いが続いた。


今更だけど、本当は私、ぎりぎりまで迷ってたのかもしれない。


成田空港へ向かうリムジンバスの中で最後のおしゃべりをしながら、南ウィングで最後のキスを惜しみながら、きっとあなたが「行くな」って止めてくれるのを。


もちろんそう言われたからって簡単に留学は取り消せないし、あなたも思慮深い人だからそんなバカなセリフな吐かなかったのよね。


でも、今よく考えれば、あなたとの幸せな生活以上のものなんて、一体何を求めてアメリカに留学したんだろう。


語学力を磨きたいから?


確かにそう。


メジャーが語学なのに、留学経験が無かった私は、帰国子女やハイあがりの同級生にどうしても引け目を感じていた。


就職に有利になるだろうっても考えた。


でも、それがなんだっていうんだろう。


そんなもの・・・


「後悔先にたたず」


本当に馬鹿だった。


ホームステイ先で、慌ただしく日々が過ぎて行ったけど、1カ月もして落ち着くとホームシックになった。


何よりあなたがいない生活がこんなにも寂しいなんて。


たまにくれる手紙や電話を支えに、なんとか持ちこたえているような状態だった。


でも、慣れって恐ろしい。


クリスマスが終わり、年が明けるころには、私はすっかりアメリカでの生活になじんでいた。


というより無理やりなじませたという方が正解だけど。


大学の授業はハードで、毎日山のように宿題が出されたから、連日睡眠時間を削って勉強が遅れないようにするのが精一杯だった。


あなたからの手紙や電話の回数が減っていたけど、逆にそれに時間を割かれないので助かっていた。


でも、あなたのことを忘れていたわけじゃないのよ。ちゃんと部屋にあなたの写真をたくさん飾っていたし、大学で言い寄ってくる男には一切目もくれなかったんだから。


あなたと電話で話した時、


「こっちじゃ私、けっこうな人気者なのよ」


そう言ったら、あなたは


「白人はみんな、日本人女性っていうだけで口説いてくるんだろ?」


全く取り合ってくれなかったけど。



やがて春になった。


私は桜を思い浮かべて、同時にあなたを想った。


めまぐるしく日々が過ぎていたけど、ふと立ち止まった時たまらない寂しさがこみあげてきたの。


私が元々さびしがり屋だっていうのは、あなたも知っていたでしょう?


半年以上もよく持ちこたえたものだと思うわ。


でもそれが、あの日の私が犯した過ちの言い訳にはならない。


1つ目の過ちがお酒を飲みすぎたこと。


2つ目、そして、私に「 I love you. 」って何度も言い寄ってきた男性に身を預けてしまったこと。


3つ目、それから、そのことを電話であなたに打ち明けてしまったこと。


言い訳ばっかり。悪いのは私の方なのに、あなたを責めた。


ほったらかしにしたのが悪いなんて。


あなたは黙って聞いていたけど、私は表情も見えず反応も分からないのが不安で怖くて、途中から泣きながら何度もごめんなさいごめんなさいと謝った。


あなたもごめんなって謝ってくれたけど、それは何の救いにもならなかった。


やがて沈黙が訪れて、私はそれに耐えられなくなって電話を切った。



あなたのお母さんは、あなたに似て優しい人でした。


逆だね。あんな優しいお母さんに育てられたから、あなたは優しかったんだね。


お母さんの笑った目元が、あなたと瓜二つで。


その目元を見て、私は思わず泣きそうになった。


あなたのお葬式に出られなくてごめんなさい。


向こうの大学の授業なんか休んだって良かったし、旅費だって何とかしようと思えば作れたはず。


でも、一番の理由は怖かったんだ。あなたの家族に責められるんじゃないかって。


「あんたのせいだ!」って責められたら、私は立ち直れなかったかもしれないから。


だから、私が帰国した時、あなたのお母さんが私からの連絡を待っていると聞いて驚きました。


何を言われるんだろう?きっと責められるに違いない。


でも違いました。


お礼を言われちゃいました。


あなたと付き合ってくれてありがとうって。


大切な息子さんの物だからと固辞したんだけど、是非にってお母さんからあなたのノートと日記をもらいました。


嫌だったかな?私に読まれるなんて。


一度も見せてくれたことなかったもんね。


でも、お母さんの許可もらったから読ませてもらいました。


ノートにも日記にも、私のことがたくさん書いてあった。


これをお母さんも読んだのかと思うとすごく恥ずかしかった。


メジャーがエデュケ(教育)のくせに、必要単位が多すぎるからって早々に教職課程を放棄して、「就職しねーで小説家になるんだ」って嘘ぶいてたあなた。


本当に小説書いてたのね。


ノートを読み始めてすぐ、主人公が私だって分かりました。


困るわ。ちゃんと私の了承取ってくれなくちゃ。


正直な感想言っていい?


こんなに私のことノートや日記に書いてたなら、どうしてもっと手紙くれなかったの?


どうしてもっと電話くれなかったの?


ごめんなさい。責めるつもりじゃないのよ。


その逆。自分を責めてる。過ちを犯した自分を。


優しいあなたは、いつも真っ直ぐで嘘が嫌いだったよね。


だから私は正直にあの時話した。


嘘をつけばよかったんじゃなく、揺らいでしまった気持ちのなんて罪深いのでしょう。


答えはノートと日記にありました。


あなたは本当はもっともっと毎日でも手紙を書いたり電話をかけたりしたかったけど、それは私の留学の障害になる。ちゃんとアメリカの生活になじんで勉強に集中するようにさせたいから我慢してるって。



あの日の真夜中、私は日本の友達からの電話で起こされました。


「ちょっと何時だと思ってるのよ。こっちが真夜中だって分かってるでしょ?」


「いいから落ち着いて聞いて。サトミの彼、バイクで事故ったって」


私は悪い夢だと思いました。


武蔵境の近くで、飛び出してきた子どもを避けようとして対向車にぶつかったと聞きました。


不器用でちょっと乱暴なところのあるあなただったけど、最初に転んで以来バイクの運転はいつも慎重にしてると言ってたあなた。


それは私に心配かけないためでもあるし、いつか私を後ろに乗せる時のためでしたね。


私の不実の告白が、きっとその事故の起因だと思うと、それよりなにより、あなたの死という受け入れがたい現実を突きつけられて、私は震えが止まりませんでした。


あなたの小説、完成したものを読みたかったわ。


日記も、あの日を最後に空白のページが続く。


あの日のページには、一言だけ


サトミを泣かせてしまった。ごめん。


それだけ書いてあった。


過去のページには、その日の出来事の他に、端々に短歌が書いてある。


「ひだまりを ポケットに入れ連れてきた 洗面台に たんぽぽ2本」


これは、あなたと初めて野川公園を散歩した日の日記。


「瞳から 溢れるほどに満開の ソメイヨシノと サトミの笑顔」


一昨年の桜の季節だ。桜が満開の滑走路を初めて二人で歩いた日の日記。


「チューリップ 咲いた咲いたと園児らの 歌声聴いて 心にも春」


あなたのアパートは裏門の近くだったから、よく敷地内の幼稚園のそばを通ったよね。


私の誕生日には、日付にぐりぐりと丸が付いていた。


この頃はめったにかけてこなくなっていたのに、サプライズで電話くれて、受話器越しにあなたが照れながら歌ってくれたハッピーバースデーソングは今でも耳が覚えています。


「愛してる その文字顔にちりばめて 笑うサトミが たまらなく好き」


ノーコメント。照れくさすぎて言葉が無い。


そして、私がいなかった去年の4月のページにも、短歌が書き込んであった。


それを見た時、私はずっと抑えていた涙をこらえることができませんでした。


「タンデムで 桜並木を加速する 舞う花びらの シャワーを浴びて」


嘘のつけないあなたがついた、たったひとつの嘘。


唯一守らなかった約束。


私をバイクの後ろに乗せてくれるって言ったのに。


ごめんなさいあなた。


叶うことなら今私を乗せて、この滑走路を走ってください。


あなたへの懺悔のために、私は毎年この桜並木の下を歩きます。


これから先ずっと、桜の花の咲く頃に。


正門から教会まで続く約600メートルの桜並木。


ここの桜は、あなたと私が愛した桜。



-fin-

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